第十一話 「永遠にあなたとともに」
ヘイゼルを助けに来た。
マスカルノグの群がヘイゼルを囲み、刃を掲げている!
これはマズイ。
俺は瞬間的な速さでヘイゼルの前へ移動。
そしてマスカルノグを瞬殺し、あっという間に殲滅する。
「ヘイゼル、大丈夫かい?」
俺はヘイゼルに手を差し出し、ヘイゼルはそれに掴まる。
華奢で柔らかい色白の手だった。
「あ、アビスさん!」
「なんだい?そんなに頬を赤らめて」
「す、好きです!!」
「ごめんよ。俺には好きな人がいるんだはっ!」
そして騎士団に戻り、空色髪の少女が俺に話しかけてきた。
「アビスくん。強いんだね。結婚しよ」
「うん。そうしよう」
──という妄想をした。
周囲にヘイゼルの姿はなく、探す範囲を広げた。
分断された壁の向こうで何が起きていたのか予測も付かない。
あの赤髪の少女は土を操っていたが、地面の中で生き埋めにされているとか絶対に無いと信じたい。
空を見上げると無限に広がる蒼穹と、黒い鳥が点々と羽ばたいている。
いや、鳥はこの森から次から次へと羽ばたいている。
地震でも起こるのだろうか。
俺は鳥の飛んだ場所を目指して走り出した。
エテルナ大森林。
ルナリア王国最大の森で開拓は全く進んでいない。
足場も悪く、木がほとんどで動きにくい。
しかし、しばらく進んだ先で木が一定の方向を向いて倒れてるのを発見した。
まるで巨大な何かが通ったような跡だった。
それを追うように走る。
異常事態であると確信した。
明らかにやばいやつがいる。
けれど木の影に隠れてやり過ごせばいいし、最悪俺は死んでも死なない。
よしやろう。
できれば倒してやろう。
そして騎士団として認めてもらう。
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あの女に似ている。
イジメられている時に敵意の満ちた目をする癖に反抗しないところとか。
他人頼りなところとか。
アビスを追い詰める時、そう思った。
心なしか、顔もあの女に似ている気がする。
アビスを見てると前の自分とあの女を思い出すようで怒がこみ上げてくる。
殺したいが、アビスは騎士団の一員となった。
“同じ”騎士団同士の争いは禁じられており、団長からのペナルティが下される。
アイツにヘイゼルを任せておいてよかったのか。
「お前はなんで僕達の邪魔がしたいんだ?誤って殺してしまえばお前は」
「何を言ってるっすか?任務が騎士団員を傷付けることだったら何よりも優先されること、忘れたっすか?ドジっ子すね〜自分が一生かけて面倒見てあげてもいいっすよ?」
「任務か」
第三騎士団の目的が分からない。
俺等が受けているマスカルノグ残党討伐もハッキリ言って意味分からん。
こういったマスカルノグの大量出没の対応は大規模な部隊編成をすることが多い。
北からゾロゾロと来たマスカルノグ討伐作戦、その続きと言ったところだろうが、本来ならもっと人数を割くか一等級クラスの騎士が必要だ。
第三騎士団がルビナに俺等の妨害を強いるのは仮面野郎を生かしたいからだとしか思えないが?
「自分との結婚考えてくれてるんすか?」
「お前は僕のことが好きなのか?ちげぇだろ。できればザハール家に来た血の繋がりのない俺で妥協したいってだけなんだろ?
父さんも近親婚だったが母さんを愛していた。でも僕は同じ家の人間を愛するのは不可能だ。頭のおかしいお前らとは違う」
なんでザハール家の人間はこんなに頭がおかしいのか。
近親婚し過ぎて頭イカれたか?
「というかお前は本当に何しに来たんだ?」
「だから自分は時間稼ぎっす。こんなのところで美人ないとこを誑かす暇があるんすか?」
「だからなんの時間稼ぎだよ!しばくぞ」
コイツと話したくない!
アビスを残して俺がヘイゼル探せばよかった。
「あーいや、分かった。お前等の目的はフワリを完全に抹消することだろ。こうやってしてる間にフワリを誰かが襲っているとかな」
ヘイゼルという重荷があったとしても余裕でフワリなら返り討ちにするだろう。
と思っていたが、的を射てないのか俺の発言にルビナは小首傾げた。
「まじでなんなんだよ」
「もう自分、家に居たくないんすよ。だってこの間なんてお姉ちゃん敵に向かって「妾の夕食は貴様らの肉で肉じゃがじゃ!」とか言ってるんすよ。あー早く家出たいっす〜チラッチラッ」
「寮で暮らせばいいだろ」
「そういう問題じゃないっす」
さすがにもう付き合い切れない。
「ルビナ。もう行くぞ?」
「あーー待ってっす。縄解いてほしいっす」
「その縄なんの術式も刻まれてないぞ」
本来なら術式を使わせないための手錠や足枷を使うのだが、今回は普通の縄だ。
ザハール家の掟でザハール家同士の殺し合いは禁じられている。
ルビナも元から殺す気はなかったのだろう。
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何かが通った跡をそのまま辿った。
どちらから来てどちらに行ったのかは分からないので二分の一である。
…………ん?
