第三十話 新たな冒険の始まり
王都指定案件が終わってから、数日が経った。
久しぶりに戻ってきた《白樫の枝》は、ノアたちが出発した頃よりも明らかに賑やかになっていた。
扉が開くたびに依頼人が入り、受付では冒険者たちが順番を待っている。壁一面の依頼板には新しい紙が増え、その前ではいくつものパーティーが相談を続けていた。
「……増えたな」
ノアが呟くと、隣でセラが依頼板を見上げる。
「依頼?」
「ああ。それも前より幅がある」
討伐、護衛、採集、調査。
以前の《白樫の枝》にも仕事はあったが、大手が受けたがらない低報酬のものや、条件の悪い依頼が多かった。
今は違う。
商会からの継続護衛や、村落単位の調査依頼まで混ざっている。
「王都指定案件で一位になったんだもの。それくらいは変わるでしょ」
「それだけじゃないと思う」
ノアが答えたところで、少し離れた場所から若い男の声が聞こえてきた。
「この依頼、受けようと思う」
四人の冒険者が一枚の依頼書を囲んでいた。
《暁の標》。
ここしばらく、《灰色の翼》の面々が何度か訓練や依頼の相談に乗ってきた若いパーティーだ。
中心にいるのはユアン・フェルド。
剣を主軸にしながら、護衛も索敵もある程度こなせる万能型で、四人をまとめる役目も担っている。
「魔物は三頭。私たちなら問題なさそうね」
そう言ったのはナディア・エルノア。
攻撃魔法だけでなく、簡易的な結界や治癒まで扱える器用な魔術師だ。
その隣では、上品な顔立ちのロザリー・ベルグが、自分の身体ほどもある大剣を壁へ立てかけている。
「でも、畑に出た三頭を倒せば終わりなのかしら」
ロザリーの言葉に、ユアンが頷いた。
「俺もそこが気になってる」
依頼書には、農村近くに現れた小型魔獣三頭の討伐とある。
「三頭だけなら、俺たちでも簡単だ」
四人目のロウ・ガレスが短く言った。
「うん。だからこそ、まず依頼人に聞こう」
ユアンは依頼書を折り畳む。
「三頭を倒してほしいのか。それとも、畑を荒らされなくしたいのか。巣が近くにあるなら、三頭だけ倒してもまた来るかもしれない」
ノアはそこで足を止めた。
自分が口を挟む必要はなさそうだった。
「あ、ノアさん」
気づいたユアンがこちらへ手を上げる。
「お帰りなさい!」
「ただいま」
「ちょうどよかったです。これ、今から受けようと思ってるんですけど」
差し出された依頼書をノアは受け取った。
危険度は高くない。
距離も近い。
今の四人なら、戦闘そのものに大きな問題はないだろう。
「どう思います?」
「現地へ行く前に――」
「依頼人に話を聞いてくる。ですよね?」
先に言われた。
ノアが顔を上げると、ユアンが少し得意そうに笑っている。
「依頼書に書いてあることと、本当に困ってることが同じとは限らない」
「……そうだな」
「でも」
ユアンは続けた。
「ノアさんならどうするか、じゃなくて。俺たちなりに考えてみます」
一瞬、ノアは言葉を返さなかった。
何度も教えた。
依頼書に答えを探すな。
まず相手を見ろ。
何を達成すれば本当に仕事が終わるのか、自分たちで考えろ。
だが今の言葉は、ノアの教えを暗記しただけのものではなかった。
ユアン自身の考えになっている。
「じゃあ、俺から言うことはないな」
「よし」
「帰ったら報告書は見せてくれ」
「そこは見られるんですね」
「そこは見る」
ユアンが苦笑した。
その横では、ロザリーがリゼットのところへ歩み寄っていた。
「リゼットさん」
「ん?」
「戻ったら、またお相手をお願いしてもいいですか?」
声だけ聞けば、どこかの良家の娘が茶会へ誘っているようにも聞こえる。
