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第34話: エリアスの『凍らない炎』の真価

「……リリアーナ様。……そして、氷の公爵閣下。……感謝の言葉もございません」


 客室のベッドで、セレーネがようやく身を起こした。

 エリアスのほむらによって凍傷が消えた彼女の肌には、瑞々しい生気が戻っている。

 だが、その瞳には依然として、深い絶望の影が張り付いていた。


「……私の国、ソルステイムは、もう……。……雪の重みで家々は潰れ、家畜は凍りつき、人々は最後の薪を求めて争っております。……教団は『聖女を差し出さなかった天罰だ』と言い捨てて逃げ出しました」


 セレーネは震える手でシーツを握りしめ、リリアーナにすがるような視線を向けた。


「……リリアーナ様。……貴女様のその温もりを、どうか、ほんの少しだけで良いのです。……私たちの国に分けてはいただけないでしょうか」


 リリアーナが言葉に詰まり、隣のジークフリートの顔を伺う。

 案の定、ジークフリートは氷の彫像のような無表情で、セレーネを突き放した。


「……断る。……リリアーナの魔力は、この城と、私たち家族を守るためだけに存在する。……余計なことに消費させ、彼女がまたあの深い眠りに落ちるリスクを冒すつもりはない」


「そんな……! ですが、このままでは数万の民が……!」


「……死ぬがいい。……他人の数万の命より、私はリリアーナの指先一つの温もりの方が重い」


 ジークフリートの「絶対的な非情」に、部屋の空気が凍てつく。

 だが、その重苦しい沈黙を、小さな、けれど凛とした声が打ち破った。


「パパ。……それなら、僕が行くよ」


「……何?」


 ジークフリートが、信じられないものを見るような目で息子を見下ろした。

 エリアスは、リリアーナの隣に立ち、小さな胸を張ってジークフリートを見上げている。


「……僕の焔は、ママの光みたいに疲れないんだ。……触るだけで、ポカポカになるんだよ。……僕が、あのお姉ちゃんの国を温めてきてあげる!」


「……正気か、エリアス! ……結界の外がどれほど過酷か分かっているのか! ……魔物もいれば、お前を奪おうとする悪党も腐るほどいるんだぞ!」


「大丈夫! ……僕、パパの剣の稽古で、一度も泣いたことないもん! ……それに、パパが作った『世界で一番強いおもちゃ』も持ってるし!」


 エリアスが腰に下げた、ジークフリート自作の(※過保護すぎて一振りで山を割るほどの魔力が込められた)魔剣をペシペシと叩く。


「……だめだ、絶対にだめだ! ……リリアーナ、言ってやってくれ! ……五歳の子供が、世界を救いに行くなどと、そんな狂った話があるか!」


 ジークフリート様が、リリアーナの肩を揺さぶって助けを求める。

 かつての魔王の面影はなく、ただの「息子が家出しようとしてパニックになった父親」そのものである。


「……旦那様。……落ち着いてくださいませ」


 リリアーナは、困ったように微笑みながらも、エリアスの真っ直ぐな瞳を見つめ返した。


「……エリアス。……外の世界は、この城みたいに優しくはないわ。……でも、あなたが本気で『誰かを温めたい』と願うなら、ママはそれを誇りに思うわ」


「リリアーナ!? 君まで何を――」


「パパ! ……僕、もう赤ちゃじゃないよ! ……ママを守るのがパパの仕事なら、パパが守ってる世界を温めるのが、僕の仕事なんだ!」


 エリアスの指先から、眩いばかりの『凍らない焔』が溢れ出し、部屋中に春の香りが広がった。

 

 それは、ジークフリートの拒絶を溶かし、リリアーナの慈愛を力に変える、新しい時代の輝き。


「…………っ。……ああ、もういい! 分かった、分かったからその魔力を止めろ!」


 ジークフリート様は、頭を抱えてソファに沈み込んだ。


「……ブリギッテ! カイル! ……今すぐ騎士団の全戦力を動員しろ! ……若君の外遊だ。……エリアスの歩く道から雪を一欠片ひとかけらも残さず、半径十キロ以内の魔物を絶滅させ、教団の残党は一人残らず氷漬けにしろ! ……私も行く! ……いや、私が行かなければ、エリアスが雪道で転んだら誰が抱き上げるんだ!」


「閣下……。……過保護がすぎて、もはや軍事侵攻の規模になっておりますが……」


 ブリギッテが呆れ顔で頷く。

 

 こうして、アイスベルク公爵家の「家族総出の世界救済」という名の、あまりにも過保護な遠征が幕を開けることとなった。

ジークフリート様のパニック、最高に笑えますわね。

「外遊」と言いつつ、実質的には世界を力ずくで平定しに行くようなものです。

エリアス様の可愛らしい決意が、頑固なパパを動かしました。


* 「閣下、心配しすぎだけど言ってることはただの魔王で好き(笑)」

* 「エリアス君の『パパが守ってる世界を温めるのが僕の仕事』って台詞、泣ける……」

* 「ブリギッテさんの苦労が第2部になっても減らなくて安心したわ」


と感じてくださった方は、ぜひ【ブックマーク】や【評価】をいただけますと幸いです。

皆様の評価が、エリアス様の「はじめてのおつかい(世界救済編)」を成功に導きます!


次回、第35話「氷神の囁き:公爵家の血の呪い」

遠征の途上、あまりに強大なエリアスの魔力が、眠れる「古の神」を呼び起こしてしまいます。

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