第23話 襲撃前夜
「ングングっ!・・・いやぁ、助けてくれてあんがとな、兄ちゃん!」
「は、はは・・・僕の名前はヒロだよ」
目の前で、勢いよく飯を食べるワンコみたいな少女から、ヒロはお礼を言われる。
メイドさんが病人食を運んでくれたが、あっさり平らげて、まだお腹が空いていると少女は言い、今肉を食べている。
ゴルドも見学気分で見に来たが、その食べっぷりを見て、すげぇと素直に驚いていた。
「ヒロって言うのか!アタイはクローナ!狼の獣人だ!」
ガツガツ食べるクローナは、遠慮せずおかわりを所望する。
ゴルドは出してやりなさいとメイドに指示をした。
「えっと、クローナさんはどうしてあの傭兵のキャンプにいたの?」
「さん付けなんていらないさ!クローナでいいよ!あそこにいた理由は奴隷だからさ!獣人の頑丈そうな奴らが集められてて!傭兵どもはアタイらを肉壁にでもする気だったんだろうな!」
元気だ。
ガサツに大きな声で話す所為か、悲壮感が伝わってこない。
「そ、そっか。それで逃げようとして、捕まったのかな?」
「あぁ、川に落ちる前か?ありゃ、傭兵の変態野郎が、メスに飢えててアタイを襲おうとしたんだよ」
悲壮感がない。
無いけど、彼女の危機を救えたならいいかと、ヒロは思うことにした。
「隷属魔法とか付いてない?首輪とか、大丈夫?」
ヒロがそう聞くと、クローナは「そんな高級奴隷じゃないぜアタイは」と笑いながら言う。
「そこらの雑種獣人だぜ?縄で繋がれてただけよ。隷属魔法とかそんな大層なもので縛らなくたって、行くあてないしな!」
明るいクローナだが、波瀾万丈な生活をしてきたのだろう。とにかく豪胆だ。
「行く当てがないなら、英雄の部下にならないか?」
「え?ゴッド様?」
ゴルドがすかさずスカウトする。
クローナはむしろ、いいのか!と前のめりになる。
「狼の獣人って、なんだか強そうじゃん。ヒロも助けた縁があるんだし、このまま解放しても、またどっかで奴隷になりそうだぞ、このワンコ」
「やったーい!メシと寝床がもらえるならアタイ頑張るよ!」
ゴルドのこの軽い話に、あっさり乗っかる様子からして、ヒロは否定できなかったし、むしろゴルドが提案してくれて助かるぐらいである。
このあと、美月の確認のもと、雇用契約を交わして、ヒロに相棒が誕生する。
もっとも、今はただの栄養不良の痩せた狼娘にすぎないので、とりあえず敵傭兵の情報を喋るだけ喋ってもらい、あとは屋敷で養生することになる。
「魔法使いがいるのか」
「ヒロの独断専行だったが、こりゃまたでかい情報ゲットだな」
ローガンとヴォルクが、クローナから手に入った情報を聞き、更に作戦に修正を加える。
「50人規模の傭兵団に、魔法使い込みか。普通なら蹂躙されててもおかしくないな。ある意味で、奴らの余裕しゃくしゃくな理由が分かったよ」
ヴォルクがそう言いつつ、肝心な部分をゴルドに聞いてきた。
「ボス。ちなみに、作戦上は容赦なく交戦して、敵も倒すが、不利を悟って逃げ出す傭兵や、投降してきた敵についてはどうする?」
ヴォルクの鋭い目線に、ゴルドはうーむ、と悩む。
「さすがに、オレは戦のイロハも分かってない。ローガン、この場合は人道的に、追撃はしないものなのか?」
「勘違いしちゃいけません、ゴルド様。敵は国や貴族ではなく、野盗の類の傭兵団だ。逃せばゴキブリの様に仲間を引きつれてお礼参りにやって来るし、投降するフリをして、油断したところで殺しに来る輩だ。お行儀のいい兵士や、徴兵された一般の農民じゃない。殺しを稼業としている奴らです」
ローガンのスッパリとした表現に、ゴルドは、「分かった。一切の慈悲なく殲滅してくれ。オレの命令だ」と言い切った。
「ほほう、さすがボス。ここぞって時の判断は早いな」
ヴォルクが意外そうに言うが、ゴルドは当たり前だと言わんばかりに答える。
「お前らの命と比べるんだ。そこを天秤にして、敵に慈悲をかける理由がないな」
まぁ、そもそもオレがどうこうできる話じゃないし、戦うのはお前らだしな、足を引っ張るような指示はしたくない。
