第21話 豚を迎え討つ軍議
広間に主要メンバーが集められて、円卓状に席が並べられる。
ゴルドの左右には、ヒロと美月が。
ローガン騎士団長と、副団長、そしてヴォルクの座る、軍事担当席。
家令、町長代理のフィオ、長老の内政担当。
そして、ミハエルと側近の2人のエルフ陣営。
そしてリンゼがゴルドの後ろに仕える。
「皆聞いた通りだ。明後日、豚が攻めてくる」
ゴルドが開始の合図として、口火を切り話し始める。
リンゼが一応、正式な名前を訂正して入れるが、長ったらしく覚えにくいので、軍議では豚の名称で進める。
「まずは領民の避難状況から。村は防衛設備が皆無のため、長老を筆頭に町へ避難済みです」
家令が代表して述べる。
軍議開始まで、時間があったとはいえ、村の退避が速やかに行われたのは、過去の経験のおかげか。
山からのモンスター襲来・・・。
美月はそんな考察をするが、今は重要では無いと頭を切り替える。
「次に町ですが、女性、子供、高齢の方をシェルターへ避難させています。明日には完了しますわ。周囲の警護は自警団が行ってます。指揮は、我が父、町長が自ら執っておりますので、この場にいない事、ご容赦くださいませ」
フィオが現状を報告し、まずはゴルドが指示した、町と村の退避は順調に進んでいることに、ゴルド本人も安堵した。
「他の村は大丈夫だろうか・・・文だけでも飛ばして、最低限の準備だけでも・・・」
ゴルドの心配な声に、ローガンが首を横に振る。
「なりませぬ。無駄に混乱を生むだけでなく、純粋に我々では救いきれない。敵の数は不明。先兵が他の村を襲ったとして、騎士団をバラけさせれば、肝心なこの場所の防衛が疎かになります」
ゴルドは目を閉じる。
敵の動きによっては、村を、領民を見捨てることになる。
ゴルドは叫びたい気持ちを堪えて、分かったとだけ言った。
「ゴルドさん。安心してっていうのも変だけど、敵の狙いはエルフ、その次に町だと思うの。村々まで手を伸ばしていたら、あちらもそもそもの目的が達成できないわ」
美月が冷静にそう言った。
量子頭脳による算出だが、そもそも敵は領土侵攻を目的とした軍では無い。
ましてや、いち商人風情である。
そもそも貴族のゴルドに弓を引く行為自体、貴族への最大の侮辱と、他の貴族を敵に回す行為に他ならないうえで、明後日という早い期日に、相手の魂胆が透けて見える。
要するに、貴族は出張って来ないと高を括っているのだ。
「エルフの皆さんは未完成のデジマにいた。町の外にあるテントの野外設営にね。あそこを新しい町にしようと知っているのは、この領にいる人間だけ。だから、傍から見れば、貴族のものではないと思ったのよ。貴族のものだったら、屋敷なりその近くに囲うでしょうからね」
「ふっ、つまりは、相手さんはボスが動かないと踏んでるわけか。それで、エルフたちをさっさと捕まえて、町長の町だけを、報復対象とする。そう考えりゃ、貴族にケンカを売るような、旨味のない村を襲う行為は、確かに低いな」
「しかも、対外への言い訳はこう用意しているでしょうね。『商人同士の小競り合いで、貴族様は関係ございません』と。お金も本当に置いていくでしょうね。そうすれば、ますます言い訳が立つわ」
全員がなるほどと頷く。
美月は笑顔で自慢げに、頭の中にある考えを言ったが、机の下の足は震えていた。
本当に、そうなのか?
気まぐれで、村を襲うんじゃないか?
