第48話: 息子が拾ってきたのは……!? 皇帝パパの複雑な心境
「……それで? 自分の部屋に戻れと言ったはずの息子が、なぜ見ず知らずの女の腕を引いて、この深夜に皇帝の寝所へ現れたのか。説明してもらおうか、エリアス」
クリスタル・パレスの最上階。
先ほどまで甘やかな湯上がりの時間を過ごしていたはずの私室には、今、絶対零度の冷気が吹き荒れていた。
ジークフリートは、リリアーナを自分のマントで包み込み、膝の上に乗せたまま、灰青色の瞳を鋭く細めている。その視線の先には、自分と同じ色をした瞳で真っ向から見詰め返す、十五歳の息子エリアスの姿があった。
「パパ、話を聞いてよ。見ず知らずじゃない。この人はステラ。十年前、僕たちが救ったあの王女様だよ」
「……王女だろうが何だろうが関係ない。私が言っているのは、君がその女の手を、まるで自分の所有物のように握りしめていることについてだ」
ジークフリートの言葉に、エリアスは自分の右手に視線を落とし、さらにステラの手を強く握り直した。
「……僕が救ったんだ。カエンの残党に襲われていたところを。だから、この人の命は僕のものだ。パパがママをそうしたみたいにね」
パキリ、と大気が凍りつく音がした。
ジークフリートの額に、微かな青筋が浮かぶ。
自分の背中を見て育った息子が、あろうことか自分の「やり口」を模倣し、それを盾にして自分に反論してくるとは。
「……ふん。命を救った程度で所有権を主張するなど、傲慢が過ぎる。リリアーナ、この馬鹿息子をどう思う」
「まあ、旦那様。……私は、とても素敵だと思いますわ」
ジークフリートの腕の中で、リリアーナがそっと顔を出し、ステラを見つめて微笑んだ。
彼女の放つ慈愛の熱が、部屋を支配していた氷の緊張をふんわりと溶かしていく。
「貴女は、あの時のセレーネちゃん……いえ、ステラさんですね。……よく、無事でいてくれました。エリアス、貴方もよく助けましたね。偉いですわ」
「ママ……」
エリアスの表情が、一瞬で「男」から「息子」へと戻る。
リリアーナがステラに手招きをすると、ステラは震える足取りで皇帝夫妻の前へ進み、深く膝を折った。
「お久しゅうございます、皇后様。……そして、皇帝陛下。……あの時は、名乗ることもできぬまま去った非礼、お許しください。私は、貴女様に少しでも恩返しがしたくて……」
「ええ、わかっています。エリアスから聞きました。貴女を、彼の『専属侍女』として迎え入れたいそうですね?」
「待て、リリアーナ! 私は許可した覚えは――」
「旦那様」
リリアーナが、ジークフリートの頬に自分の手をそっと添えた。
それだけで、世界最強の皇帝の言葉は封じられる。
「エリアスがこれほど強く誰かを求めたのは、初めてですわ。……貴方が私を求めた時と同じくらい、この子の目は、真っ直ぐです」
「…………」
ジークフリートは沈黙した。
リリアーナにそう言われては、返す言葉がない。
彼は不機嫌そうにエリアスを睨みつけ、それからその背後に隠れるように立つステラを一瞥した。
「……勝手にするがいい。ただしエリアス、言っておくがな。……一度その手を掴んだなら、二度と放すな。途中で飽きたと言って放り出すようなら、その時は私の手で、その女ごと貴様を北極の底に沈めてやる」
「……言われなくても、放すつもりはないよ。パパ」
エリアスは不敵に笑い、ステラを連れて部屋を後にした。
静寂が戻った部屋で、ジークフリートは深いため息をつき、リリアーナをさらに強く抱きしめた。
「……あんな執着心、教えた覚えはないのだがな」
「ふふ、血は争えませんわね、旦那様」
幸せな日常。
だがその裏で、部屋を出たステラの瞳には、微かな「影」が宿っていた。
彼女の耳には、先ほどから他の誰にも聞こえない「精霊の悲鳴」が届き続けていたのだ。
「……エリアス様……。……来ます。……何かが、この海を越えて……」
ステラの呟きは、宵闇の廊下に消えていった。
第48話、お楽しみいただけましたでしょうか。
ジークフリート様の「俺の息子に限って……」という困惑、そしてエリアス様の「パパ譲りのヤバさ」が際立つ回となりましたわね。
リリアーナ様の母としての包容力があってこその、アイスベルク家のバランスです。
* 「閣下、奥様の一言で黙っちゃうのが相変わらずで最高!」
* 「エリアス君、さらっと『パパと同じように』って……爆弾発言すぎませんか?」
* 「ラストのステラちゃんの不穏な言葉……何が海を越えてくるのか気になります!」
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次回、第49話「精霊の預言――赤く染まる外海の異変」
霧島 結衣でした。




