第13話 一匹狼の部隊は世界を敵にまわして転生した
中庭に、ゴルドとヒロに美月にリンゼといつもの面々が集まり、そこに追加で、アイハ、ローガン騎士団長が来ていた。
「ワシは別に後でいいのですが・・・」
「まぁ、見ていてくれ。呼び出す転生者と縁深くなるのがローガンなのだ」
ローガンの問いかけに、ゴルドは自信満々に答える。
「今回お呼びするのは、転生希望のある善性の者で、野外設営経験あって、自衛もでき、自給自足で生活のできる転生者だ」
「何だか、建物をバンバン作り出せる英雄から、急にスケールが小さくなったわね」
美月がブッスリとツッコミを突き刺す。
ゴルドはふっ、とだけ笑って何も気にせず説明を続ける。
「建物を次々作れるという能力は破格すぎた。詳細は省くが、大きすぎる能力は融通が利かない。この世界に適応できる複数のスキルを付与して、かつ有益な結果をもたらす最適な転生者条件が今回はこれだったのだ」
「ふむ。工作兵と言いますか、そういったイメージの転生者なのですな」
「まぁ、実際に来る転生者が兵士かどうかは分からんがな。転生を希望する善人だから、森に住む狩人とか、そういうのだと思う」
「日本にいるかしら、そんな変わった人・・・」
「あ、ほら、サバイバルの達人とかそういうのじゃない?」
ローガンが納得し、ヒロや美月も同意の意見を述べる。
「それでは、アイハ殿、よろしくお願いいたします」
「あ、魔力はゴルちゃんも入れなきゃダメだよ?私だけじゃ無理なの」
「あ、そうなの?はいはい」
ゴルドは相変わらずの軽いノリで魔導書を手に持つ。
手に魔力を集めて、魔導書に魔力が流れる。
魔導書が光ると同時に、アイハも光り出す。
「おぉ・・・なんと神秘的な・・・」
「きれい・・・」
「すごーい!」
ローガンに美月にヒロが口々に感想を述べて、その柔らかい光が大きくなるのを見ていた。
「・・・ん?」
「・・・光が、大きい・・?」
ゴルドとリンゼが、何度も転生を見ていて、異変に気づく。
アイハがいるからか?
いつもの転生の瞬間より、明らかに光が大きい。
「え?あの?アイハ殿?大丈夫?いつもより、もしかしてハッスルしてる的な?」
「んん~!!思ったより多いけどいい?みんないい人だよ!」
「はい?多い?」
光が収まり、転生の儀は終わる。
多いって何だ?とゴルドが頭にハテナを浮かべていると、目の前には血だらけの軍人が膝をついていた。
ゴツい筋肉質の大柄な男は、鋭い目つきで手に拳銃を構えている。
誰もが一時停止して、理解が追いつかなかった。
ヒロと美月は即座に拳銃を構える軍人だと分かり、その銃口がゴルドに向いているのに気づき、一瞬固まってしまう。
だが、ヒロがその軍人に駆け寄ろうと動き、ローガンも剣に手を伸ばし、リンゼがゴルドを庇おうと動くが、誰よりも真っ先に動いたのは、誰でもないゴルドであった。
「うおおおおおい!何があった!?ケガしてるぞ!てか何で転生早々死にかけてんのぉおおおお!!!」
軍人の男は虚をつかれた顔をして、慌てて銃口を上に向ける。
ゴルドはそんな軍人を無視して、彼の後ろで横になって血を流す別の軍人に駆け寄った。
よく見ると、ゴツい男の後ろに、死屍累々とでも表現するべきか、同様の迷彩柄の服を着た男女の隊員が、それぞれ支え合いながらも、息も絶え絶えに横たわっていた。
「ローガン!治癒魔法を使える人間を全て呼んでこい!」
ゴルドの滅多に聞かない大声での指示が飛び、ローガンは即座に「承知しました!」と答えて、騎士団員を呼びに行く。
「リンゼ!手分けして治癒をかけるぞ。アイハ殿も頼みます!ミツキ殿は傷病人たちの容体を確認して、ケガの位置や重症度を見てくれ。ヒロは治癒魔法、もう習ったか?」
ヒロはゴツい軍人を一瞥だけして、ゴルドの側に走る。
「いけます!土を配る行軍の時に習いました!」
続けて美月も駆け寄る。
「外傷と容体を一通り見て、トリアージするわ。1番ひどい人から治癒をお願い」
呆気に取られるゴツい軍人の男は、すぐさま体を動かして、ゴルドたちに近づく。
「こいつから見てほしい。肺に銃弾が当たったかもしれない・・・普通はもう助からないんだが、魔法とやらが使えるなら・・・頼む」
「わかった。リンゼ、一緒にかけるぞ」
剪定され、草花が綺麗に並ぶ庭園にて、急に似つかわしくない負傷兵の収容所が出来上がる。
そこで、後から来た応援も間に合い、召喚された、総勢7名の死にかけの転生者たちは、全員が一命を取り留めて、事なきを得る。
「仲間に治療をしてくれて感謝する。私はヴォルクだ。アインツェルゲンガーのリーダーをしている」
客間にて、あの銃口を向けて来たゴツい軍人が、全くニコリともせず、淡々とそう言った。
全く感謝している感じがしないが、ゴルドたちは苦笑いで答える。
「いや~、何というか、災難でしたね~・・・」
ゴルドはそう言いながら、紅茶を飲もうとカップを手にするが、ガタガタ震えて紅茶がほぼこぼれた。
ヒロもその様子を見てゴルドを不憫に思う。
ここから、あなた達を転生して呼んだのは私ですと説明する必要があるのだから、こんなゴツい軍人相手に言うことになるとは思いもよらなかった。
