第18話 交渉を制したものは、見えているものが違った
睨み合いが続き、痺れを切らしたゴルドが声をかける。
「あの~、とりあえずそのままでいいので、お話しだけさせてもらいますね?」
エルフ達はゴルドを睨みつけつつ、ヒロとヴォルク達にも警戒のため、剣と弓矢を向けたまま、何も言わない。
「えー、まずですね。急に目の前の場所が変わって驚かれていることかと思いますが、あなた方は転生魔法により、この異世界へ転生されました。あ!安心してください、元の世界に戻りたい場合は、言ってもらえましたら、元の世界にお戻ししますので!どうぞ、ご安心を・・・」
ゴルドが安心させるためにそう言うが、反応としては微妙だ。
戦闘モードのエルフ達は警戒を解く様子がない。
「・・・元のところには、帰りたくないよぉ」
か細い、子供の泣く声のような言葉がふと聞こえた。
よく見ると、戦闘モードのエルフ達の後ろに、震えて身を寄せ合っている幼いエルフの子供達がいる。
ゴルドはそれに気付き、すぐさまヒロ達に声をかけた。
「武装を解いてくれ」
「ダメだボス。あいつらの構える武器に、弓がある。飛び道具はすぐに防げん」
ヴォルクが冷静にそう言うが、ゴルドは変わらず言う。
「頼む。彼らを安心させるためだ。子供達が怯えている」
ゴルドの毅然とした態度に、ヒロが真っ先に剣を鞘に戻した。
ヴォルク達もそれを見て、仕方なく武装を解除する。
エルフ達の一部に、動揺が走る。
剣を納められて、どうすればいいのか困惑している様子だ。
だが、先頭にいる優男風エルフだけは、狼狽えずに、剣をゴルドに向けていた。
「・・・えー、お話を戻すとですね。実は我が領の新しい町で、馬飼を探してまして、それをお願いできないかなぁと・・・」
「・・・優しい雰囲気で、隷属を求めてくるとは、とんだ奴隷商人がいたもんだな」
優男風エルフが口を開く。
ハスキーボイスで、その声を聞けば、世の女性陣は心惹かれることだろう。
だが、ゴルドは言われた内容に対して、そのつもりがないものの、転生魔法の性質上、美月に言われた通り、無理やりこの世界に連れてきている事に違いはない。
「えっと、もちろんですが、奴隷ではないです。あくまでも町の住民になりませんか?という誘いなので、お断り出来ますから!」
「元の世界には事情により戻れない。戻る気もない。そういう奴らを集めて、口では耳触りのいい弁舌を並べるが、この世界のことを何も知らない我等からすれば、急にこの世界で生きていけなど、容易いことではない。元の住民との確執もあるだろう。結局、貴様の口車に乗るしかない。よく出来たシナリオだな?奴隷商人」
「・・・・・」
ゴルドは黙ってしまう。
何せ、言われてみると、確かにと自分でも思ってしまったからだ。
(その通り過ぎて、何も言えねぇ~~)
ゴルドは自己嫌悪に陥った。
ダメージを負った様子のゴルドをよそに、エルフ達は全く信じる様子を見せずに、膠着状態が続くので、ヒロが前に出る。
「はじめまして、ヒロと言います」
ビシッと自己紹介をして、話を続ける。
「エルフさん、あなた方の言い分は確かに。急に呼ばれて、はいそうですかとは、確かにならないですね。ですが、僕も転生してきた身。この僕の待遇が悪くない事を信頼の証として、まずは、代表者同士でお話ししませんか?」
優男風のエルフが、じっとヒロを見て、しばらく考える。
そして、剣を静かに鞘に戻した。
「少年。君の魔力がこの世界のものと違うものだと分かったので、一応、信じる証として受け取ろう」
何かよくわからないが、エルフにしかわからない魔力の検知方法で、ヒロを転生者と見抜いたようだ。
「まず、話し合いたいのなら、条件がある。話し合いに参加するのは、私と側近だが、武器の所持を認めろ。次に、残りの仲間は安全が確認されるまで、この屋敷の外で待機する」
ヒロがいいですか?とゴルドに聞き、え?別にそれくらいいいんじゃない?とゴルドが答えたものだから、ヴォルクは眉間に皺を寄せてゴルドに耳打ちする。
「ボス、武装した奴らと交渉なんかできるのか?」
「んー・・・まぁ、こっちが呼び出した側だし、あちらは我等を害したところで、何の得にもならないはずだから、大丈夫・・・だといいな~」
ゴルドのあはは~という笑に、ヴォルクはため息をつくしかなかった。
広間で、机を挟みながら、ゴルドと美月、家令、町長の4人が座り、その後ろで、ヴォルク、ヒロ、ローガンが立って警護する。リンゼは配膳役として給仕のためそばに仕えていた。
サリーたち残りの傭兵は、広間入り口で待機している。
そして、向かいに座るエルフ側は、リーダー格の優男風エルフと、その側近らしい2人のエルフ。合計3人のみだ。
武装はしているが、3人とも座っているので、とりあえずゴルドはホッとする。
(剣チラつかせながら話し合いなんて、生きた心地しないから、とりあえず良かった~)
ちなみに、外のエルフ達は、騎士団員が案内して、屋敷外の、領外までまっすぐ進める道を教えて、遠目に待機させていた。
