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第12話 領主と転生者と妖精との茶会



ヒロが5日ぶりに屋敷に帰って来た。


土を領内の村々に行き渡らせる計画は、まさに成功して、その最後の帰還部隊として、ヒロを含めた騎士団員一行が、町をパレードのように行軍している。



ヒロは照れくさそうに笑いながら、町民が歓声を上げて手を振るので、それに応えて屋敷についた。



「ゴッド様~、帰りましたよ!」


いの一番に帰って来た報告をしようと、走ってゴルドの執務室に向かうヒロ。


そして、執務室を開けた瞬間、目に飛び込んだ光景は、イスに縛り付けられているゴルドが、口から魂の様な白いモノを出している様子だった。



「うわああ!!ゴッド様?!どうされたんですか?!」


ヒロが慌ててゴルドを揺さぶる。


「おおおおお、ひひヒロかかかかか」


ヒロがあまりに強く揺さぶるので、震えながらゴルドは答える。


そこへ、美月が目の下にクマができた状態で執務室に入って来た。


「おかえりヒロくん」


「あ、うん、ただいまみっちゃん。ねぇ、ゴッド様縛られているんだけど?」


「え?縛りプレイ?SM?」


「違うよ!」


美月も限界なのか、血走った目でヒロとゴルドを見る。


「あぁ、お願い。キスだけして、見たいの、2人のキス。して!キスして!」


「怖いよ!てかどんなお願いしてるの!しないから!」


ヒロが青い顔をしてゴルドの後ろに隠れる。

その様子すらもおかずになるとつぶやきながら、美月はアヘアヘ笑っていた。


そこへ、ふよふよ漂う妖精アイハも入ってくる。


「ねーねー!遊ぼ!暇!暇だよ~」


「え?妖精さん!すごーい!急にファンタジーになったね!」


ヒロが次は興奮してアイハを見る。

異世界転生したものの、ファンタジーっぽいといえば、土を出していたくらいで、それ以外、この5日間ずっと土運びをしていた。


すっかりファンタジー要素を忘れていたヒロにとって、妖精のアイハの登場は興奮度を上げてくれた。


「なに?遊んでくれる?遊んでくれる?」


「いいよ!何して遊ぶ?」


「んー・・・あ!ゴルちゃん縛られてるから、このままイスごと窓から吊るしてみようよ!」


「わぁ・・・妖精さんって、えぐいイタズラ思いつくんだね」


ヒロが引いていると、構わずアイハはゴルドのイスを窓際に引きずる。


「ああーー!!ダメダメ!危ない!危ないから!」


「おぉ・・・空が近い、自由が近いぞ・・・」


「違うよゴッド様!目を覚まして!二度と目覚めなくなっちゃうよ?!」


アイハと椅子を引っ張り合うヒロの叫びが虚しく響く。


そんなカオスな状況の中、リンゼがいつもの様にお茶を用意していた。







「え?みっちゃん帰る方法見つけたんだ?」


園庭で茶会を開き、一同がケーキを囲んで報告会を兼ねる。


「帰っちゃうの?」


「まだ帰らないわよ。仮想デジマの完成と、ヒロ✖️ゴルの濃厚絡みを見るまではね」


「良かった、帰らずにずっと居てくれるんだね!」


ヒロも美月に対する適応力が上がったのか、言うようになった。


「しかしヒロ、本当にありがとうな」


サボり防止のため、椅子に縛られており魂の抜けた状態だったゴルドが、ようやく復活して改めてヒロにお礼を言う。



「これで、オレの領土の村々が救われた。ありがとう」


「え、えへへ・・・何だか照れ臭いけど・・・うん、力になれて良かったです」


ゴルドとヒロが、あの最初に訪れた村と村人たちを思い出し、2人で笑い合う。




「いい!ここでキス!キスして!」


「ミツキ様、ステイ」


美月がヨダレを垂らし、ヒロとゴルドを物理的にくっつけようとするので、リンゼが首根っこを捕まえて制止していた。



「それで、なんで2人とも憔悴(しょうすい)しきっていたの?」


ヒロが疑問を口にすると、ゴルドが、あ~、と色んな思いが込められた唸りをあげて、話し出す。


「仮想デジマという、町を作ることになってしまってな」


「ちょっとゴルドさん、嫌なの?」


致し方なしの様な言い方をするゴルドに、美月が鋭く指摘する。


「いやだってぇ~、町が増えると判断すること、すなわちオレの仕事が増えるんだも~ん!しかも今構想段階だけでも毎日馬鹿みたいな書類が積み重なってさ!もう嫌!町ができたらこの比じゃないんでしょ!」


