第30話 世継ぎラプソディ3
『・・・えっと、ごめん。それはどういうものなのかな?』
ワカバのスマホ様の機械から、ゴルドの声がする。
試験管ベビーであるという告白だが、ゴルドはさすがにそれがどういうものか分からないので、サリーが説明をする。
『えっと、人工的に生み出された人間といいますか・・・この世界では進んでいない、科学という技術で、本来は母親のお腹から子供を作って産むんですけど、私はそうじゃないって事です。優秀な種と卵を掛け合わせて、科学的に生み出されたんです』
ゴルドは静かに聞いて、サリーはなんて事のないように語る。
『えっとですね、分かりやすく言いますと、私には母親から産まれてきたという経験もなければ、父と母から育てられたという記憶もありません。そんな私に、子供は育てられません』
その声は、なんて事のないように語るが、寂しい声をしていた。
『・・・私なんかの元に、子供が生まれてきたら、その子がかわいそうですよ』
美月とワカバには、今サリーの顔が見えない。
だが、見えずとも分かる。
すごく辛い顔をしているだろう。
でも、ゴルドを前にしているのだ、気丈に笑顔でいるんじゃなかろうか。
痛いぐらいに、2人は胸を締め付けられる。
サリーは、どれほどの思いで、そうゴルドに言っていることか。
辛くなって、ワカバは収音マイクを切ろうとする、が、ゴルドの咳払いが聞こえてきた。
『オレなら、サリーの子供だったら、最高に嬉しいけどな』
美月もワカバも、辛い雰囲気を忘れて、目を点にする。
我らが領主は、何を言い出しているのだ?とフリーズしていると、ゴルドは話を続ける。
『サリーって、優しいんだよ。すっごくね』
ゴルドの声は、いつも通りで、それが安心感を聴くものに与えてくれていた。
『オレは忘れもしない。ヴォルク達が転生して来たあの日、瀕死の仲間を抱きしめながら、サリーはオレの目を見てただろ?ヴォルク殿を含めて、動けるみんなは、オレに殺気を向けていたが・・・サリーだけは違った』
ーーーオレを見て、『助けて』って、目で訴えていた
『・・・それに気付いて、オレはすぐに治癒魔法で治療する決断に動けた』
ゴルドはなんて事のないように、あの日のことを言う。
美月も同じ場にいたのに、そこまで見えていなかった。
ゴルドだけが、サリーのその内なる声が、しかと聞こえていた。
『あとね~、ヴォルク達みんなと打ち解けるために、話をしに行ってたけど、やっぱキラキラした笑顔で聞いてくれるサリーが居たから、本当嬉しかったよ~。だって、まぁ仕方ないんだろうけど、ヴォルク殿、怖い顔で睨んで無視してくるんだもん。オレだって人の心はあるんだから、心折れちゃうよ~』
おどけて言うゴルドに、サリーが少し笑う声がする。
『でも、サリーは心の底から嬉しそうに聞いてくれるもんだから。サリーに会いたくて行ってた・・・』
『・・・ゴルド様』
すすり泣く声が聞こえる。
これ以上は無粋だと、ワカバは収音マイクを切る。
そして、美月も目線をワカバと合わせて、静かにその場を去った。
ゴルドとサリーの会話は続く。
「いいんですねっ、こんなガタイのデカい女でっ」
「そんな所も、サリーの魅力的なところの一つだよ」
「私はっ!違う世界とはいえ、人殺しもしました。家庭の温かさなんて知りません。子供と遊ぶ事だってした事ありません。この世界に来ても、どう接したらいいか分からないからっ・・・そんな私でも、母親になっていいですか?」
涙でいっぱいのサリーを、ゴルドは優しく抱きしめる。
「なっていいとか、そんな風に考える必要はないよ。誰よりも優しいサリーをオレは知っている。心配しなくてもいい。オレの知っている温かさなら、教えてあげられるし、子供との遊び方も、任せとけ。オレは子供と遊ぶ天才だぞ?」
サリーは泣きながら笑い、「知ってます」と答えた。
執務室に、美月は戻って来ていた。
ワカバは途中で解放している。
まだ顔が赤いが、美月は悪くない気持ちに浸っていた。
ゴルドという、憎からず思う相手が、やっぱりいい人だなと再認識したからか?
