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第69話: 天空の休息――そして動き出す「真実の欠片」

管理システム「プライム」の消滅と共に、天空を覆っていた無機質な緊張感は霧散した。

 後に残ったのは、ジークフリートの魔力によって強引に空中に固定された、黄金の浮遊大陸。

 

「……少しは静かになったな。リリアーナ、寒くないか」


 ジークフリートは、崩壊した神殿のテラスに椅子を「創造」し、そこへリリアーナを座らせると、当然のように彼女を背後から包み込んだ。

 彼の右腕は、もはや銀色の回路を宿してはいない。だが、リリアーナの熱と完全に融合したその肌は、以前よりも強く、深い魔力の拍動を伝えてくる。


「ええ、旦那様。……とても清々しいですわ。空気が、あんなに重苦しかった『命令』ではなく、ただの風に戻った気がいたします」


 リリアーナは、ジークフリートの腕に身を委ね、遠くに見える雲海を眺めた。

 

 少し離れた場所では、エリアスとステラが瓦礫の山を調査していた。

 エリアスはパパの「神の座への拒絶」を目の当たりにしてからというもの、どこか誇らしげな、それでいて「自分も負けていられない」という野心に満ちた瞳をしている。


「……リリアーナ。先ほど、誰かの声を聞いたと言っていたな」


 ジークフリートの低い声が、彼女の耳朶をくすぐる。

 リリアーナは、空に消えたあの優しい微笑みを思い出し、胸に手を当てた。


「はい。……あの工場の冷たい量産品たちとは違う、温かい意志を感じました。……『愛する人の手で、システムを壊してくれてありがとう』と。……まるで、この場所をずっと、誰かが壊しに来るのを待っていたような……そんな響きでしたわ」


「……。……システムに利用されていた『最初の個体』の残滓か。あるいは、このシステムを作らざるを得なかった、かつての文明の犠牲者か」


 ジークフリートは、自分の独占欲を邪魔した者たちに慈悲はないが、リリアーナが「母」と呼んだその存在に対してだけは、微かな敬意を払うように目を細めた。

 

「……パパ! ママ! これ、見て!」


 エリアスの叫び声に、二人が視線を向ける。

 エリアスが掲げていたのは、管理センターのメインフレームの残骸に埋もれていた、一つの小さな「琥珀色のクリスタル」だった。


 それは無機質な電子部品ではない。

 リリアーナの瞳と同じ色をした、不規則な形の宝石。その中には、小さな「押し花」が封じ込められていた。


「……それは、リリアーナ様の花……」


 ステラが息を呑む。

 教団の紋章でも、神の図案でもない。地上のどこにでも咲いているような、小さな野の花。


 リリアーナがそのクリスタルを受け取った瞬間。

 彼女の脳裏に、偽物のデータではない、真実の「記憶」が流れ込んできた。


 それは、どこまでも続く黄金の大地。

 リリアーナと瓜二つの女性が、幼い少女を抱き上げ、愛おしげに囁く光景。

 

『……ごめんなさい、リリアーナ。……貴方を「システム」から守るために、私は貴方を、あんなに冷たい地上へ逃がすことしかできなかった……』


『……いつか、貴方が誰かに愛され、その愛がこの空を焼き切る日まで……私の愛を、この欠片に託しておくわ……』


 リリアーナの瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。


「……あ。……ああ……。旦那様……」


「……リリアーナ。やはり、君は『部品』などではなかった。……君をこの世に送り出し、愛した者が、確かに存在していたのだな」


 ジークフリートは、彼女の涙を唇で拭い、そのままそのクリスタルを握る彼女の手を包み込んだ。

 

 天空大陸のさらに上空。

 クリスタルが放つ微かな光が、北の果て――人間も、神も立ち入らぬ「終焉の大陸」を指し示している。


「……決まったな。リリアーナ。……君の記憶の源流、そしてこの世界の不条理を終わらせるための、最後の場所だ」


「……はい、旦那様。……私、知りたいのです。……私を愛してくれた人のこと。……そして、貴方と共に歩む未来のために、すべての呪いを終わらせる方法を」


「……ああ。……どこへでも行こう。……たとえそこが世界の果てだろうと、私は君を独占し、守り抜く」


 天空大陸に、初めて本当の「夜」が訪れる。

 星々の光は、もはや監視の目ではなく、一家の次なる旅路を祝う灯火のように輝いていた。

第69話、お読みいただきありがとうございました。

「部品」だと思っていた自分が、実は「愛されて地上に逃がされた娘」だったという真実。

リリアーナ様の流した涙は、10年間の孤独と、ジークフリート様への愛が結実した美しい証ですわね。

そして、ついに最終目的地「終焉の大陸」が示されました!


* 「押し花の入ったクリスタル……。お母様の愛が1000年の時を超えて届いたようで泣けます」

* 「閣下、相変わらず隙あらば涙を拭うフリをしてキスをする。通常運転で安心しました!」

* 「エリアス君、重要なアイテムを見つける天才ですね! さすが次代の主人公候補!」


と感じてくださった方は、ぜひ【ブックマーク】の継続、そして最終章への【評価】をお願いします!

皆様の応援が、一家を世界の果てへと導く力となります。


次回、最終章開幕・第70話「終焉の大陸――すべての愛が還る場所」

霧島 結衣でした。

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