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第22話 英雄に拾われしワンコ娘



軍議の翌日。

まだ向こうが攻めてくると申告してきた日の前日である。



ヒロとヴォルク、そしてミハエルが、川を上って、上流付近へ斥候として行く。


たった3人に絞ったのは、帰還能力高さを美月が計算し、提案した3名だ。


そして、案の定、豚の雇った傭兵部隊のキャンプを見つけた。


川を挟んで、草原の茂みに隠れながら、3人は身を屈める。

双眼鏡を覗き込み、ヴォルクが笑いをこぼす。



「話にならんな。向こうは見張すらつけてねぇ。舐めてるにも程があるだろ」


ヴォルクは今夜にでも夜襲すれば、殲滅できると思ったが、一方的すぎても、それはそれで政治的にはよろしくないのだろう、と思う。



向こうは攻めてくるのではなく、あくまでもエルフを受け取りに行く、とかそんな言い訳を用意しているのだろう。


向こうがおイタをしない限り、こちらこら一方的に殲滅するのは悪手だ、と美月が釘を刺していた。



「人数の規模は丸わかり。装備や船も、あの川に停めている分だけだろう。気になるのは・・・あのでかいテントくらいか?」


妙に立派なテントが、これ見よがしに建っている。


出入りはそんなにされていない。


ヴォルクの見立てとしては、指揮所かと思ったが、それはまた別のテントで、指揮官らしき風貌の男が出入りしていた。


「まさか、それなりな身分のやつがいるんじゃねぇだろうな」


ヴォルクは嫌な予感をしていた。

貴族が出張らないと踏んでいたが、いるとしたら、面倒な事になる。


報復なり、国同士の争いともなれば、ゴルドの手には負えなくなるだろう。


どうにかしてあのテントの正体を見たいが、今いる3人では対処できないし、むしろ敵の人数、装備が分かっただけ、大金星である。


ヴォルクはさっさと撤退することを提案した。



「あのテントの中、調べませんか?」


ヒロがヴォルクが気にしていた様子も見ていたので、調査の提案をする。


「ちょっと手が思い浮かばん。下手に相手に気付かれて、警戒されると面倒だ。明日も敵さんには、このまま舐め腐ってて、ボケ顔かましたまま来て欲しい」


「まぁ、そうですけど・・・」


「私も撤退でいいと思う。あのテントは気になるが、大局は左右しまい」


ミハエルも撤退に賛同して、多数決で方針は決まる。



その時、テントの出入りがなかったのに、ふと入り口が開いた。


少女であった。

明らかに、傭兵の野営キャンプには不釣り合いで、服装も汚れている。


走って、逃げようとしているのが分かる。


だが、あっさり傭兵の男に捕まった。

泣き叫ぶ様子から、自ら望んでここにいるわけではない事は明白である。


「・・・」


ヒロが絶句し、拳に力を入れるが、ヴォルクもミハエルも冷静にただ見つめていた。



「戦場キャンプに奴隷を連れてるなんざ、もう舐めてる通り越して、呆れてくるぜ」


ヴォルクがため息をついて、だがホッとした自分もいる。


ありゃ、気にするほどのもんじゃなかった。

それが偶々知れただけでも、もう十分くらいの収穫だ。


「さぁ、帰るぞ」


「あの、ちょっとだけいいですか?」


ヒロが少女を食い入るように見ているのを、ヴォルクは嫌な予感をして見る。

ミハエルも、同感のようで、ヒロに否定的な意見を言う。


「ヒロ殿、救おうという気持ちは分かるが、その見極めはどうしても必要になる。助けてもらう立場でいうのもおかしいが、助けれない場合もあって・・」


ミハエルが言いづらそうに言うが、ヒロの目は少女に注がれており、その目前では傭兵により少女が捕まれ、激しく抵抗している。


傭兵の男が腹を立てたのか、拳を振り上げて、少女へ正に振り落とさんとしていた。


ヒロが手を伸ばし、突風が吹く。


砂が風に乗り、拳を振り上げた傭兵の男の目に入り、男はよろける。


その次の瞬間、風は少女を押し、川へ落とす。


川の流れに少女は乗って、流されていった。



あまりの一瞬のことで、傭兵達はその様子を目撃している者はいなかった。


砂が目に入った男は、少女が逃げの一手で、砂を投げ、川に身を投げたと思った。


悪態をつき、仕方ないと諦める様子の男。



それら一部始終を見ていた3人は、冷や汗がどっと吹き出していた。


「・・・今やったのお前か?」


ヴォルクがヒロに問う。


「・・・はい。僕です」


ヒロは更に冷や汗を滝のように流して返事をする。

自然物創造、の応用というか、砂と風を出して、多少操った、というものだが。

ここまで上手くいくとはヒロも思っておらず、驚きが勝つ。


「よし。この斥候隊のリーダーへ、なんの報告もなく勝手に動いた罰だ」


淀みなくヴォルクはそう説明し、ヒロの頭に拳を叩き込んだ。


小さなうめき声だけして、ヒロは地面に伏せる。


「それで、少女はどうする?川に流されて、下手すれば溺れるぞ」


心配するミハエルに、ヒロは苦しみながら答える。


「そ、それなら大丈夫です。風のベールで包んでいたので、溺れないようにしてます」


「なんでもアリだな・・・」


ふと、ヴォルクが、ヒロの力でそのままこのキャンプ地を土砂崩れなりなんかで、一気に片付けられるのでは?と思ったが、あのテントにまだ先ほどの少女のような奴隷がいる可能性もあるので、ヒロが了承しないなと思い、改めて帰還の指示をした。



