第14話 夢にまで見た理想の町
「いや~、皆さんどうですか?体調良くなってますか?」
ゴルドがごきげんようと言わんばかりに、ヴォルク達の部屋にノックして入って来た。
一通り自己紹介は互いに済んでおり、一日一回はこうしてゴルドが顔を見せにくる。リンゼもついてきているので1人ではないが。
他愛もない話と、飯は口に合っているか等々を聞いてくる。
サリーという女傭兵は、この時間を待ち遠しいと言わんばかりに、ゴルドに話しかけて、ゴルドも調子良く返す。
ヴォルクはそれを見て、よくもまぁ自分よりデカくてゴツい女と楽しそうに話ができるとゴルドに対して思っていた。
ゴルドは背が低くはないが、あくまでも成人男性の平均より少し高い程度で、その横にいるサリーは、傭兵部隊の中で1番小柄とは言え190センチはあるし、部隊の中で1番華奢に見えるが、ゴルドよりは筋肉が腕も足も太い。
そんな見た目で、女としてどころか、人としても威圧感と恐怖心が勝って、なかなか他人と楽しく喋るということが出来ずに飢えていたサリーは、喜んで楽しそうに話してくれるゴルドにすっかり絆されている。
まぁ、別に害はないからいいか。
ヴォルクはそう思っており、たいして介入もせず、自分の装備品の手入れをしていた。
「あ、ヴォルク殿。本日はミツキ殿がお願いがあるらしく」
「・・・あのメガネの女からか?」
サラリと伝達してきたゴルドに、ヴォルクは疑問に思いつつ、了承する。
まだ仲間は全快とはいかないため、ヴォルク1人で美月に会いに行った。
美月に与えられた執務室では、書類を蹂躙する美月の姿があった。
書類にものすごい勢いで書き込みをして、次々にゴルドへの決裁書類か、それともローガン、家令、町長のいずれかに決裁させるようまわす。
まるで美しい演舞の如く、書類を片付ける様に、ヴォルクは気圧されて、話しかけるのを少し待っていた。
だが、すぐさま美月は手を止めてヴォルクに反応する。
「来てくださってありがとうございます。では、早速ですけど町の視察に同行してください」
「護衛の依頼か?この町だと必要には感じないが」
「その通りよ。だから、ヴォルクさんも知恵を出す側よ。町を見て意見が欲しいの。そちらの世界の有益な施設や法律や道具や、何でもいいから」
「・・・あまり役に立てるとは思わん。断る」
ヴォルクはしょうもない依頼だと感じてすぐに断って部屋を出ようとした。
「ちょっと、タダ飯食らいなんだからこれくらい働きなさいよ。誰があなた達の面倒見てるのよ?」
「・・・だから、護衛や討伐の依頼なら受けると・・・」
「仕事選り好みしてるんじゃないわよ。倫理に反する仕事なら断ってしかるべきだけど、やる気にならないからその仕事しないって、プロとしてどうなの?」
「・・・口の減らない女だ」
ヴォルクは頭をガシガシかいて、美月の目の前に戻る。
「・・・」
「は?なに?黙ってないで、やるの?やらないの?」
ヴォルクは美月が苦手になった。
だが、言われていることも尤もなので、仕方なしに、期待するなよ、とだけ答えて、やると言った。
町は変わらない日常を送っていた。
ヴォルクは、何の変哲もないその町を見て、ひどく羨ましいと思った。
女とその子供が無邪気に歩いている。
自分達の世界なら、3秒でその親子は暴漢に襲われている。
その事を美月に言うと、美月はさすがに言葉に詰まって、難しい顔をした。
「薄々感じてたけど、ヴォルクさんと私の世界は、また違う世界だと思うわ」
「まぁ、互いに国名を言ってもピンとこないしな。しかも聞けば、お前の世界も平和だ」
「・・・一応、戦争がないってワケじゃないけどね、うちも」
「そういえるってことは、戦争や争いがない場所があるって事だろう。十分平和だ」
ヴォルクの短いその言葉は、とても重かった。
「あ!お姉ちゃん!」
ふと、子供が美月を見て駆け寄ってくる。母親も一緒にいて、嬉しそうに挨拶をする2人は、以前、バカ商家の次男に馬車で轢かれそうになった、あの親子だった。
子供が無邪気にあの日の思い出を語り、ゴルドへの感謝を言う。
「ゴルド様みたいにね!僕も大きくなって、誰かを助けるの!こうね!ビシッとね!死にたくなければ今すぐ消えろ!ってばーんとね!」
「うーん、そこまで過激な言葉じゃなかったかな?というか、そんな言葉遣いダメよ~」
美月が優しく注意する。
ヴォルクは黙って話を聞いていた。
親子は改めてお礼を言って、子供がブンブンと手を振り、去っていく。
「・・・意外だな。あの若造、そんな啖呵も切るのか」
「あら、ゴルドさんは言う時は言うわよ。しっかり、あの親子の盾になってたしね」
「領主がか?普通、一番偉い奴を守るのが常識だろ」
「まぁ、そうよねぇ。多分、ゴルドさんはこの世界の常識からもズレている人でしょうね」
なんて事のないようにいう美月。
ヴォルクはため息をついて、顔を背けた。
「とんだ甘ちゃんだな。親の顔が見てみたいもんだ。どんだけ甘やかされて生きてきたんだか」
「親御さんとは結構仲良かったみたいだし、上にはお兄さんが2人もいて末っ子だから、まぁ甘やかされていたのかもね」
フィオからそう聞いたわ、あ、フィオってゴルドさんの元婚約者ね、と美月は付け加える。
だが、ヴォルクはそこよりも、過去形で話すことに違和感を覚えていた。
「・・・もういない、のか?・・・あの若造の家族は」
