第45話:カエン帝国の降伏――そして始まる「温泉旅行」?
カエン帝国の象徴であった紅蓮の大神殿は、今や純白の氷の宮殿へと姿を変えていた。
祭壇の前で膝をつく巫女カグツチと、生き残った将軍たちは、もはや顔を上げる気力さえ残っていない。
「……降伏いたします。……カエン帝国は、今日この時をもって、アイスベルク帝国の属州となることを誓います」
カグツチの震える声が、静まり返った氷の広間に響く。
ジークフリートは、リリアーナの肩を抱いたまま、冷淡にその宣言を承諾した。
「……賢明な判断だ。……以後、この大陸の熱源管理は我が帝国が行う。……反抗の兆しがあれば、今度こそこの大陸を氷河期の底に沈めると思え」
「ひっ……! 承知いたしました……!」
公的な手続き(という名の完全服従)がブリギッテによって進められる中、ジークフリートの視線は、神殿の奥から湧き出る「不思議な泉」に留まった。
先ほどエリアスが火神アグニの魔力を喰らい尽くしたことで、暴走していた熱が適度に抑えられ、そこには奇跡的な温度の湯が満ちていたのだ。
「……リリアーナ。……あの泉を見ろ。……魔力が浄化され、極上の効能を秘めた湯が湧いている。……長旅の疲れを癒やすには、ちょうどいい」
「あら……。本当ですわ。……ふふ、カエン大陸で温泉に入れるなんて思ってもみませんでした」
リリアーナが目を輝かせると、ジークフリートの「夫モード」に即座にスイッチが入った。
「……よし。……ブリギッテ、この一帯を即座に封鎖しろ。……半径五キロ以内に男の立ち入りを禁ずる。……私の許可なくこの湯の音を聞くことさえ許さん」
「閣下、ここはもともと神域で、周りには我々の軍しかいませんが……」
「……構わん。……リリアーナの湯浴みを、一瞬たりとも、一分子たりとも他人の視線に晒すわけにはいかないからな」
ジークフリートが指を鳴らすと、透明度の高い氷の壁が、泉の周囲をドーム状に包み込んだ。
それは外からは一切見えず、内側からは美しい火山の夕映えが見える、皇帝特製の「絶対独占露天風呂」である。
「わあ、パパ! 僕もママと入るー!」
エリアスがパシャパシャと駆け寄ろうとしたが、その襟首をジークフリートの魔力の触手がひょいと持ち上げた。
「……エリアス。……お前は向こうの泥風呂で火神の魔力を消化してこい。……リリアーナの背中を流すのは、私の専権事項だ」
「えーっ! ケチ! パパのケチー!」
「……皇帝に向かってケチとはな。……後で剣の稽古を三倍にしてやろう。……さあ、リリアーナ。……至福のひとときを始めようではないか」
氷のドームの中で、湯気に包まれる二人。
カエン帝国の滅亡という歴史的瞬間の直後だというのに、ジークフリートの頭の中は「いかにしてリリアーナを美しく、かつ誰にも見せずに愛でるか」という一点にのみ集中されていた。
戦火の跡地に湧いた温泉は、皇帝一家にとっての、最高に贅沢で独占的な「戦勝祝い」となったのだった。
カエン帝国、実質三話で完落!
そして待望の(?)温泉回ですが、相変わらずジークフリート様のガードが固すぎますわね。
エリアス君ですら排除される徹底ぶりに、読者の皆様も「さすが閣下」と頷いていることでしょう。
* 「閣下、温泉回でも独占欲全開で安心したわ(笑)」
* 「氷のドームで露天風呂って、センスが良すぎる!」
* 「エリアス君、泥風呂に回されてて可哀想だけど可愛い……」
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皆様の熱い応援が、温泉の温度をさらに(?)上げることでしょう。
次回、第46話「湯上がりの誘惑――皇帝の理性が溶ける夜」
霧島 結衣でした。




