第28話 世継ぎラプソディ
一ヶ月後
初夏の兆しか、太陽が熱く照らして、心地よい風が吹く。
村々の畑は良作、豊作が続き、ゴルドの領は温和な雰囲気に包まれる。
ゴルドも、余剰分を細々とした交易に回せて、村々が新しい農具を買えたと報告が上がり、ホッと一息つく。
「良い平和だ。ずっとこれが続けばいいのに・・・」
ゴルドが窓の外を見てそう呟き、リンゼは静々と新たな書類を持って、机に置いた。
「何でそんなに書類が増えてるの!?文官増やしたよね?書類減るはずだよね!!」
こんもりと、当社比3倍にはなっている書類の高さが、ゴルドを逃避から現実に引き戻す。
「ゴルド様、それは違います。今まで手が回らなかったのは事実です。なのでアイハンド家に文官を増やして、ミツキ様の部下としてつけました。そして、今まで手をつけられなかった部分にも、手が回り、その分書類が増えました」
「ああーーん!!そりゃそっかチクショー!!」
ゴルドはとりあえず机にかじりつく、書類を見て、許可を出してはハンコを押し、また許可を出してはハンコを押す。
「ゴルド様、見てますか?内容」
「え?あ、うん。見てる見てる、超見てる」
「いくつかミツキ様が仕掛けたトラップの書類がありますので、ご注意下さい。ゴルド様とヒロ様の夢小説発刊や、エルフから総攻めを受けるゴルド様のイラスト集も作るそうです」
「何だよそれ!あーくそ!一から見直しだ!」
ゴルドは泣きながら書類を片付ける。
リンゼはそっと、そばに控えて見守る。
そこへ、家令がドアから顔を覗かせ、2人を見る。
「どうかされましたか?」
リンゼが冷たい目を向けながら聞く。
家令は「うおっほん」とわざとらしく咳をしてから、ツカツカと歩み寄る。
「ゴルド様。お世継ぎに関するお願いにございます。今夜リンゼをヘナップっ!!」
見えない速度で家令はリンゼから手刀を首に受ける。
「え?ちょ、家令大丈夫?高齢なんだから無茶な事しないであげて、変な声あげてたぞ?」
ゴルドが心配して見るが、家令は気を失っており、リンゼが引きずりながら、問題ないとだけ言って部屋から出してしまった。
昼食後、町長から面談依頼が来る。
ゴルドは書類をかきかきしながら、いつものように「何かあった~?」と町長に聞く。
「ゴルド様、フィオーナの事なんですが、どうです?」
「フィオか?・・・え?どうって、何が?」
ゴルドが質問の意図を理解できず、頭にハテナを出す。
「ほら、うちの娘であるフィオーナは、それは可憐で美しく、才女であり頭脳明晰のできた娘じゃないですか」
「何だお前、娘自慢か?暇なのか?」
ゴルドが呆れている顔をすると、町長はため息をつく。
「ゴルド様、私は貴方様を高く評価しています。それは、我が愛娘、フィオーナの結婚相手に選ぶほど」
「お、おう・・・ありがとう」
「不幸があり、ゴルド様にとっては望まぬ領主の座を受け継ぐ事になりましたが、我ら家臣及び領民は、誰が異を唱えましょうか!ゴルド様が受け継いでくださった事に、感謝しかありません」
「え?なに?なになに?何が言いたいの?」
熱くなる町長に、ゴルドは若干引いているが、町長は気にせず話を続ける。
「要するにですね、フィオーナを娶れなくとも、子を授けていただけぶらっシャ!」
扉が勢いよく開き、フィオが突入してきたかと思えば、町長の座る椅子をひっくり返し、町長は頭から地面に落ちる。
「ゴルド様、我が父が失礼しました。ごめん遊ばせ」
「お、おん・・・」
フィオは笑顔で、頭から流血する町長を引きずって部屋から出た。
