第20話: 溶け合った魂と、黎明の予感
あの日、私たちが「一生消えない体温」を分かち合ってから、数日が過ぎた。
ヴァイス・シュロスを包んでいた刺すような冷気は、今や嘘のように穏やかになり、窓の外では名もなき冬の花が、雪を割って芽吹き始めている。
それは、ジークフリート様の氷の魔力と、私の太陽の熱が、この地で完璧な調和を奏で始めた証だった。
「……リリアーナ。……また、一人で歩こうとしているのか」
背後から、低く、甘く、そして抗いようのないほど独占欲に満ちた声が降ってくる。
振り返るよりも早く、漆黒のマントが私の肩を包み込み、逞しい腕が私の腰を磁石のように引き寄せた。
「旦那様。……私はただ、お庭の花を見に行こうと……っ」
「……許可できない。……今の君は、一秒たりとも私の視界から外れていい存在ではないのだ」
ジークフリート様は私の首筋に顔を埋め、深く、深く、その香りを吸い込んだ。
かつての冷酷公爵はどこへやら。今の彼は、隙あらば私を抱き締め、他の男(たとえ騎士団のカイルたちであっても)が私に近づこうものなら、領地全土を凍てつかせるほどの殺気を放つ「溺愛の怪物」へと豹変していた。
「……旦那様。……くすぐったいですわ」
「……黙れ。……君の熱が、私の指先から心臓までを溶かしていくこの瞬間だけが、私の正気を繋ぎ止めているんだ」
彼は私の手をとり、その指先に、焼き付けるような深い接吻を落とした。
けれど、その時。
ふ、と視界が白く染まった。
「……っ」
激しい眩暈に襲われ、私は彼の胸の中で崩れ落ちそうになる。
「リリアーナ!? ……おい、しっかりしろ! まさか、また魔力が……っ」
「……いいえ。……大丈夫です。ただ、少しだけ……お腹のあたりが、不思議なほど『熱い』んです」
私の言葉に、ジークフリート様の瞳が驚愕に大きく見開かれた。
彼は震える手で、私の腹部にそっと触れる。
「……この魔力、は……。……君の熱でも、私の氷でもない……。……二つの力が混ざり合い、新しい命として……鼓動しているというのか?」
その瞬間、部屋の窓ガラスが共鳴するように微かに震えた。
私たちの愛が、一つの完成された「個」として、この世に産声を上げようとしている。
――けれど、その奇跡の知らせと同時に、城門からブリギッテ様が悲痛な顔で駆け込んできた。
「閣下!! 報告です! ……中央教団が、全聖騎士団の動員を決定しました! 彼らはリリアーナ様を『神を冒涜する魔女』として、そしてそのお腹に宿る御子を『災厄の種』として、武力行使による奪還を宣言しております!」
静寂。
そして、次の瞬間――。
ドォォォォォン!!
ヴァイス・シュロス全体を、見たこともないほど強大で、けれどどこか「守護の慈愛」に満ちた白銀のオーロラが包み込んだ。
ジークフリート様の灰青色の瞳に、かつての絶望ではない、守るべきものを得た「真の王」の苛烈な光が宿る。
「……魔女だと? 災厄だと? ……ふざけるな」
彼は私を、そして私の中に宿る小さな命を、この世の誰よりも、神よりも過保護に抱きしめた。
「……リリアーナ。……案ずるな。……君も、この子も、私の魂を賭けて守り抜く。……世界が私たちを拒むというのなら、この大陸すべてを永遠の冬へ閉ざしてでも、君たちの安らぎを独占してみせる」
それは、愛という名の宣戦布告。
冷酷公爵と呼ばれた男の、本当の「戦い」は、ここから始まるのだ。
氷の城に灯った、小さな、けれど決して消えることのない黎明の光。
その光を巡る、世界の運命を賭けた第2部が、今、幕を開ける。
第1部、完結! ……そして物語は、さらに激しく、さらに甘い「第2部」へ!
幸せの絶頂で判明した新しい命。そして、それを奪わんとする世界。
「なろう」読者の皆様、ここからの展開こそが、本当の「溺愛」の真骨頂です。
「公爵様、パパになるの!? でも教団が許せない!」
「リリアーナ、負けないで! 旦那様と一緒に世界を黙らせて!」
と感じてくださった方は、ぜひ今のうちに【ブックマーク】の継続、
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第2部・第21話「氷のパパと、暁の小さな太陽」にて、またお会いしましょう。
霧島 結衣でした。




