山羊角執事のメェード長:-003-
頭から水を被って頭を冷やす。今日は色んな事がありすぎた。
今日と言っても日を跨いでいるから、正しくいうと、この二日間か。
シャンプーを手に付け髪を洗う。
このシャンプーは人間界の物と似ているが、何十万年という時間、人間界との交流は無くても必需品と言うのは似てくるものなのだろうか。
おっと、思考がまた別の所に……。魔界の物は全てが珍しく見えてしまうから、つい気がそっちの方に向いてしまう。こんなに好奇心が刺激されたのはいつぶりだろうか。
この二日間、短時間で色んな事があり過ぎた。
勇者と名乗る者に襲われ、犬耳娘に助けられる。その後新幹線で京都へ向かい、狐耳女性と会って誘惑されながらも、始めての魔法を使い、転送陣を使い魔王城へ。そしてオレは今この広い浴場で頭を洗っている。
まるで銭湯のようなこの浴場―― 一人で使うには広すぎる。
魔界という知らない場所に、知っている者が一人もいないこの世界に、オレは一人、無駄に広い浴室の中で孤独を感じた。
まてよ……?こんなに広いということは、前代魔王は従者達と一緒に風呂でも入って居たのだろうか。
何十人という女性とお風呂に入れたのだとしたら、なんという桃源郷なんだそこは!
いや、そもそも従者は女性とは限らないではないか。
バフォメットの様に男性の従者も要るはずだ。
ひょっとして結構暑苦しい感じの裸の付き合いかもしれない。
それは 願い下げだな。男の裸に興味はないし、そんな付き合いには反吐がでる。
かなぎが好みそうな薔薇色の世界を想像して身震いすると大浴場の戸がガララと開く音がした。
ひょっとして犬耳娘が追ってきたのかもしれないが、頭を洗っていてオレは目を開けられない。
急いで頭を洗うも入ってきた人物の気配はすでに真後ろにあった。しまった、ペロペロされてしまう!
とそう覚悟を決めた時――
「おや鬼灯様、今日は自室で入られる予定だったのでは?」
この口調からバフォメットかと思ったが……違う。女性の声だ。
ならばあのメイドの一人かと思ったがそれも違うはず。
メイド達はオレに会話をしないようしつけられているとバフォメットが言っていた。
頭を洗っていて目を開けられない。
「ああ……あっちはオレのペットが使ってるよ。バフォメットだよな?どうしたんだ?」
「はい。私は一昨日の夜からずっと仕事でしたので、就寝の前の水浴び、と言ったところです。てっきり、鬼灯様は自室で入られるのかと思い、大浴場の方を使おうと……宜しければご一緒しても宜しいでしょうか?」
「あ、ああ……それは構わないけど……」
オレはシャンプーをお湯で濯ぎ後ろをみる。そこに立っていたのは、山羊角を頭に生やした、紛れもなくバフォメットだった。
バフォメットだったのだが、女性だった――
思考が追い付かない。
さっきのあの姿は男装だったのだろうか。
いや、しかし声は完全に男性のものだった。
今は完全に女性の声になって、声のトーンが全く違ってしまっている。ならば、あの声の方が裏声なのか。
「お、お前……女だったのか……?」
どう見ても女性の体だ。
付いてるものが付いてなくて膨らんでいるところが膨らんでいる。
肌は男性の時と変わらず、オレと犬耳娘の中間くらいで、女性として健康的な肌色。
胸は程よい大きさで、狐にはない別の色気が感じられる。
よく見ると紫色だった髪色にも淡さが入り桃色にっている髪。
長さもさっきよりもずっと長くなってしまっていて、後ろで一纏まりにされている。
モノクルではなく眼鏡が湯気で曇って横長い瞳孔がよく見えない。
しかし、湯気でよく見えないのは身体の方もである。
なんだか身長すら小さくなってしまっている気がする。
と言うか下半身くらい隠してこい。
アニメ特有の湯気センサーが入るぞ……。まぁ、入らないけれど……。
「先ほどメイド長も兼ねていると紹介したではありませんか」
「あ、ああ……だけどまさか女だったとは……」
「いえ、どちらの姿にもなれますよ」
「はっ!?」
なんだその設定は。
まさか、某漫画のように水をかけたら女になるのだろうか。
丁度ここは浴場だ。さっきかぶってきたのかもしれない。
身長が妙に小さく感じたのは実際に小さくなっていたのか。
「……どうして急に女性の体になったんだ?」
「生理現象です。近くに男性が多い場合は女性に、女性が多い場合は男性になります。子孫を残しやすい状況になるということですね」
「それって急に男性比が女性より多くなって体が男性から女声になったら、ズボンとかずりおちないか?」
「ずり落ちますね。ですが、私達のような種族のために服を作り出す魔法があるので、メイド服を瞬時に着れるようになっています」
「なんという便利魔法……」
「ムーンプリズムパワー!メーイクアッープ!」
「えっ!?月明かり使って変身するの!?」
まさかの美少女戦士メイドに変身か。
と言うかなんで美少女戦士の変身セリフを知っているのだ。
オレでも忘れかけていた台詞だぞ、それ。
前代魔王死後、人間界との繋がりは無かったから、知っているはずがない。
ひょっとしてこっちでもアニメという文化が必需品の様に人間界と同じくらい発達しているというのだろうか。
アニメが必需ってすごいな、娯楽の世界……!!