「ふん、娘の尻に敷かれとるのぉ」
次に入ってきたのは、ローガンである。
「おぉ、ローガン。町長がなんか変でな、何かあったのか?」
「さぁて、私にはとんと分かりませんな。ところでゴルド様」
「ん?」
「ミツキ殿に一発仕込んで、世継ぎを作ってはくださらぬか?」
「うおおおおい!!まずは私に断り入れろやぁあああ!!!」
部屋に今度は美月が乱入し、飛び蹴りをローガンの顔面にお見舞いする。
隙をつかれたローガンは、美月の痛い蹴りで、気を失った。
ゴルドが急な美月の登場に驚きつつ、あのローガンを一撃で倒した事に、戦慄していた。
「あ、ゴルドさん。聞いてないよね?」
「あ、はい・・・何も聞いていません」
「よろしい」
美月はそう言って、ちょっと恥ずかしそうに部屋を出ていった。
ローガンは置き去りである。
所変わって、ヒロがデジマキャンプ地で、建設作業の途中で休憩をしていた。
クローナとキャロットがワイワイきゃっきゃっと女子トークを広げ、その中央でヒロが苦笑いしながら居づらそうにしているところに、ゴルドも視察という名目でサボりにやって来た。
「ヒロにクローナ殿、キャロット殿、ご苦労様。どうだ進捗は?」
「ゴッド様!万事順調ですよ。お家の建設も、最終区画まで来ましたし、夏にはワカバさんたち宇宙からの転生者たちにもお家が行き渡りますよ」
「おぉ~、本当に規格外に早いな。さすが英雄だ。獣人の皆も、大変な仕事、いつもありがとうな」
「何のなんの!美味い飯と寝床があるんだから、幸せ最高だぜ!」
クローナが目を輝かせてそう言うので、本当に幸せなのだろう。
キャロットも同意して、嬉しそうにウサギ耳をぴょんぴょんさせる。
「ところでヒロよ、実は相談があってな」
「はい?」
「私と一緒に子供を作る気はないか?」
時が止まる。
そしてヒロは固まった。
脳裏に駆け巡る美月の影に、ブワッと汗が噴き出る。
ゴルドのことを敬愛しているヒロも、さすがに即答できない。
いったい何を聞かれているんだ、という理解できない部分と、もしや、ゴルドにはそっちの気があったのか?という驚きと、そもそも男同士で子供は出来ないはず・・・だが、ここは魔法のある異世界、もしや出来るのか?というあらゆる考えが走馬灯のように駆け巡り、ヒロはフリーズした。
「え?ゴッド様、ヒロ様と子作りするんですか?ていうか、オス同士は子供できませんよ?」
キャロットがそのまま疑問を口にして、ゴルドは「ん?」と首を傾げる。
「何をミツキ殿みたいなことを言うんだ?私も世継ぎをつくるから、ヒロにも同時期に英雄の世継ぎを女性とつくってもらいたい。次世代となる子供同士を同じくらいの年齢にしてあげたいから、同じ時期につくらないか?という話だ」
「よ、よかっったぁぁあああ!!」
ヒロが脱力し、その場で四つん這いになる。
「え?え?なに?オレ変なこと言った?」
ゴルドが何のことかと慌てている。
「思いっきり、ヒロ様と子作りしたいってゴッド様言ってたぞ。愛の告白かと思ったよ。ミツキ様が聞いていたら歓喜していただろうね~」
クローナがやれやれとポーズを取りながら、そう言うと、ようやくゴルドも気付く。
「ああ~、なるほど。はっはっは!誤解を招く言い方ですまなかった」
「もぉ~、みっちゃんに聞かれていたら終わりでしたよ?」
ゴルドとヒロが念の為、周囲を警戒するが、美月はいないようだ。
安心して話を進める。
「いやでも、まだ僕は相手が特にいないんですけど」
「わ!私で良ければ!」
「アタイも!アタイも!」
