第29話 世継ぎラプソディ2
美月は執務室でカリカリと書類を書き、その作業に没頭していた。
まるでそれ以外のことは考えたくないと言わんばかりに、集中している。
「あ、あの~、みっちゃん?」
ヒロがようやく声をかけて、美月はヒロが来ていたことに気付いた。
「あら、どうしたのヒロくん?」
「ゴッド様の件だけど・・・」
ヒロがそう言った瞬間、美月の顔が鋭く凍てつく。
ヒロは殺気を感知し、目を逸らして、口を開いた。
「あ、違う違う、デジマの建物だけど、次は何作れば良いかな?居住物件はもう出来るからさぁ」
さすがに、ゴルドとの話を直接するのは不味かったかと、ヒロはビビりながら話も逸らす。
「・・・ヒロくん。言っておくけど、ゴルドさんとは何もないから」
美月はやれやれと言わんばかりに自ら話を切り出す。
「そもそも、立場は雇用主と労働者。しかも、今までに恋愛フラグらしきものもまだまだ立っていないわよ!私を舐めないでちょうだい。BLが主食だけど、乙女ゲーだってハードユーザー程度には嗜んでいたんだからね」
謎の自信を見せつけられるが、ヒロはまぁ、もうちょい時間は要るかもね、と元の世界での情緒というか、段階を踏むべき常識だったため、何となく察した。
「じゃあ、大丈夫?ゴッド様を刺さない?」
「バカね、私がするわけないでしょ。でも、リンちゃんとフィオのこと泣かすようなことは許さないわよ~」
かる~くそう言う美月に、ヒロは逆に安心し切って、ついポロリと言葉が出てしまった。
「あぁ、じゃあサリーさんが相手だけど、大丈夫だね」
「・・・へ?」
美月は寝耳に水と言わんばかりに、顔がほうける。
「な、なんでサリーちゃん?ヴォルクさんの部下の・・・まぁ、ゴルドさんのこと確かに好き好き言ってたけど・・・え"っ!まさかゴルドさん!あまりにも朴念仁すぎてリンちゃんとフィオの好意に気づいてない!?」
美月が勢いよく立ち上がり、ヒロは慌てる。
「あ、いやね、そうじゃなくて、2人は・・」
ヒロがそう言いかけるも、美月は勢いそのままに、執務室を飛び出ていってしまった。
「え?・・・みっちゃん?どこ行くの?」
ヒロは置いて行かれてしまった。
美月がワカバを従えて、ヴォルクたちの兵舎建設現場を、茂みの中から覗いていた。
「あの、ミツキさん。特殊任務って言われたので、私も付いてきているんですが、任務の内容は?」
「サリーちゃんとゴルド様にフラグが立っていたかどうかの調査よ」
茂みの中でコソコソしながら、美月は真剣な顔をして言い、ワカバは判断に困る顔をする。
「あの、えっと・・・え?」
「いい?ワカバちゃん・・・ゴルドさんは良い人だし、まぁポンコツな所はあるけど、決断は早いし、素直だし、まぁサボり癖はあるけど、いざという時の責任感はあるっていうか、やるべき事は間違えない領主なんだけど・・・」
「え?私何を聞かされているんでしょう?惚気?」
美月は顔を赤くしながら、ゴルドの評価を上げたり下げたりしているのを見て、いよいよワカバが何をしているんだろうと黄昏始めた。
「とにかく、この世界は王族貴族による封建社会。貴族にとって、婚姻や子作りというのは、あくまでも世継ぎのためのシステムみたいなもの・・・それじゃあサリーが可哀想よ!」
「いや、サリーさんとやらはゴルド様に好意があるんですよね?別に良いような・・・」
「良くない!将来的には私も同じになるかもしれない!私は恋愛がしたい!」
「あぁ、この人無敵モードだ~」
ワカバがもう止められないと悟り、ダバダバと涙を流す。
「サリーちゃんだって、子作りだけの関係より、ちゃんと恋愛して、夫婦は無理でも、愛というものを感じる関係になりたいはず!」
「おーい、ミツキ。何で隠れているか分からんが、声がダダ漏れだぞ」
ヴォルクが集中できないと言わんばかりに、美月たちが隠れる茂みに注意をした。
おずおずと姿を現す美月とワカバを見て、ヴォルクは珍しい組み合わせだと思う。
「なんだ?BL布教なら止めろ、ワカバも泣いているぞ」
「違うわよ!私は周囲に無理やり布教するような迷惑系じゃないわ!個人的に楽しむだけよ!」
「嘘つけ。ボスの書類に、その手の本を流通させるって企画をあげたらしいじゃねぇか」
