第64話: 三人の審判者――神の理を否定せよ
「……重力よ、縛り付けよ。天上の秩序に背く罪人どもに、大地に這いつくばる屈辱を与えろ」
中央に立つ長身の男が指を鳴らした瞬間、周囲の空間が歪んだ。
先ほどまで浮遊していた氷の欠片や、エリアスの周囲に漂っていた焔の火花が、凄まじい重力に押し潰され、粉塵と化して地面にめり込む。
ジークフリートとリリアーナの体にも、千トンの岩石を背負わされるような圧力がのしかかる。
だが、二人は動じなかった。
「……重力、か。……私の前で、重さを語るな」
ジークフリートは、自分の右腕をわずかに宙に掲げた。
彼が「重力」という概念そのものを「凍結」させる。
空間がカチリと音を立てて固定され、降りかかっていた圧力が無効化された。物理法則さえも皇帝の命令一つで停止させられる――、その事実に、評議会員たちの顔から余裕が消える。
「馬鹿な……法則を無効化しただと!? 貴様、何者だ!」
「……不具合品だと呼んだはずだ。……部品なら、持ち主の顔ぐらい覚えておけ」
ジークフリートが氷の魔剣を振るう。
放たれたのは斬撃ではない。「存在の停止」。
重力使いの評議会員が悲鳴を上げる間もなく、彼の周囲の空間が凍りつき、そのまま砕け散った。
『ならば、因果を……! この地で貴様らが勝利したという事実は、最初から存在しなかったことにする!』
二人目の評議会員が、時を巻き戻すような輝きを放つ。
しかし、エリアスがそれを黄金の盾で弾き飛ばした。
「パパの動きを『無かったこと』にするなんて、僕の焔とママの愛が見ていた景色を否定する気か!」
エリアスは焔を纏った拳で、因果使いの顔面を真っ向から殴り抜いた。
理屈ではない。彼は「自分がパパを助けた」という事実を、己の魂の熱量で固定し、因果の書き換えさえも暴力でねじ伏せたのだ。
「……エリアス、遅いぞ。……最後の一人だ」
「ごめんパパ。……でも、これで最後だね」
残る最後の一人、光を司る女が、絶望的な表情で空を仰いだ。
『光……私の聖光……。この地のすべての光は、私を導く……! ……神よ、この罪人どもを焼き払う権限を!』
天空の門が開き、神罰にも等しい光の槍が降り注ぐ。
それを見たリリアーナは、ただ静かに微笑んだ。
「……光は、貴方たちの専売特許ではありませんわ」
リリアーナが、天に向かって手を広げる。
彼女の内に眠っていた、数千年の聖女たちの祈りが、黄金の光となって帝都全体を包み込む。
天空からの槍は、彼女の放つ光に触れた瞬間、敵意を失い、柔らかな雨粒となって消えていった。
「あ……あぁ……。なぜ……なぜ、下等種の光が、私の光を飲み込むの……?」
「貴方たちの光は、支配のための光。……でも、私の光は、誰かを愛するための、ただの温もりですもの」
リリアーナが優しく囁くと、光使いの評議会員は、安らかな眠りに誘われるようにして空から落ちてきた。
三人の審判者は、地に伏した。
圧倒的な力の差を見せつけられ、天空の秩序は沈黙する。
「……帰れ。……神に伝えろ。……リリアーナを返せとぬかすなら、次は神殿ごと凍らせて、宇宙の塵にしてやると」
ジークフリートが神殿へと歩み寄る。
崩壊の危機は去った。だが、神殿の最深部――。
消え去った評議会員たちが守っていた扉の奥から、冷徹な「機械的な警告音」が鳴り響き始めた。
『……警告。……管理システムへの干渉を確認。……これより、第4段階の浄化プロセスを起動します』
雲が割れ、そこには巨大な「目」が浮かんでいた。
それは神ではなく、この天空大陸そのものが巨大な生体コンピューターであることを告げていた。
「……まだ続くのか。……エリアス、ステラ、構えろ。……どうやら、この大陸そのものが、私たちを消化しようとしているらしい」
リリアーナを抱きしめたまま、ジークフリートは不敵に笑う。
地上の王の独占欲は、ついに星そのものへと向かっていった。
第64話、お読みいただきありがとうございました。
天空の評議会員を一掃し、さらにその先の「システムの目」に直面した一行。
「愛のための光」が「支配のための光」を飲み込むシーン、カタルシスを感じていただけましたでしょうか!
しかし、天空大陸そのものが巨大な生体コンピューターだったとは……。この大陸を相手に、閣下たちはどう立ち回るのでしょうか!
* 「三人の理を、一家がそれぞれのやり方で粉砕するのが最高に爽快でした!」
* 「エリアス君の因果を超える拳、パパに負けない大物感!」
* 「大陸そのものが敵とは……どこまでスケールが大きくなるんですか(笑)」
と感じてくださった方は、ぜひ【ブックマーク】の継続、そして第4部への熱い【評価】をお願いします!
皆様の「★」が、神のシステムを破壊する原動力となります。
次回、第65話「鋼鉄の楽園――神の座を凍てつかせる場所」
霧島 結衣でした。