ただし、その背には巨大な大剣がある。
「いいわよ」
リゼットは笑った。
「でも今度は、途中で腕が上がらなくなっても待たないわよ」
「望むところです」
「ほんと、見た目と武器が噛み合わないわねえ」
横からセラが口を挟んだ。
ロザリーが困ったように眉を下げる。
「やっぱり、そう見えますか?」
「褒めてるのよ。大剣を抜くまで誰も大剣使いだと思わないもの。初見殺しとしては優秀だわ」
「そういう長所なんでしょうか……」
「使えるものは何でも使いなさい。ね、ノア?」
「そこで俺に振るな」
「ほら。師匠のお墨付きよ」
「言ってない」
ロザリーが小さく笑った。
少し離れたところでは、ナディアがフィーネに話しかけていた。
「フィーネさん。この前教えてもらった魔力の残し方、少し分かってきました。全部使えるからって、最初から全部やろうとすると駄目なんですね」
「はい。何が起こるか分からない依頼ほど、少し余裕を残しておいた方がいいと思います」
「分かりました」
「そうそう」
いつの間にかセラまで加わっていた。
「攻撃も結界も治癒も使えるからって、全部自分で片づけようとしないこと。器用な人ほどそこにハマるんだから」
「はい!」
ナディアが素直に頷く。
セラは満足そうに腕を組んだ。
「まあ、私のような素敵な魔術師に近づくためには、日々の努力が必要なのよ!」
「セラさんに近づきすぎても、違う意味で危なそうです」
隣から、フィーネがさらりと言った。
セラの笑顔が止まった。
「……フィーネ?」
「はい?」
「最近は魔法以外の攻撃方法も覚えてきたみたいだわね!」
「えへへ。セラさんと毎日お喋りしてますから」
「私が育てたの? これ」
「はい」
「そこは否定してほしかったわ」
ナディアが堪えきれずに笑った。
「なんだか、お二人って仲のいい姉妹みたいですね。羨ましいです」
「あら、分かる?」
セラは一瞬で機嫌を直した。
「もちろん私がお姉さんよ。美しくて、頼れて、魔法も一流で――」
「妹の方がしっかりしてる姉妹って、ありますよね」
「フィーネ?」
「えへへ」
「……ナディア。今のは真似しなくていいからね」
「はい。そこは自分で判断します」
「もう遅かったわ」
今度はフィーネまで声を立てて笑った。
一方、ロウはガルドの前へ立っていた。
「行ってくる」
「ああ」
「……」
「……」
それで終わった。
ロウは満足したように頷き、荷物の確認へ戻っていく。
セラが二人を交互に見る。
「……ねえ。今ので本当に全部済んだの?」
「済んだ」
ガルドが答えた。
「便利ねえ。私なら三往復くらい必要なところを二文字で終わらせたわ」
「お前が喋りすぎなんだ」
「ほら! ちゃんと長い文章も喋れるじゃない!」
ガルドは答えず、視線を逸らした。
「逃げたわね」
「セラさん、楽しそうですね」
「だって珍しいもの」
やがて《暁の標》の四人は準備を終えた。
「じゃあ、行ってきます!」
ユアンが声を上げる。
「気をつけてね」
リゼットが返し、ナディアとロザリーも手を振った。
ロウは小さく片手を上げる。
ガルドも同じように返した。
四人が外へ出ていき、扉が閉まる。
ノアはしばらくその扉を見ていた。
「気になる?」
リゼットが聞く。
「少しは」
「追いかける?」
セラがにやりとする。
「追いかけない」
「本当に?」
「……たぶん」
「そこは自信持ちなさいよ」
リゼットが笑った。
以前なら、もっと細かく確認していたかもしれない。
装備、経路、敵の種類、撤退条件。
想定外のことが起きたらどうするのか。
だが、全部をこちらで決めてしまえば、いつまで経っても彼ら自身の判断にはならない。
