第17話 馬飼の転生者を希望する
新たな町、デジマをつくるため、まずヴォルク達が行なったのは、畑作りである。
すっかり体の癒えた傭兵達が、クワを振って畑を耕す。
農業指導で、ゴルドとヒロが最初に会った、あの村の長老が出向いてくれている。
ヴォルクはその指示を紙にまとめて、資料として作り、自分達が教える側に回れるように吸収していた。
フィオがその様子を見て、感嘆する。
「あの方々、優秀過ぎますわ。一を聞いて十理解していますもの」
「うーむ、体力も無尽蔵なのか、畑の拡張スピードが早いね」
町長も視察という形で、彼らの働きぶりを見にきていた。
「ん?しかし7人と聞いていたけど、2人ほど人が多いな?手伝いかな?」
土いじりをする人数が多く、麦わら帽子を被って顔が見えない2人に目を凝らして見ると、町長は噴き出した。
「ご、ごごごゴルド様!何をしておられるのですか!?」
「あ、町長、ごきげんよう。はっはっは」
爽やかな顔で挨拶をするゴルドは、めちゃくちゃ麦わら帽子と麻の服が似合っていた。
もう1人はもちろんヒロである。
ちゃっちゃとヒロ特製の土を出しながら、ついでと言わんばかりに苗も出してどんどん植えていく。
「うーん、ヒロ様のそのお力は、本当に神の如しですわ。土から苗までノーコストで出せるなんて・・・扱いを気をつけませんと、過剰供給で他の農地が全滅しますわね」
フィオが感心しつつも、見る人が見れば理不尽かつ超危険な能力である、としっかり分かっていた。その上で、自分が目を光らせねばと心の中で誓う。
「良いですかゴルド様、領主がそんな土いじりをするなど、周りの目というものが・・・」
「誰もいないって。ここにはヴォルクたちとフィオに町長しかおらぬ。いいではないか、農作物を作る大変さを知って、領主としての知見に磨きをかけたいのだよ」
おぉ、ゴルド様!何と立派な、と町長が目頭を熱くしている横で、フィオがふふふと笑いながらゴルドを見る。
「そういえば、本日はリンゼは?」
「ん?んー・・・屋敷でお掃除かな?」
「そうですの?珍しい事もございますのね?あのゴルド様に付きっきりのリンゼが、お屋敷でお掃除ですか~」
「はっはっは、そういつもいつも一緒ではないさ。今日は偶々ね、偶々」
ニヤニヤしながら、フィオがゴルドの顔にずいっと近づく。
「う、うーん、フィオ。顔が近いよ?」
「あら、何か不都合でも?」
そうして、耳元に口を近づけて、フィオはささやく。
「どうせおサボりになって、逃げてきたのでしょ?黙っていますから、私のお願いを聞いてくださいます?」
見透かされていたようで、ゴルドは、ははは、と力無く笑う。
「それで?お願いとは?」
「カストール家より、賠償金を頂きましたの」
あー、あの商家のクズ次男、とゴルドが思い出した。
「賠償金で手を打ったんだな」
「あら、それだけとは言ってませんことよ」
更にむしり取ったのかい?と苦笑いするゴルドに、フィオはそっと手紙を差し出す。
それを受け取り、読み出すゴルドは、読み進めると共に目が点になる。
「・・・馬、100頭?」
「はい。牡馬、牝馬50頭ずつ。この馬達を元に、繁殖させて、馬牧場を目指しましょう。ゆくゆくはここを馬産地として栄えさせましょう」
フィオがニコニコしていうが、ゴルドは慌てふためく。
「いやいやいや!急に馬100頭!?え?え?誰が見るの?!てか!馬育てるノウハウないよ?!」
「もちろん、分かっておりますわ。そこで、ゴルド様にお願いです。馬の繁殖に長けている転生者をお呼びください」
フィオに言われて、あぁ、なるほど、とゴルドは手をポンと叩いた。
「正直、この馬達は売り払う気満々で貰ったのですが、ヴォルク様達を見て、ゴルド様が複数名優秀な転生者を呼べるのでしたら、この馬達も我々の領土の力にしてしまいましょう、と思ったのです」
「あー、よかった。というか、フィオならそれくらい考えの範疇だよな」
ゴルドの領内である馬といえば、騎士団が飼っている5頭のみである。