「男女比が同じ場合はどうなるんだ?」
「その場合、そのまま変わらずですね」
確かにバフォメットがメイド達に紅茶を作らせに行かせた後、その場にはオレと犬耳娘だけが残り、男女比はバフォメットを含まず、男女共に一人だったが、彼の姿は男性のまま変わらなかった。
いや、今は彼女か。その後にメイドが一人来て、女二人で男一人……。
それでも男の姿だったか……。ややこしい。
「ずっと女性の姿を維持するのは無理ですね」
「いや、オレは別に構わないんだが」
なぜ突然そんな話になった?
「三人以上のプレイとか出来ませんよ?」
「オレがそんな事をしたいと思っている風に言うな」
なんで魔族達はこうも話しを下ネタに繋げたがるのか分からない。
いつかオレの我慢が切れて手当たり次第に行為を吹っかけ出したらどうするつもりなのだ。
いや、そんな事はしない。
魔王には威厳と言うものがなければならないというオレの勝手な想像がある。
手当たり次第のスケベ魔王なんて支持を集められないだろう。
いや、もしかして逆だろうか。魔王は多くの女性でハーレムを作るべきなのだろうか?
そう考えると、多くの女性を携わらせる方が魔王としての威厳というはある気がしてきた……。
さっき考えたような多くの女性とお風呂に入るべきなのだろうか。
少し魔王という職に興味が湧いてきた。おっと、鼻血が出そうだ。
「ふふっ、冗談ですよ。お背中、お流し致します」
「あっ、いいよ。自分で……」
「これくらいはさせて下さい。それ以外のことは致しませんので」
それ以外の事とはペロペロのような事だろうか。
しかし、バフォメットの言う事はなぜだか、犬耳娘よりも信用できる。
きっとバフォメットの方にこそ、長い間魔王に忠実に仕えてきた威厳というものがあるのだろう。
「まぁ、鬼灯様がしろというのでしたら、やりますが……」
「言わないからしなくていい」
忠実すぎる。いい加減、十八禁方向に持って行こうとするな。
バフォメットがオレの前にあるボディーソープを脇下から腕を出して取ろうとし、彼女の胸がオレの背中に当たる。
当たるというか押し付けられている。
固すぎず、柔らかすぎないふわりと柔らかいに驚いて背筋が伸びてしまう。
わざと見ないようにしているのに……!
「おっ、お前っ……わざとやってるのか……?」
「ふふっ……どうでしょうね……?」
間違いなく分かっていながら恍けている。
このメイドさん、ひょっとしたらSっ気があるのかも知れない。
普段従う方だからこそ、従わせる方にも興味がありそうだ。
あの山羊骨仮面のメイド達にキツく当たっていないか心配だ……。
胸が背中から離れ、残る感触を背中に刻みつけるように覚えておく。
バフォメットは手に付けたボディソープの泡を立てて、オレの背中を擦り始める。
「背中洗う時って普通タオル使わないか?」
「私は存じませんが、そういう決まりがあるのですか?申し訳ありません」
「いや、無いけど……」
マンガなどでは多く見かける気がする。気のせいだろうか。
「なら手で洗ったほうが良いですよ。タオルを使っては肌を痛めるだけです」
そんな細かい気遣いが出来るバフォメットはやはり執事の鏡といえるのだろう。
おっと、今はメイドさんだったか。背中を終えて脇下と腕を洗い出す。
「鬼灯様」
「なんだ、前は洗わなくて良いからな。自分で洗う」
「いえ、そうではなく一つ質問させて頂いても宜しいでしょうか」
彼女達に感化されてオレの発想まで桃色になって来てしまっていた。
側近は質問すら一つ一つに許可を貰わなければならないのだろうか。
逆にそれは主人に余計な手間がかかってしまいそうな気さえする。
いや、質問に答える気力が残っているかどうかを気遣ったのか。
「なんだ」
「鬼灯様は次期魔王に着かれる気はございますのでしょうか?」
随分と長い間留守にしておりました。お久しぶりでございます。
段落が空いておらず、スマートフォンで読みにくいらしいので多めにいたしました。
今回からうさぎ専務さんに描いていただいた表紙を添付させていただきます。
表紙:うさぎ専務 http://usafolio.tumblr.com/




