第41話: 帝国の日常と、海を越えて届く不穏な招待状
アイスベルク帝国の帝都クリスタル・パレス。
かつて孤独な公爵領だったこの地は、いまや「世界の心臓」と呼ばれ、白銀の結晶で作られた摩天楼が立ち並ぶ、世界で最も美しく、そして最も安全な聖域となっていた。
その最上階、皇帝の私室。
「……パパ。朝から廊下に『絶対零度の防音結界』を張るのはやめてくれないかな。家庭教師の先生が、今朝もパニックを起こして気絶していたよ」
呆れたような、けれど鈴の音のように澄んだ声。
そこに立っていたのは、銀髪を緩く編み、鋭い灰青色の瞳に不遜な笑みを浮かべた十五歳の少年――皇太子エリアスだった。
かつての幼さは消え、いまや社交界の令嬢たちがその名を聞くだけで失神すると言われる美貌の持ち主。だがその本質は、ジークフリートの「独占欲」とリリアーナの「魔力量」を純粋培養した、手に負えないサラブレッドである。
「……エリアス。昨日も言ったはずだ。母上の安眠を妨げる雑音は、この帝国に一デシベルたりとも存在してはならない。……それから、許可なくこの部屋に入るな。……今、私はリリアーナに『朝の魔力供給』をしている最中だ」
玉座に座るジークフリートは、以前よりも増した威厳を纏いながら、その腕の中にリリアーナを完璧に閉じ込めていた。
「まあ、旦那様。エリアスをあまりいじめないでください。……おはよう、エリアス。今日も素敵なネクタイね」
リリアーナは十年前と変わらぬ、いや、さらに磨きがかかった「世界の熱源」としての輝きを放ちながら、息子に微笑みかける。
「おはよう、ママ。……パパ、その『魔力供給』って、ただママを抱きしめて離さない口実でしょ? ……ズルいよ。僕だって、今日はママと一緒に新作の魔導具の実験をする約束なんだ」
「却下だ。……リリアーナの熱は、私の氷を制御するために不可欠なもの。……息子であろうと、共有するつもりはない」
バチバチ、と父子の間で視線が火花を散らす。
十五歳になり、パパに匹敵する魔力を持ち始めたエリアスは、いまやジークフリートにとって「世界で最も厄介な恋敵」へと成長していた。
そんな親子(?)の微笑ましい(?)小競り合いを切り裂くように、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「閣下! ……いえ、皇帝陛下! 皇后様! 遊んでいる(・・・・)場合ではありません!」
飛び込んできたのは、帝国の最高政務官となったブリギッテだ。
彼女の手には、燃えるような紅い羽根が添えられた、触れるだけで火傷をしそうなほど熱を帯びた「火の鳥の書状」が握られていた。
「……ブリギッテ。私の神聖な家族の時間に土足で踏み込んだ罪は、北極海での三ヶ月の政務に値するぞ」
「そんな脅しは聞き飽きました! ……それより、これをご覧ください。外海の果て、伝説の大陸『カエン』からの親書です!」
ジークフリートが不機嫌そうに書状を受け取り、その封を切る。
瞬間、部屋の中に黄金の炎の文字が浮かび上がった。
『北方の大陸を統べる、偽りの皇帝へ。
我が「カエン帝国」の太陽は、今やその寿命を迎えようとしている。
噂に聞く「世界の熱源」――リリアーナ皇后の身柄を、我が国の儀式の触媒(ルビ:バッテリー)として提供せよ。
さもなくば、我が国の軍勢が海を越え、貴殿の冷え切った聖域を灰に帰すであろう。
――カエン帝国・太陽巫女 カグツチ』
静寂。
次の瞬間、パレス全体の温度がマイナス50度まで急降下し、窓ガラスに一斉に幾何学模様の霜が走った。
「……リリアーナを、『バッテリー』だと?」
ジークフリートの灰青色の瞳から光が消え、絶対零度の殺意が溢れ出す。
彼が軽く握りしめただけで、不滅のはずの火の書状が、灰さえ残さず凍てつき、粉々に砕け散った。
「パパ。……あの人たち、ママを物みたいに言ったね」
エリアスの背後から、黄金の劫火が立ち上がる。
それはジークフリートの冷気と混ざり合い、部屋の中に「破壊の嵐」を巻き起こした。
「……エリアス。……軍の準備をしろ。……ブリギッテ、外海の航路をすべて封鎖しろ。……私の妻を欲しがるほど、自分たちの国が熱すぎるというのなら……。……大陸ごと、海の底で冷やしてやることにしよう」
皇帝の宣戦布告。
アイスベルク帝国の平和な日常は終わり、
家族の絆を試す、真の「外征」が今、幕を開ける。
第3部、開幕いたしました!
15歳になったエリアス君の「パパ譲りのヤバさ」、いかがでしたでしょうか。
そして、新キャラ「太陽巫女カグツチ」の不遜な要求。
リリアーナ様を「生贄」扱いした者たちの末路は、皆様も既にご存知のはず……。
* 「エリアス君、イケメンすぎてパパと並ぶと画面が豪華すぎる!」
* 「カエン帝国、地雷を踏み抜くスタイルに期待しかない(笑)」
* 「閣下が『バッテリー』って言葉にキレてるのが最高にパパ」
と感じてくださった方は、ぜひ【ブックマーク】の継続、そして第3部への【応援評価】をお願いします!
皆様の熱量が、ジークフリート様の冷気をさらに研ぎ澄ませます。
次回、第42話「宣戦布告への『返礼』――海を氷の道に変えて」
霧島 結衣でした。




