第61話: 天空の審判――羽を持つ者たちの傲慢
一万人の魂が星へと還った後の帝都は、かつてないほどに澄み渡っていた。
崩れ落ちたクリスタル・パレスの瓦礫の上、リリアーナは昇り始めた朝陽を浴びながら、夫の右腕をそっと確かめるように握りしめる。
「……旦那様。本当に、もう大丈夫なのですわね?」
「ああ。……むしろ、以前よりも馴染んでいる。……リリアーナ、君が私の魂に『熱』を刻んでくれたお陰だ」
ジークフリートの右腕は、もはや透き通ってはいない。
むしろ、氷神ユミルの青白さと、リリアーナの黄金の熱が溶け合い、大理石よりも滑らかで、それでいて万物を一瞬で凍結させる破壊的な魔力が漲っていた。
彼は廃墟となった玉座の間を一瞥し、不敵に口角を上げた。
「……さて。……家が壊れたままでは、君の朝食も用意できん。……エリアス、ステラ。……少し下がっていなさい。……以前よりは、少し頑丈なものを作る」
「え、パパ……今から? 職人も資材も届いてないよ?」
エリアスが目を丸くする。
だが、今のジークフリートにそんな常識は通用しない。
彼が軽く右手を宙に掲げると、空気が鳴動した。
――ズゥゥゥゥゥン!!
魔法陣も、詠唱も、魔力の予備動作すらない。
ただの「意志」の出力。
足元の瓦礫が、まるで時間が逆行するように空中に舞い上がり、瞬時に純白の結晶へと再構成されていく。
数秒前まで廃墟だった場所には、かつてのクリスタル・パレスを凌駕する巨大さと、黄金の装飾を帯びた「氷の離宮」がその姿を現した。
「……とりあえずの仮宿だ。……内装の細部は、後で君の好みに書き換える」
「……旦那様。……貴方、本当に人間を卒業してしまわれましたのね」
リリアーナは呆れ半分、感銘半分で溜息をついた。
しかし、その家族の平穏を切り裂くように、天から一本の「光の杭」が突き刺さった。
ドォォォォォォン!!
完成したばかりの離宮の前庭に、眩い黄金の光と共に、白銀の甲冑を纏った「翼を持つ男」が降り立つ。
その背中には六枚の白い羽。
カエン大陸の戦士とも、深淵の異形とも違う、清廉でいて、吐き気がするほど傲慢な神々しさを纏った存在。
「……下界の虫けらどもが。……勝手に世界の理を書き換える不遜を働いたか」
男はジークフリートたちを一瞥もせず、ただ一人、リリアーナを指差した。
「……個体識別名:リリアーナ。……太陽の女神の『予備部品』でありながら、個我を持ち、あろうことか熱源を私物化した大罪人。……天上の最高評議会の命により、貴様の『初期化』を執行する」
「……何だと?」
ジークフリートの周囲の気温が、一瞬でマイナス百度を突破した。
だが、翼の使者は鼻で笑い、黄金の槍を構える。
「……氷の王、ジークフリート。……貴様の力は、あくまで地上を維持するための権能。……天上の秩序の前では、その冷気もただの微風に過ぎぬ。……大人しくその女を引き渡せ。……さもなくば、この大陸ごと、天の火で浄化してやろう」
「パパ、あいつ……」
エリアスが黄金の焔を滾らせ、一歩前に出る。
だが、ジークフリートがその肩を静かに制した。
「……エリアス、いい。……お前はステラを連れて、ママの耳を塞いでいろ。……この不快な羽音を、これ以上一秒たりとも聞かせるわけにはいかない」
ジークフリートは、音もなく男の目の前へと踏み出した。
彼の歩く場所すべてが、理を無視した漆黒の氷へと塗り替えられていく。
「……初期化だと? ……私の妻を、部品と呼んだか。……その汚れた翼、二度と空を飛べぬよう、根元から凍りつかせて千切ってやろう。……天上の神々に伝えろ。……今日からこの空の支配者は、私だと」
皇帝の独占欲は、ついに重力を超え、天空の神々へと牙を剥いた。
第4部、開幕いたしました!
天空から現れた、鼻持ちならない「翼の使者」。
リリアーナ様を「部品」と呼んだ瞬間に、彼らの死亡フラグは完遂されましたわ。
理を超越したジークフリート様が、どれほど残酷に、かつ鮮やかに彼らを「ざまぁ」するのか……第4部も怒涛の勢いで執筆いたします!
* 「閣下、パレスを思考一つで再建とか……もはや神以上の存在感ですね!」
* 「『予備部品』って……天空の人たち、地雷を踏み抜く才能がありすぎますわ(笑)」
* 「エリアス君もやる気満々! 親子での天空侵略(?)が楽しみです!」
と感じてくださった方は、ぜひ【ブックマーク】の継続、そして新章への【評価】をお願いします!
皆様の「★」が、一家を天空へと押し上げる風となります。
次回、第62話「翼をもがれた天使――地上の理を思い知れ」
霧島 結衣でした。