「大丈夫だと思う」
ノアはもう一度、今度ははっきり言った。
「そう」
リゼットが柔らかく笑う。
「なら、大丈夫ね」
「お前ら」
奥から声が飛んできた。
「いつまで入口で騒いでるんだ」
オルセンがギルド長室の前に立っていた。
その手には、一通の封書がある。
「戻ってきたばかりで悪いが、話がある」
封書の端に押された印を見て、ノアたちの空気が少し変わった。
王家の紋章だった。
「王都から?」
リゼットが聞く。
「ああ」
オルセンは頷く。
「ただし、今回の依頼主は王都じゃない」
そう言って、五人をギルド長室へ招き入れた。
机の上に置かれた封書には、王家の印と、もう一つノアの知らない紋章が刻まれていた。
「国外から?」
セラが覗き込む。
「正解だ」
オルセンは椅子へ腰を下ろした。
「海の向こうの大陸にある国から、王都を通して届いた正式な要請だ」
ノアは封書を手に取った。
この世界には、大きく四つの大陸がある。
今まで《灰色の翼》が活動してきたのは、そのうちの一つに過ぎない。
海を越えた先にも国があり、都市があり、人々が暮らしている。
知識としては知っていた。
だが、それが自分たちの仕事として目の前に現れたことはない。
「何の依頼なの?」
リゼットが尋ねた。
「読んでみろ」
オルセンに促され、ノアは文面へ目を落とした。
依頼を出した国では、人口と交易の増加に伴い、新たな土地の開拓が進められている。
都市圏を広げ、街道を延ばし、新しい集落を作る。
その計画を阻んでいるものがあった。
「……迷宮?」
フィーネがノアの手元を覗き込む。
「ああ。それも相当な規模らしい」
オルセンが答えた。
開拓予定地の先に、巨大な迷宮が存在する。
何度も探索隊が送り込まれているが、いまだ全容すら掴めていない。
内部だけでなく周辺にも魔物が多く、人の往来を安定させることができない。
迷宮がそこにある限り、国の拡張計画そのものが止まる。
「依頼は迷宮の調査と攻略」
ノアが文面を追いながら言った。
「内部の危険要因を確認。可能なら排除。最終的には、周辺を今後の開拓地として利用できる状態にする」
「別大陸の巨大迷宮かあ……」
セラは依頼書を覗き込み、口元を緩めた。
「嫌な予感しかしないわね」
「なら、なぜ嬉しそうなんだ」
ノアが言う。
「嫌な予感と面白そうは両立するのよ、ノア」
「するのか?」
「するわ。少なくとも私の中では」
「遊びに行くわけじゃないのよ」
リゼットが呆れる。
「分かってるわよ。でも、誰も奥まで行けてない巨大迷宮でしょ?」
セラは少しだけ身を乗り出した。
「何があるか分からないのよ?」
「だから危険だと言ってるの」
「同じこと言ってるのに、どうしてこうも聞こえ方が違うのかしらね」
「あなたが楽しそうだからよ」
「なるほど」
納得するところなのか。
ノアは依頼書へ視線を戻した。
そして、途中で手が止まった。
依頼対象。
そこには二つの名前が記されている。
「……《白樫の枝》じゃない」
「気づいたか」
オルセンが口元を上げた。
そこに記されていた一つ目の名は、
《黄金獅子》。
王国最高峰の冒険者ギルド。
そしてもう一つ。
《灰色の翼》。
一瞬、誰も喋らなかった。
「……私たちですか?」
フィーネが自分たちを指す。
「そう書いてあるな」
「ギルドじゃなくて、私たちを直接?」
リゼットも改めて文面を見る。
「ああ。向こうが王都指定案件の報告を読んだらしい」
オルセンが説明する。
「世界最高峰の実績を持つ《黄金獅子》。それと、これまでとは違うやり方で王都指定案件を突破した《灰色の翼》。その二組へ来てもらいたいそうだ」