人の声が聞こえた。
複数人いる。
俺は咄嗟に木陰に身を隠した。
全身黒色の布で身を隠し、顔も分からない。
そして何かから隠れるように木の影に座り込んでいた。
「神は言っている。我々は幸福であると」
「神は言っている。犠牲など存在しないと」
「神は言っている。彼女は救われるのだと」
気持ち悪。
この世界にもヤバイ宗教はあるらしい。
願いと代償の神でも崇めてんのか?
いや、それホラゲの話だろ。
いやあれは生活シミュレーションゲーム。
いやどうでもいいんだよそんなこと。
「神は言っている。撤退せよと」
撤退?
周囲に聞こえないように無線のような物を使っているのだろうか。
黒づくめの変な奴等はそそくさと消えていった。
俺は彼等がいた場所まで移動し、何をしていたかを確認する。
ヘイゼル?!
ヘイゼルと戦闘しているのは岩の装甲に身を包み巨大な仮面を装着している何か。
2.5mほどの身長。
マスカルノグと同じ類なのだろうか。
あの黒づくめの奴等がデカいのを誘導してきたのか。
いや、おかしい。
マスカルノグは群で行動する時、必ずボスが率いるという特性がある。
確かに道中にマスカルノグの群はいたが、マスカルノグ複数体とボスを生かしたまま引き剥がすなんてできるのだろうか。
もしくはボスが率いてるのではなく、ボスに通常個体が付いて行ってるだけなのでは?
そんなこと考えている場合ではない。
ヘイゼルは岩仮面による致死の打撃を紙一重で躱し続けている。
と思っていたが、正確には空間を捻り打撃と自分との間に僅かに空間を生むことで攻撃を避けている。
岩仮面の拳を回転するように躱し、その勢いで踊り出ると鉄の塊でぶん殴る。
アイツはヘイゼルとフワリに夢中だ。
イケる気がする。
俺はヘイゼルからもらった銀の短剣を逆手に持ち、できるだけ力が込もるように左掌に柄を合わせる。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!」
自分が出せる最大限の力を振り絞り、全力ダッシュの勢いで足の装甲に刃を立てた。
手応えは気持ち悪かった。
「アビスじゃないか。ノクトの方がよかったよぉ」
やかましいなこの精霊。
「逃げた方がいいんじゃないですか?」
「逃げられません!速すぎるんです」
ヘイゼルと意思疎通を図りつつ、ヘイトを分散しながら逃げ回った。
拳が俺に向かって飛んでくるが、俺は間一髪で回避する。
だがマズイ。
その勢いで転がってしまい、踏み出るのにワンテンポ遅れてしまった。
「……やばい」
その刹那、ヘイゼルが俺を蹴り飛ばす。
助かった。
けど背中があり得ないぐらい痛いっす。
「──っ!」
ヘイゼルに助けてもらえた。
それは良い。
しかしヘイゼルの足はそのせいで岩の拳の下敷きだ。
俺はもう一度銀の短剣で刃を立てた。
ヘイゼルは今動けない!
なら俺がヘイトを買うしかない!
岩の装甲は区切られており、その間に突き刺せば刺さるかもしれないと考えたがその仮説は間違っていた。
区切りに見えるものも岩の一部だった。
ただ動きやすくするための作りなのだろうか。
フワリはヘイゼルの足を治してみせた。
あれが負乗術なのか?!
「本体を空間ごと切り裂けないんですか?」
「そんなことできません!」
「なんで?」
「届かないんだよぉ!」
「じゃあ近づけばいいだろ!」
「そういう問題じゃないよぉ!」
庭園は魔術を使う上でなんのために必要なのだろうと思っていたが、おそらくそれは術式と魔法の稼動範囲を広げるためのものなのだろう。
つまり、空間に座標を設定する技術が必要!