「だって同志が多いもの。需要があるから、供給するだけよ」
ヴォルクは身震いする。
美月はこの手のことに嘘をつかない。
という事は、BLの同志が本当にいるという事なのだろう。
「まぁ、個人的な趣味はさて置いて、サリーちゃんいる?」
「あん?あっちにボスといるぞ?」
「「え?」」
美月とワカバは驚きつつ、その方向へ向かってほふく前進していく。
「普通に行けよ、普通に」
その様子を見て、ヴォルクは呆れつつ、もう関わらないでおこうと作業に戻ることにした。
サリーとゴルドは、ゴルドが好きだという丘の上に来ていた。
あの、転生の書を見つけた日にも来ていて、領主に向いていないと絶叫していた、ゴルドの憩いのサボりスポットだ。
そこで、ゴルドとサリーは、地面に座り、和気あいあいと話に花を咲かせていた。
「うーん、何の話をしているのかしら?」
美月が完全にストーカーのように、2人の会話を何とか隠れて聞こうとほふく前進を続ける。
「あの、ミツキさん。さすがに怒られますよ?趣味悪いですし、立ち聞きなんて・・・バレたらマズイですよ~」
ワカバが何とか止めようと、同じくほふく前進をして追いかける。
「む~・・・リンちゃんやフィオよりも、サリーちゃんを選ぶイベントがあったはずよ。それがないと、あの2人が置いて行かれるなんて、流石にあり得ない・・・どんな話をしているのかしら、きっとそれがヒントになるはずなのにぃ~」
ワカバが、「あれ?これ乙女ゲー転生でしたっけ?悪役令嬢者?」と困惑してきたが、どうしても聞きたがる美月のために、ワカバが持っているスマホらしき機械を取り出す。
「収音マイクを向けますね。この距離なら、余裕で拾えますから」
「え?あ、ありがとう・・・」
ワカバの機械に、お礼を言いつつも、美月は、ワカバの世界のプライバシーはきちんと守られているのだろうか?と違う恐ろしさを感じていた。
ワカバのスマホ様の機械から、ゴルドとサリーの会話が聞こえてくる。
『いやー、その時のリンゼの怒り様といったら、さすがのオレも足の震えが止まらなかったね』
『ふふ、そうなんですか?』
聞こえてきた会話内容は、ゴルドの他愛もない日常の出来事。
「ちょ、ちょっとゴルドさん。女の前で違う女の話題とか・・・」
「うーん。色気も何もない会話ですね・・・ただの雑談です」
一方的にゴルドがぺちゃくちゃ喋り、ゴルドの失敗談をサリーが笑う。
楽しそうではあるが、男女の会話とは違う。
美月もワカバも、盗み聞きするほどのものではないと、ガッカリしつつ、こんな事のために、自分達は何をしているのだろうと自己嫌悪に入り始める。
『あ、ところでサリー殿。実は折り入って相談が』
『何でしょうか?何でもおっしゃってください』
『オレの子供を産んではくれないだろうか』
「「ブフッーーーー」」
美月とワカバが同時に吹き出す。
「ゴルドさん!雰囲気が無さすぎる!お前攻略キャラ舐めてんの!?言えばコロッと女の子は落ちるわけじゃないんだぞ!」
「軽すぎます!もっとそういうのは、特別で、もっと盛り上がる雰囲気の時に・・・ていうか!体だけの関係を求めるなんて!最低です!」
美月とワカバは好き勝手言いながら怒りを爆発させる。
さすがのサリーも、これには怒るなり何なりするのでは?と2人は思って、彼女の返答を待つ。
『・・・ボス、私を抱いてくださるなんて、夢みたいで、嬉しいです!・・・でも、子供は、やめたほうがいいです』
『子供は嫌か、うむ、分かった。サリー殿の嫌がる事はしたくないから、この話は聞かなかったことにしてくれ』
『あ、違うんです。ボスが、私なんかに、ボスの子供を産んでって言ってくださる事は、すごく、すごく嬉しいんです』
何となく、会話がシリアスになってきたので、美月とワカバは黙って、ゴルドとサリーの会話を聞き入ってしまう。
『・・・私、試験管ベビーなんです』
美月とワカバは、驚いて固まる。
聞いてはいけない秘密を、聞いてしまった。
2人は顔を見合わせて、後悔し始めたが、もう遅い。
ゴルドとサリーの会話は、まだ続いていた。
風が、少しだけ強く、一瞬だけ吹いた。