量子頭脳で他愛もない事を考えて、無駄に考察してしまう。
ダメダメ、と自分に言って、美月は仕事に集中しようと書類を見る。
「んー、ミツキ殿。ちょいと詰めすぎじゃないか?リラックスしたらどうだい?」
「のわぁぁあああ!!!」
いつの間にか目の前にゴルドが立っていて、美月は本気で驚いていた。
「え?ご、ごめん・・・驚かせ過ぎた?」
「ゴルドさん!?え!?サリーちゃんといい感じになっていたはずでは!?」
「ぶふぉっ!!な、なななな何で知ってるの!?」
美月の指摘に、顔を真っ赤にさせて、ゴルドが狼狽えまくる。
狼狽え過ぎて、後ろに下がり、滑って後ろに転び、近くの机で後頭部を打ち、絶叫して悶えている。
「だだだ、大丈夫ですか?」
さすがの美月も心配する。
「痛い~・・・さては覗いていたか、ミツキ殿」
「ギクっ!!」
美月が目を逸らして、ただただ恥ずかしそうに、ごめんなさいと小さく口にした。
「・・・ていうか!そう!ごめんなさいだけど!サリーちゃんは?あんないい感じになったんだから!もうてっきりそういうお楽しみモードになっているかと!」
「やめい!覗いてたんなら場所知ってるだろ!外だぞ外!」
「あ、そっか・・・」
美月は納得しつつも、もうゴルドを直視できなかった。
男性と何という会話を繰り広げているんだ、私は、と羞恥心がバクバクと心臓のように鼓動している。
ちなみにBLの会話をゴルドやヒロなどに繰り広げるが、あれは別とする。
「出来た書類をミツキ殿に届けに来たんだ、ほれ」
赤く照れている美月に、ゴルドはここに来た理由を説明して、書類を渡す。
美月は、う、うん、ありがとう、とぎこちなく受け取る。
「・・・リンちゃんとフィオは、その、あの・・・そういう、関係にならないの?」
おずおずと聞いてくる美月に、ゴルドは「ヒロから聞いてない?」とポカンとしながら言う。
「な、なにを?」
「リンゼには頼んだが、まだ子供は作りたくないと言われて、フィオにも頼んだが、正室の座をまだ狙えるから待って欲しいと言われた」
「もう声かけてたんかい!!ゴルドさん不潔!女なら誰でもいいって言うのね!?」
美月渾身のツッコミが入る。
だが、まぁ、美月も自分で言ってて何だが、ゴルドはここの領主だし、跡取りがむしろいないという今の状況からすれば、早く作ることは重要事項である。
何だったら、近くにいる思いを寄せる女性に、きちんと話をつけているという時点で、誠実な対応と言えるだろう。
美月はもう、自分が空回りしている現実に恥ずかしくなった。
恥ずかしいので、もうこのツッコミで全部オチにしてくれと願っていた。
「誰でも良いわけないだろう。オレだって男だ。好きな女にしかこういうことは頼まない」
まっすぐな目をして、ゴルドはキッパリと言った。
美月は、あぁ、こういう所は、ゴルドも攻略対象としてしっかりしているなぁ、と勝手に妄想していた。
間違っても、ゴルドは乙女ゲーの攻略対象などではない。
そんな妄想に逃げている美月に、ゴルドは真剣な目をずっと向けていた。
それに、美月が気付く。
「な、なん、ですか?」
「・・・優劣をつけるわけじゃないけど、実はフィオの次はミツキ殿に声かけるつもりだったんだ」
「やめい!やめろ!サリーちゃんを口説いた後の癖に!私にまでそういう空気を持ってくるなぁ!」
美月が真っ赤な顔で涙まで溜めて、恥ずかしさで死にそうになっていた。
ゴルドが困ったような顔で頭をかく。
「ん~・・・だって、仕方ないだろう。ミツキ殿のような女性は初めて会うからなぁ。こう、対等な感じで話をしてくれるし、頼りになるし、かと言えば、抜けたところもあったり。口では厳しく言いつつ、世話焼きだし、一緒にいて楽しいし」
「わー!わーーわーー!!!」
美月のヒットポイントがゼロに近づいていっているが、ゴルドの話は終わらない。
「私!元の世界に戻るって言ってるでしょ!アイハちゃんに頼めば元に戻れるし!」
苦し紛れに、そう叫ぶ美月。
「だから、帰ってほしくなくて、この話してる」
何を当たり前な事を?と言わんばかりに、ゴルドはサラリと言った。
美月は固まり、赤い顔のまま、何を言われたか理解するのに時間がかかる。
だが、頭の量子頭脳は働いていないようだ。
全く頭での理解は出来ない。
頭では理解できないのだが、心は理解していた。
ゴルドにそう言われて、喜んでいる自分を。
「・・・か、か、か・・・」
「ん?」
美月が何かを言おうとして、ゴルドが近づく。
「帰ってほしくなかったら!もっとフラグと好感度を高めなさい!まだまだ私と貴方は攻略まで全然!ぜーーんぜん!足りないんだからね!!」
美月はそれだけ言い残して、執務室を走って出て行ってしまった。
ゴルドは固まりつつも、美月の後ろ姿を見て、優しく微笑む。
「じゃあ・・・頑張って攻略しますか」
ゴルドの独り言は、美月には聞こえなかった。
「ちなみに、攻略ってどういう意味だろう?ミツキ殿はダンジョンなのか?」
ゴルドは意味がわかっていなかった。
今回の恋愛編、いかがでしたでしょうか?
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