第97話 首都侵攻7
ヒロとクローナも、軽々と壁の上の兵を倒し、レジスタンスたちと内部へ入る。
そのまま、兵舎や備蓄倉庫を狙い、爆破と火付を行う。
「うーん、もう引いても良いかな?」
ヒロはあっさり終わった首都侵攻に、呆気ないなと思いつつ、命を大事になので、撤退を考える。
「流言なり、攻めているフリをもっとする?こう、市民にも分かるようにさ」
クローナが提案すると、ヒロは少し渋る。
「非武装の一般人を脅すのはちょっとなぁ・・・」
「まぁ、それをすると、エリュシールとやっている事が同じになりますからね」
レジスタンスの人がサラリと言う。
エリュシールはやっているのかよ、とヒロとクローナは心の中で思ったが、レジスタンスの人がやる気がないのだから、する必要はないとヒロも決心がつく。
「帰ろう。このまでやれば十分だよ」
そう撤退を決めた時、周囲を警戒していたレジスタンスの1人が、大声で警戒を呼びかける。
「東方向から集団!人の集団だ!」
ヒロとクローナは身構えて、敵かと思うが、レジスタンスの幹部は怪訝な顔をする。
「人?・・・兵士じゃないのか?」
その集団がはっきりと見えるようになると、ヒロもクローナもレジスタンス達も、呆気に取られる。
非武装の、明らかに町民と思われる一般の人々が、駆け足ざまにこちらに向かっている。
老若男女関係なく、いや・・・気持ち、屈強な男が全く見当たらない。
年老いた老人と、女性は年齢バラバラ、とんで子供が多い。
「え?え?まさかこっちを攻めてきた?防衛のため?」
ヒロが狼狽えてレジスタンス幹部にとうします?と目で訴える。
「いや・・・それはないでしょう。あっても、逃げるためでしょうが・・・何も敵がいる方向に逃げて来ずとも・・・」
武器がない、ただの集団と分かり、レジスタンス幹部は周囲に呼びかける。
「武器を向けるな!非戦闘員だ!勝手に逃げるなら道を開けろ!追う必要もない!」
レジスタンス達はその命令に安心して、端によって道を空ける。
ヒロとクローナもそれに倣う。
すると、市民の集団は、兵士のいる場で止まる。
互いに「えっ?」「えっ?」という口に出さずとも、困惑してお見合いになる。
そして、少し年配の男性が代表として前に出て、膝をつく。
「お頼み申します!!ここから逃してくだされ!」
レジスタンス幹部は、あぁ、武器をこっちが持っているから怯えているのか、と納得する。
「構わん。我々はこの通り攻撃をしない。我が誇りに賭けて、そなた達を騙し討ちしないと誓おう。さぁ、好きに逃げるが良い」
「違います!我々はそのまま逃げても野垂れ死ぬ運命です!」
幹部が面食らって驚く。
目の前の男は、涙ながらに必死の形相で訴えてきた。
「この国は異常です!税も!家族も!国民という名の奴隷だ!もう限界なんです!」
しゃがれた声で、その男は泣き叫ぶ。
嘘などないのだろう。
そんな取り繕う様子すら、微塵も感じられない。
「我々が逃げる先もないと!分かっててこの国は搾取する!・・・もう限界だ!限界なんです!どうか!どうか越境させてください!その先はもちろん自分たちでなんとかしますので!どうか!」
必死の頼みであった。
その男だけではない。
子供を抱いた女性も多くいる。
彼ら弱者は、搾取と分かってて、抜け出せない。
わずかばかりの金で、何とか生きながらえて、その大半の金は、税として教皇に奪われる。
幹部は頭を悩ます。
目を閉じて、荒い呼吸、またはため息を、繰り返す。
流民だ。
正しくは、これから流民になろうとする者達だ。
だが、そういった存在は、よく見かけるありふれた存在でもあり、厄介な存在でもある。
国の、あるいは領内の住民は、当たり前だが大半はその地で生きてきた人間だ。
それに対して、流民は外部の人間。
軋轢は、どうやっても生まれる。
ほんの、わずかな人数なら、混ぜても何とかなるだろう。
だが、この首都の流民・・・少なくとも、今見えているこの人数は、少なくとも数百人はいるように見える。
誰が、責任をとって受け入れるというのだ。
こんなもの、無理である。
「・・・我々はただのレジスタンスだ、国の組織でも何でもない。そなたらの願いを叶える存在ではない」
「あ、じゃあウチきます?」
「え?」
「「えっ!」」
幹部が苦渋の決断を言い放ったところで、ヒロがサクッと提案する。
「ひ、ヒロ殿?そ、そんなこと言っていいのか?」
幹部は慌ててヒロに聞くが、ヒロは涼しい顔をして頷く。
「もちろんです。私達の新しい町、人をどんどん呼んでいますから、むしろ歓迎ですよ」
「いやいや。だって、エリュシールの首都ですよ?間諜の者だっているかもしれない!」
幹部がそう言うも、ヒロもクローナも特に慌てない。
「間諜がいたとしても、エリュシールとうちの待遇を比べれば、どっちが幸せかなんて一文瞭然よ」
幹部は、そういうことではないのだが・・・と困り顔だが、厳密に言えば、ヒロ達の行動にそもそも異を唱える立場にもないので、もうこれ以上は仕方ないと、引き下がる。
「んじゃ、とりあえずみんなで外出ますか」
ヒロはそう案内して、集団を受け入れる。
クローナは、無線機でこの件を伝える。
『いや、ちょ、クローナ。そんなもん急に対応できるわけねぇだろ』
ヴォルクが流石に慌てる。
だが、この無線はゴルドも聞いていた。
『うむ。良きにはからえ』
『いや、だから対応出来ねぇって。一応は軍事作戦中たぞ。どこに非戦闘員数百人を護衛して運べる余力があるんだよ!』
ゴルドが許可を出すも、ヴォルクが現場では対応出来ないと事実を伝える。
ゴルドが悩む声を流しながら、ふと急に「あっ!」と声を上げる。
『良いこと思いついたぞ!』
そのゴルドの声と共に、レジスタンス達の慌ただしい声を聞こえる。
「敵襲です!兵士が集まってきました!」
「なにっ!?」
幹部が直ちに戦闘指揮を取る。
クローナとヒロは無線でゴルドの思いつきを聞こうとするが、一瞬、嫌な予感が雷のように走った。
クローナが反射的に、動き出す。
敵兵の中にいた、黒いローブに身を包んだ人物へ、飛びかかる。
黒いローブの人物は、舌打ちをして、クローナに向けて黒い球のような魔法を放つ。
それをクローナはギリギリで避ける。
その外れた魔法は、外壁にあたり、穴をくり抜いた。
まるで、その部分だけ消去したかのように、消え去っている。
「ああああ!!クソが!邪魔するなぁあ!犬っころがぁ!」
ヒステリックに叫ぶ声で、女だと分かる。
こいつはヤバい。
規格外の魔法を前に、全員がそう気付かされる。
はたして、この逃げ出す市民を守れるか、ヒロとクローナは、焦りを覚えた。
『あれ、おーい、ヒロ?クローナ?聞こえる~?』
緊張感のないゴルドの声だけが、無線から聞こえる。




