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ニセモノをホンモノにしたくて  作者: なるなるなるなる
第二章 虚栄の楽園
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第十二話 「大人カレー」

 気が付くとそこは見知らぬ天井だった。

 けれど既視感がある。

 白い壁に飾り気のない部屋。

 半開きの扉から見える向こう側には白黒のタイルが交互に敷き詰められてあるのはコモンホールだろうか。

 俺は第八騎士団にいる。


 俺が寝ていたベッドの隣では俺の肋に手を当て何かしている女性がいた。

 茶髪で長身の白衣を着た美人。


「……」


 折れているであろう肋は段々と痛みが引いている。

 フワリの言っていた負乗術だろうか。


「負乗術便利過ぎません?」

「便利だけど習得するのが難しいんだよ」


 フワリが言うには負乗術を使うまでの工程に旋相術が必要らしく、負乗術自体よりもそちらの方が難易度が高いらしい。


「旋相術が難しいからですか?」

「そうだね。エネルギーの方向性を無理矢理変えるイメージがまず掴めなかったね最初は」

「……」

「でもそれができるようになったらあとは簡単だ。負の要素、つまり患部に負のエネルギーを当てることでプラスに変更するというのが負乗術なんだけど……まぁ君にはまだ早いよ」


 負乗術とは名の通りマイナスをかけることでマイナスをプラスにするということだろうか。

 それにしても旋相術に関して何一つ分からない。

 エネルギーの方向性を変える?

 なにそれ。


「けど素質はあるんじゃないかな」

「そうなんですか?」

「うん。君のその髪。あーウサギってことじゃないよ?白髪や銀髪は昔から英雄の血が濃いとされてあるんだ。もしかすると君もその血縁かもしれないね」


 そういうのもあるのか。

 ん?他にも白髪がいるならなぜソイツらは捕まらない。


「白髪だけがウサギの要素じゃないんですか?」

「そうだねぇ。白髪で童顔、そして元々体内に負の魔力が循環しているらしい。私は会ったことないけど、みんなはそう言ってる」


 その瞬間俺は身体がビクついた。

 また殺されるかもしれない。


「俺を見て怒が込み上げたりとかはないんですか?」

「そういうことがあるのか?少なくとも私はないね」

「そうですか」


 フィアとノクトは顔を見るなり殺しに来たが、やはりあの二人が異常なのかもしれない。

 フィアは許すけどノクトは許さん。


「ありがとうございました。また来ます」


 俺は軽く一礼すると退室し、綺麗に扉を閉めた。

 部屋の外にはたまたま移動中のアイゼンがいた。


「リゼットに治してもらったか?」

「……あーはい」


 茶髪の人はリゼットというのか。


 ちなみにあの岩仮面はグラーヴマスカルノグというらしい。

 グラーヴマスカルノグはアイゼンの一撃で葬られた。

 さすがに恐ろしい。

 焦がされた大地と疑似太陽で焼かれた木々、そして跡形もなく消し去ったグラーヴを見て団長という偉大さを思い知らされた。


「悪かったな。初陣にしては敵が強大過ぎた」

「死ぬかと思いました」

「ヘイゼルにも言っているが、任務だからと言って死んでまで遂行する必要はない。身の危険を感じたらまずは生き残ることだ」

「俺は生き返りますよ?」

「……」


 上司として威厳を持って指導しているのだろうが、俺の発言で言葉を止めた。


「複雑だな」


 この世界の人間から見た俺は明らかに異質だ。

 俺自身がその理屈を理解していても、彼等からすると「死ぬこと」と「生きること」は対比関係にない。


「俺はお前の上の立場になったが何も言えないな。それにしてもグラーヴ相手によく耐えたな」

「ヘイゼルとフワリがいたからでしょ」

「それにしてもだ」


 通常個体とは比べ物にならないくらい強かった。

 素速く動き、巨体には刃が通らない。

 そんな敵相手に初陣で持ちこたえたのだ。


「そういえば確認したいのですが」

「なんだ?」

「グラーヴマスカルノグの岩の装甲は術式効果ですよね?その効果ってダメージのときの接触面積が広くなるにつれて倍率が上がり、逆に接触面積が狭まれば下がるものですよね?」

「そうかもしれないな」


 そうかも?