ゴルドが駄々をこね始めるが、美月はゴルドに後ろからチョークスリーパーをかける。


「おごぉ!ミツキ殿!首!首絞まってる!」


「のんびり田舎でスローライフをしたいのは構わないけど、それにはお金がいるのよ。日々食べていく分すら用意できなくなったから、ヒロくんと私呼んだんでしょ?責・任、取りなさいよ~」


「ギブギブ!かっはっ!ロープ!もしくはタオル!早く!」


「ミツキ様、女性がはしたなくも男性に抱きつかないでください。そんな体を密着させて、その、ふ、不潔です」


無表情だが、言葉の感じから、リンゼが恥ずかしがっているのは、さすがにゴルド以外のみんなも分かった。

もっとも、ゴルドは首を絞められそれどころではない様だが。


「いいのよ。リンちゃんにフィオに、良い女を引っ掛けているタラシなんだもの。ゴルドさんはヒロくんだけ見てれば良いのよ!ヒロくんだけ抱けば良いのよ!」


「やめてよ!僕までいちいち巻き込まないでよ!」



騒がしい人間たちと違い、妖精のアイハはケーキを美味しそうに食べていた。






「で、目下の問題は、準備だ」



ようやくゴルドが真面目に話を始めた。


「我が領内でもちろん町を作るのだが、場所の選定が済んでいるものの、受け入れ準備が難航している!」


早速、弱音を堂々と吐いているが、いつものゴルドなので平常運転である。


「候補地は決まったんだ?」


ヒロが聞いて、美月が答える。


「私の量子頭脳で算出した、もっとも効率的に発展できる場所は、川沿いかつ屋敷に近いこの場所よ」


リンゼが用意した地図を広げて、美月は指をさす。

地図から読み取れるイメージとして、ほぼ今ある町の真横に近い。


「めっちゃ近いね」


「だって領主の屋敷に近いもの。自然とそうなるわ」


まぁ、良いんじゃない?とヒロが言うと、今度はリンゼが言う。


「まぁ、実際は遠目に見える程度の距離はありますが、問題は町として人を呼ぶため、用意しなくてはならないものが多い事です」


「あー、住む所とか?」


ヒロがふわっと聞くと、美月がメガネをくいっと上げて答える。


「住む家はもちろん、畑などの自給自足が可能な農地もいるわよ。来てから作るじゃ大変だからね」


そこから更に整えるなら、町医者や商人や鍛冶屋など、専門的な技能者もいなければならないと美月は付け加える。


「あぁ~、まぁ確かに・・・」


そしてゴルドが極め付けに答えた。


「まぁ、作らなきゃならないんだが、そもそも金も人も無いから、今すぐ始められないよね、で議論は平行線になっている」


遠い目をしてふふふ、と笑うゴルドを見て、ヒロはおいたわしやゴッド様、と心の中で思った。


「各村から人足を集めて、その際に資材も徴税代わりに集めるしか無いわ」


「いえ、ようやく土が行き渡り、作物の成育が軌道に乗るのです。人や物を集めるのは悪手かと」


美月とリンゼが冷静ながらも意見をぶつけ、最終ゴルドに判断を任せるとなって今に至る。



「ゴッド様はどうお考えで?」


「・・・うーん、勘でいうと、今すぐにでも町に着手しないと不味い気がする。だが、領民に負担はかけたくない」


ヒロが聞くと、ゴルドはそう答えた。


「ゴルドさんは優しすぎる。まぁ、勘で町作りを急がせるってのは、ちょっとアレだけど。領民にとっても、この先いざという時の助けを求められる場所を作るのよ?だから、むしろ積極的に参加してもらった方が、後々自分達のためになると思うの」


