第24話 デジマ予定キャンプ地の戦い
朝日が昇る。
陽の光により明るくなったデジマキャンプ地は、静かな朝を迎える。
主力である、ローガン騎士団長率いる騎士団は、堂々とキャンプ地に鎮座している。
遊撃でヒロ、ヴォルク、ミハエル達の少数精鋭が、丘の上、川向こうの林に身を潜めていた。
川には、急造の柵が作られている。
木で作られた、丸太ではあるが、ちょっと素人目に見ても貧相に感じる柵だ。
川を横断する様に造られているが、一夜で作った感がありありと出ている。
これは敵傭兵団の船を止めるためのものだ。
美月の案としては、まず敵傭兵の船を全て破壊することから始まる。
船が逃亡にも、籠城にも使えるため、この利点をまずは無くしたい。
そこがファーストステップにして、油断した相手への最大のカウンターパンチになる。
果たしてうまく行くか。
程なくして、船の影が見えてきた。
川いっぱいに広がる、傭兵が乗り込んだ敵の船。
敵はガヤガヤと喚いて、罵詈雑言をぶちまける。
ローガン達騎士団は身じろぎもせず、直立不動であった。
川に設置した柵が見えたからか、敵は嘲笑う様に言った。
「おい!あんな貧相な柵で船を止めようと思ってるみたいだぞ!」
「馬鹿だなぁ!オレ達の船が想定よりデカくて、あんなチンケな柵意味ねぇよ!ギャハハハ!」
敵傭兵が集団で笑う。
さらに油断する。
敵の頭領が指示をした。
「スピードを緩めるまでもねぇ。あの柵ぶち壊してから、錨投げて船を停めるぞ」
頭領の余裕の笑みが、部下達も弛緩させていく。
敵の誰もが、気付かなかった。
貧相な柵に気を取られて、見逃した部分があった。
妙に川の水量が多いこと。
妙に水流が早いこと。
海より浅瀬の川で、本来は気を付けなければならないこと。
柵にダイレクトアタックを仕掛けた先導船は、柵を船体で見事に壊した瞬間、その勢いのままに、川の中に潜ませていた『岩』にもぶち当たった。
しかも、強固かつ鋭利な尖った岩であった。
船底に見事に穴を開けられ、しかも突き刺さったまま動けなくなる。
急に船が止まった衝撃で、船上にいた傭兵は盛大に飛ばされ、船から落下するものも出る。
「なんだ!?何が起きてる!?柵は壊しただろうが!」
「川底の岩にぶち当たりやした!あいつらここに岩があることを知ってて誘い込みやがりました!」
ようやく戦闘であると、目が覚めた傭兵が、仕組まれたことに気づく。
惜しまれるが、元々あった川底の岩ではなく、ヒロ特製のトラップ用にチューニングされた極悪な岩なのだが、そこまでは看破できないだろう。
後続の船も、気づいたところで遅い。
すでに止める手段もないので、数秒後、同様に幾つも仕掛けられたヒロのトラップ岩で、船に穴を開けられる。
舐めて掛かってくれたおかげで、こんなにもうまく行った。
敵の船は全て岩により走行不能となった。
続けて、攻撃の手を緩めない。
ミハエル達の弓士が一斉に、火矢をぶち込む。
「火、火だ!」
「へっ、構うこたねぇ。船が木で出来ているからって、そうそう燃えねぇよ、あんなチンケな火じゃな!」
敵傭兵は、船は大打撃でも、人的被害は軽微だったため、船を降りて攻撃に入ろうとする。
縄はしごを降ろし、火矢なんて見てすらいない。
「バシャ!」
「あん?・・・何だあれ?水?」
火矢に混じって、液体の入った袋も飛んできていたことに気づく者もいた。
だが、考えるよりも、船を降りて戦おうと意識が向いていたので、関係ないと言わんばかりに無視して降りていく。
「ははっ!あいつら船ばっか狙ってやんの」
「まだ俺たちに当てりゃ意味あるってのになぁ」
