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第67話: 最終初期化(ファイナル・リセット)――崩壊する天空大陸

『――警告。対象の「個我」による汚染が修復不能な段階に達しました。

 これより、現行人類文明の完全消去、および惑星熱量の再分配プロセス……

最終初期化ファイナル・リセット」を起動します』


 管理者プライムの声に感情はない。だが、その言葉と共に天空大陸全土が、巨大な断末魔のような振動に包まれた。

 黄金に輝いていた街並みが、一瞬にして冷徹な赤色に染まり、地面を支えていた重力制御装置が次々と沈黙していく。


「パパ! 大陸の傾斜が止まらない! これ、このまま地上に……アイスベルク帝国の上に落ちるつもりだ!」


 エリアスが足元の氷を黄金の焔で溶かし、強引にグリップを効かせながら叫ぶ。

 雲海の下、遥か下方には、自分たちが守り抜いてきた白銀の大地が広がっている。この巨大な浮遊大陸が激突すれば、帝国どころか、この大陸全土が消滅するだろう。


「……ふん。壊れた機械が、最後に自爆を選ぶとはな。……リリアーナ、しっかり掴まっていろ」


 ジークフリートは動じない。

 彼はリリアーナを左腕で守るように抱き寄せると、感覚の戻った、けれど今や「神の理」さえも孕んだ右手を天へと突き出した。


「旦那様、あんな巨大な質量を……一人で止めるおつもりですか!?」


「一人ではない。……リリアーナ、君の熱が私の腕に流れている。……そして、生意気な息子もいるからな」


 ジークフリートはリリアーナの額に軽く唇を落とすと、その瞳を白銀の殺意へと染め上げた。


「……エリアス。地上の民がこの衝撃で死ぬのを、私は許さん。……お前は私の冷気の『外側』を焼いて、大気の摩擦からこの大陸を保護しろ」


「わかった! パパが凍らせるなら、僕はそれを『溶かさずに』包んであげる!」


 親子の魔力が再び共鳴する。

 ジークフリートの右腕から放たれたのは、もはや魔術と呼べる代物ではなかった。

 それは、「空間そのものを絶対零度で固定する」という、神の特権の簒奪。


「……凍れ。……重力も、運動エネルギーも、運命も。……私の視界にあるすべての『動き』を、永遠の静寂に沈めてやる」


 ――ズ、ズゥゥゥゥゥンッ!!


 耳を劈くような空間の軋み。

 時速数千キロで落下を始めていた天空大陸の周囲に、巨大な氷の「楔」が空中に打ち込まれた。

 目に見えない空間の壁を氷の蔦が走り、大陸の加速度を強引に相殺していく。

 

『――異常事態。物理法則の無視を確認。……個体名ジークフリート、貴方は存在してはならない不具合バグです。……世界の理が、貴方の存在を拒絶している!』


 プライムの姿がノイズにまみれ、彼女の背後から「世界の心臓」とも呼べる巨大な歯車が姿を現した。

 

 ジークフリートの右腕が、パキパキと音を立てて再び透き通り始める。

 大陸を止めるための負荷が、彼の存在そのものを「世界の敵」として抹消しようとしているのだ。


「……拒絶、か。……結構なことだ。……世界が私を拒むというなら、私はリリアーナという名の世界・・だけを連れて、虚無の果てまで逃げ切ってやろう」


 ジークフリートの右腕から、黒い稲妻のような氷の破片が飛び散る。

 大陸の落下は止まった。

 だが、代償としてジークフリートの意識が、プライムが操る「管理システム」の中枢へと引きずり込まれ始めた。


「……ぁ、ぐ……っ」


「旦那様!? ジークフリート様!!」


 リリアーナが悲鳴を上げる。

 ジークフリートの瞳から光が消え、無機質な銀色の回路が彼の肌に浮き出てくる。


「パパ! クソッ……あいつ、パパの魔力を逆流させて、中から書き換えようとしてるんだ!」


 エリアスの焔がプライムを焼き払おうとするが、光のドレスを纏った彼女は、リリアーナと同じ顔で残酷に微笑んだ。


『……さあ、皇帝。……貴方のその強大なエゴを、世界の維持システムへと還元しなさい。……貴方が「管理神」となれば、リリアーナを失わずに済む。……ただし、貴方という「個」は永久に消滅するけれど』


「……そんな……。旦那様が、いなくなるなんて……そんなこと、絶対に許しませんわ!」


 リリアーナが、ジークフリートの胸に飛び込んだ。

 彼女の瞳に刻まれた黄金の紋章が、かつてない激しさで発火する。


 皇帝の魂を賭けた、システムとの最終的な綱引きが始まった。

第67話、お読みいただきありがとうございました。

大陸の落下を腕一本で止めるジークフリート様……。

その無敵の英雄像の裏で、システムに取り込まれそうになるという最大の危機。

「自分が神になれば彼女を救える、だが自分は消える」という究極の選択を、閣下はどう跳ね除けるのでしょうか!


* 「大陸の落下を凍らせて止める描写、スケールが大きすぎて鳥肌が立ちました!」

* 「閣下がシステムに呑まれかけるシーン、リリアーナ様の叫びが切なすぎます……」

* 「プライムの『神になれ』という誘惑……閣下が一番嫌いな『個の消失』を突いてくるのが憎いですね!」


と感じてくださった方は、ぜひ【ブックマーク】の継続、そして第4部クライマックスへの【評価】をお願いします!

皆様の「★」が、閣下の魂を繋ぎ止める最後の温もりとなります。


次回、第68話「独占欲の極致――神の座さえも俺の領土だ」

霧島 結衣でした。

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