第43話: 灼熱の大地への第一歩――溶けない雪を降らせましょう
カエン大陸の沿岸部は、常に大気が陽炎のように揺らめく、文字通りの地獄だった。
活火山の噴煙が空を覆い、地面を歩くだけで靴底が焦げ付くようなこの地で、カエン帝国の防衛軍は待ち構えていた。
「来るぞ! 氷の国の連中が、溶けかかった氷の上を這って……な、なんだ、あれは……っ!?」
迎撃に備えていた将軍たちが目にしたのは、想定していた「苦戦」とは無縁の光景だった。
ジークフリートが歩を進めるたび、その足元から放射状に白銀の霜が走り、灼熱の大地が「悲鳴」を上げて凍りついていく。
上空からは、彼の魔力に引き寄せられた絶対零度の寒気が降り注ぎ、立ち込めていた火山灰を真っ白な雪へと変えていた。
「……暑いな。リリアーナの肌に一滴でも汗をかかせるとは。不愉快極まりない」
ジークフリートは、涼しい顔でリリアーナの腰を抱き寄せていた。
彼の周囲だけは、特注の冷却結界によって常に20度に保たれており、カエン大陸の熱気など、彼にとっては「不快なノイズ」に過ぎない。
「旦那様、少しやりすぎですわ。ほら、向こうの兵士さんたちが寒さで震えていますよ?」
「……構わん。私の妻をバッテリー(・・)などと呼んだ無礼、この大陸全体の熱を奪い尽くして精算させる」
ジークフリートが右手を一振りすると、大気中の熱エネルギーが急速に吸収され、彼の指先へと集束していく。
奪われた熱は、そのままジークフリートの魔力の糧となり、さらなる猛吹雪を発生させるエネルギーへと変換された。
「パパ、すごい! ここの空気、僕の焔の『餌』がいっぱいだね!」
エリアスが楽しげに指を動かすと、周囲にいたカエン軍の魔導師たちが放った火炎魔法が、空中でエリアスの口元へと吸い込まれるように消えていった。
「……っ、馬鹿な! 我が国の火炎魔法が効かないどころか、吸い取られているだと!?」
「うん、これ美味しいよ! ママ、あっちの大きい火山も食べていい?」
エリアスは無邪気に、カエン帝国の象徴である活火山を指差した。
その光景を、遠く離れたカグツチの神殿から遠視の魔術で見ていた巫女カグツチは、震える手で祭壇を握りしめていた。
「……ありえない……。氷の魔力が、我が太陽の魔力を『捕食』しているというの……!? まるで、世界そのものが彼らに跪いているかのような……」
「……カグツチと言ったか」
ジークフリートの視線が、はるか遠くの神殿を、そしてカグツチの瞳を正確に射抜いた。
声は届かずとも、魔力の波動が彼女の脳内に直接響き渡る。
「……リリアーナを欲しがるほど、熱が余っているのだろう? ……ならば、私の氷がすべてを飲み込むまで、精々その『太陽』を大事に抱えて待っているがいい」
カエン大陸。
かつて一度も「雪」を見たことがなかったその地で、今、溶けることのない白銀の結晶が、全てを白く塗り潰し始めていた。
カエン大陸、まさかの「上陸即・極寒地帯化」!
「相手の属性を逆利用する」という、ジークフリート様とエリアス様の親子コンビが強すぎますわね。
エリアス様にとって、火山は「おやつ」のようなものなのでしょうか(笑)。
* 「閣下、奥様を汗ばませたくない一心で大陸の気温を下げるの、溺愛が物理すぎて好き」
* 「エリアス君、火炎魔法を食べて『美味しい』って……カエン帝国、天敵すぎませんか?」
* 「カグツチ様、早くも心が折れそう。ざまぁの開幕ですね!」
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次回、第44話「火の神の神殿、氷の装飾を施しましょう」
霧島 結衣でした。




