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第11話 遅れて来た妖精



ゴルドは執務室にいた。


目の前には、転生の魔導書が置かれている。



それを見つめながら、昨日美月に提案された、転生者たちを新たな町の住人にする案を、思い出していた。





────回想



「て、転生させるって・・・いいの?」


ゴルドが困惑を隠しきれずに聞くと、美月は冷静に答える。


「ゴルドさんの召喚実績を聞いてみたけど、おそらくある程度指定して召喚ができるわ。それこそ、ヒロくんのように基礎スペックがあって、何でも出来そうな転生者の時は、とにかく凄い転生者を望んでいて、その次に内政に向いている能力の私を呼んでいる」


あの神頼みに近いゴルドの意思は、きっちりと転生魔法で反映されていた可能性が高いと美月は分析した。


「つまり、転生させる者もこちらから指定できるはず」


「なるほど・・・強く転生を望む人物をお呼びできるということですわね」


さすがフィオ!と美月が親指を立ててはしゃぐ。


「転生を望んでいるし、善性の者で、ここで心機一転やり直したい者たちを集める。荒唐無稽だが、可能なら、採らない手はないですな」


町長も同意する様子を見せ、あとはゴルドの意思決定に任せると言った雰囲気が出る。


ゴルドは悩む顔を見せ、ポツリと言った。


「まぁ・・・転生の魔導書を読み込んで、本当にそれが出来るのかを確かめてから、やった方がいいのかを考えない?」



ーーーーーーーー回想終了




とまぁ、ある意味結論を出さずに、煙に巻いてあの場をやり過ごしたが、ゴルドは転生者を大量に呼ぶ事に躊躇(ちゅうちょ)していた。




一応、その理由として、美月のように望まぬ転生をさせてしまうのではないかという点を気にしていた。


美月はまだ帰りたいと言っているので、もちろん魔導書の解析を進めて、帰る転生方法を模索する。


だが、町をつくって住まわせるというのは、それ即ち永住すると言うことである。


転生の際に、そんなに上手く選別出来るのか、ゴルドは信じきれなかった。


もう一つは、この領地に住むことが、その者達の幸せになれるのか、その者達の将来も背負う重荷に、二の足を踏んでいた。


これは、もはや転生者だからに限らず、ゴルドにとっては、新たな町をつくるという案に対して、及び腰になっていたのだ。


あと、たぶんめんどくさいと思う。

町を新たに作るとか、よく分からないがややこしそう。

ヒロの土があるんだからいけるんじゃね?としか思っていないゴルドは、明らかに業務が増えそうな新たな町の誕生を恐れていた。




まぁ、そもそも転生がそのように可能なのか、そこが分からない限り、ただの杞憂(きゆう)になるので、ゴルドはペラペラ魔導書をめくりながら、内容を読み込む。



一応、ヒロを召喚する前に、一通り読んだが、よく分からなかった。


これはゴルドに理解力がないというより、書かれている内容が物語であるためである。


ざっくりストーリーを解説すると、主人公は妖精の女の子で、彼女は生まれ持った転生魔法という特別な力で、遊び感覚で好き勝手に人間を転生させて、彼らの人生を見て楽しんでいたらしい。


で、ある時、世界の偉い人達から、世界の均衡を崩す危険な存在として、討伐の命が出た。


彼女はある程度魔法が使えるものの、それ以外はむしろ非力な子供そのものなので、命の危険に(さら)される。


そこで、とある領地の跡取り息子に助けられて、その地でひっそり生きる事になった。


その領地での生活内容が延々と続き、最後は助けてくれた跡取り息子が、その後領主になり、そしてまた息子に継がせて、余生を過ごしたのち、大往生したところまでで、物語は終わっていた。





とまぁ、絵本に近いような、そこまで難しくない内容の物語だ。


しかし、それと転生の魔導書とどう関係があるのか、まったく分からなかった。


ゴルドは行き詰まって、イスから立ったり座ったりを繰り返す。


「ゴルド様。お茶が入りました。どうぞ、気をお休めください」


リンゼがいつもの無表情で給仕をし、ゴルドはありがたくお茶をもらう。


「どうしようか、リンゼ・・・この魔導書、誰か解読や解析できる者はいないか?」


頭から煙が出ているゴルドは、リンゼに泣きつく。

リンゼも魔導書を読ませてもらって、内容も見たが、これといって手がかりになりそうな知恵は出せそうになかった。


「お力になれず、申し訳ありません」


「いや、いいんだ・・・どーしたもんかなぁ」


ゴルドはため息をつきながら、椅子の背もたれに寄りかかり、天井を見上げる。



ふと、静寂が部屋を包んだ時、そういえばとゴルドは思い出した。


転生の儀をする時、ゴルドへ呼びかけるような声があった。





あれは、この魔導書の妖精ではなかろうか。




当てずっぽうな思いつきだが、何となく話の筋としては通らないこともない。



「・・・試してみるか」


「ゴルド様?」


おもむろに、ゴルドは魔導書に手を触れて、ちょっと魔力を流す。


「え?今召喚されるのですか?」


リンゼが流石に止めようかとゴルドに触れようとするが、ゴルドは大丈夫だとだけ告げて、次に転生の儀をする時、いつもしている念仏のような神頼みをする。


「妖精さん、お話がしたいです。この魔導書の使い方教えて。妖精さん、お話がしたいです。この魔導書の使い方教えて。妖精さん、お話がしたいです。この魔導書の使い方教えて・・・」