キャロットとクローナが勢いよく手を上げる。
「え?え?え?あ、あの、意味わかってる?そ、その、子供を・・・ゴニョゴニョ」
「「子作り!!する!!」」
ヒロが顔を真っ赤にさせるが、獣人2人は全く恥じる様子はない。
「ヒロは良いオスだし!アタイは好きだ!強いし!きっと強い子供が出来るぞ!」
「私もお慕いしています!ヒロ様の子供産みたい!」
獣人の認識として、子作りが恥ずかしいというイメージはない。
子孫を残す行為は、重要な事で、とりわけ気に入った相手と家族を形成する事は、獣人にとって群れを作る基本である。
そしてハーレムは推奨派である。
最近、よく食べるからか、細かったクローナは肉付きが良くなってきたし、キャロットはゴリゴリに体が鍛えられているが、美人である。
ヒロは異世界転生すると、ハーレムも標準装備であるという噂は、本当であったと身に染みて体感した。
「うんうん。英雄色を好む。良きかな良きかな」
「そういうゴッド様は?やはりリンゼさんとか、フィオーナさんを選ぶんですか?」
ヒロがゴルドにそう聞き、うーん、とゴルドは一拍溜めてから、口を開いた。
「サリー殿に頼もうかと」
時が止まる、パート2。
「え?・・・いやいやいや!ゴッド様!刺される!リンゼさんとフィオーナさんと、最近ちょっと怪しいみっちゃんに!3人からブスッといかれちゃいますよ!」
ヒロが慌ててゴルドに、正気に戻れと言わんばかりに体を揺らす。
クローナとキャロットも、お考え直しを!と本気で心配していた。
「ま、待て待て、理由を話す、話すから待って」
ゴルドが揺らされながら、説明を始めた。
「まず、改めて言うと恥ずかしいが、リンゼとオレは、もうそういう関係である」
「・・・あ、そ、そうだったんですね」
ドーン、と恥ずかしげもなく言うゴルドに、まぁ、言われてみると、別にそこまで驚きはないか、という反応の3人。
考えてもみれば、幼馴染のメイドとは、そういった性教育目的もあると、ラノベや漫画ではよくある話だ。
「で、リンゼはまだ子供は作りたくないと言っていた。まぁ、妊娠すれば仕事が出来なくなるしな」
「あぁ、まぁ、それなら・・・」
ヒロは納得しつつ、何というか、2人がそういう関係なんだと言われて、妙なドギマギを覚える。
「次に、フィオにも相談した。側室を前提に、婚姻してくれないかと」
「きゃー!告白よ!結婚の告白ですね!」
キャロットは興奮して嬉しそうに言う。
「あー、真面目だなぁゴッド様。アタイは結婚とかいいから、早く抱いて欲しいな」
クローナはそう言いながら、チラチラヒロを見る。
ヒロは顔を赤くしながら、まだ明るいよとだけ言って、話を進める。
「ゴッド様って、決断すると本当早いですよね。でも、元許嫁ですし、その話でしたら、フィオーナさんと子供を作った方が自然じゃあ?」
「んー、フィオからは、本妻になれる可能性がまだあるから、待って欲しいと言われてしまった」
さすがフィオーナさんですね、とヒロは妙に納得した。
隠そうともしない腹黒さと、底知れない策士な感じからして、本当に本妻の座を狙っているのだろう。
「じゃあ、みっちゃんも子供はまだいい的なお断りをされたんですか?」
ヒロが流れ的にわかって来たので、そう聞くと、ゴルドは困った顔をしながら言った。
「いや~、それがなぁ。この手の話をしようとすると、逃げられるから、話ができていないんだよね」
あ、刺されるやつだ。
ヒロとクローナとキャロットは、はっはっはといつもの笑いで締めようとするゴルドに、自然とその言葉が出て来たのだった。