「我々が生きていた世界と違うようだ。何か知らないか?」
ヴォルクからついに質問も受けてしまったので、ゴルドは観念して答える。
「本当にすいません。実はですね、私が皆様を呼びました。まさか死に瀕するほど危険な状況とは露知らず、お許しください」
ゴルドによる華麗な土下座は、あまりにも美しく、誰もが目にも留まらぬその速さに舌を巻いた。
「・・・勘違いしているようだな。謝る必要はない」
ヴォルクは変わらない一定の調子で答える。相変わらず感情の起伏がない、強面のままで、ゴルドの土下座に一切動揺していない。
「我々の状況を知らず、転生?というものをしたようだが、普通なら確かに撃ち殺されても文句は言えないだろうが、今回は助かった・・・あのままだったら、オレらは死んでただろうからな」
ゴルドは、本当?良かった~、と安堵したようだが、他の面々はしっかりと、普通なら撃ち殺していると言っている警告を聞き逃さなかった。
「いや~、それでですね。実はお呼びしたのはお願いがあって・・・」
「断る」
「あ、はい!分かりました!」
ゴルドはこの世界に呼んだ理由を話そうとして、ヴォルクからガンを飛ばされながら断られたため、あっさり引き下がる。
「ちょっと、ゴルドさん、いいの?」
「いいのも何もないって!無理無理!あの怖い人が嫌だって言ってるから、もうお帰りいただこう!元の世界に帰れるんだからそれで許してもらおう!」
美月がつい口を挟んでしまうが、ゴルドはマジでビビっているようで、早々にお帰り願うスタンスに移行していた。
美月はヴォルク含め、この傭兵部隊のチームのような人材達が、かなり優秀な得難い人材であると、量子頭脳で見抜いていたが、まぁ、ゴルドが怖がる気持ちも分からないでもないので、それ以上言えなかった。
「元の世界に帰るのはまずい。今、オレ達は元の世界で世界中の軍や組織から狙われている」
「一体何したらそうなるんですか?」
ヒロがたまらずそう聞いてしまうが、答える気はないと言わんばかりにヴォルクに無視された。
「2、3日、仲間が回復するまでここに居させて欲しい。そちらの依頼は受けるつもりがないが、護衛や討伐の依頼なら受けてやる。それで借りはなしだ」
「いやもう!2、3日なんて言わず元気になるまで居てくださって構いません!依頼も大丈夫ですから!もう本当気にせず!」
「・・・」
ゴルドが超下手に出て、ペコペコする様子に、さすがのヴォルクも言葉を失ったのか、こいつマジか?みたいな目でゴルドを見ていた。
まぁ、いつもの面々としては、いつもの光景である。
「おい、若造。お前はこの場のトップなんだろ」
ヴォルクがため息をついたあと、おもむろにゴルドにそう言う。
「うん、まぁ、不本意ながらもここの領主をしてます、はい」
「上が、何処の馬の骨かも分からん輩に、簡単に頭を下げるな・・・弱みを見せれば、ただ喰われて終わりだ」
実感がこもった言葉だったように思う。
ヴォルクがもう話すことはないと言わんばかりに、席から立ち上がり、部屋を出た。
シーンと静まり返る客間にて、ゴルドとヒロ、美月、リンゼ、ローガンがそれぞれ顔を見合わせた。
「・・・いい人だね」
「うん。顔怖いけど、わざわざ忠告してくれた」
「あれはツンデレね。攻めのツンデレだわ」
「ゴルド様の身を案じてくださってますね」
「いい面構えで、騎士団に来て欲しいもんだな」
それぞれが、意外と悪くないヴォルクへの印象を述べたのち、とりあえず彼らの回復を優先しようという話でまとまった。
本来は使用人が複数で使用する大部屋にて、ベッドに転生されて来た傭兵達が安静にしていた。
治癒魔法にも、当然だがレベルはあり、いわゆる完璧治癒というのは、王都の凄腕の治癒師レベルであり、止血や応急的治療レベルが一般的である。
それでも、彼らにとっては神の奇跡に違いない。
彼らの世界の医療レベルでは、もう助からない負傷をした者も、すっかりメシが食べられるくらいには回復しているのだから。
「リーダー・・・もうちょっと愛想良くしてくださいよ」
ヴォルクが先ほどのゴルドたちとの話し合いを、仲間に伝えたところだった。
「その必要はない。ああいう親の後を継いだだけのボンボンタイプは、一見悪くない奴に見えるが、無能だ。そのうち我々の足枷になる」
「真っ先に私らの治療しようとしてくれたじゃん。ああいうの、私は好きだね」
「我々をこの世界に呼んで、何かしらの当てにしてたんだ。そりゃ死にかけてりゃ助けようとするだろう」
仲間というか、部下に軽く詰められている様子のヴォルクだが、その冷徹なほど冷めた見方は、今まで彼らの窮地を何度も回避して来た。
「・・・金髪の子・・・きっと私の・・・王子様」
「おい、サリー。頼むから変なことはやめてくれよ?」
「ま、何はともあれ、死に損なったわけだし、ましてや世界中が敵にまわったのに、こうしてオレ達はピンピンしてるワケだが・・・リーダー、これからどうする?」
6人の部下が、互いに目配せしたのち、ヴォルクの方を見る。
「・・・まだ分からん。オレだって・・・自由になった時のことなんか、考えたこともなかった」
ヴォルクがそう言葉を漏らしたのは、心の底からの本当の声だったからだ。




