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第15話 傭兵隊長vs英雄




修練場で、ヒロとヴォルクが対峙する。


他の騎士団員も見学に回り、興味津々と言わんばかりに、2人の模擬戦を今か今かと待っている。


「ワシが立ち合いをするが、いいか双方とも、止めろと言ったら止めろよ?」



「はい!もちろんです!」


ヒロは元気いっぱいに答えるが、その目はギンギンに開いている。


「・・・ケガしても知らんからな」


ヴォルクも木剣を片手に構えて、半身になる。


はじめっ!とローガンが言った瞬間、ヒロが遠慮なしに突進して木剣を振りかざし、真上から叩きつける。


ヴォルクは避けれるスピードではないと悟り、木剣を横にして受け止めるが、その重さに、冷や汗をかく。


(タダもんじゃないとは思っていたが、想定の数段上だな)


ヴォルクは驚きを悟られない様に、無表情でヒロを突き飛ばす。


飛ばされた勢いで、バク宙して距離を取るヒロは、着地とともにもう一度突進する。

その速さに、騎士団員達は苦笑いする。


ついこの間まで、初めて剣を触った素人のはずなんだがな、とそれぞれが思っている。


ローガンも、剣技においては、まだヒロに基礎しか教えていないのに、基礎スペックがここまで違うと、ただの一振りが達人の一振りに見えてくる。


だが、ローガンはそれでもヒロの勝利は厳しいと看破していた。

それほどまでに、ヴォルクという男は、兵士として完成されている。



突進するヒロの進行方向から必要最小限の動きで避けて、背後に回る。

ヒロがそれに気付き、木剣を真横に振ると、ギリギリでヴォルクも距離をとって反撃の一振りを入れる。


ヒロはそれにまた、気付いてから、無理な体制で蹴りを入れて、ヴォルクを飛ばした。


反撃途中で強制キャンセルを喰らったヴォルクだが、焦りは見せない。


(見てから対策される。反射神経と動体視力が人間のそれではない。技術がないのが救いだな・・・あったら、オレは一分と持たん)


ヴォルクは冷静にヒロを見つめて、その殺し方を幾つも頭に思い浮かべる。


武器は木剣のみ。


未熟な剣戟の最中でやれるか?


その考えの途中で、またヒロが突っ込んでくる。

この休みなく攻められるのも、ヴォルクとしては嫌な攻められ方だ。

ヒロに疲労は見えないが、ヴォルクは着実に疲れが溜まる。


隙があるにはある。


ヴォルクほどの経験者なら、ヒロの隙がいくつも見つけられているが、そこを狙うたびに、反射神経でガードと反撃をされる。


クソゲーだな。


とうとうヴォルクは笑い出す。

フェイントを織り交ぜようにも、そういった軽い攻撃は無視される。




外から見ていたローガンもある事に気付く。



最初にローガンと戦った時より、もちろんヒロは強くなっているが、今日はそれよりも苛烈である。


ヒロは何だかんだ、平和な世界から来ている。

日本という、とりわけ戦争やら戦闘とは無縁の国である。


相手を倒すだの、殺すだのに縁など全くない。

それゆえに、ヒロには相手を傷つけようという、覚悟、闘争心が欠けていた。


だが、今のヒロには、それが(わず)かながらある。なぜか?