「……ずいぶん遠くまで名前が飛んでいったわね」
セラが言った。
今度の声には冗談めいた響きはなかった。
少し前まで、《灰色の翼》は依頼を失敗することで知られていた。
何をやっても上手くいかない。
飛べない翼。
そんな名前が、今では海の向こうの国から指名されている。
しかも、並んでいる名前は《黄金獅子》だ。
リゼットは依頼書を見つめたまま、小さく息を吐いた。
「……不思議ね」
「何が?」
「少し前なら、こんなの見せられても誰かの間違いだと思ってたかも」
「今は?」
ノアが聞く。
リゼットは少し考えたあと、笑った。
「大変そうだなって思ってる」
「そっち?」
セラが吹き出した。
「そこは『私たちもここまで来たのね』とかじゃないの?」
「それは思ってるわよ。でも依頼は依頼でしょ」
「リゼットらしいな」
ガルドが言った。
「何よ、それ」
「褒めてる」
「……ならいいけど」
ノアも少し笑った。
「出発は?」
「十日後だ」
オルセンが答える。
「王都側が港までの移動を手配する。そこから船だ」
「《黄金獅子》は何人来るの?」
セラが尋ねる。
「五人」
「五人?」
「ああ。迷宮内部を調べる以上、人数が多ければいいってもんでもないらしい」
「誰が来るかは?」
「そこまでは書いてない」
セラが少し考える。
「じゃあ《九牙》が五人来たりして」
「そんな都合よく来るか?」
ノアが言う。
「夢を見るだけなら無料よ」
「巨大迷宮へ行く直前に見る夢としては物騒だな」
「大丈夫。王子様が五人来るより現実的だから」
リゼットが眉を寄せる。
「比較対象がおかしいわよ」
セラは何事もなかったように肩をすくめた。
ノアは依頼書を机へ置いた。
「みんなはどう思う?」
四人を見る。
それだけで十分だった。
昔のように、ノアが危険性と利益を全て並べて結論を出す必要はない。
「私は行きたい」
最初に答えたのはリゼットだった。
「危険なのは分かってる。でも、今まで見たことのない場所で、今の私たちがどこまで通用するのか知りたい」
「私も賛成」
セラが続ける。
「別大陸そのものにも興味あるし、巨大迷宮なんて滅多に入れないもの。それに《黄金獅子》と今度は競争じゃなく、一緒に仕事をするんでしょ?」
「私は……少し怖いです」
フィーネは素直に言った。
けれど、その表情は以前のように不安だけで曇ってはいない。
「でも、行ってみたいです。知らない場所だからこそ、見てみたいです」
ガルドは短く答えた。
「行く」
ノアは頷く。
「じゃあ決まりだな」
「待ちなさいよ」
セラが言う。
「ノアは?」
「俺も行きたい」
即答した。
「あら。聞くまでもなかったわね」
「お前が止めるのか?」
「まさか。私だけ置いていかれたら泳いで追いかけるわ」
「やめろ」
「そこは止めるのね」
「当然だ」
リゼットが笑った。
「じゃあ、本当に決まりね」
オルセンは大きく息を吐いた。
「まったく。少しくらい悩め」
「止めるつもりだったんですか?」
ノアが聞く。
「俺が止めて、お前らが聞くならな」
「聞かないわね」
リゼットが即答する。
「ほらな」
オルセンは呆れたように笑った。
それから、表情を少しだけ改める。
「《白樫の枝》のことは気にするな」
ノアが顔を上げた。
「でも――」
「いつまでお前らが全部抱えるつもりだ」
オルセンはそれを遮った。
「さっき出ていった連中を見ただろ」
《暁の標》。
ユアンたちの姿が頭に浮かぶ。
「もちろん、まだまだ未熟だ。あいつらだけじゃない。他の連中だって、お前らほど上手くやれるわけじゃない」
オルセンは続ける。