いすれも買ってきた馬ばかりで、領内で繁殖などさせていない。
馬車用と伝令用の最低限しかいない。
畑仕事に一段落したヴォルクにゴルドは声をかける。
「馬か・・・オレも最低限の乗馬は心得ているが、馬飼のイロハは知らん。ボスが決めたんなら、次の転生者は、それでいいと思う」
「ちなみに、住むところはテント式でとりあえず建てていけますよ。30箇所はいけるかな」
ヴォルクの賛同と、サリーが住む所の目処についても報告してくれた。
「馬飼の転生者・・・100頭もみるなら、10人以上はいるよな・・・」
「馬飼を転生させるって・・・地味と言いますか、転生の無駄遣いって言われそうですね」
ヒロが、元の世界のアニメや漫画を基準にした時、なんてもったいない転生をするんだと言われそうだと素直に思った。
「どうせなら、馬飼に限定させず、農耕スキルや狩猟にも特化した種族で考えませんか?」
町長が思いついたように提案する。
「種族?・・・人じゃなくて?」
「え?転生は人限定でしたか?それでしたら、見当違いな事を申しました。お許しください」
「・・・いや、どうなんだろう。特にダメとも言われていないが・・・いるのか?異世界に他種族とやらは?」
ゴルドの質問に、答えられる者はいない。
そこで、ゴルドは一度屋敷に戻り、アイハに話を聞きに行く。
アイハは美月と一緒にいた。
美月の執務室で、美月は書類を、アイハは白い紙にお絵かきをしている。
「アイハ殿。転生させることができるのは、人間だけですか?」
「んー?そんな事ないよ?生き物ならなんでも転生できるよ!」
「あら、ゴルドさん。今度は人以外を呼ぶんですか?」
うむ、農耕や馬の世話に長けた種族を考えている、とゴルドが先ほど町長の提案を伝えると、美月は前のめりで提案する。
「それならエルフ一択よ!森の民、エルフなら、動物の世話も、農耕、狩猟、採取もどんと来いでしょ!」
「あー、そういえば、そういう種族だもんなぁ、エルフ」
そこでゴルドはふと疑問になる。
「なんでミツキ殿の世界には、エルフがいないのに、そんな事に詳しいんだ?」
「え?創作の物語の中では定番だから、みんな知ってるわよ」
「創作?・・・なんで知らない存在を物語に書けるんだ?」
「それ以上はややこしいから、考えないほうがいいわ」
美月がスパッと流したので、まぁいいかとゴルドも流す事にした。
「じゃあ、次の転生者さん達はエルフさん達だね。転生を望んでいて、良い人たちっていう条件以外に、何か欲しい?」
「馬飼や、農作業、狩猟にも特に長けている人達がいいな。あとはまぁ、特にないかな」
「うんうん、分かったよ。すぐする?」
「そうだな。サリー殿からもテントの用意も出来たってことだし、ヒロのお陰で畑もすぐ実るだろ。呼べる状態だろうから、お呼びするか」
すでに慣れてきた転生魔法に、ゴルドはすっかり安心し切っていた。
中庭に集まり、今度はヒロにヴォルク達が、戦闘体制で構える。
「や、やり過ぎじゃない?」
「万が一があるから、ね?ゴッド様」
ヒロの有無を言わせない圧に、ゴルドはうむ、分かったと了承して、アイハと転生魔法のため魔力を込める。
いつもの光が、また今度は一段と多く広がる。
思ったより広がる。
そして、光がおさまった頃、そこには耳の尖った、肌の白い、何とも美しい金髪に、中性的な見た目のエルフが、30人召喚されていた。
「おぉ、成功かな?やぁ、はじめまして!私はこの地の領主をしていますゴルド・アイハンドで・・」
そう自己紹介を始めた瞬間、全てのエルフから敵意の目を向けられ、とりわけ背の高い戦闘服に身を包んだ、優男風のエルフは、剣を鞘から抜き、ゴルドにその剣を向けた。
「うぉーい!またこのパターンかよ!!」
ゴルドは心に決めた。
今度から、転生した瞬間、戦闘モードにならない、という条件をアイハに頼む事を。
ヒロ達とエルフ達とが、睨み合って、中庭は騒然とする。




