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第98話 首都侵攻8





兵士の雄叫びが響く。



レジスタンス達の応戦する咆哮がこだまする。



戦闘に巻き込まれた市民の絶叫がどよめく。




三者入り混じる戦場で、クローナはヒステリックな魔女と応戦し、ヒロは無線機に向かって状況を訴える。




「だ!誰か!応援を!」



ヒロが無線機を片手に、市民に攻撃を仕掛ける敵兵士を殴り飛ばす。



『無理だ!そっちに回せる近場の隊がない!撤退をしろ!逃げれるものだけで!』



ヴォルクの指示が怒号とともに届く。




非戦闘員である民間人を見捨てる。



いや、軍人の目線で言えば、この民間人は敵国の市民である。




そもそも、助ける対象ではない。




敵兵士は、彼ら市民を守る存在、のはずだ。




ここで無理やり連れ去る方が、集団拉致にあたる。




そう、それが常識である。




ヒロも分かってはいたが、現場で彼らと敵兵士を見れば、それが違うことを見せつけられる。




「逃げる民間人は非国民だ!殺せ!」





敵兵士、とりわけ指揮官は、守るべき国民を攻撃せよと叫ぶ。



逃げる国民に向けて剣を向ける。



その形相は、殺そうとする兵士そのものだ。






「だああああああああああ!!!!」





ヒロが敵兵士を1人で担ぎ、敵兵士の集団へ投げ飛ばす。




本当は、ヒロが持つ能力をブッパしたかったが、炎なり水なりをぶちまければ、レジスタンスも入り混じるこの場では、味方にも攻撃が当たってしまう。





ヒロがとりあえず、目先の敵兵にいっぱいになっていると、無線から叫ぶ声が聞こえる。







『ヒロ!聞こえるか!ヒロ!』







ゴルドの声だ。






ハッと気付いたヒロは、無線に夢中で呼びかける。



不思議と、力をもらえる声だ。

ヒロは怯え、焦っていた声から、明るい色に変わる。




「ゴッド様!」



『ヒロ!ちょっと待ってろ!そっちに援軍を送る!』



「え?援軍?」


『ちょ、ボス!?どこから援軍なんて!?』




無線を通じて、ヴォルクの驚く声も漏れる。




だが、次の瞬間、ヒロの後ろにベルネシアと、ベルネシアに抱っこされたアイハが現れる。




そして、即座に非戦闘員を全員、異世界へ転移させた。





忽然と消える国民。





敵兵が目を丸くして慌てふためく。



そして、ベルネシアとアイハは、敵に見られないように早々に帰った。





レジスタンス達も何が起きたかわからない顔をするが、すぐさま戦闘に戻る。




ヒロも全て理解した。




「さすがゴッド様!」




その顔は、憂いをすっかり片付けて、すっきりした表情をしていた。





『名付けて!一時異世界転移脱出法!』





ゴルドが意気揚々と声を上げて作戦名を無線に乗せる。


もっとも、ただのアイハによる異世界へ一時転移させて、そこを経由してゴルド領に移すという、口で言えばなんて事のない方法なのだが。





『はぁ・・・ボス、その作戦禁止な』



『・・・はい』





ヴォルクのため息と共に、有無を言わせない禁止令に、ゴルドは素直に了解した。



アイハの能力は、バレるわけにはいかない。



このような、隠しきれない大勢の転移など、愚の骨頂である。




深いため息のワケを、頭の中で考えていたヴォルクは、無線に向かって話し出す。





『まぁ、そこを何とかするのが、我ら部下の務めだ』






ボスがやるべき事を決断した。



その後始末やら何やらは、任せろ、と言わんばかりに、声に隠しきれない明るさが灯る。





『ヒロ!そこの敵兵に向かって、何をしたと叫べ!』



ヒロはその無線の指示に、すぐ目を閉じて、息を大きく吸う。







「お前らぁああああ!!!何をしたぁぁああああああ!!!!」






声を風で操り、さらに反響させて、周囲に十分に聞こえるように叫んだ。




敵兵も呆気に取られる。




レジスタンス達も、何事かとヒロに目を向けるが、ヒロは渾身の怒りを、演技に変えて叫び続ける。





「お前らが消したんだろ!自分たちの国民を!どこへやった!?何をしたぁぁああああ!!」





