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第23話: 若君の洗礼式と、忍び寄る「月の影」

アイスベルク公爵領の大聖堂は、今日、白銀の光と祝福の鐘の音に包まれていた。


 生後三ヶ月を迎えた我が子、エリアスの洗礼式。

 祭壇の前に立つジークフリート様は、漆黒の礼装に身を包み、腕の中には真っ白な産着に包まれたエリアスを大切そうに抱いている。


「……リリアーナ。エリアスが私の指を握った。……これは、この子が『父上、この聖堂の彫刻は趣味が悪いですね』と合図を送っているに違いない」


「旦那様、流石にそれは深読みしすぎですわ。……でも、本当に良い子にしていますね」


 私は彼の隣で微笑み、エリアスの柔らかな銀髪に触れた。

 周囲の貴族たちは、かつての「氷の魔王」が、赤子の微かな動きに一喜一憂する姿を、驚愕と畏怖の入り混じった眼差しで見守っている。


 和やかな空気。けれど、それを切り裂くように、冷たく、ねっとりとした気配が聖堂に流れ込んだ。


「――おめでたい席に、招かれざる客が失礼いたしますわ」


 大聖堂の重厚な扉が開き、一人の女性が歩み寄ってきた。

 夜の闇を溶かしたような黒髪に、妖艶な紫の瞳。中央教団から遣わされた闇の聖女、カサンドラ・フォン・ノイシュタット。


 彼女が纏う空気は、ジークフリート様のそれとは違う、不吉で、底の見えない冷気だった。


「公爵閣下。……そして、聖女様。教団より、若君の誕生を祝いに参りました」


 カサンドラは優雅に膝をつく。だが、その視線はエリアスではなく、ジークフリート様の顔に、蛇のように絡みついた。


「……失せろ。私の家族の門出に、不浄な者が立ち入るなと言ったはずだ」


 ジークフリート様の声が、一瞬で絶対零度まで下がる。

 だが、カサンドラは怯むどころか、わざとらしく胸元を強調するように身を乗り出し、艶然と微笑んだ。


「まあ、冷たい。……閣下、貴方はご存じのはず。……貴方のその深い『氷の孤独』を本当に理解できるのは、光り輝く太陽リリアーナではなく、同じ闇を知る私だけだということを」


 カサンドラが、ジークフリート様の腕に指を伸ばそうとする。

 彼女の指先から放たれるのは、男を狂わせる「魔性の冷気」。


「……その太陽に焼かれて、貴方はいつか消えてしまう。……私なら、貴方の冷たさをそのまま愛してあげられますわ。……その子供も、私との間に作り直せば――」


 その瞬間、聖堂内のすべてのロウソクが、パキィッ、と音を立てて凍りついた。


「……勘違いするな、下衆が」


 ジークフリート様はカサンドラを一瞥もせず、ただ、彼女の指が届く前にエリアスを私の腕へと預け、一歩前へ出た。


「……私の氷が『孤独』だと? ……笑わせるな。……私の氷は、リリアーナの熱を受け止めるための『器』だ。……お前のような、ただ凍えているだけの死肉と一緒にするな」


「っ……!? なぜ、私の誘惑が……」


「……リリアーナの淹れた茶よりも温くない言葉など、私の耳には届かない。……ブリギッテ、この女を今すぐ連れ出せ。……神聖なエリアスの視界に、これ以上の汚物を映すな」


「はっ! 喜んで!」


 ブリギッテが容赦なくカサンドラの腕を捻り上げ、引きずっていく。

 「信じられない……!」「あんな女を、公爵閣下が相手にするはずがないでしょうに」と、参列した貴族たちの嘲笑がカサンドラに突き刺さる。


「……リリアーナ、すまない。……手が汚れた。……エリアスに触れる前に、君の熱で浄化してくれ」


 ジークフリート様は、私の手を握り、子供のように縋り付いてきた。

 あんなにかっこよく敵を蹴散らした直後なのに、私にだけは見せるこの「弱さ」と「執着」。


「ふふ、はい、旦那様。……おかえりなさいませ」


 私が彼の頬を包み込むと、彼は満足そうに目を細め、再びエリアスを抱き上げた。

 その時、エリアスの小さな手が、ジークフリート様の指をギュッと強く握りしめた。


 ――その瞬間、エリアスの指先から、真っ白な「氷の花」が咲き、同時にそれが黄金の「焔」となって燃え上がった。


「……旦那様、見てください! この子の魔力が……!」


「……ああ。……氷を燃やす、太陽の焔。……この子は、私たちの愛が正しいことを証明するために生まれてきてくれたのだな」


 洗礼式に現れた「影」は、皮肉にも、家族の絆をより強固なものにした。

 だが、カサンドラが去り際に残した呪詛のような視線は、まだ消えてはいなかった。


 氷の王と太陽の聖女。そして、その二つの力を継ぐ暁の王子。

 彼らを守るための戦いは、より過激に、より甘美なものへと加速していく。

「誘惑を0.1秒で論破する」ジークフリート様、いかがでしたでしょうか。

「茶よりも温くない」というパワーワード、これぞ溺愛ヒーローの鏡ですわね。

エリアス様の「氷を燃やす焔」の発現、これからのチート成長も楽しみです。


「カサンドラ様、もっとボロボロにしてほしい!」

「公爵様がリリアーナ様に甘えるギャップに萌える……!」

と感じてくださった方は、ぜひ【評価】や【ブックマーク】をお願いします。

皆様の熱量が、物語をさらに「激甘」な方向へと加速させます!


次回、第24話「『お前の冷気など、雪の欠片にも及ばない』」

敗走したカサンドラが、今度は教団の武力を背景に「強硬手段」に出ようとしますが……?

霧島 結衣でした。

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