ゲラゲラ笑って、船から降りた傭兵達は、川を泳いで、騎士団のいるキャンプ地目指して各々が走り出す。
「・・・迎え撃て!一切の慈悲は要らぬとゴルド様が言った!」
ローガンが咆哮する。
その響き渡る声に、先頭を走って来た敵傭兵もビビる。
「正義は我々にあり!行くぞぉぉおおおお!!!」
奴隷商人雇われの傭兵と、騎士団がぶつかる。
だが、その戦闘は、とても公平なものとは言えなかった。
圧倒的に騎士団が優位である。
船で揺らされ、縄はしごを降りて、泳いでやって来る傭兵に対し、立って迎え撃つ騎士団員。
騎士団はまとまって、集団で戦っているが、傭兵はバラバラと川から上がってきて、ろくに集団とはおよそ呼べない、個々人の突進でしかない。
まぁ、船を壊した時点で、形勢が逆転しただけに過ぎない。
これが、敵の船が健在なら、船上からの攻撃を受けて、不利だったのはこちらに違いない。
穴が空いて沈みゆく船から、強制的に奴らを引き摺り下ろしたからこその、有利な戦闘を出来るのだ。
美月の案は、怖いくらいにピッタリとハマっていた。
船が燃え盛る。
頭領がようやく船から降りて、それに気付く。
「ヤロウ・・・油を投げ入れてやがったな」
すでに穴の開いた船だが、まだ食糧や物資を載せている。
それも、燃えれば意味がない。
徹底的に自分たちを追い込んでいる。
ようやくそこで気付いた頭領は、一緒に移動していた魔法使いに雑に指示を飛ばす。
「あのクソどもをぶっ殺せ!早く!」
獣人に背負われている、数名の魔法使い達が、慌てて騎士団に向けて魔法を飛ばそうと準備する。
だが、それが放たれることはなかった。
ヴォルクたちはこの時を待っていた。
雑魚の傭兵どもには目もくれず、ただひたすらに、魔法使い達を探して、今まさに見つけた。
転生時に一緒にこの世界に来た、オーバーテクノロジーの狙撃銃を構え、引き金を引く。
「頭部命中、クリア」
サリーが双眼鏡を覗き込み、そう答える。
ヴォルクの撃った弾は、魔法使いを無力化した。
続けて、ヴォルクの部下達が次々とワンショットキルを達成し、魔法使いを殲滅する。
「対象クリア。オールコンプリート」
「リーダー、敵の頭領がまだいますよ?」
「オレ達の仕事はここまでだ。銃器には限りがある。最低限の消耗しか許さん」
ヴォルクはそう答える。
もっとも、今の形勢を見て、不安などなかった。
「オーバーキルって奴だろうが、これはこれで気持ち良いもんだな」
ヴォルクはそう言って、銃器を使わない戦闘に切り替えて、騎士団の応援に向かう指示をした。
「ど、どどど、どうなってやがる!何が起きた!?なんでこいつら死んでるんだよ!」
頭領が訳もわからず無力化された魔法使いを前に、川の中で癇癪を起こす。
とりあえず、もう勝てる見込みはない。
その判断だけは早く、頭領は獣人奴隷に盾になれと言って、逃げる算段を始めた。
「逃がさないよ」
少年が傭兵の1人を蹴飛ばして、川に入っていく。
ヒロだ。
硬い表情に、覚悟を決めた目で、頭領を睨み付ける。
「敵の親玉でしょ。逃がさないよ」
「ひぃ~!!お、おい!こいつを殺せ!殺したやつは自由にしてやる!」
獣人奴隷達が、気が進まない様子を見せながら、ヒロを囲もうとする。
「クローナから聞いたよ。みんな奴隷商人から指示されてきたんだよね」
硬い表情から一変して、ヒロがニッコリと獣人達に笑いかける。
クローナの名前が出て、獣人たちは止まる。川に流された奴隷仲間だからだ。
「大丈夫だよ。クローナは無事。そして、みんなに提案。ここの領主様であるゴッド様が、奴隷としてではなく、みんなを領民として迎えたいって、言ってくれてるんだけど、どうかな?希望する?」
