第39話: 世界を救う「共有」の儀式
ソルステイム王国の国境、かつて聖十字支部があった「氷の墓標」の前。
そこには、凍死の恐怖に震える諸国の王侯貴族と、権威を失い地面に這いつくばる教団の枢機卿たちが集結していた。
彼らの目の前には、空を覆い尽くすほどの巨大な「白銀の氷翼」を広げ、浮遊する一人の男の姿がある。
「……公爵閣下! どうか、どうかこの呪われた冬を終わらせていただきたい!」
一国の王が、雪の中に膝をついて叫ぶ。
ジークフリートは、その男をゴミを見るような一瞥で切り捨てた。
「……呪いだと? 笑わせるな。この冬は、お前たちがリリアーナから奪おうとした温もりの『欠落』に過ぎない。……自ら招いた冷気に、今更何を喚く」
ジークフリートの隣には、黄金のオーラを纏ったリリアーナと、その手を引くエリアスが並んでいた。
三人の周囲だけは、この世のものとは思えないほど穏やかな春の陽気が漂っている。
「……旦那様。……もう、十分ではありませんか?」
リリアーナがそっとジークフリートの腕に触れる。その指先の熱が、彼の苛烈な殺意を凪がせていく。
「……リリアーナがそう言うのなら、一度だけ機会を与えよう」
ジークフリートが指先を鳴らすと、王たちの目の前に、氷でできた「契約書」が出現した。
「……一つ。中央教団を解体し、リリアーナを『真なる国母』として全国家が跪くこと。……二つ。全国家の魔力資源の半分を、アイスベルク公爵家に無期限で献上すること。……三つ。今後、我が家族の安らぎを乱す兆候があれば、その瞬間にその国を大陸ごと永久氷壁の下に沈める。……以上だ」
「そ、そんな!? それは実質的な支配ではありませんか!」
枢機卿の一人が反論しようとした瞬間。
ドォォォォォン!!
ジークフリートの背後の氷翼が、一瞬で周囲の山々を粉砕し、更地へと変えた。
「……拒否しても構わない。……その代わり、明日からは太陽の昇らない永遠の夜を、お前たちだけで楽しむがいい」
「ひっ……! し、署名します! 今すぐに!」
王たちは競うようにして、自らの血を混ぜたインクで契約書に名を刻んだ。
世界が、一人の男の「独占欲」に屈した瞬間だった。
「パパ、もういい? 僕、お腹空いちゃった」
エリアスがジークフリートのマントを引っ張る。
先ほどまで神の如き威圧感を放っていたジークフリートは、一瞬で「ただの父親」の顔に戻った。
「……ああ。……エリアス、リリアーナ。……仕上げをしよう」
三人が手を取り合い、空を見上げる。
ジークフリートの「絶対零度の魔力」が、リリアーナの「太陽の魔力」を器として包み込み、エリアスの「凍らない焔」がそれを着火させる。
シュゥゥゥゥゥ……ッ!!
天空から、白銀と黄金が混ざり合った「光の雨」が降り注いだ。
その雨が触れた瞬間、五年間凍りついていた大地から一斉に芽吹きが始まり、猛吹雪が消え、雲の隙間から本物の太陽が顔を出した。
それは、世界を救う儀式。
だが同時に、この世界の王が「誰であるか」を骨の髄まで分からせるための、究極の見せしめでもあった。
「……さあ、リリアーナ。……世界は整った。……これからは、誰も君を傷つけない。……誰も、君を『魔女』とは呼ばせない」
ジークフリートは、リリアーナを横抱きにし、ひれ伏す王たちを足蹴にするようにして、自分たちの楽園(城)へと戻っていく。
かつて疎まれた聖女と、恐れられた公爵。
彼らは今、世界の理そのものとなったのだ。
世界を膝下に従わせたジークフリート様、いかがでしたでしょうか。
「救ってやるが、お前らは俺の所有物だ」という、これぞ最強のヒーローの姿!
リリアーナ様の慈愛が世界を溶かし、ジークフリート様の独占欲が世界を縛る。
この絶妙なバランスが、アイスベルク家の新しい秩序ですわね。
* 「閣下の『拒否してもいいぞ、死ぬだけだがな』というスタンスが最高にロック!」
* 「エリアス君の『お腹空いた』で空気が一変するの、可愛すぎて語彙力が……」
* 「ついに世界中がリリアーナ様を崇めることになって、スカッとしたわ!」
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次回、第40話(第2部・第2章 完結)「銀嶺に咲く、家族という名の永遠」
真の平和を手に入れた家族の、最高に激甘な大団円。
霧島 結衣でした。




