第38話: 神へのざまぁ:概念さえも凍てつかせて
遺跡の最深部。砕け散った氷の破片が、星屑のように宙を舞っている。
私の腕の中には、力尽きて眠るエリアスと、涙を浮かべて私を見つめるリリアーナ。
二人の温もりが、私の内側に残る「神の冷気」を、心地よい春の風へと変えていた。
『……愚かな……器よ。……神の永遠を捨て、……いつか朽ちる肉人の愛を選ぶというのか……』
虚空から、形を失ったユミルの声が、呪詛のように響く。
神の意志は、まだ私の魂の片隅に、未練がましく縋り付いていた。
「……永遠など、最初から興味はない」
私はリリアーナを左腕で抱き寄せ、右手を虚空にかざした。
私の瞳は、灰青色の中に黄金の光彩が混ざり合い、もはや人でも神でもない、未知の領域の魔力を放っていた。
「……私の家族に、その穢れた意志を向けた罪は重い。……お前の望んだ『絶対的な静止』を、望み通り与えてやろう」
『……何を……!? 器が、神を凍らせるというのか……!?』
「黙れ。……お前はもう、私を支配する神ではない。……ただの、使い勝手のいい『力』に過ぎない」
私が指先を鳴らした瞬間。
遺跡全体が、これまでの蒼白い冷気ではなく、眩いばかりの**「白銀の氷」**に飲み込まれた。
それは、リリアーナの太陽の熱を内包した、私の新しい魔力。
神の概念さえも凍結させ、自身の意思に従わせる――「支配」の力。
『……あ……あああああッ!! 我が、意志が……凍りつく……!? 神の永遠が、ただの質量に……ッ!!』
ユミルの悲鳴が、物理的な氷の軋む音に書き換えられていく。
自分を支配していた呪いが、今や私の一部として、完璧に飼い慣らされていく感覚。
私は、自分の中にあった「神の座」を力ずくで引きずり下ろし、それをリリアーナを守るための「盾」として再構築した。
「……さらばだ、古の幻影。……お前が愛した冬は、今日、私の妻が愛する春の糧となる」
ドォォォォォォォン!!
遺跡の中央に鎮座していた氷神の巨柱が、光の粒子となって霧散した。
神の威光は消え去り、そこにあるのは、ただの石造りの古い広場だけとなった。
「……旦那様……。……終わったのですか?」
リリアーナが、恐る恐る私の顔を覗き込む。
私は彼女の頬を優しく撫で、その柔らかい唇に、短く、けれど深い誓いの口づけを落とした。
「ああ。……もう、私の内側に、君を拒絶するものは何もない。……私はようやく、本当の意味で君の夫になれた気がする」
「……旦那様……っ。……おかえりなさい……!」
リリアーナが私の胸に飛び込んでくる。
その時、私の腕の中でエリアスが「ふわぁ……」と大きなあくびをして、瞳を開けた。
「……パパ? ……パパ、もう痛くないの?」
「……ああ。……お前のおかげだ、エリアス。……お前の言った通り、パパの半分は、お前でできているようだ」
私がそう言うと、エリアスは満足そうに笑い、私のマントをギュッと掴んだ。
「……よし。……帰ろう。……私たちの、楽園へ」
私が一歩足を踏み出すと、遺跡の外へと続く道に、白銀の冬薔薇が次々と咲き誇った。
神という概念さえも凍てつかせ、従わせた氷の王。
その力を手に入れた彼が最初にしたことは、
歩き疲れた息子を背負い、愛する妻の手を引いて、
夕暮れの雪原を、穏やかに歩むことだった。
世界を滅ぼすほどの力を持った男が、
世界で一番小さな「家族」という単位に、すべての愛を注ぎ込んでいる。
その光景こそが、神が最も恐れた、最強の「奇跡」だった。
神の概念さえも凍らせ、支配下に置いたジークフリート様、いかがでしたでしょうか。
「神を力として飼い慣らす」という、これ以上ない格上のざまぁ……。
そして、その強大な力を持って最初にするのが「おんぶ」という、パパとしての姿が堪りませんわね。
* 「閣下、神様を『使い勝手のいい力』扱いするの、傲慢すぎて最高!」
* 「リリアーナ様へのキスとエリアス君へのおんぶ、このギャップがたまらないわ」
* 「神の呪縛から完全に解放された二人に、本当の幸せが来たのね……!」
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次回、第39話「世界を救う『共有』の儀式」
神を支配したジークフリート様が、ついに「凍りついた世界」に手を差し伸べます。
ただし、そこには彼らしい「条件」が……!?