そう付け加えて、ゴルドはいつもの様に飄々としていた。
「じゃあ、最後の軍議よ。最終確認と、漏れがないか、全員で確認してちょうだい」
美月がびしっと声を張って呼びかける。
各々が顔を引き締めて、最後の確認をする。
そこに慢心も、妥協もなかった。
全員が生き残ることに注力していた。
夜――作戦前夜。
ゴルドが指揮本部として建てられた中庭の陣を見る。
屋敷の中は、守るべきエルフたちと、フィオ達非戦闘員がいて、ここには美月、リンゼ、家令が残り、騎士団の護衛がつく。
ヒロにローガンにヴォルク達は、作戦決行場所にて夜明けを待つため、もうすでに出発している。
一応、向こうで仮眠を取るそうだが、まぁろくに眠れないだろう。
そう思うと、ゴルドも寝る気にはなれなかった。
圧倒的に楽な場所で、彼らの命のやり取りを、ただ静かに待って、報告を受けるだけなのだ。
「大将が寝ないと、ほかの者が気を抜けんだろう」
ふと、声が響いて、そちらをゴルドは振り返って見る。
ミハエルだ。
戦闘服に身を包み、これからエルフを率いて、配置に着くのだろう。
わざわざ声をかけにきてくれた様だ。
「はっはっは、すまないな。だが、他の者が気を張るほどの威厳を、オレは持っていないよ」
「また、微妙に否定しづらい事を言って・・・」
ミハエルはため息をつきつつ、ゴルドを見て、目線を外し、もう一度見た。
「・・・ありがとう」
まっすぐな言葉だった。
きっと、色んな思いがあるだろう。
憎い、同胞の仇である人間のゴルドへ、短くも、この様な言葉を述べるとは。
「・・・やめてくれ。まだこれからだぞ?戦いは・・・お礼を言うのは、全てうまく行ってからだろ」
「うまく行くかどうか・・・私には分からん。だが、楽観視するには、私は悲劇を経験し過ぎた・・・心のどこかでは、うまくいかないかもしれないと、達観している気持ちもある」
「勘弁してよ~!ただでさえネガティブにオレだってなりそうなのに!気持ちが沈む様なこと言うなよ~~」
ゴルドがヘナヘナとその場に屈み、ズーンと暗い雰囲気に呑まれる。
ミハエルはそれを見て、クスッと笑った。
「お前は、本当に・・・今まで会ったことのない変な奴だよ。不思議だ・・・お前からは、嫌な感じが全然しない・・・むしろ、心地いいとさえ思う。英雄であるヒロ殿や、ミツキ殿、ヴォルク殿にない。むしろ、彼らが付き従う、よく分からない魅力がある」
褒めているようで、微妙に褒めていないなとゴルドは感じて、はぁ、と生返事をする。
それに気づいたのか、ミハエルは慌てて訂正する。
「べ!別に馬鹿にしているわけではないぞ?ええと、だからだな・・・人間で初めて、信用するのがお前なんだ。これは、私にとっても本当に、絶対にないことだと思っていたのだが、何の因果か、お前に、助けられて・・・死ぬかもしれないから、せめて、最後に、礼でもと・・」
「死なんよ・・・誰一人も。私の領で、そんなことは起こさせん」
ゴルドは静かにそう言って、立ち上がる。
そして、真っ直ぐミハエルを見た。
「お前もだぞ、ミハエル。死ぬことは許さん」
ミハエルは、向かい風を浴びた。
短髪がなびいて、風が頬を撫でて、体を通り過ぎる。
ゴルドの瞳が、ミハエルをしかと見て、断言する。
そこに、エルフだとか、異世界人だとか、人か否かなんか、もう何も関係なかった。
ゴルドはミハエルという存在だけを見ていて、それがエルフだ何だとか、貴族にとって金になるのか、有益なのかどうとか、そんな付随する余計なものは全て取り払っていた。
あるがままの状態で、邪な打算も、見せかけの善意も、そこには無かった。
「・・・あぁ、生きて帰る・・・ここにな」
ミハエルは、そう言って、戦地へ足を向ける。
帰る場所を、ゴルドがここだと教えてくれる。
安心して帰れる場所がある。
なら、そこを守る戦いに、意味はある。
ミハエルは力強く、足を進めた。
次回 戦いの火蓋が切られる
ゴルドたちは、果たして勝つことができるのか?
誰も欠けることなく勝利を手に入れれるだろうか?