美月が落ち着いて指摘をすると、ゴルドはうんうんと頷いて言葉を続ける。


「分かる。それは分かるんだが、村民にとっては、それでも苦しいもんさ。自分達が住むわけじゃ無い家々や畑を作って、その代わり税を免除と言われても、やってはくれるだろうが、その町に住む異世界人に反感も持つぞ?」


「・・・ゴルドさんからまともな指摘を受けてしまった。私疲れているかしら?」


「はっはっは、ん?どういう意味だ?」


美月とゴルドの掛け合いを横目に、リンゼはお茶を追加しながら言う。


「ことを性急にし過ぎかと。ヒロ様のご尽力により、村々の作物が育ちます。それによって、領内が潤ってから、余剰を持って町を作り始めれば良いのです」


ヒロも美月も、それが良いねと答えたところで、ゴルドだけがうーん、と唸っていた。




「町を作って忙しくなるのはイヤだが・・・早く作らないと、嫌な予感が・・・ん?そもそも作るプロを呼べば良いのでは?」


ゴルドはアイハに顔を向けて質問をする。


「アイハ殿。召喚することも、元の世界にお帰りになるのも自由とおっしゃってましたね?」


「んー?そうだよ」


ゴルドはそれならばと、思いついたアイデアを述べる。


「建物を自由自在に作れる英雄殿を呼んで、サクッと作ってもらった後、謝礼をしてお帰りいただくのはどうだ?」


「都合よく使う、まんま派遣じゃない。いや、外注ともとれるかしら・・・」


美月がぶつぶつとそう言うが、ヒロ以外は理解できなかったので話は進む。


「んーとね、色々とややこしいけど、出来るよ」


アイハがなんて事なく答えるが、全員が、()()()()()?、とそこに引っかかっていた。



「まずね、建物をバンバン作れる英雄は、他の世界にいるにはいるけど、転生を望んでいないから、無理やり連れてくることになるよ。交渉がんばってね」


「んー、それは却下!転生を望む人材で頼む」


ゴルドが一つ目の案を却下する。


「転生を望む建物をバンバン作れる英雄はいないね。だから今度は、転生を望む人にスキルを付与する形でなら、転生できるよ。でも、帰らないと思うよ?転生したくて来てるから」


「んっん~、なるほど・・・まぁ、それでも良いかな?」


ゴルドが同意しようとすると、アイハが付け加える。


「ちなみにね、建物をバンバン作れるスキルはすごく強いスキルだから、それ以外は与えられないよ。この世界で意思疎通ができる言語理解も、体力増加とか、病気とかに強い体にしてあげられないから、何かあればすぐ死んじゃうかも」


「ダメじゃん!それダメダメ!呼んだらその人大変なことなっちゃうじゃん!」


ゴルドが慌てて却下して、え?じゃあどうすんの?と1人で自問自答する。


「なんか・・・便利なAIに(もてあそ)ばれている人のようだわ」


「どんなに指示しても、思い通りにいかないアレだね・・・」


美月とヒロが、1人であーだこーだとアイハと話すゴルドを見て、そう感想を述べた。


「ていうか、スキルってアイハちゃんがくれていたんだ」


「すっごい軽く話されているけど、あの妖精ちゃんこそ、なんでここにいるのか不明の超特異点よね・・・」


「お茶のおかわりになります。皆様どうぞ」


ゴルドの百面相を眺めながら、残りは優雅にお茶を飲む。

静かで平和な時間が流れていた。





「よし!決めたぞ!次なる転生者の条件だ!」



ゴルドが肩で息をしながら、ようやく納得のいくプランを組めたようだ。


「なんというか、ゴッド様って頑張り屋さんですよね」


「そうよね。逃げるしサボるけど、真面目なのよね。まさに受けっぽいわ」


「ゴルド様。しっかり成長なされていて、リンゼは大変嬉しいです」



「え?なになに?褒めてくれてる?ありがとう!」


ぱっと笑顔になるゴルドに、あぁ、この人ってこういう人だよねぇ、と全員が思っていた。




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