第44話: 火の神の神殿、氷の装飾を施しましょう
「……来るがいい、我が一族が数千年守り抜いた、破壊の権現! 古代火神アグニよ!!」
カエン帝国の中心、紅蓮の大神殿。
カグツチが自らの血を捧げ、禁忌の門を開くと、そこから噴き出したのは、空をどす黒く染めるほどの超高温の焔だった。
咆哮と共に姿を現したのは、全身が溶岩で構成された、巨神の姿。
その熱量は凄まじく、神殿の周囲の岩石が一瞬で蒸発し、大気が焼き切れるような高周波の音が響き渡る。
「あーあ、パパ。あの神様、ちょっと怒りすぎだよ。空気が焦げてて、ママの喉に悪そうだ」
神の威圧を真っ向から受けながら、エリアスは欠伸を噛み殺していた。
彼の隣では、ジークフリートがリリアーナをマントの下に抱き込み、不機嫌そうに空を仰いでいる。
「……眩しいな。リリアーナ、目を閉じていろ。あんな不細工な光を見る必要はない」
「旦那様、それどころではありませんわ。あの神様、この大陸そのものを焼き尽くすつもりです!」
「……やらせるわけがなかろう。私の散歩コースを更地にされるのは迷惑だ」
ジークフリートが軽く指を鳴らす。
刹那、神殿の屋根から壁、そして燃え盛る溶岩の川までもが、一瞬にして厚い白銀の氷に覆い尽くされた。
火神アグニが放つ熱量と、ジークフリートが放つ冷気が激突し、凄まじい水蒸気が爆発するが――その霧さえも、ジークフリートは瞬時に氷の粒へと変え、美しいダイヤモンドダストへと昇華させた。
『……ヌ、オォォ……ッ!? 我ガ炎ガ、凍ル……トイウノカ……!?』
「……神を名乗るなら、もう少し骨のある冷気を吸い取らせろ。お前の焔は……そうだ、息子が『空腹』だと言っているぞ」
ジークフリートの視線の先、エリアスが目を輝かせてアグニを見上げていた。
「パパ、あのご飯、すっごく高級な味がしそう! 食べていい? 全部食べていい!?」
「ああ。食べ過ぎて腹を壊すなよ」
エリアスは満面の笑みで、巨大な火神に向かって小さな手を広げた。
「いただきまーす!」
エリアスの口元、そして掌に、不可視の「魔力喰らい」の渦が発生した。
カグツチが絶望的な声を上げる中、火神アグニの体――数千度の溶岩と焔が、まるで掃除機に吸い込まれる煙のように、エリアスの体へと吸い込まれていく。
『ギ、ギヤアアアアアッ!? 我ガ、我ガ神格ガ……人間ノ子供ニ、喰ワレテ……ッ!』
「……嘘よ、そんな……。我が国の守護神が、あんな……一口サイズのおやつのように……っ」
カグツチは膝をつき、呆然とその光景を眺めていた。
数分後。
そこには、ただの「大きな岩」と化したアグニの残骸と、満足そうに自分のお腹をさするエリアスの姿だけが残っていた。
「……げふっ。パパ、美味しかった! でも、ちょっと後味がピリピリするかな」
「そうか。なら次は、もっと冷やしてから食べるんだな。……さて、カグツチ」
ジークフリートが、凍りついた祭壇の上に足をかける。
彼の足音が、静まり返った神殿に冷たく響く。
「……リリアーナを『生贄』にする計画、まだ続けるつもりか? 次は、お前自身の魂を私の氷の苗床にしても構わないんだぞ」
「あ……、あ……」
カグツチには、もう答える言葉も、戦う力も残されていなかった。
アイスベルク帝国の皇帝一家。
彼らにとって、神話の神とは、ただの「家族旅行の食事」に過ぎないのだ。
「神様をおやつにする」皇太子エリアス様、いかがでしたでしょうか。
カグツチ様の絶望、そしてジークフリート様の相変わらずの余裕……。
これぞ、世界最強の家族の「ざまぁ」の形ですわね。
* 「アグニ様、退場が早すぎて可哀想だけど笑っちゃう!」
* 「エリアス君、まさにパパとママのいいとこ取り。強すぎる……!」
* 「閣下がママの喉を心配して神殿ごと凍らせるの、過保護の極み!」
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次回、第45話「カエン帝国の降伏――そして始まる『温泉旅行』?」
霧島 結衣でした。