「だからって、いつまでもお前らの後ろに隠してちゃ育たねえ」
「……そうですね」
「お前らが何も残さず強くなって、そのままいなくなるんだったら止めたかもしれん」
オルセンは鼻を鳴らした。
「でも、そうじゃねえだろ」
ノアはギルドの外へ続く扉を見た。
ユアンたちは、自分たちで依頼の目的を考え始めていた。
ナディアはセラとフィーネから学び、ロザリーはリゼットから自分に合う戦い方を探し、ロウはガルドから言葉以上の何かを受け取っている。
彼らだけではない。
《白樫の枝》全体が、少しずつ変わっている。
「行ってこい」
オルセンが言った。
「海の向こうだろうが何だろうが、お前らがやりたいことをやってこい」
そして、少しだけ笑った。
「帰ってくる場所くらいは、こっちで守っておいてやる」
「……ありがとうございます」
ノアが頭を下げた。
「そういう湿っぽいのはいらん。帰ってきたら、また面倒な仕事を押しつけてやる」
「それ、帰ってきたくなくなる言い方じゃない?」
セラが言う。
「じゃあお前だけ帰ってこなくていい」
「酷い!」
「三日で帰ってくるだろ、お前は」
「……ご飯が美味しくなかったら二日ね」
「迷宮はどうした」
部屋に笑いが広がった。
◇ ◇ ◇
十日後。
港町の朝は、潮の匂いと船員たちの声で満ちていた。
沖には大小いくつもの船が浮かび、桟橋では荷物を積み込む人々が忙しく行き交っている。
《灰色の翼》の五人は、それぞれ旅支度を整えて指定された桟橋へ向かっていた。
「本当に海を渡るのね」
リゼットが水平線を見る。
「ここまで来て船が出なかったら、さすがに泣くわよ」
セラが言った。
「お前、船旅がそんなに楽しみなのか」
「未知の大陸へ向かう船よ? ちょっとくらい浮かれてもいいじゃない」
「船酔いしなければいいですね」
フィーネが言う。
セラが止まった。
「……フィーネ」
「はい?」
「そういう不吉なことは出航前に言わないの」
「すみません」
「セラ、船酔いするの?」
リゼットが聞く。
「しないわよ」
「乗ったことあるの?」
「ないわ」
「じゃあ分からないじゃない」
「私は魔術師よ?」
「関係ある?」
「……ないわね」
セラは少しだけ海から目を逸らした。
「酔ったら治せますよ」
「フィーネ。今日は本当に頼れる妹ね」
「さっきは危ないって言われましたけど」
「都合のいい時だけ妹なのよ」
「それ、自分で言うんですね」
そんな話をしながら桟橋を進んでいく。
やがて、目的の船が見えてきた。
そして、その前に五人の冒険者が立っている。
先頭の男を見て、リゼットの表情がわずかに変わった。
《剣聖》アルベルト・クロイツ。
一度、剣を交えた相手。
「来たか」
アルベルトもこちらに気づく。
だが、その横から先に片手を上げた男がいた。
「お、久しぶり」
肩肘の張らない声だった。
ノエル・アルディア。
以前顔を合わせた時と変わらない、気さくな態度でこちらを見ている。
「《灰色の翼》。元気そうだな」
「ノエルさん」
フィーネが少し表情を明るくした。
「お久しぶりです」
「ああ。フィーネも元気そうでよかった」
「そっちも相変わらずね」
セラが言う。
「なんだ。もう少し感動的な再会を期待してたんだけどな」
「じゃあ一回隠れて。もう一度出てきたら考えてあげる」
「面倒だからいい」
「諦めるの早いわね」
自然なやり取りに、張っていた空気が少し緩んだ。
その隣には、さらに三人。
《星砕》コレット・フェルゼン。
《天弓》セリス・クローネル。
《聖女》クラリス・レイフォード。
そしてアルベルトとノエル。