私が言ったことが、実は間違っていたら、誰かが死ぬかもしれない。
美月はそんな考えを振り払おうとするが、ゴルドが急に美月を呼んだので、そちらを向く。
「ありがとう。素晴らしい考察だ。まずはその考えを、私の責任で採用する」
ゴルドが、いつものゴルドじゃないみたいだった。
美月はなぜか安心する。
思い出すのは、前の世界の職場。
上司はいつも、指示ばかり出して、何もかも押し付けてきたのに、上手くいかなかったら、「考えたのは君だからね」と責任までなすり付けてきた。
この場にいる全員に、ゴルドは言ってくれた。
私の考えを、採用する責任を、ゴルドが持つと。
ニコニコしてゴルドが美月を見ており、つい顔を赤くして美月は顔を背けてしまう。
あぁ、多分これもう、私帰らないな。
美月はそんな事を考えて、ゴルドの顔を見れなくなった。
「ミツキの考えに、オレも同意する。それを元に配置を提案したいが、いいか?ボス」
ヴォルクが挙手してきた。
ゴルドは頼む、と言って、ヴォルクの話すターンになる。
「エルフが第一目的なら、当たり前だが、一切の消耗なく、エルフのいた場所を目指すはずだ。生きて捕まえるのが目的だからな、普通に倒すより労力がいる」
だから、通るルートはここが予想されると、ヴォルクは川を指した。
「川上をまずは目指して、行軍してくるだろう。そこで一度休んでから、川に小型船を用意して、一気に下ってデジマ予定地に乗り込む気だろうよ」
「川は他領の港に繋がっている・・・なるほど。そのまま船を乗り換えて海へ出るつもりか」
ローガンも納得がいって、このルートの可能性が高いと踏んだ。
「陸路で30名の捕虜を運ぶのは骨だ。だが、船ならそれも解決する。交渉の様子からして、相当手慣れている奴らだ。このセオリー通りに動くだろうよ」
ヴォルクが自信満々に言う。
ゴルドはそれを頼もしく思い、それに沿った配置の提案を同意する。
「川の最前線は、騎士団と俺たちだ。町の防衛は、分けた騎士団分隊と自警団。エルフ陣営は、ボスの屋敷の護衛だな」
「ちょっと待て!なぜ我らが後方なのだ!我々も戦える!」
案の定、ミハエルが異議を申し立てる。
「馬鹿野郎。お前らが目的なんだぞ相手は。最前線でいちいち救助など出来るわけがない」
ヴォルクの指摘に、ミハエルはなおも食いつく。
「助けなど不要。これは、我々の尊厳の問題だ。守られていては、この先も舐められたままだ!」
2人の口論は平行線を辿る。
ローガンが割って入ろうかと思ったところで、ヒロが口を挟んだ。
「ミハエルさん。そこまで言うなら、貴方はどれだけ強いんですか?使えるのは剣技ですか?魔法も使えますか?」
ミハエルの参戦に、否定する様子はなく、ヒロは組み込める実力があるのかで、聞いてきた。
「剣技にはもちろん自信がある。精霊魔法による攻撃、治癒も可能だ」
「戦えるエルフは何名ですか?」
「私を含めて10名が戦士である。剣士は私を入れて4人。残りは弓士だ」
ヒロはそれを聞いて、ヴォルクに目を向ける。
「遊撃部隊に、使えませんか?」
「遊撃って、ヒロお前なぁ」
ヴォルクが頭を掻きながらイラついたように言う。
「簡単に言うな。オレたち傭兵は、いくつも修羅場を潜り抜けてきた。この世界にはない銃器もまだある。それと弓を同列にはできん」
「弓だけではないです。彼らには精霊魔法があります。ヴォルクさん達にはない、治癒魔法が使えるなら、この遊撃のタッグは強いです」
ヴォルクはそこを突かれると思っていなかったのか、言葉に詰まる。
そして、そこでようやくローガンが話に入ってきた。
「エルフは敵の目的でもある。例え強力な戦士だとしても、前線に出すかどうかは、そもそも責任を取るものが決める・・・」
ゴルド様、とローガンは呼びかける。
「ゴルド様が、お決め下さい。このエルフ達を、最前線に参戦させるか否かを」
ゴルドが顎に手を当てながら、唸り声を出して考える。
ミハエルは心の中で舌打ちする。
どうせ、この甘ちゃんは守りに入る発言しかしない。
優しすぎるこの男に、我々エルフの最前線の参戦を認めるはずがーーー。
「ミハエル殿。頼めるだろうか」
「・・・なっ」
ゴルドが、真っ直ぐにミハエルの目を見ていた。
ミハエルは狼狽えるが、すぐさま、返事をする。
「あ、あぁ!任せろ!」
「頼む・・・本来は守られるべき立場かもしれないが、戦える戦力を遊ばせておくわけにはいかない」
一息ついて、ゴルドは宣言する。
「戦って勝つのは、当たり前だ。我々が負ければ、領土の平和が崩れる・・・だが!・・・死ぬことは、もっと許さない」
ミハエルはまだまだゴルドを理解し切っていなかった。
彼はただの甘ちゃんなどではない。
「全員、生きて帰るのだ。死ぬことは許さん。生きて、この領地を守り、領地に笑顔で帰ってくるのだ」
ミハエルは、頭ではまだ認めたくなかった。
憎き人間に、気持ちが動かされるわけがないと。
だが、高揚している自分がいた。
基本、人間、それ以外の種族からも、奴隷か、捕まえようとする獲物にしか見られなかった。
それ以外の目で見られることもあるが、ほとんど憐れみや同情の目である。
同じ立場、同じ仲間の目線で、話をされたのは、大袈裟でもなく、本当に初めての経験だった。
そして、初めてエルフの同族以外である種族の者に、期待をしてしまった自分がいた事に、ミハエルは動揺を覚えつつも、軍議は進んで行った。




