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第20話 優しい人、覚悟を決める





あの不審者を見逃してから2日が経つ。



ゴルドの領土に、これまた田舎には不釣り合いな、金色に装飾された馬車が入る。

嫌味な成金趣味全開の馬車は、町長の屋敷に着く。


そして、中からでっぷりと太った男が、護衛を従えて町長に話があると言ってきた。




「エルフを・・・買い取りたい??」



「左様。隠し立ては無用だ。馬百頭をカストール家から頂戴する話は知っておる。どんなカラクリかと思えば、エルフを手に入れておったとは、運がいいですなぁ」


ニタニタと笑う男は、カストール家より大きい商家・・・の窓口をしている商人だ。


だが、この大きい商家というのが曲者で、この国でも商売はしているが、母体は外国にある。


ややこしいし、きっとゴルドは名前を覚えられないので、名前は割愛する。


「うーむ。どうやら勘違いしているようで、彼等は客人。奴隷ではないのですよ」


町長は笑顔で受け流す。


だが、関係ないとばかりに、太った男は話を続ける。


「腹芸はやめよ。相場の3倍の値で買う。捕まえるのもこちらがやろう。ここまで譲歩するのだ、こちらの顔を潰す真似は、やめて欲しいのだがな?」



舌打ちをして、早く承諾だけしろと言わんばかりに、太った男は迫る。


だが、町長はとぼけて言う。


「違法奴隷は、確か摘発されれば極刑でしたよね?捕まえるなど、穏やかではありませんなぁ」


「ふががが!モノを知らんジジイだな!」


まだ48歳だよ!このブタが!・・・と町長は心の中でキレたが、穏やかな表情を崩さずに、太った男を見る。



「我が商会では合法となるのだ。力あるものこそが法だぞ?こんな田舎の領土はいらんから、見逃されているだけ。蹂躙しても儲けになるものがない。身の程を知れ、田舎者め」


馬鹿笑いして、太った男はひぃひぃ苦しそうに息をする。


それを、冷めた穏やかな表情で町長は見ていた。


「あー、もう話すことはない。明後日には兵を連れて、あのエルフ達を受け取りに行く。いいな」


「了承致しません。兵を連れてこの領にくると言うことは、武略侵攻とみなしますよ?」


「好きにせい。どうせもっといいエルフの売り先でも当てがあるのだろうが、先に手に入れてしまえばこっちのものよ!」


帰るぞ!と太った男はそう言って、護衛に声をかけて帰る。


その玄関までの間に、フィオの姿を見つける。


「ふががが!田舎者にしては見目がいいな!おい町長、ついでに明後日、この娘ももらおう!いいな!ワシが可愛がってやろう、ふがががが」




太った男は高らかに笑い、護衛達も下卑た笑いをあげる。


町長はメガネを外し、目頭を揉む。





「うるさいブタだ。早く帰れ」




「ががっ、ふがっ?・・・き、きき!貴様!今何と!」


「何か聞こえましたかな?ブタ殿」


「ぶ、ぶぶぶ!豚だと!このワシを!貴様ぁ!」



真っ赤に怒りだす豚を前に、町長は静かに答える。


「宣戦布告をして来ておいて、何を今更。我々は違法奴隷を許す気もないし、貴様のようなブタに娘を渡すわけないだろう。明後日領土に来ることはおすすめしない」




たっぷりと溜めて、町長は怒りの形相を豚に向ける。



「命が惜しければな」




メガネを外した町長の顔は、いつもの頼りない顔とは違い、鋭い眼光をしていた。


豚はワナワナと震えながらも、睨まれて怖くなり、覚えていろとだけ吐き捨て、ゴルドの領を出て行った。







「と言うのが先ほどあった事ですわ」


「うわぁぁぁああああ!!戦争になっちまったぁぁあああ!!!」


フィオの報告に、ゴルドはお家芸の絶叫ツッコミをした。



「父上からは、もうヤっちゃっていいよね?一番槍行っちゃっていいよね?と伝言があります」



「クソ!あの見せかけ温厚の、実はキレたらヤバいやつ領内1位め!」


ゴルドは知っている。

町長は普段温厚だが、フィオのことになったり、さすがにブチギレても仕方ないよねって事があると、人が変わったようにキレてヤバくなることを。



「いやだが、ここまでコケにされて、黙っている方が問題だ。アルセノスの怒りは当然だとも」


何気に、町長の名前が出るのは初めてだが、今は置いておこう。


ローガンが、さてと、と言って立ち上がる。


「敵が来るなら用意せねば」


まるで、あー、雨が降るから洗濯でも取り入れようか、みたいなノリで、ローガンは戦闘準備にかかろうとする。


「んじゃ、こっちもだな」


ヴォルクも淀み無くそう言って、同じように軽い雰囲気でいる。


「え?え?何?みんな戦うの?ダメダメダメ!ケガするだろうが!戦争ダメ!」


「安心してくださいゴッド様!僕たちが絶対に勝ってきますから!」


ヒロも胸を張って、ゴルドにそう言う。

だが、ゴルドはみるみるうちに青ざめて、急に滝のように涙を流す。


「ダメ!絶対やだ!相手は殺しにかかってるんだろ!ヒロもローガンもヴォルクも死ぬことは許さない!戦うことなんて絶対認めないからなぁ~~!!」


うわーーん、と漫画のように泣いて、ゴルドは走り去ってしまった。



ポカーンとするヒロを置いて、ローガンもヴォルクも戦いの準備をするため、それぞれ騎士団詰所と部下の元へ行こうとする。


「え?い、いいんですか?」


ヒロがどうしようかと焦るが、ローガンはなんてことないように言う。



「戦わねば、こちらがやられる。エルフだけを(さら)って、他が無事だという保証はない・・・というか、フィオーナ嬢も連れて行くとか抜かしているらしいし、絶対我が領を無茶苦茶にするつもりだ」