「庭園は?」
ならフワリがこのデカブツを庭園に入れることができたなら破壊することができるだろう。
「ごめん!魔力ないよぉ!」
終わったぜ☆
──刹那、バキッ!という鈍い骨髄音が自分の身体の中で響いた。
俺は岩の拳を側面から受けてしまった。
左腕を挟んでいたが、左腕とともに肋骨もやられているだろう。
そして殴られ吹き飛び、背中を木に強打した。
俺は呼吸困難に陥り、パニック状態になってしまった。
なんだ……意識が……。
死ぬのか?また。
フィアのために強くなるって決めたのに死ぬのか?
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精霊は魔力が尽きると死ぬ。
アビスが合流する前まで、フワリが私とグラーヴマスカルノグの拳との間に空間を生み出すことで私を守っていた。
そのせいで魔力が枯渇している。
私が空象術の術式に魔力を通すとき、フワリの身体を経由しなければならない。
これは契約によって術式を使う権利を与えられたものである一方、フワリの身体をさらに酷使するものである。
契約という糸から魔力を通してフワリの身体を巻き込む。
その際、少からずフワリの魔力も混じってしまう。
つまり私の手でフワリを殺すかもしれないということ。
アビスさんはグラーヴの一撃をモロにもらってしまっていて動けない。
ここから空間の圧を発生させて遠くに吹き飛ばせばアビスさんを逃がせる。
けれどこれはリスクが高過ぎる。
アビスさんとフワリの両方を死なせてしまうかもしれない。
決断できない。
──逃げ道がない!
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ヘイゼル・エレシア。
私はアルテミス公国の辺境の村に生まれた。
物心続いた頃から耳にしていた物はお父さんとお母さんの怒声。
両親は常に喧嘩していた。
喧嘩内容はハッキリと覚えていないけれど、どうしてもその光景は忘れられない。
私にとって唯一休める場所は村の近くにある海だった。
ルナリア王国を中心とするセレスティア大陸の北部に、アルテミス公国は位置していて、年のほとんどが乾燥していて寒い。
そんな気候地帯にも関わらず私は毎日のように海に通った。
海に行き、砂浜を裸足で歩いては心の中で冷たいと嘆く。
けれど家よりも居心地よかった。
もし両親が離婚したらどちらに付いていくべきだろう。
大好きな海を眺めていても無意識の考えてしまう。
お父さんと釣りに出かけるのも楽しいし、お母さんとお菓子作りするのも好きだ。
どちらかなんて決めきれない。
仲良くしてほしいと思うけど、それは叶わない事実。
もし神様か精霊が本当にいるのならお父さんとお母さんの喧嘩をやめさせてください。
この日は暖かかった。
日を浴びるとじんわり汗をかき、いつものように海の水に足をつける。
また両親は言い合いになっていた。
結局何年もこんなことを続けているが、これはいつ終わるのだろうか。
もちろん四六時中仲が悪いわけではない。
大抵、お母さんが機嫌が悪いことから始まる。
「なんで片付けないの!」や「いつも家事やるのは私ばっかりね」などの嫌味。
私もできるだけお母さんの機嫌を損ねないように細心の注意を払っている。
けれどお母さんのソレは定期的に起こる。
「お母さん?」と呼んでみてその返事で今日の機嫌が分かってしまう。
そんな日々に疲れる。
お母さんと呼んでみて機嫌が悪い日。
そういう日の喧嘩はもしかしたら私にも責任があるのかもしれないと思ってしまう。
いや、私にも責任があるのだ。
何かしら私がお母さんの機嫌のトリガーを引いてしまい、喧嘩の原因を作ってしまったのかもしれない。
でも私は両親の喧嘩が怖い。
海へ逃げるのに慣れてしまった。
そんな私も十分恐ろしい。
けれど私は今日も逃げてきた。
ただまっすぐに歩いていた。
麦わら帽子と純白のワンピースに身を包み、海岸に沿ってひたすらまっすぐに進む。
特に意味はない。
湿った砂が足の形を型取り、波が打ち消す。
たまに大きな波がやってきて私の足の甲を飲み込んだ。
「冷たい……」
波が引くと残された小さな貝殻やガラスの破片が濡れた光を反射している。
それを避けるように歩くのが少しだけ楽しかった。
砂浜との境界線をひたすら歩く。
ただそれだけ。
その時間が私の唯一の癒し。
