第三章『黒曜色のエロ狐』:-003-
「『災厄を取り除く尾箒』よ、我を、我等を地の果てへと誘え。その地は何処よりも冷たく、熱かった。その血を使い、我らの栄光のために地へと捧げたその最果ての地へ、我らを誘え」
「は?」
人間界の言語ではなさそうな言葉と奇っ怪な模様が描かれている大きな円陣。彼女が言うにはコレが転送陣らしいのだが、それを前にして彼女はなんの脈絡もなく呪文のようなものを唱え始めた。
「何だそれ。何かの呪文か何かか?」
「呪文いうかは魔法詠唱どすなぁ……転送陣、再起動させたかったんとおまへんか?」
「あれそんなので起動するのか!?」
まぁ、転送陣というくらいだ、魔王陣の仲間だとは予想していたけれど、まさか本当に……。
「ええ、もちろん自己魔法詠唱の後に、この詠唱を言わなければ効果はあらしまへんがねぇ」
「自己魔法詠唱?」
「ええ、ウチもマジュツには詳しくはないんどすが、個々が所有する魔法を使うためん詠唱どす。ウチの場合は『災厄を取り除く尾箒』」
「えっ、オレそんな詠唱なんて知らないぞ。と言うかお前がオレの代わりに起動出来ないのか?」
魔法を使ったことのないオレには自己魔法詠唱なんて聞いたこともない。
「さっき試しいてみたんどすが、どやら魔王サマの魔力でしか動かんようで……。何か好きな言葉で作ってしもてもええんとあらしません?」
「えっ、そんな適当で良いのか?」
いやいや、それは流石に適当すぎる。魔法を使うのはもっと難しい物だと思っていた……。使う前に何か事前に儀式が必要だったりしないのか。
「初めて自己魔法詠唱をする時は魔力を少し流して貰う必要があるそうですよ?そしてその後、初めての魔法使用で自己魔法詠唱を登録するそうです」
と、犬耳娘がそういった。やはり儀式めいたことはあるようだ。
「私もまだ自己魔法詠唱をしたことがないので、魔法は使えませんし、主へ魔力を流す事もできません。なのでここは狐さんにお願いしましょう」
「ウチの魔力は……まぁでも、しかたありまへんなぁ……」
「? ありがとう。助かるよ」
今、狐が何か言いかけた気がした、というよりも自分の魔力を分けることを少し渋ったような……?
「貸しどす。子作り一回」
「まだ諦めてなかったのか……」
オレもそれは諦めたくないけどな。うへへ、いつか時間があればお忍びでこの祠に来ようかな。と行っていると、犬耳娘が顔を赤くしてオレを睨んでいる。おおう、こわいこわい……。
「では……」
「ああ、頼む」
狐がオレの両手を握り、目を瞑る。狐の指がオレの指と絡まり、大きな尻尾が狐の腕にピタリと貼り付く。オレも狐に釣られて目を瞑る。そうした方がいいと思ったからだ。静電気のような何かが腕に流れてくる感触。触れればバチッと一気に流れて行ってしまいそうな魔力は、オレの胸の中央部分に集まってくる。
「んっ……」
「!?」
目を瞑って無防備な状態を良いことに、狐にキスされてしまった。これも儀式の一つなのだとしたら、なんと都合の良い儀式なのだろう。女性と付き合ったこともないオレはもちろんキスは初めての経験で、何かが胸に集まっている感覚もあるせいか、やけに胸が高鳴っている。
「ちょっと!?今明らかに関係のない行動が入ってなかったですか!?」
「気のせいどす」
関係のない行動だったのか……キスが儀式なんて都合が良すぎるか。お伽話じゃあるまいしな。だが、こんな綺麗な淫乱女性にキスされると悪い気はしない。
「魔王サマ、キスは初めて?」
「あ、ああ……」
「違います!!」
オレのファーストキスの話なのに、犬耳娘が全力否定する。お前はオレとキスしたことでもあるのか。
「私が溺れた後、人工呼吸でしました!!」
……あるのかよ。全く、人が気を失っている間にやりたい放題である。まぁ、そのお陰で助かったのだが……。犬耳娘がガルルルと狐に向かって唸り声をあげる。どうやらオレが狐に取られてしまうのだと思っているようだ。
「さ、準備はできはりました。体の何処かに異常は感じられまへんか?」
「胸に、なんか静電気みたいなのが溜まってる感じがする」
「ならそこが魔王サマの『特異点』どすなぁ」
「『特異点』?」
また知らない単語だ。いや、ある基準が適用されない様な場所を特異点と言うのは知っては居るのだが、恐らくオレが知っているその意味とは異なった意味なのだろう。
「『特異点』と言うのは魔力を取り出す場所のことです」
犬耳娘が補足する。えっ、だったら異常を感じたところが尻だったら魔法は尻からでるのか。だたし、魔法は尻から出るが再現されるのか。異常を感じたのが胸でよかったぜ……。
「ですから、その場所に因んだ自己魔法詠唱をつけると良いそうですよ」
「うふふ……さ、ウチに新魔王サマが初めての魔法を使う歴史的シーンを見せておくれやす」
集中して息を整える。そうしなければならないという決まりは知らないが、ただオレがそうした方が良いのだろうと感じただけだ。手を胸に当ててオレは言う。オレが最も好きな言葉を――
「『死者を導く我が魂の灯火』よ」
そうすると胸から光のない黒い火が燃え始める。突然のことでオレは魔法が暴発して胸に炎が付いてしまったのかと思ったが、どうやら違うみたいだ。狐も犬耳娘もコレが普通なのだと言わんばかりに騒がない。
「それが魔力どす。手に取って詠唱した後、魔法陣に投げておくれやす」
狐の指示に従い、右手で炎を胸から引きぬく。その火は胸から引き抜かれても、オレの手中でゆらゆらと揺らめいている。
続いて詠唱、だがあんな長い文章を一瞬で覚えられるはずがなく、狐の方を向くとオレに後ろから抱きつきながら、お腹と太もも辺りを優しく撫でて魔法の詠唱をそっと耳打ちしてくれる。こそこそと聞こえる狐の甘い声、背中に当たる胸、やらしい手付き。今すぐ後ろを向いて狐を襲ってしまいたい衝動を抑えて、オレは詠唱に集中する。
「我を、我等を地の果てへと誘え。その地は何処よりも冷たく、熱かった。その血を使い、我らの栄光のために地へと捧げたその最果てへ、我らを――誘え!!」
普通に更新を忘れかけてましたね。