「いないらしいわよ、みんなね。お母さんは幼少期に、領内で流行った伝染病で。お父さんとお兄さん達は、去年の戦いで・・・だそうよ。ゴルドさんの前では、みんな話さないから、私も詳しくは知らないのよ」
美月はそう言って、悲しそうな顔をする。
それは、家族を亡くして天涯孤独になったゴルドに同情しているからか、それとも、まだその話を共有してくれない寂しさからかは、ヴォルクには分からなかった。
ヴォルクは、そうか、と短くだけ答えて、町の様子を見る。
「・・・まぁ、ヴォルクさんの世界では、よくある事なんでしょうけどね。親子が道歩いて3秒で襲われるなら」
美月は気持ちを切り替えるために、しんみりとした空気を追い出すようにそう言う。
「・・・あぁ、人の命なんざ、引き金を引くように軽くて呆気ないもんさ」
ーーーでもな、と、ヴォルクは続けて美月の目を見て言う。
「オレ達の世界でも・・・大事な人間を、家族を失う辛さってのは、そりゃ辛いもんだ・・・世界が平和だろうが、そうじゃなかろうが・・・それは同じだ」
「・・・ごめんなさい。失言だったわ」
美月はハッとして、すぐに謝る。
よくある事だから、なんて言葉は、失った者にとって、どれほど残酷か、気付かされる。
陰鬱とした空気が流れて、ヴォルクは気まずい思いをした。
なので、町を見て感想を無理やり述べる。
「治安もいい、住んでる人間もいい奴らだ。何も言うことはねぇ。オレ達の知ってる町ってのは、どこも監視カメラに鉄柵にと、自己防衛しないと安心して家で寝ることも出来ないところだ。技術的に再現できない機械については、オレもエンジニアじゃないから分からん」
ぶっきらぼうに、そう言いながら、最後に、町の様子と、そこで笑う人々を見て、ヴォルクは言う。
「最高の町だよ。オレが住みたいって、心の底から思うほどな」
本心だった。
生まれてこのかた、まともな生き方をした事がないヴォルクにとって、この町の在り方は、夢にまで見た理想そのものだった。
ありふれた平和が、まるで空気のようにそこにあって、人々はなんて事のない日々のように暮らしている。
「じゃあさ、その町を守る仕事しない?」
美月が核心を突いてきた。
ここでヴォルクも気づく。
町の視察と銘打って、本当は自分達を異世界転生させて、何かをして欲しい、その要求を呑ませるために連れてきたのだと。
「ま、別にゴルドさんがもういいって言ってるから、どうしてもってワケじゃないわ。私は私で、ゴルドさんとこの町、ひいてはこの領地を守る為に、あなた達プロの力が欲しいと思っているだけ」
「・・・あんたらが、悪い奴じゃないのは分かってる」
ヴォルクは美月の提案に対して、自分の意思を整理するように、語り出す。
「意図はどうあれ、あの瞬間・・・転生して呼んでくれたから、オレと部下達は今も生きている。そして・・・あのクソッタレな世界から、連れ出してくれた。これは感謝しても・・・しきれない」
美月は黙って、ヴォルクの話を聞いている。
ヴォルクは美月から目を逸らし、町の様子を見ながら、続ける。
「・・・町を歩いてりゃ嫌でもわかる。あの若造らしい、お人好しすぎる町だ・・・オレみたいな人間が、いて良い場所じゃねぇ」
ヴォルクは眩しくてたまらないとでも言うように、目を細めて、そう言った。
「部下をスカウトしてくれ。あいつらなら、まだマシだ・・・あぁ、だが、一つ頼めるなら・・・荒事から足を洗いたい奴がいたら、それを受け入れてやってくれ」
「当たり前よ。本人が嫌がる仕事させるとか、ブラックじゃないんだから」
美月はそう言いながらも、貴方もどう?足を洗って、農夫とかでも良いのよ?とヴォルクに聞くが、ヴォルクは笑う。
「オレが農夫か、そりゃ傑作だ・・・死んで、次の人生がありゃ、ぜひとも選びたいね」
ヴォルクはそれだけ言うと、もういいか?と勝手に会話を切って、屋敷の方向へ足を進めた。
美月はその場で立ったまま、追いかけはしなかった。
ヴォルクが屋敷に着くと、剣戟の音が聞こえる。
何の気なしに、そちらに足を向けると、騎士団の修練場であった。
ローガンが声を張り上げて、騎士団員達が木剣を振るう。
しばらくじっと見ていたら、後ろから声をかけられた。
「ヴォルクさん、どうされました?」
ヒロだ。
ヴォルクはバツが悪そうに、何でもない、と言って足早に去ろうとする。
「あ!練習します?僕相手になりますよ?」
にっこりしながらも、ヒロから圧を感じる。
「それとも、拳銃じゃないと無理ですかね?剣とか使えます?」
挑発であるとすぐに分かる。
ヴォルクからしたら、ゴルドよりさらに若い、子供のヒロにそう言われたところで、何とも思わない。
だが、ヒロは有無を言わせぬように、ヴォルクの背中に手を回す。
その力が、明らかに子供のそれではなかった。
「・・・小僧、面白いな・・・だが、大人を舐めないほうがいい」
ヴォルクの目は笑っていないが、口だけでニヤリと笑い、ヒロの提案に乗る。
「子供には躾が必要だからな」
「うわ~、躾ですか?僕は何も悪いことしてませんよ~?」
ヒロも笑って返すが、頭には怒りマークがしっかり出ている。
互いに不気味に笑い合いながら、修練場に入ってきたヒロとヴォルクに、ローガンは「なんだアイツら、気持ち悪い」とちょっと引いていた。
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