ついでに、ゴルドの指示で、水や食べ物を用意する。
しかし、エルフ達は手をつけず、触ろうともしなかった。
「こちらが依頼したいお仕事内容。といっても、各々が好きに選んでもらっていいわ。高待遇なのが馬飼。こちらの要望が高い職種なの。次に農業、狩猟、採取。まぁ、ここからは領民と同じく、税を納めてもらうから、特にこれといってお給金はないわね」
「・・・住むところは、このデジマとかいう範囲で、好きに住めるのか?」
「ええ。希望するなら。別に永住する契約も何もないから、他に気に入った土地や新天地を求めるなら、別にそっちでもいいわ。ある程度蓄えを作ってから、出て行くもよし。そこら辺の制限は無いわよ」
美月がスラスラと条件について話をする。
聡明なエルフという種族イメージは確かだったようで、美月の話を理解し、質問を繰り広げ、エルフ側は破格の待遇である事を理解する。
しかも、誓約魔法という、この手の約束事をするにはもってこいの手続きも、ゴルドの署名にてサインすると断言した。
「ミハエル、これは受けるべきです」
側近のエルフが、リーダー格の優男風エルフの名前を呼び、進言した。
ミハエルは納得のいかない顔、どこかまだ警戒した顔を見せながらも、即座に反論しないところを見ると、迷っている、つまり受けてもいいと多少なりとも思っているようだ。
「経緯はどうあれ、この世界に来たことは、森の神の思し召しかも知れません。元の世界には戻りたくない・・・自由に選べる猶予があるなら、尚更、この話は受けるメリットしかありません」
双方の側近からそう言われるミハエル。
そんな様子を見ながら、ヒロは違う事を考えていた。
(わ~、エルフだ。耳とんがっているし、みんな美形だな~。中世的って本当なんだ。ミハエルさんはかろうじて男ってわかるけど、他の2人はちょっとわかんないなぁ・・・髪長いし、声高いし)
ミハエルは長髪のエルフが多い中で、珍しくショートカットの短い金髪をしている。
だからか、唯一わかりやすい性別であった。
「話は分かった。だが、そんな上手い話を、はいそうですかとは、すぐに呑めない」
「いや、ごもっとも。ゆっくり考えて出していただけたら。馬も来るのには1ヶ月ほどかかりますし」
ミハエルの反発に対して、まさに暖簾に腕押しのように、ゴルドはさらりと同意した。
それがまた気に食わないのか、ミハエルはむっとゴルドを見て、返事をせず美月に顔を向ける。
「異世界へ強制的にそちらが呼んだのだ。当面の食糧はそちらで用意したまえ。ここの領主とその騎士団は信用ならない。運ぶのはあのヒロという少年だけで運び、毒味も彼がすること。この条件を呑めるか?」
美月がちょっと渋い顔をする。
エルフの側近は慌てて、ミハエルに何を言うと諌めようとするが、ミハエルは引き下がる様子はない。
美月としても、どうせお人好しのゴルドのことだから、許可は出るだろうと、当面の食糧はもちろん用意する気であった。
だが、交渉には、それ相応の態度というものがある。
横柄な態度の相手が出した要求を、はいはい受けていては、こちら側の面子が丸潰れだ。
もっとも、聡明なエルフのミハエルだ。
それも分かった上で、上に出ているのだろう。
(何か事情があって、人間嫌いなんでしょうけど・・・こっちは気分悪いわね~)
美月がさすがにチクリと指摘しようかと思ったところで、ゴルドが口を開く。
「食糧はもちろん用意しよう。でもヒロ1人で運ぶのは大変だし、時間かかるぞ?子供達、お腹空かせてるだろ?」
ゴルドは本当に思ったままのことを言った。
心配そうな顔で、ミハエルと側近の2人にも顔を向ける。
そこには、純粋に彼らの、ひいてはエルフの子供達を心配する、ただそれだけしかなかった。
それに、ミハエルが顔を赤くする。
美月は心の中でスカッとした。
わかる人には分かる。
今この交渉の場で、ミハエルはゴルド側の面子を潰す嫌らしい交渉をしていた。
だが、それを受けたゴルドは気にしないどころか、彼らのもっとも弱きもの達に目を向けて、本気で心配していた。
はたして、どちらがより善良か。
エルフの子供のためを考えているのはどちらか。
明確に浮き彫りになった。
側近の2人も、ミハエルを押さえて、ゴルドに感謝を述べて頭を下げる。
ゴルドは交渉の場で、ミハエルを抑えた。
そして、側近のエルフ2人も、ゴルドの善良さを身にしみるだろう。
美月は、ヒロを筆頭に、リンゼ達メイドが食事を用意するとミハエルに言って、ミハエルも、顔を下に向けながら、感謝する、と、初めてゴルドに向けて、そう言った。
ヒロも、ヴォルクも、ローガンも、心なしか顔が自慢げである。
リンゼだけが、いつもの無表情で、ゴルドにお茶を入れる。
そして、ゴルドは、そんな彼らの思いなど、全く気付くことなく、エルフはみんな何を食べるのだろうか、口に合わず、腹を壊したりしないだろうかと、別のことを心配していた。
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