潮水で濡れた砂浜を踏みしめる。
ただひたすらに。
潮を含んだ風が吹き、帽子が飛ばされそうになると両手で押さえた。
態勢を保とうと前を向くと、そこには精霊がいた。
ぐったりと漂流した、緑色の精霊が。
精霊だ。
初めて見た。
本当にいた。
私はどうしていいのか分からず、とりあえず精霊を抱き上げてみた。
心音を確かめるとちゃんと動いている。
口元に手を当ててみると空気の流れを感じた。
お父さんから一度聞いたことがある。
精霊は魔力で身体ができていて、魔力がなくなると死んじゃうらしい。
魔力とはなんだろう。
小さな精霊を私は膝の上に寝かせた。
緑色の髪と透き通るような背中の羽。
そして、小さな身体と手足。
精霊は海を渡って来たように見える。
けれどこんな小さな身体でどうやって渡って来たのだろうか。
「うぅ……」
精霊はゆっくりと瞼をひらく。
寝ぼけて細い目と目があった。
これが私とフワリの出会いだった。
フワリは自分がどこかは来たのか分からないらしい。
帰る場所もなければ目的地もない。
したいこともなければやることもない。
だから私の家に迎えることにした。
両親は反対はしなかった。
難しい顔をしていた。
変な顔だった。
青くして、怒るわけでもなく、また笑顔になるわけでもなく、快く歓迎しているとも思えなかった。
精霊は御伽話の架空の生き物だと思って私に話していたのだろうか。
フワリが来てから両親の喧嘩は修まった。
少し空気が悪くなることはあっても喧嘩には発展しなかった。
私にとってフワリは神様になった。
けれどなぜ両親は喧嘩をやめたのだろうか。
その疑問はすぐに解決した。
私はいつものように朝起きて、お母さんの朝食の準備をしていた。
今日は天気が悪い。
天候の悪い日は大抵お父さんの仕事は休みだ。
漁師であるお父さんは朝早くから起きては海に出て、昼ごろ帰って来る。
そんなお父さんも今日はお寝坊さんだ。
お母さんと並んで朝食の準備を進めていると玄関扉がノックされる。
お母さんの様子を窺い、私が出ようとしたけれど、「お母さんが出るからそれ見といて」と途中の目玉焼きを任された。
私は言われた通り、フライパンの前へ。
フワリが来る前まで三つだった目玉焼きは四つに増えた。
精霊も人間と同じように食事をして睡眠を摂るらしい。
同じ時間を過ごせる友達ができて嬉しかった。
「きゃぁぁぁぁぁぁああああ!!」
お母さんの悲鳴に身体がビクンと驚いた。
どうしたのだろう。
玄関の様子を覗くと血のついた刃物と床に這うお母さんの姿が。
「お前なに母親殺してんだよ。バカか」
「いや……」
「もういい。ガキだけでも捕まえるぞ」
お母さん悲鳴を聞き、寝ていたお父さんも駆けつけた。
「どうしたんだ──」
駆けつけた途端お父さんは首を切られた。
三人の男は私を囲み、一人が背後から口元を押さえる。
私は泣きながらジタバタと抵抗した。
けれどなんの意味もなかった。
男は私を縄でぐるぐる巻きにし、身動き一つ取れないようにした。
「待ちなさい!」
──お母さん!
「コイツまじか」
腹を深く抉られているにも関わらず、お母さんは地面を這い、男の足を掴んだ。
けれどそんな母を男は蹴った。
顔面に一発。
お母さんは動かなくなった。
「お前恵まれてんな」
私が恵まれている?
「俺の親なんてゴミだったぜ?」
自分の親のことをゴミ呼ばわり。
そんな人がこの世にいるなんて思いもよらなかった。
その時、フワリが寝ぼけた顔で起きてきた。
「なんかうるさいよぉ」
私と男三人の姿を見てすぐに目を尖らせた。
対してフワリの姿を見た男三人は顔を青くする。
「お前は?!なんでここに!」
そうやって驚嘆した男三人はフワリが放った一つの斬撃によって瞬殺された。
頭が吹き飛び、三人同時に倒れる。
「ヘイゼルちゃん怪我はない?」
「……ないよ?ないけど」
私は次第に耐えきれなくなり涙をこぼした。
今の一瞬でお母さん殺され、お父さんも殺された。
私は何もできなかった。
「よかったよ!ヘイゼルちゃんが無事で」
「でもお父さんとお母さんが」
「……?」
フワリは首を傾げた。
まるで人が死んだことなんてどうでもいいかのようにキョトンとした表情だ。
けれどそばにいてくれた。
時間が経つにつれ私の気持ちを理解してくれたように私を慰めてくれた。
何時間もずっと一緒にいてくれた。
血のついた服を着替えずに海岸で座り込み、何時間もフワリに支えられた。