 自信のある推測だったけどやはり正解には程遠いのか。


「あれは一等級魔術師がようやく単独で倒せるレベルだ。それに出没し始めたのは最近でな。分からないことだらけだ」

「そうですか」


 一等級魔術師とは称号か、あるいは仕事を割り振るための位なのだろうか。


「そういえばヘイゼルたちは無事なんでしょうか。真っ先に聞くべきでした」

「無事だ」

「そうですか」

「ヘイゼルとフワリにも挨拶しておけ。心配していたぞ」

「分かりました」


 アイゼンは忙しいのか足早に去っていった。




---




 リゼットはあることを不可解に思っていた。

 この前エドガーから受けたアイゼンの傷口だ。

 リゼットが治療しようと近づくと「この傷は治してはいけない。俺のミスなんだ」と拒否していた。


「なんだったんだアレは」


 リゼットはそんなアイゼンを信頼でいるが頭がおかしいと評価している。




---




 俺は食堂に来ていた。

 人は割と少なく、注文をすればすぐに提供された。

 ちなみに大人カレーとやらを注文した。

 ピリッと辛くて牛肉がゴロゴロ入っていて最高だ。

 

 この身体も食事を必要とするわけだが、ここで俺は一つ疑問を持った。

 死に戻りした場合体内の食物はどうなるのだろうか。

 法律では体内の排泄物に傷を付けた場合は傷害罪になり、排泄後の排泄物なら犯罪にはならないらしく、体内のものはソイツの身体と認定される。

 故にシステム側が体内の食べ物を「アビス」の一部として認識しているのであれば、死に戻りした後も満腹感は同じだろう。


 くっっっっっそどうでもいいこと。


 食堂に入って来た金髪よりやや暗めの髪をしたジト目少女と、その後ろをフワフワと飛んで付いて来ている精霊が目に入った。

 そういえば挨拶しなければいけないな。


 そう思い立ち上がろうとした時、ヘイゼルのころころと鈴を転がすような声が俺の名前を呼んだ。


「アビスさん」


 ヘイゼルは机を俺と挟む形で立っていて、俺も立ち上がり視線を揃えた。


「どうかしましたか?」

「よかったです無事で」

「え、はい。ありがとうございます。ヘイゼルさんたちも大事なさそうで安心しました」

「フワリは完全抹消しそうだよぉ」

「そう?」


 俺のせいで怪我していたらさすがに目覚めが悪い。

 どちらかといえば俺が盾になるべきだが、さすがに怖かった。

 申し訳ない。


「今日は奢らせてください」

「お金大丈夫なんですか?」

「アイゼン団長に借りてるので問題ないです」

「問題しかないです。ちゃんと返してお給金もらってからお願いします」


 なんか怒られた。


「一緒してもいいですか?」

「いいですけど……」


 ヘイゼルは食券を購入しに行ったがフワリはなぜか残った。

 フワリはヘイゼルが離れたことを確認すると俺に問う。


「アビスはさぁ。ウサギさんと同じ体質だね」

「ん?」

「心臓を中心に生成される魔力は本来、正のエネルギーなんだよぉ。なのにアビスは負の魔力が循環しているよね?」


 嫌な予感がする。

 返答を間違えれば殺される気がする。

 それにしてもなぜ分かったのだろうか。


「……」


 やばい。言葉が出ない。

 でも何か言わなければ動揺でウサギだと思われる。


「フワリ以外の精霊には触れないようにしろよぉ」

「なんでですか?」

「精霊は正の魔力で身体ができているから負の魔力をぶつけられると消滅してしまうんだよぉ。フワリは今虚の魔力だから大丈夫」


 思っていた反応と違った。


「殺さなくていいんですか?」

「殺しても復活するでしょぉ」


 フワリは俺に怒が湧かないのだろうか。

 フワリの考えていることが全く分からない。


 ヘイゼルは瞬時に提供された大人カレーを運び、机に並べた。

 フワリはカレーを美味しそうに眺める。


「精霊は食事必要ないんですか?」

「今のフワリにはないよぉ」

「そもそも要らないでしょ。精霊は魔力さえ回復できたらいいんです」

「魔力はどうやって回復するんですか?」

「睡眠です。ちなみに魔力が枯渇すると倒れますから気を付けてくださいね」

「そういえば、精霊と契約するって具体的にどういう仕組みなんですか?」

「見えない糸で繋がっているようなものですね。私たちはその糸を通して精霊の術式を使わせてもらっているんです。魔力は物を通さないといけませんから」