ヒロのその様子を見て、レジスタンス達は勝手に解釈する。





ーーーそうか、非戦闘員が消えたのは、敵が何かをしたのか、と。






「お前ら!なんてやつだ!」


「子供もいたんだぞ!それでも人間か!」




レジスタンス達も怒りを増幅させ、口々に敵へ罵声を浴びせる。





「なっ!お、俺たちは何も・・・」


「お、おい、魔法使い!何かしたのか?」



敵兵士は一部動揺を見せるが、ほとんどは、特に驚きなんてなかった。




それは、ヒロが嘘をついているから、なんて看破したものなど1人もいない。





「ふん!逃げる国民なぞ!敵と同じ!」


「我らが教皇の怒りに触れたのだ!存在を消されたのだろうよ!」





そう言って、なんて事のないように、たぶんウチのよく分からない上層部がやったのだろう、と本気で思い込んでいた。




エリュシール国の異常さは、この点からも伺い知れる。




敵兵の、予想だにしない出来事は、考えても答えのない上層部が、勝手にやっている。


研究所の発明だとか、転生による能力者が現れたとか、そう言われて、よく分からないすげー能力を持った上司が、ポンポン現れたのだから、もうそれに慣れきっているのだ。






「うん、なんか、あっさり自分達がやった感じで納得したよ、あっち」




ヒロが、ちょっと肩透かしを受けた気分を声に乗せながら、無線に伝える。




『あー、まぁ、よしとしよう。どうせ、敵の上層部には通じないだろうが、これで混乱はするだろ』



呆れたヴォルクの声が返ってくる。




ヒロが一息つくが、まだ、終わりではない。








「死ね死ね死ね!!」





魔女の攻撃は、ところ構わず乱れ打ちして、周辺の建物は穴ボコだらけになった。




まぁ、敵の首都なので、どうでもいいが。





クローナは全く反撃が出来ないながらも、俊敏な動きで何とか避けまくる。



レジスタンスやヒロに近づけないように多少距離もあけていた。




「あー!くそくそくそ!死ねよぉ!死んでよぉおおお」



「こっわ」




半狂乱の魔女を相手に、クローナは素直にビビる。



まぁ、当たればよく分からないが、消えてしまうという、無茶苦茶な魔法だ。


たぶん、当たれば即死である。



そんなのはごめんだと、クローナは撤退の機会をうかがっていた。




「あーー!もういい!」




魔女は急にそう言うと、クローナを無視してヒロとレジスタンス達のいる方向へ走り出した。





「え?な、なんで!?」




クローナが慌てて追いかける。


しかし、急に撃ってくるかもしれないので、建物に隠れながら追いかける。




相変わらず、魔女はブツブツと何かを口にしていた。



「殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ、1人でも多く、じゃないと、じゃないと」



そんな呟きが、クローナの獣人の発達した聴覚で、遠くとも聞こえてくる。



「うわぁ、やっべぇ人・・・」



クローナがもう関わりたくないと泣き言に近い事を言うが、魔女は確実にヒロ達の場所に戻って行った。





「やばっ!もう戻られた!こうなったら・・・」




クローナは近くの瓦礫から石を掴んで、魔女に投げる。



だが、魔女の頭に目掛けて投げられた石に、オートマチックに魔女の結界が張られており、石は弾かれた。




「ひぃぃぃ!!こ、殺そうとしたね!?アタシを!誰か殺そうとしたね!?」




魔女はまたヒステリックにそう叫ぶと、ところ構わずまた魔法を撃ちまくる。




クローナが隠れようとしたその時、魔法の一つが、レジスタンスの方に向かった。




「あっ!」




クローナが気付くが、それよりも早く、ヒロがその射線に、庇うように入ってきたのが見えた。






ーーーヒロが死ぬ





その考えが、クローナの頭に駆け巡り、体が指示するよりも早く動いた。





全身の細胞が、筋肉が、血が駆け巡り、熱く走る。








そして、獣人としての速さが、クローナを、ヒロの前に、間に合わせた。



驚くヒロの顔が、歪む。




「くっ!クローナ!!」






魔女の魔法に、クローナは飲み込まれた。





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