獣人達は固まる。
そんな馬鹿なと、顔を見合わせる。
「お、おいおい、おい!このケモノもどきが!あっさり騙されるなボケ!お前らなんかを誰が領民として受け入れるってんだバーカ!嘘つくにしてもまともな嘘つけ!」
頭領が喚いて、水をバシャバシャさせる。
ヒロはまた鋭い顔をして、頭領を睨んだ。
「嘘じゃない。ゴッド様は嘘つかないよ」
凄んだところで、頭領は聞く耳を持たない。
「口では何とでも言えらぁ!こいつら騙すにしたって、もう少し頭使えっての!肉が食えるとか!寝床用意してやるとか!こいつらに奴隷以外の生き方が出来る訳ねぇだろ!オラ!生きて帰りたかったらオレを担いで逃げるぞ!」
頭領が獣人の腕を掴む。
だが、獣人はそれを払った。
「・・・あ?」
「や、やだ・・・奴隷は嫌だ!」
兎耳のガタイのいい獣人が、涙を流して言う。
同調するように、他の獣人も涙を流す。
「生きたい・・・自由に、ごく普通の・・・民として!」
頭領はわなわなと震えて、意味不明な言葉を叫びながら、ヒロを睨み付ける。
「適当な嘘つきやがって!何が領主の提案だ!ペテン師が!」
「嘘ではない。なぜなら、私もここの民だからだ」
バシャバシャと川に入る姿がある。
剣を構えるエルフ達と、その先頭に立つミハエルだ。
「我が領主、ゴルド・アイハンドは、我等エルフを民として受け入れている。その証拠が、我等の参戦だ」
頭領は驚愕のあまり、口を開けたまま止まる。
しばらくして、ようやく言葉を発した。
「え、エルフを・・・戦わせる?・・・ば、ばばば、馬鹿じゃねぇの?!傷付いたり死んだりしたらもう価値はねぇぞ!おっかしいんじゃねーの!?ありえねぇ!ありえねぇえ!」
ヒロは、獣人達に手を伸ばす。
その手を取り、獣人達はエルフの後ろに下がった。
ヒロとミハエルが剣を構えて、頭領を見る。
「あ、ま・・まて、待て待て、オレは!ゴルゴンゾ・レ・イーラ様の子飼いの傭兵頭領だぞ!オレを殺せば、商会が黙っては・・・」
そう言いながら、ヒロが構えを緩めた様子を見て、頭領は剣を抜いてヒロに斬りかかる。
殺すつもりの斬撃に、ヒロは冷たい目を向けて、自らの剣で払った。
その勢いのままに、頭領を袈裟斬りにする。
鮮血が飛び、頭領は物言わぬ骸となった。
「・・・ミハエルさん、そっちは?」
「終わったよ。とっくにな・・・誰も欠けてないぞ、ちゃんとな」
ミハエルもエルフ達も、剣を納めて、ヒロも剣を鞘にしまう。
そして、ヒロはその場に座ってしまった。
だが、そこは川である。
なので溺れる。
「お、おい!ヒロ!ヒロ殿!」
慌ててミハエルがヒロを持ち上げる。
「ぶふっ、はぁ、はぁ、ご、ごめんなさい・・・緊張が取れて、足が立たないです」
「ったく、締まらない英雄殿だ」
獣人達が駆け寄って、ヒロを掲げる。
ミハエル達のエルフも、勝鬨を上げる。
ローガンもヴォルクも、言っては無粋だから言わないが、規模や事前情報の収集、そして、作戦を聞いていて、正直負ける要素がなかった。
だが、戦いに絶対はない。
勝てたことを、今は喜ぼう。
その頃、ゴルドは緊張で今にも死にそうな顔をしていた。
「オエッ・・・うぶっ、はぁはぁはぁ」
「ゴルド様、昨日から一睡もしていませんし、寝た方がよろしいかと」
「いや、みんなが戦っているんだ。オレだけ楽なところにいるからオロロロローー」
「ゴルド様、寝なさい」
「ゴルドさん、汚い」
リンゼにフィオに美月にと、それぞれ強制的に寝かされるゴルド。
彼の元に吉報が来るのは、もう少しかかる。
だが、嵐は過ぎ去ったようだ。