ヴォルクもそのローガンの言葉に頷く。


「聞いてりゃ、さっきのも交渉じゃなくて、喧嘩売ってるのさ。買わなかったら良いように襲われるだけだ。自衛ぐらいしないとな」


ヒロは、それを聞いて、改めて体が震える。


先ほどは、ゴルドに偉そうに勝つと言ったが、命のやり取りなど、当たり前だがヒロはした事がない。




拳が震える。



足も震える。




ゴルドの、本気で泣きながら、死ぬかもしれないんだぞと、言われたのを頭の中で繰り返す。



「・・・怖いか?」


「・・・はい、怖いです」


ヴォルクの問いに、ヒロは素直に答える。


「でも、僕の選んだ道です。戦わない選択肢はない」


「・・・ふん、立派じゃねぇか」


ヴォルクは笑い、ローガンもニヤリと歯を見せる。



「ゴルド様はちょうど良いから、部屋に閉じこもったところで、鍵をかけて軟禁しよう」


ローガンの言葉に、さすがにヒロもヴォルクも、いいのか?と疑問に思ったが、まぁ安全なら良いかと思うことにした。






ゴルドは部屋ではなく、エルフのテントに来ていた。


血相を変えたゴルドの様子に、何事かとエルフの側近が声をかける。


ゴルドはとりあえず、エルフが全員いるか、確認をするように言った。

あまりの鬼気迫る様子に、側近エルフは理由も聞かずに、すぐ仲間の安否を確認する。



結果、誰も欠けていなかった。



ゴルドはそれを聞いて、まずは安心する。

そして、ミハエルと側近達に、すぐに来て欲しいと依頼した。



「・・・何があった」


ミハエルがテントから出て、ゴルドの顔を見るなり、顔を険しくして聞いてきた。


「・・・家令とミツキ殿とも話を共有したいから、屋敷に来てくれ」


「・・・わかった」



いつもなら、憎まれ口なり何なりを言うところなのに、そんな場合ではないことを、ミハエルは察した。






「奴隷狩り、か・・・転生しても、追いかけてくるのだな、恐ろしいものだ」



事情を聞き、側近達は絶望の顔をするが、ミハエルはまるで覚悟をしていたかのように、その話を受け入れた。


そして、すぐさま提案する。


「我々はこの領を出る。世話になったな」



「いやいやいや!ヴァカじゃねぇーの?!子供も連れて、どこに逃げるんだよ!」


ゴルドが慌てて珍しく声を荒げる。

美月もその様子に、驚きと新鮮さを覚えた。

だか、戦争を知らない美月も、話を聞いてからは口数が少ない。足も震えていた。


急に降って湧いた戦争の事実に、怯えているのだ。



「どこだろうと関係ないだろう。森の奥なり、険しい場所なら、逃げ切れるだろう」


「土地勘ありゃ逃げれるだろうけど!この世界の地理知らないジャン!逃げきれるわけねぇダルォォオ!」


「うるさい!お前には関係ないだろうが!」


ミハエルが急に怒りが爆発し、大声を出す。

そして、ゴルドの胸ぐらを掴む。


「どうしろってんだ!えぇ!どこに行ったって我々はいつもこうなんだよ!知らない輩が虫のようにわらわら湧いてきて!私たちを食い散らかしていく!」


ミハエルを押さえようと、側近が彼の腕を掴むが、ミハエルは止まらない。


「容姿がキレイだから!希少価値があるから!そんな理由で私たちの自由を奪うのか!そんな理由で!我々を襲うのを正当化するのか・・・お前らもなってみろ!エルフに!代わりたけりゃ代わってやるよ・・・なりたくない、こんな存在・・・なりたくなんかなかった!!」


ミハエルは泣き崩れる。



ゴルドを掴む腕が離れるが、ゴルドは動けなくなっていた。


押し殺す嗚咽が、部屋を響かせる。


美月も、側近エルフ達も、涙を流し、不安と絶望に震えている。


家令は話を切ろうと、前に出ようとするが、それを制したものがいた。





ゴルドだ。





ゴルドは目を閉じて、一呼吸置き。


勢いよく自分の頭を机に叩きつけた。



全員が驚愕する。



時が止まる。




だが、ゴルドは机から顔を上げて、額を赤くさせながら、ニカっと笑った。




「こうなったら仕方ねー!迎え討つぞ!」



はっはっはと、いつものゴルドになった。


リンゼはそのゴルドの側にピッタリとつく。



「軍議を行う!エルフ全員は屋敷にて避難させる!町と近くの村にも厳戒態勢を敷け!」



有無を言わせないゴルドの命令が飛ぶ。

家令とリンゼが即座に返事をして行動にうつる。



ゴルドにとって初めての戦いが、目前に迫っていた。








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