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第22話: 「孫の顔を見せなさい」――地に落ちた伯爵の厚顔無恥

「……閣下。門前に、汚物・・が迷い込んでおります」


 ブリギッテの報告に、ジークフリートはリリアーナの耳を塞ぐようにして、不機嫌そうに眉を寄せた。

 アイスベルク公爵邸の正門前には、かつての華やかさは微塵もなく、薄汚れた馬車が一台。

 そこから這い出してきたのは、リリアーナを地獄に突き落とした元・義母と義妹のエリーゼだった。


「リリアーナ! 出てきなさい! この親不孝者が!」


 門の外で喚き散らす義母の声は、以前よりもずっと下卑て、必死さが滲んでいる。

 ジークフリートの命により、エルトマン家はすべての融資を絶たれ、今は借金取りに追われる日々だという。


「……旦那様。……私、行って参ります」


 リリアーナが立ち上がろうとすると、ジークフリートはそれを許さず、彼女を軽々と抱き上げた。


「……歩くな。……汚泥のような連中の声を聞くだけで、君の中の尊い命に悪影響だ。……私が直接、塵一つ残さず片付けてやる」


「でも……」


「……黙って、私の胸に顔を埋めていろ」


 ◇◇◇


 正門が開くと、そこには怒り狂う「氷の魔王」が立っていた。

 腕には、真っ白な毛皮に包まれた「至宝」を抱いて。


「……閣下! ああ、閣下! 娘が、リリアーナがご迷惑をおかけして……!」


 義母が媚びるような笑みを浮かべ、ジークフリートの足元へ擦り寄ろうとする。

 だが、彼女が踏み出した一歩先で、大地が爆ぜるような音を立てて凍りついた。


「……一歩でも近づけば、その足を根元からへし折って凍らせるぞ」


「ひっ……! 閣下、何を……。私たちはリリアーナの家族ですよ? 彼女が身籠ったと聞いて、こうしてお祝いに……」


「お祝い、だと?」


 ジークフリートの瞳から、すべての光が消えた。

 

「……リリアーナを納屋に閉じ込め、腐った食事を与え、私への『生贄』として差し出したのは貴様らだろう。……よくもその口で、家族などと抜かしたものだ」


「それは……あの子を鍛えるための教育で……! それに、あの子が今こうして幸せなのは、我が家が閣下のもとへ送ってあげたおかげでしょう? ……礼金として、せめて金貨三千枚、いえ、領地の一部を譲るのが筋というものですわ!」


 あまりの言い草に、ジークフリートの背後でブリギッテが剣の柄を握り締める。

 だが、彼よりも先に口を開いたのは、ジークフリートの腕の中にいたリリアーナだった。


「……お母様。……いえ、エルトマン夫人」


 リリアーナは、ジークフリートの胸から顔を上げ、冷徹なまでに静かな瞳でかつての家族を見据えた。


「……私は、あなたたちを許しません。……私が守りたいのは、私を愛してくださる旦那様と、この腕の中にいる小さな命だけです。……あなたたちのために流す涙は、あの日、雪の中で枯れ果てました」


「な、なんですって!? この恩知らずが! 誰のおかげで――」


 エリーゼが逆上して掴みかかろうとした瞬間。


 ゴォォォォォン!!


 空から巨大な氷柱が降り注ぎ、彼女たちの周囲を檻のように囲い込んだ。

 ただの氷ではない。魔力を吸い取り、体温を奪う「死の氷」だ。


「……ブリギッテ。こいつらを北の国境の鉱山へ叩き込め。……死ぬまで、冷たい土を掘り続けて、リリアーナが味わった孤独の一部でも味わうがいい」


「閣下! お助けを! リリアーナ、助けて……っ!」


「……二度と、私の妻をその汚い名前で呼ぶな」


 ジークフリートが指を鳴らす。

 その瞬間、彼女たちの声は氷の中に封じ込められ、二度と誰の耳にも届かなくなった。


 城門が閉ざされ、再び静寂が戻る。

 ジークフリートはリリアーナを降ろすと、その頬を震える手で包み込んだ。


「……怖くなかったか、リリアーナ。……あんなゴミを見せてしまって、すまない」


「いいえ。……旦那様が守ってくださると、信じていましたから」


 リリアーナは、彼の胸にそっと耳を当てた。

 激しく、けれど愛おしく打たれる鼓動。


「……さあ、リリアーナ。……温かいお茶を飲もう。……ゴミ掃除の後は、君の笑顔で私の心を浄化してもらわなくてはならない」


 公爵様の独占欲は、今や「排除」という名の最強の剣を手にしていた。

 この城の平穏を脅かす者は、神であろうと、過去の遺物であろうと、容赦なく凍てつかされる。

 それが、氷の王の選んだ「家族の守り方」だった。

実家への「ざまぁ」、いかがでしたでしょうか。

「一秒で失せろ」という公爵様のスタイル、まさに異世界恋愛の醍醐味ですわね。

リリアーナ様が自ら「許さない」と宣告する成長も、物語の大きなポイントです。


「公爵様、鉱山送りとか容赦なくて最高!」

「リリアーナの冷たい視線にゾクゾクした……!」

と感じてくださった方は、ぜひ【ブックマーク】や【評価】をいただけますと幸いです。

皆様の評価が、次の「スカッとする展開」への原動力となります。


次回、第23話「若君の洗礼式と、忍び寄る『月の影』」

平和な日常に現れる、新たなる不穏な足音。

エリアス様の力が、社交界を震撼させます。

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