ヒロは、怒っているからだ。





「うぉおおお!!」


ヒロが吠える。


ヴォルクに引けを取らない攻撃を繰り出し、ヴォルクは守る一方になる。


この()()を、ヴォルクはしかと感じていた。


ヒロとヴォルクの木剣が交わり、ヒロがとうとう押し勝つ。

弾き飛ばされるヴォルクの木剣。

ヒロはそこで、怒りより喜びが優ってしまった。



それは、つまり油断に他ならない。




ヴォルクがヒロの腕を掴み、格闘術で組み伏せて、ヒロは呆気なく地面に身体を伏せる。


「あー!ちょっと!木剣ないのに!ずるいよ!反則!反則負け!」


「たわけ。最後まで気を抜くなヒロ。お主の負けだ」


ローガンがやれやれと言わんばかりに、ヴォルクの勝利宣言をする。


だが、騎士団員達は拍手でヒロの健闘を讃え、ヴォルクにもやるなおっさんと声をかける。


「・・・強いな、お前」


ヴォルクは素直な感想を述べる。

ヒロは納得がいかないしかめ面をしつつも、ありがとうございましたと礼をする。


「だが未熟だ。剣なんか無くなったところで、殺し方はいくらでもある」


「ぎぎぎ・・・」


まさに何も言えない、ヒロは言い返せない。

先ほどまでの怒りも再燃し、親の仇を見るかのように、ヴォルクを睨むヒロ。

バツが悪そうに、ヴォルクは聞く。


「・・・さすがに気分が悪い。オレはお前に何かしたか?」


「・・・ゴッド様に銃向けた」


「・・・あぁ」


ヴォルクはようやく合点がいく。

そしてヒロは続けた。



「召喚された時、銃口をゴッド様に向けていたでしょ。引き金引いてたら、ゴッド様死んでた・・・」


「・・・今度から、召喚する時はあの若造を前に立たせるな、護衛の基本だ。何者(なにもん)が来るのか分からんのだろ?・・・あの若造が死んだら、誰のせいだと思う?殺したやつか?」



ーーーー違うな、守れなかったお前の所為だ。




ヴォルクは面と向かって、ヒロに言う。


ヒロはグッと、涙目になって、走って修練場を出てしまった。



ヴォルクはそれを見届けると、用はもう無いと言わんばかりに、立ち去ろうとする。




「おい待て、何スカして帰ろうとしとる」




だが帰れない。

ローガンに肩を掴まれ、無理やり止められる。

その力の強さに、ヴォルクは恐怖を覚えた。


(え?・・・さっきの小僧より強くない??)



ドッと冷や汗が出るヴォルクに、ローガンは普通に怒りの面持ちで睨みつけていた。


「ヒロに戒めのつもりで厳しく言うたんじゃろうが、普通に腹立つからお前を殴る」



「いや、ちょ、お前、そりゃないぜ?」


「ヒロはな、孫みたいなもんでな。いい子じゃし、素直じゃし、ローガン様すごいってキラキラした目で言ってくれるんじゃ。お前泣かしただろ。殺す」



ヴォルクは戦慄(せんりつ)した。


このジジイには勝てないと。


素手では到底敵わないと、身をもって知った。


数秒後、ヴォルクは戦闘で意識を失う体験を、若い頃以来久しぶりに体験した。


そしてローガンは、騒ぎを聞きつけてやって来たリンゼに、普通に説教された。







「いや~、ヴォルク殿、ローガンだけは怒らせちゃダメよ。いや本当、あの人はおかしいから。生きる戦神っていうの?この世界の基準でも測れない、異常個体だから」


ゴルドが顔の腫れたがったヴォルクに、治癒魔法をかけながら言う。


「あいつがいれば、オレ達はいらないだろ・・・」


ヴォルクが珍しく、泣き言を言うので、同室にいる部下達が驚きつつ、リーダーであるヴォルクにここまで言わせるローガンを恐れた。


「はっはっは、お願いしたい役割が違うのだよ。いやね?町作りたいってミツキ殿から聞いた?ん?聞いてない?まぁ、なんかデジマっていうお金稼ぐ用の町作って、いざという時の領地を守るお財布にしようって言う話なんだけどさ」


