表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/70

第21話: 氷のパパと、暁の小さな太陽

「……ブリギッテ。その足音はなんだ。リリアーナと『暁のエリアス』が驚くだろう」


「……閣下。私は今、絨毯の上を猫よりも静かに歩いて参りました。それから、まだお生まれにもなっていない若君に、勝手に名前を付けるのはお止めください」


 アイスベルク公爵邸の執務室。

 そこは今、かつてないほど「物理的」に静まり返っていた。

 ジークフリート様が、リリアーナの安眠を妨げぬよう、城中の壁という壁に厚さ十センチの「氷の防音壁」を張り巡らせたからだ。


 当のリリアーナは、閣下の膝の上で、特注の柔らかいクッションに包まれて幸せそうに微睡まどろみの中にいる。


「……見てみろ、ブリギッテ。今日のリリアーナは、昨日よりも0.5度ほど体温が高い。……これは、この子が私に似て、内なる情熱を秘めている証拠だ」


「それは単に、閣下が朝から彼女を抱き締め続けているからでは……?」


 ブリギッテの正論を、ジークフリートは氷点下の視線で一蹴した。

 彼の机の上には、領地の予算書ではなく、王都から取り寄せた最新の『胎教と魔力制御の相関性』という分厚い魔導書が積み上げられている。


「……教団の動きはどうなっている」


 リリアーナの髪を愛おしそうになぞりながら、ジークフリートの声が急に温度を下げた。


「……芳しくありません。中央聖教の法王直属、『断罪の聖騎士団』が国境付近に集結しています。彼らは、リリアーナ様が閣下の呪いを解き、新しい命を宿したことを『禁忌の混ざり合い』と断じているようです」


「……ふん。勝手に言わせておけ。……彼らが恐れているのは、私の氷と彼女の太陽、その両方を引き継いだ『真の王』の誕生だ」


 ジークフリートは、リリアーナのまだ平らなお腹に、大きな、けれど羽毛のように優しい手つきで触れた。


「……私の絶望を終わらせてくれたこの子を、災厄などと呼ばせるものか。……もし教団がこの城の門を叩くというのなら、その瞬間に、大陸の半分を永久氷壁で分断してやる」


「……閣下。それは流石に、冗談ですよね?」


「冗談に見えるか? ……私は今、かつてないほどに正気だ。……愛する妻と、我が子の眠りを守るためなら、私は喜んで『世界を凍らせる魔王』にでもなろう」


 その時、リリアーナが「ん……」と小さく声を上げて、ジークフリートの胸に顔を埋め直した。

 

 一瞬で、ジークフリートの殺気が霧散する。

 彼は慌てて声を潜め、この世で最も尊い宝物に触れるような手つきで、彼女の肩をトントンと叩いた。


「……よしよし、リリアーナ。……大丈夫だ。……神も、教団も、雪のひと欠片さえも、君たちの眠りを邪魔させはしない」


 ブリギッテは、その光景を眺めながら、深く、深いため息をついた。

 冷酷公爵は、今や「最強の過保護パパ」へと完全にバグり散らかしてしまったのだ。


 窓の外では、黄金の紋章を掲げた教団の軍勢が迫っている。

 けれど、この氷の城の内側には、世界で一番甘く、そして誰にも侵すことのできない「絶対聖域」が築かれていた。


「……さあ、リリアーナ。……次の食事の時間だ。……最高級の魔力草を煮込んだスープを用意させた。……君はただ、私の腕の中で笑っていればいい」


 第2部、開幕。

 それは、一人の女性への愛が、次世代を守るための「狂気的な守護」へと加速する物語。

「パパ公爵様」の暴走、いかがでしたでしょうか?

「防音壁まで作っちゃうなんて、執着が斜め上すぎる!」

「早く教団を氷漬けにしてほしい!」

と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】や【評価】を。

皆様の応援が、エリアスの健やかな成長(と閣下のデレ加速)の糧となります。


次回、第22話「『孫の顔を見せなさい』――地に落ちた伯爵の厚顔無恥」

没落した実家が、まさかの再登場。

ジークフリート様の、一切の慈悲がない「ゴミ掃除」をお見逃しなく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