五人全員が、《黄金獅子》でも最高戦力として知られる《九牙》だった。
セラは五人を順番に見て、少しだけ目を細める。
「……五人来るとは聞いてたけど」
「何だ?」
ノエルが聞く。
「《九牙》を五人並べるとは聞いてないわよ」
「同じ五人だろ」
ノアが言った。
「数の話はしてないの。圧の話をしてるのよ」
ノエルが吹き出す。
「ははっ。相変わらずだな」
「そっちもね。ちょっと安心したわ」
アルベルトが一歩前へ出た。
「今回の任務は、俺たち五人が担当する」
リゼットも一歩前へ出る。
「また会ったわね」
「ああ」
「今度は敵じゃないのね」
「競争相手でもない」
アルベルトは《灰色の翼》の五人へ視線を向けた。
「今回は同じ仕事をする仲間だ。よろしく頼む」
「こちらこそ」
リゼットが手を差し出す。
アルベルトも応じた。
少し前までなら、《九牙》は目標だった。
遠くにいる、世界最高峰の冒険者たち。
王都ではその高さを見せつけられた。
王都指定案件では、別の三人と競った。
そして今回は。
同じ船に乗り、同じ目的地へ向かう。
「世界最高峰と仲良く船旅かあ」
セラが小さく呟く。
「出世したものね、私たち」
「迷宮攻略だぞ」
「分かってるわよ」
セラは船を見上げた。
「だから船旅の間くらいは、楽しまないと損でしょ?」
「お前らしいな」
「でしょう?」
その時、船上から大きな声が響いた。
「まもなく出るぞ! 乗る奴は急いでくれ!」
「行くぞ」
アルベルトが先に歩き出す。
十人が次々と船へ乗り込んだ。
やがて綱が外される。
帆が大きく膨らみ、船体がゆっくりと桟橋から離れていった。
ノアは甲板から遠ざかっていく港を見る。
あの先には《白樫の枝》がある。
オルセンがいる。
そして今頃、ユアンたち《暁の標》も、自分たちなりの答えを探しているはずだ。
もう、《灰色の翼》だけが走り続けなければ止まってしまう場所ではない。
だからこそ、自分たちはその先へ行ける。
「ノア」
声をかけられ、振り向く。
リゼットが船首の方を指した。
「見て」
青い海が、水平線の果てまで続いている。
その向こうには、まだ見たことのない大陸がある。
知らない街。
知らない人々。
誰も奥まで辿り着けていない巨大迷宮。
そして、その旅を共にする《九牙》の五人。
セラが大きく伸びをした。
「さて」
海風に蜂蜜色の髪を揺らしながら、楽しそうに笑う。
「今度は何が待ってるのかしらね」
船は速度を上げていく。
十人を乗せて。
まだ見ぬ大陸へ。
《灰色の翼》の、新たな冒険が始まった。
今回の異世界マーケティングは、『仕組みを残す』です。
自分がいなければ回らない仕組みは、どれだけ優秀でも広がっていきません。
考え方や判断の基準を周囲へ渡し、それぞれが自分で考えて動けるようになることで、組織は少しずつ自走していきます。
《灰色の翼》が次の冒険へ進めるのも、彼らの後ろに新しい冒険者たちが育ち始めたから。
そして今回から、いよいよ第三章がスタートしました。
舞台は海の向こう、新たな大陸へ。
《黄金獅子》の《九牙》たちと共に、これまでとはまた違った冒険が始まります。
その先に待つのは、まだ誰も全容を掴めていない巨大迷宮。
ここからさらに広がっていく『異世界マーケティング』を、ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。
「続きが気になる」「第三章も読んでみたい」と思っていただけたら、ぜひブックマークをお願いします!
評価もいただけると、今後の執筆の大きな励みになります。
それでは次回、新たな大陸でお会いしましょう!




