ナコイ トオル
例によってあんな風に次回予告をした割にはあの時一文字も書いていませんでした。見切発車ももう少しましなスタートをするだろうというくらいの無計画告知です。
はじめまして、ナコイ トオルです。そしてそう言えるのならば、お久しぶりです。
これは『マクデブルクの半球』の過去であり、『アステリスクの邂逅』の直前の物語であり、今まで散々存在を散らつかせ、今までずっと詐欺師の心の中にいた『彼』に纏わる話です。
ひとりの青年が、ひとりの少女に出会う話です。
ひとりの少女が、ひとりの青年に出会う話です。
詐欺師はひとりの少女として青年に出会い、彼に手を引かれながら彼の世界に踏み入れていく話です。
彼の心を全てもらい、少女が何も返せなかった話です。
息苦しさを抱えていた少女が呼吸が楽になる場所を見付け、失い、息を殺されるまでの話です。
非常に残念ながら、苦しいくらいじゃ人間死ぬことは出来ません。
だからこそ少女は今までぎりぎり生きてこれたのでしょう。
非常に残念ながら、呼吸を殺されたくらいじゃ人間死ぬことは出来ません。
だからこそ少女はそのあともぎりぎり生きていけてしまったのでしょう。
それでもさみしさや哀しさで、ひとは簡単に殺せます。
だからこれは、さみしさや哀しさで死んでしまうくらい、少女が彼を愛し、彼が少女を愛した話。
自分は基本的にきっちりかっちりと決めてから書き出したいタイプであるのですが、なんだかんだ一度もそれが出来ていません。はじまりと終わりと飛び飛びのエピソード以外はなにも決まらぬまま自分でも「これどうなるんだろう」と首を傾げながら書いています。それが特に顕著に現れたのがこの作品です。
それで思ったことは、少女が過去作のどれと比べても子供っぽいと感じたことです。
あれ、こんなに幼い感じの子だったっけ・・・・・・と自分でも首を傾げたのですが、ああそれもそうかなと、反面では納得しました。
少女が出会ったのは彼であり、少女が彼を選んだきっかけは自分のためでもあり。
『助ける相手』では決してなかったのです。
『自分の手を引くひと』だったのです。
金髪の少年は保護対象ですし、やがて出会う女子大生も女子高生もそうです。いつだって少女は『護る側』でした。だからこそ、そういう相手ではない彼には、幼い子供のような素直さと、無邪気さと、その分痛みそのままに傷付く弱さを曝け出していたのかなとーーーそんな風に、思いました。
嘘と関係ない唯一のひと、望んで手を繋いだひとを亡くし少女から詐欺師に戻った女は、もうどうしようもなく傷付いてーーーその傷を癒す間も無く、金髪の少年を拾います。
金髪の少年は黒髪の青年へと成り、詐欺師はある夜の着信を境に容疑者となり四方八方を奔走し文字通り命を賭けます。
詐欺師と手を繋ぐため全力で『保護対象』から抜け出した黒髪の青年と、青年に言葉を全部伝え詐欺師ではなくなった女の関係は、また違ったものになるのでしょう。
二人の間には、もう嘘も詐欺も無くなってしまったのですから。
さて、それでは。
詐欺師の過去を書いた今、続くのは逃亡した元詐欺師の現在でしょうか。
元詐欺師がどこに逃げ、どこでどんな風な『幸』に成っているかでしょうか。
嘘と詐欺のあとに残ったものの話について、でしょうか。
例によってまだ一文字も書いていません。・・・・・・と言いたいところですが、ほんの少しだけそれは嘘になります。まだまだ、先の長い路ですが。それでも勝手に楽しく進んで行こうと思っています。
そして今までとはまた違った形式の物語になるんじゃないんだろうか、と、そんな風にもこっそり思っています。
少しまだ曖昧な部分もあるのですが、そして年内スタート出来るかも怪しいのですが、自分の想像通りならば、『セイリオスの逃亡』でお会いしましょう。
願わくば、あたなの世界のどこかで少女と彼が手を繋いで笑いながら、青い路を歩いていますように。
ナコイ トオル