帰還途中。

川に流されて打ち上げられた少女が、気を失って寝ていた。


よく見ると、獣人なのか、犬のような耳が付いている。

その少女をヒロが責任持っておんぶし、3人は無事、ゴルドの屋敷に戻ってきた。







「総勢50名?・・・お、多いのか少ないのか、どっちなんだ?」


ゴルドが報告を受けて、早速ローガンに質問する。


「軍勢とは言えないが、野盗の類でいえば十分脅威ですな。ゴルド様も知る野盗連中は、多くて20人のゴロツキだからなぁ」


「倍以上じゃねぇか!くそっ!多いな!」


ゴルドが頭を抱えるが、美月は冷静にヴォルク達が持ち帰ったデータを頭に入れて、計算する。


「騎士団の人員配置はこの計算の通りにしましょう。町かデジマ予定地か、どちらでも最悪受け切れる計算よ」


「うむ・・・文句なしの配分だ。これで行こう」


美月の提案に、ローガンが目を通して太鼓判を押す。


「次に、相手が舐めてかかってくれているなら、都合がいいわ。デジマ予定地の川に、いくつかトラップを仕掛けておきたいの」


「仕掛けか?なら任せろ。オレ達はそう言うのも得意だ」


ヴォルクが反応して、美月からあれこれと指示を受ける。


ゴルドは横で聞きつつも、とりあえず置物になっていた。

ほぼ量子頭脳の美月が、参謀として作戦立案を指示してくれた。


「ゴルド様。町の住民の避難と、自警団の迎え討つ準備が整いましたわ」


フィオが報告に来てくれて、ゴルドは分かったと返事をする。


「可能な限りの、備蓄は移せたか?」


「えぇ、抜かりなく」


フィオの報告に、ホッとするゴルドを見て、フィオはふふっ、と笑った。


「強いな、フィオは」


「あら?どこがですの?か弱い淑女として、お屋敷にて隠れておりますのに」


ゴルドの何気ない言葉に、フィオは淡々と返す。


「フィオがいつもの様に、頼もしく働いてくれるだけで、なんだか安心するなって思って・・・ありがとう」


ゴルドがははは、と笑いながら、でも本心だろう、そんな言葉を口にする。


フィオは真顔になりつつ、その次には妖艶な笑みを浮かべて、ゴルドに近寄って言った。


「貴方様が近くにいて下さるから、私も怖がらずにいるのです。ゴルド様が、私たちに勇気をくださいますのよ?」


え?なんで?、と普通に聞き返すゴルドは、女心というものが全く分かっている様子がなかった。

だが、フィオはそれも愛おしいと言わんばかりに、ニコニコしてゴルドの手を握る。


「とはいえ、私も緊張してますの。温めてくださる?ゴルド様の熱で」


「ん?いいぞ?フィオの手はキレイだな」


フィオがゴルドをからかおうと、そんなことを言い出したのに、ゴルドは間に受けて、手をしっかりと握り返す。


フィオは顔を真っ赤にして撃沈した。


そして、あまりの見ていられなさに、美月がゴルドに回し蹴りを喰らわせた。


「がはっ!な、何事だミツキ殿!」


「知りません」


美月の冷たい言葉に、ゴルドはハテナをたくさん頭に出していた。





ヒロが助けた少女が、ベッドで寝かされている。


心配そうな顔をするヒロと、他のメイドが手一杯だったため、ゴルドが指示してリンゼが介抱していた。


「一先ず、こちらで休養していただければと。栄養不良と疲労が見られますが、命には別状ありません」


「ありがとう、リンゼさん」


「しばらくすれば、代わりのメイドが来れます。それまでは私で見ておりますよ?」


「うーん、もう少しここにいるよ。作戦までは、僕もする事ないしね」


リンゼこそ忙しいからと、ヒロは代わりますよと言って、リンゼはそれならお願いしますと、ヒロにこの少女の介抱を任せて部屋を出た。



ヒロが少女を見ながら、しばらく考える。


明日来る戦闘に。


命のやり取りに。


ヴォルクに説教されたが、その説教後に、言われたことがある。


『お前の能力は、多くの者を葬ることもできるし、その分だけ人を助けることが出来る・・・どう使うかは、お前が最終決める・・・その覚悟だけは持っとけ』



まさに、その通りだな、とヒロは痛感した。


明日の戦いで、ゴルドはもちろん、ローガンに騎士団員達に、ヴォルクにその部下達に、町長さんや町の自警団の人たち、そしてミハエル達エルフにも、誰も傷ついて欲しくないし、ましてや死んでしまうことなんて、考えたくもない。



「・・・なら、戦うしかないんだ」


いや、戦う覚悟はある。


正しくは、相手を殺す覚悟がいる。



平気で、人を、他者を、虐げる輩がいる。


平和を壊し、他者の人生を踏みにじり、我欲のために平然と悪事をする者がいる。


前の世界でも、もちろんいた。


だが、それだけ法が整っており、警察なり裁判所が機能していた。


今は、それがない。


だから、守るために、立つのだ。


心優しい領主は、戦うことを拒んでいたのに。


泣き叫ぶほど、仲間を戦いに駆り出すのを嫌がっていたのに。


誰かを守るために、その命令をして、責任を取る覚悟を決めた。




どこまで出来るかは分からない。


だが、後悔だけはしたくない。


ヒロは静かに頭と心の中で、何度も考えて、覚悟を固めていった。



ふと、パチリと少女の目が開く。


「あ、起きた?」


ヒロがそれに気付き、声をかける。






「・・・うにょぉぉおおおお!!!」


「うぉおお!?なになに!?どうしたの?」


少女が叫び、ヒロも驚き絶叫してしまった。


戦いは、もう明日である。



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