 けどその精霊との契約の仕組みを考えると、契約無しで“精霊を武器のように”扱うこともできるのではないだろうか。

 精霊に触れていれば使えるだろうし。

 いや、やめよう。

 さすがにイカれてる。


 そういえば魔力が尽きたエドガーは死ぬ寸前ギリギリまで喋っていたような気がする。


「魔力が尽きても話せることってあるんですか?」

「え?そうですね……死に際とかだったら意識を保てるかもしれませんね」

「ふ〜ん」


 それからカレーを食べきった後も会話が続いた。

 真面目な話のはずなのに喋っていて割と楽しかった。

 魔力のこと、魔術のこと、等級こと。


 魔術師の位には五段階あるらしく、順に、三等級、ニ等級、一等級、王星級、神星級と強くなるとのこと。

 だいたいの魔術師がニ等級で、“基本的に”騎士団入団に必要な等級はニ等級。

 一〜七までの騎士団には試験が必要だが、第八騎士団には必要ないらしい。

 理由はヘイゼルにもフワリにも分からなかった。


 その次にエドガーの話になった。

 エドガーの表向きは第三騎士団に所属になっていたらしいが、実際は第三騎士団が直接的な依頼を受けた捨て駒だったとのこと。

 これは第八のみんなが噂をしているだけで本当か分からない。


「第三騎士団について何か知らないんですか?」

「騎士団同士の探り合いは禁止されてるんだよぉ。何も知らないし、知れない」


 エドガーの情報が漏洩する分にはそのルールに反していないのだろうか。


 考えながら辺りを見渡すと外は茜色になっていた。

 さすがに長話し過ぎた。


「そろそろ行きましょう」

「そうですね」


 俺とヘイゼルは固まった腰をゆっくり動かし、立ち上がる。

 俺とヘイゼルは食堂前で別れた。


 そういえばフワリはどうやって睡眠を摂るのだろうか。

 物に触れられないのに横になったら地面を貫通していくだろうに。

 飛びながら寝れるのかな?




---




 アイゼンに任務報告をするため執務室前まで来たが、アイゼンの怒鳴り声に身体が強張った。


「人の命がかかってんだぞ!何やってんだ今すぐ行け!」


 その声と同時に扉が開き、俺は顔面をぶつけた。


「ああ!すまん!てかアビスじゃねぇか」


 出てきたのはトーマスだった。


「悪い。またな」


 トーマスはそそくさと消えて行った。

 何をしでかしたのだろう。


「アイゼン団長。失礼します」


 俺は一礼して入室する。

 機嫌が悪いのかと思ったけどあまり表情はいつもと変わらない。


「トーマスはどうしたんですか?」

「あぁアイツは、任務先で頼んだ仕事はやって帰ってきたがそのあと……いや、トーマスのことはいい。何の用だ?」

「任務報告です」


 俺は任務中に起きた出来事を順に報告した。

 黒づくめの怪しい集団と遭遇したこと。

 グラーヴマスカルノグがヘイゼルを襲っていたこと。

 そして、俺が駆けつけたものの返り討ちに遭ったこと。

 アイゼンは黙って話を聞いていた。


「そうか分かった。ちなみに黒づくめの奴等のことは絶対に探ろうとするなよ」


 そう言って俺の退室を促した。

 滅茶苦茶圧を感じた。


 黒づくめの奴等は探られるとアイゼンに何かマイナスの要素があるのだろうか。

 アイゼンが裏で何かをしてるかもしれないし、ただ黒づくめの奴等がただやばいだけなのかもしれない。

 調べてみたい。


「アイゼン団長て部下の指導に一貫性がないですよね?さっきはトーマスに「命かかってんだぞ!」てキレてた割に、ヘイゼルには「任務は適当にしろ」みたいな」

「適当にしろとは言ってないぞ」

「そうですか?」


---


[ CHAPTER END ]


──ログアウトしますか?


[ 合意 ]  [ 拒否 ]


※「拒否」を選択した場合、ログアウト権は放棄されます。 次回のログアウトは次のチャプター終了時に可能となります。


---


 俺はまた、突然現れたログアウト画面に驚いた。

 さすがにビビる。

 何か演出があって開かれてもいいはずなのにわざわざ眼の前に出現するのは嫌がらせだろうか。


「俺、また消えます」

「ん?分かった」


 一瞬戸惑ったアイゼンだが思い出したらしい。


 ──俺は意識を失った。

旋相術がA=M(cosθ+isinθ)ですね

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