ゴルドが分かっているようで、よく分かっていない故の、ざっくり過ぎる説明をヴォルク達にすると、そこで初めてヴォルクたちをこの世界に呼んだ理由が明かされる。



「つまり、なんだ・・・大工とか工作兵のノリでオレ達を呼んだのか?」


ヴォルクは顔の腫れが引いたが、呆気に取られて空いた口が塞がらない。


「いやね、召喚の条件も色々入れたのよ?転生を望んでいて、善性で、自己防衛できて、設営ができるとかね」


「いやまぁ、間違ってないっスけど」


ヴォルクの部下の1人がケタケタ笑いながらそう答える。



「若造、オレ達がただの工作兵に見えるか?」



ヴォルクは、真剣な顔と声で、ゴルドにそう言う。


「え?いや・・・気のいい傭兵隊というか、そう言うのに見えるぞ?」


気のいいは余計だ、とヴォルクは言いつつ、続ける。


「傭兵で合っている。それも、とびきり汚ねぇ仕事を請け負っている存在を許されねぇ傭兵部隊だ」


しん、と部屋が静まってしまう。

ゴルドだけが、困ったように首を傾げ、他の隊員達は、顔を下に向ける。


「最初は国のイカれた機関でオレ達は集められた。それからは戦争の道具として、卑劣な軍事作戦を秘密裏に行った。殺してきた数も、壊してきたものの数も数えきれねぇ」


ヴォルクが、この世界に来て初めて冷静を欠くように、怒りを表に出していた。


「そこから、国に愛想を尽かしたオレ達は、脱走した。それ以来、レジスタンスなんて呼ばれちゃいたが、やってることは何も変わらねぇ。殺しと破壊だ」


一旦、口をつぐんだヴォルクは、ゴルドから目線を外して、沈黙してしまう。


そこには、言うつもりなどなかったという後悔の表情が表れていた。


「・・・全て、オレがリーダーとして指示していた。だから・・・部下は使ってやってくれ。オレはダメだ」


「おいおい、ヴォルク殿。考えようによってはチャンスじゃないか。この世界ではそなたの過去なんか関係ない。心機一転、傭兵稼業は捨てて、大工でも農家でも、好きなことをしてみないかい?」


努めて明るくそう言うゴルドに、ヴォルクは目も合わせず答えた。




「若造・・・お前のそばに、オレは似つかわしくない」



ゴルドも、さすがに穏やかな顔を崩して、悲しい顔になる。



「オレも歳を食ってる・・・もう後戻りできやしねぇよ。汚ねぇドブに、どっぷり浸かっている。今更、太陽の近くで、気持ちよく過ごそうなんざ、虫が良すぎるのさ。そんなの・・・オレがオレを許せねぇんだ」




隊員達は何も言えず、一同が暗い顔をしている。


ゴルドは何も言えず、リンゼが次の予定があると声をかけて、ゴルドの背中を押した。


そこでゴルドは、まだ何を言うか、決まっていないかのようだが、意を決して口を開いた。




「ドブ掃除をしていた人間だって、風呂に入って、さっぱりして、太陽の下で昼寝ぐらいするだろ」




ヴォルクも、そして隊員たちも、一瞬、何のこと??と、怪訝(けげん)な顔をしたが、ゴルドは最後はいつもの笑顔で言い切った。



「いいじゃないか、私は聞く限り、ヴォルク殿を含めて、君達に背負うべき(とが)はない。明るい太陽に下で堂々と歩いていい!私が保証しよう」




隊員たちの数名が、グッと、涙をこらえた。サリーなんかはこらえきれず泣いたが。


ヴォルクは、変わらずしかめ面で、何も答えなかった。



時間オーバーです、とリンゼは再度ゴルドを急かして、ゴルドを部屋に追い出す。その去り際に、リンゼはヴォルクに声をかける。




「ヒロ様に、お会いしてください。今中庭におりますので」



「・・・何故だ?会う必要がない。さっきのジジイみたいに、あの小僧に謝れとか言うのか?」


「その必要はありません」


リンゼは変わらない無表情で、ただ、有無を言わせない声で、ヴォルクに言った。



「ヴォルク様をどうにかして社会的に亡き者にするため、ミツキ様の男性同士の恋愛のネタに、ヴォルク様を差し出す計画を立てていたので、お止めになった方がよろしいかと・・・」



「・・・すぐ行く」



ヴォルクは先ほどまでの真剣な表情より、更に真剣な顔になって、すぐさま中庭を目指した。






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