表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
63/70

第63話: 浮遊大陸の正体――失われた旧世界の記憶

「……旦那様。本当に、あの高さまで行くおつもりなのですか?」


 リリアーナが不安げに空を仰ぐ。

 雲を突き抜け、遥か高みに浮かぶ黄金の大陸。そこからは、先ほどの使者が逃げ帰った「門」を通じて、地上の魔力を吸い上げるような不気味な吸引力が放たれていた。

 

 帝国の騎士団や魔導師たちが「飛行船の準備を」と慌ただしく駆け回る中、ジークフリートはそれらを片手で制した。


「……船など待っていられるか。……リリアーナ、少し私の腕を強く掴んでいろ。……少しばかり、世界の重力を『黙らせる』」


「え……?」


 ジークフリートが、リリアーナを左腕で抱き寄せ、右手を天へと向けた。

 彼が指先を一度、強く弾く。


 ――ドォォォォォォォォォォン!!


 大気が悲鳴を上げた。

 ジークフリートの足元から、パレスの残骸を飲み込みながら、白銀の結晶が「垂直」に空へと伸びていく。それは階段というにはあまりに巨大な、天を衝く氷の巨塔。

 

 天空の大陸から放たれる「迎撃の光線」が、その塔を壊そうと幾十にも降り注ぐが、ジークフリートは鼻で笑った。


「……私の前で、光り輝くなど不遜な。……凍れ。……光も、熱も、その傲慢な意思さえも」


 ジークフリートが放つ冷気は、もはや単なる低温ではない。

 それは万物の運動を強制的に停止させる「絶対の静寂」。

 天空からの光は塔に触れた瞬間に結晶化し、逆に塔を補強する建材へと変えられていく。


「……行くぞ、エリアス。……遅れるなよ」


「……パパ、本気でこのまま空まで行くんだね。……いいよ、パパが道を凍らせるなら、僕はそこからママが寒くないように、焔の回廊トンネルを作ってあげる!」


 エリアスがリリアーナの反対側に並び、黄金の焔を螺旋状に放つ。

 ジークフリートの氷の塔を包み込むように、エリアスの焔が黄金の膜を作り、一家を乗せたまま、氷の塔は秒速で天空へと突き進んでいく。


 雲海を突き抜け、気圧が急激に下がる高高度。

 だが、ジークフリートの独占的な結界の中では、リリアーナの呼吸が乱れることさえ許されなかった。


「……ステラ。……聞こえるか」


 エリアスに抱えられながら、必死に周囲を警戒していたステラが、震える声で答えた。


「……はい、エリアス様。……この大陸……精霊たちが、みんな同じ名前を呼んでいます。……『リリアーナ』……『リリアーナ』って。……まるで、ここが彼女の『部品パーツ』の貯蔵庫であるかのように……」


 その言葉を聞いた瞬間、ジークフリートの瞳に昏い光が宿った。

 

 氷の塔が、ついに黄金の大陸の外縁部へと突き刺さる。

 衝撃と共に一行が降り立ったのは、雲の上に広がる、不自然なほどに手入れされた美しい結晶の街だった。


「……これは……」


 リリアーナが絶句する。

 

 そこに広がっていたのは、彼女が幼少期を過ごし、そして生贄として売られるまで幽閉されていた「中央教団の本部」と全く同じ景観だった。

 建物の一つ一つ、噴水の形、さらには壁に刻まれた紋章に至るまで。

 地上の教団が「神の導き」と称して模倣していたオリジナルの光景が、そこには不気味な静寂と共に保存されていた。


「……旦那様。……私、ここを知っています。……いえ、私の記憶にある場所そのものですわ」


「……模倣か。……それとも、ここが『原本オリジナル』か」


 ジークフリートが、地上の教団を一瞬で壊滅させた時の冷徹な瞳に戻る。

 街の奥。

 一際高く聳える「天空の神殿」から、先ほどの六枚羽の使者とは比較にならないほど巨大な、三つの魔力の波動が近づいてくる。


「……不具合品どもが、あろうことか聖域に土足で踏み入るとはな。……地上の王よ。……その『熱源リリアーナ』を返上せよ。……それは君たちが愛でるための女ではない。……この世界を循環させるための、単なるシステムの一部なのだ」


 神殿の屋根に、三人の「評議会員」が姿を現した。

 彼らは一様に、リリアーナと似た黄金の瞳を持ち、その背後には十二枚の透明な羽が展開されている。


「……返上だと? ……断る。……リリアーナは私のものだ。……システムの維持に必要な部品だと言うのなら、……そのシステムごと、永久に凍結させてやろう」


 ジークフリートの大剣が、天空の太陽を遮るように掲げられた。

第63話、お読みいただきありがとうございました。

「船を待たずに氷の塔で空へ行く」。これぞジークフリート様クオリティですわね。

そして、天空に広がるリリアーナ様の「記憶と同じ街」。

彼女がなぜ地上に送られたのか、その不気味なシステムの一端が見え隠れし始めました。


* 「閣下、物理法則を無視して空まで道を凍らせるの、最強すぎて笑いました!」

* 「エリアス君の焔の回廊、ママへの気遣いとお父様への対抗心が混ざってて良いですね」

* 「天空の街が教団のコピー……。リリアーナ様、本当に『製造』された存在なのでしょうか……」


と感じてくださった方は、ぜひ【ブックマーク】の継続、そして第4部への熱い【評価】をお願いします!

皆様の応援が、天空の神殿を叩き壊す力となります。


次回、第64話「三人の審判者――神の理を否定せよ」

霧島 結衣でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