「いや、ゴルド様・・・流石にそんな都合よく・・・」







「あー!もう!ようやく呼んでくれた!!」






ポンっと、魔導書の上に小さな妖精の幼女が現れた。



「うわおっふぁあ!!!」


できると思っていなかったゴルドがイスごと後ろに倒れ込み、後頭部を激突させ、体をビクンビクン震わせる。

さすがのリンゼも焦りの表情でかけよるが、即座に妖精が魔法をかけてゴルドを治癒する。


「何よ!呼ぶの遅いし!死にかけるの早すぎ!」


「め、面目ない・・・わ、私はゴルド・アイハンド、この地の領主で・・」


「んなのわかってる!別世界からずっと呼びかけてるのにこの鈍ちん!アイハを最初に呼ぶのが手順なのに!もう!2回も転生させて!」


ゴルドの読み通り、この幼女は、魔導書に書かれた物語の主人公、妖精で間違いないようだ。



「ま、まぁまぁ、積もる話もあるので、ここはお茶でも用意しますね。リンゼ、すまないがお茶を」


「・・・承りました」


どことなくいつもの無表情より、ちょっと怒り気味な色をゴルドは感じたが、肝心な先ほどの場面、『慌てて心配した超レアなリンゼ』を見ていないので、怒っている原因など知る由もない。




「あら、このお菓子美味しいわね。おかわり」


「はっはっは、よければ私のも食べていいぞ?」


「ゴルちゃんいい人!」


「ゴルちゃん・・・」


アイハと名乗る幼児、もとい妖精は、パンケーキをもぐもぐ食べる。


「さて・・・おそらく、妖精アイハ様は、この魔導書の作者にして、我がハイハンド家を代々お守りくださった存在とお見受けします」


「ん?別に代々守ってないよ?ルシちゃんに助けてもらったから、その時だけ一緒にいたの」


ゴルドは魔導書の物語を思い出したが、ぶっちゃけ先祖の名前はおじいちゃんまでしか覚えていないので、ルシちゃんとやらが何世代前の当主かは分からない。


だが、ほぼほぼ物語通りだと確信して、話を進める。


「勝手に魔導書を使ったこと、誠に申し訳ありませぬ」


「あ、それは別にいいよ。ルシちゃんとの約束で、子供や子孫が困ったら助けてあげてって約束してたし!」


ありがとうルシちゃん。まじ助かる、とゴルドは心の中でご先祖様に感謝した。




「それで、転生魔法についてなのですが、これで呼んだ転生者を元の世界に返してあげる方法はありますか?」


「うん、できるよ。元の世界から呼んだんだもん。よゆーよゆー」


全身全霊の質問に、ゴルドは顔をしかめながら聞いたが、アイハはサラリと答える。そして相変わらずパンケーキをもぐもぐ食べる。


「そもそも、私もさっきまで違う世界で遊んでいたし。この魔導書はトンネルみたいなモノだから、ここから魔力で繋げばいけるよ」


「お、おぉ、原理は全くわかりませんが、とにかく良かった!ミツキ殿は家に帰せる!」


本当にホッとしたのか、ゴルドは胸を撫で下ろし、一仕事終えたかのように椅子にだらりと背中を預けた。


「ゴルド様、デジマの件は?」


「え?あ、うん・・・まぁ、アイハ様もお疲れだし、もう少しお休み頂いてからだな・・」


「あ!デジマ!そうそれ!気になる!」


パタパタと羽を振るわせ、アイハがその話題に食いついた。


「妖精の国から覗いて聞いていたけど!面白そう!私の友達も呼んでいい?」


「はっはっは、アイハ様、そんなかる~いノリで呼んでいいのですか?さすがにまずいっすよね?」


「全然大丈夫!暇だもん!みんな!」


頼む、まずいと言ってくれと神頼みするゴルドに、無情にもアイハは親指を上げてグーサインで答えた。



「ねぇねぇ、みっちゃんとフィオちゃんともお話ししたいよ~。転生者の選別できるよ?よゆーだよ」


「もう話の展開が早すぎてついて行けないぜ!はっはっはっ!」


ゴルドはヤケになって笑う。もう笑うしかない。

ここまでお膳立てがされると、逆に逃げ道がなくてかわいそうに感じるが、リンゼは無表情でゴルドとアイハを見つめる。




ゴルドがこの展開を望んでいたかどうかは分からないが、ゴルドが選んだ選択によって、今この領は大きく変わろうとしている。


その中心にいるのは間違いなくゴルドであって、誰もがゴルドに注目して事が進んでいる。


ふと、リンゼは置いていかれるような錯覚に(おちい)る。


ゴルドが、遠い人になったように感じる。






「リンゼ、また会議だ。家令、ローガン、町長、それにミツキ殿とフィオも呼んでくれ」




ゴルドが名前を呼んでくれた。

リンゼは反射で承りました、と答える。


そのやり取りだけで、ちょっと安心した自分がいた。


変わらない無表情だが、リンゼはいつものようにゴルドに付き従うのだった。






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