山羊角執事のメェード長:-002-
部屋の中は思っていたより普通。と言っても、もっと趣味の悪い部屋だと身構えていただけで、髑髏の置物も、怪しい水晶球も無かった。昔の貴族が住んでいた感じの部屋で、大きなベットと仕事机、ソファーが二つにそれに挟まれるように位置するローテーブル。本棚に剣置きとバルコニーがある。ただ、家具などの色が全て黒で統一された部屋だった。
「広いな」
家具が少ない割りにはかなりの広さだ。大体、人間界にあるオレの家の一階を丸々部屋にしたような広さである。
オレはソファーに座り、バフォメットが淹れてくれた紅茶を飲む。口に含んだ瞬間、紅茶ではなく、もっと別のの何かだと思ってしまったくらいの美味しさ。コンビニで売られている紅茶がただの泥水と言える程、彼が淹れる紅茶は絶品だった。いや、あんなものと比べてしまうほうが失礼だ。
犬耳娘はオレのソファーの隣でお行儀良くお座りして尻尾を振っている。このおすわりと言うのは決してソファーに座っている訳ではなく、犬が良くするようなおすわりを地面でしているのだ。確かにペット扱いしたのはオレなのだが、別段そこまでする必要は無いと思う。
「浴場はこの部屋にもありますが、部屋の外を曲がったところにも大浴場があります。どちらの湯も沸かしてありますので、お好きな方をお使いください」
犬耳娘の様子に多少引き気味になっているとバフォメットが風呂についての話題を切り出してきた。夕方は逃げまわって、転んで、避けてで身体が埃だらけだから、風呂には入りたいな。
「今日はこの部屋のを使うよ。下のは明日使おうかな。紅茶美味しかったよ。ありがとな」
「ありがたきお言葉です。 それでは私は下がります、何かございましたら私の名前をお呼びください。授かれた名は簡易召喚にも使えますので」
お辞儀の後、静かに出て行きバタンと扉がしまる。部屋に残されたオレと犬耳娘は互いに沈黙している。気不味い。先ほど彼女の事をペット認定してしまったから、尚更気不味い。
「あー、さっきはごめんな。飼い犬だなんて言っちまって」
とっさに思いついた理由があれしかなかったが、申し訳なく思っているのは本当である。今考えればもっといい理由が思いつきそうなんだけどな……。咄嗟に開いた口程、頭の悪い発言など無いな。
「わんわん」
「…………」
ノリノリな飼い犬だった。と言うか犬耳娘もなんだか満更でもなさそうな顔をしている。
「お手!」
と言って手を突き出すと、犬耳娘はノリノリで手を乗せてくる。尻尾は床を掃くように素早く振られ、舌を出して息を荒げる彼女。餌を上げる前の子犬の時の彼女にそっくりだ。
「チンチン!」
「ぇ……?」
声がこぼれているぞ。ほれほれ、年頃な女の子には少し恥ずかしいポーズだろうけど、オレにお前の忠実さと賢さを見せてくれ。
彼女は少し戸惑ったような顔をしてから顔を赤めてオレのチャックを下ろしてくる。オレは冷静に犬耳娘の頭を叩いた。
「あうぅ……何するんですかぁ……」
「それはこっちのセリフだ」
強く叩きすぎたせいなのか、恥ずかしさのせいなのか涙目で叩かれた箇所を抑えている。チンチンは膝立ちしろという意味でオレの股間にご奉仕しろという意味ではない。
全く、油断も隙もない奴だ。ひょっとしてこいつ、いつか狐見たいに淫乱になってしまう淫乱予備軍なのではないだろうか。オレと同室で寝かせるのは間違った選択だったかもしれない。オレの貞操は別にいいのだがこんな小さい少女の貞操を危険に晒すのはダメだろう。今からでも別室を――
「あるじ、ありがとうございました。その……私、嬉しかったです」
唐突に犬耳娘が例を言った。お礼を言われるようなことは何もしていないと思うんだが。
「『こいつはオレのだ』って言ってもらえて……」
「それって嬉しいことなのか!?」
しかも思い出がかなり美化されてる。それだと「オレの女」という意味に聞こえるぞ。オレが言ったのはあくまでも「オレのペット」という意味で、である。いや、前者の方が断然良く聞こえるのだが……。
「それに、名前を授けていただけると……」
そうだった。こいつの名前も考えないといけないのか。魔術師がくるまでに何か良い名が思いつけば良いけれど。
彼女は礼を言い終わると立ち上がり、気持ちを切り替えるためにパンッと一回手を叩いた。
「さぁ、魔王様、今日一日かいた汗を一緒に湯船に浸かって流しましょう」
「いや、一人ずつ入るからな?」
「ええー!?ゴシゴシさせて下さいよー!!」
何でこいつは自分の貞操が危なくなる方へと事を運ばせようとするんだ……。しょうがない、オレはさっきバフォメットが言っていた大浴場というところを使わせてもらおう。
「オレは大浴場ってところを使うよ。お前はここを使え」
「ゴシゴシ……」
「しなくていい」
「ペロペロ……」
「ペロペロ!?お前はオレに何をしようとしていたんだ!?」
「名付けてくれるお礼を狐さんの方法でしようかと……」
狐の方法……と言ったらもう一つしか思いつかない。やっぱりそのつもりだったのかよ!
「いやいやいや!お礼はこれから少しづつゆっくりでいいから!と、とにかく狐の方法はダメだ!」
部屋から逃げるように出て行く。疲れた。早く風呂に入って寝たい。安眠できそうにないけれど……。犬耳娘の誘惑に高鳴り続けていた胸の鼓動を落ち着かせるように扉の外で息を整える。
「あるじ」
犬耳娘がそこから去ろうとしていたオレを扉越しに呼ぶ。返事はしない。
「わたし、あるじになら何されても構わないです……」
それはオレが構うのだ。あと少し大人になって、その時まだオレを想っていたのなら、もう一度その言葉を聞かせて欲しい。別にオレがお姉さん系が好きだから断るのではなく、彼女の事を好きになるには、まだ範囲外の年齢に見えるから断っているのだ。オレは背をつけていた扉から離れ、バフォメットに言われた通りの道を辿って大浴場に向かうが、廊下を丁度曲がったところからメイドの一人とばったり会い、そのまま彼女に案内された。
-あとがき-
土曜日に出かけていたためすっかり忘れていました。パソコンに貼られた更新催促の付箋もこうなってしまっては全く役に立ちませんね。