私の弱音を何度も聞いてくれた。
それでも私は立ち上がる気力が出なかった。
「ヘイゼルちゃん。強くなろうよ。ヘイゼルちゃんが辛いことはフワリも辛いし、悲しいことはフワリも悲しんだよ。強くなって色んな人を助けてよ」
この言葉を私はずっと覚えている。
強くなって人を助ける。
当時小さかった時の私は戦闘的な強さだと勘違いしていた。
今後大切な人ができて失わないために強くなる。
そういう意味だと思っていた。
けれど強さの本質はそこじゃないのかもしれない。
最近、アイゼン団長に叱られた。
護衛任務や救助任務で想定外の敵に出会したときについて問われ、その時私は命を捨てでも守りますと答えた。
続けて、フワリとの約束だからとも付け足した。
「約束のせいで死ぬのか?」
アイゼン団長はそうやって私を問い詰めた。
もちろん死ぬことをフワリのせいにするつもりはない。
けれど私の命は他人の命と天秤にかけられる物ではないのだろうか。
あの時最後の力でお母さんが男を引き止めたが、あれがなければフワリが間に合わず、私は死んでいたかもしれない。
お母さんが最後の力で救った私の命はそんなに価値のないものなのだろうか。
「任務は大事だが、自分の命最優先だ」
アイゼン団長の言ってることは分かる。
けれどそれを賛同はできない。
お母さんは刺されて血を噴き出していたけれど、最後に動かなければ生きていたかもしれない。
けれど動いた。
最後の力を振り絞って私を助けたのだ。
それをあたかも嘲笑されたようだった。
たぶんそういうつもりで言ったわけではない。
要するにアイゼン団長が言いたいのは自分の命を賭ける価値のあるものに賭け、結果を残せということ。
「絶対に倒す!」
そのために空象術を使わずにグラーヴを倒す。
誰も死なせない。
自分の命を削っても……
「術式庭──」
その時、太陽が降りてきた。
---
ヘイゼルが珍しく声を荒げ、急な宣言をした。
銀剣を反らせ、柄部分で岩の装甲を何度も何度も狂ったように殴り始める。
「……」
呼吸がしにくい。
肺がゴロゴロと音がする。
血が混じってしまっているのかもしれない。
岩野郎は岩の装甲に触れるとその侵入を拒むような触り心地だった。
岩やフロントガラスなどの硬い物でも、圧力が一点に集中すると割れるのは当然だ。
けれどそこに達するまでの触り心地が皆無だった。
変な感じだ。
ヘイゼルはあえて剣を持たずに鉄塊で殴っている。
それは意図的にしていることだろう。
だとすると奴の能力は斬撃を拒み打撃を受け入れる物。
そしてその術式の正体は、
ソイツに打撃しか効かないのは──
ヘイゼルは手を地面に付け唱える。
「術式庭──」
その瞬間、痛みを除いた刺激が全身を襲った。
全身の細胞という細胞が逆立つような威圧感。
何かが落ちて来た。
「もう大丈夫だ。下がっていろ」
威厳を感じる深く低い声。
アイゼンだ。
アイゼンが来た。
燃え盛るような熱気を発し、この辺り一帯が灼熱地獄のようだ。
アイゼンの魔術なのだろうか。
アイゼンは岩野郎に向けて歩き出した。
そこに岩野郎が拳を振り上げる。
──もう遅い。
鈍い衝撃音が響く。
アイゼンはすでに拳を岩野郎の腹部にぶつけていた。
その一撃でヘイゼルと岩野郎を突き放す。
「さすがに硬いか」
アイゼンは掌を広げ岩仮面を見据えた。
「森では使いかたがなかったが仕方あるまい」
アイゼンは両掌から炎の玉を出現させた。
アイゼンを中心に自転をしながら公転し、周囲の空気が揺らぐと肥大化する。
最終的に完成したものはまるで直径三メートルほどの太陽だった。
熱気に焼かれそうだ。
アイゼンはその疑似太陽を放った。
太陽は岩野郎に直撃。
地面に衝突した途端に熱風が吹き、俺は呼吸がさらに苦しくなった。
アイゼンが拳を握ると太陽は空気のように消え、大きなクレーターを残した。
地面や周辺の木々は灰となり、煙を発している。
岩野郎も跡形もなく断末魔を上げる隙もないまま消えてしまった。
アビスがグラーヴ・マスカルノグを空間ごと切り裂けないかと聞いていましたが、魔法は基本的に術者の周囲からしか発動できません。
離れた場所に直接術式を発動するのは、ワンピースのロビンみたいに、手の届かない場所から腕を生やすようなものです。
そこで庭園の出番。
庭園を広げることで自分の敷地を広げてホームアローンできます




