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ガラスの靴を姉に渡す  作者: 桜 舞華
お世話になります
15/19

14

 気付いた時には、視界が覆われて何も見えなかった。


「ぐ……っ……」


 思わず漏れた、と言うような低い呻き声がすぐ近くから聞こえた。男に抱え込まれたのだと今更ながらに気づく。


「すまん」


 男は短く言ってあたしを解放する。

 解放されたあたしは、一瞬状況が理解出来なかった。

 何故か男の手からは血が流れていて、その手の中に包み込まれているのは紛れもなく刃物。そして、その刃物の柄の部分を握っていたのは、さっきまで怯えているように見えた女性。


「はなしてっ!」


 女性は悲鳴混じりに訴える。だが、男は放さない。

 男があたしを抱え込んだ理由がようやくわかった。あの女性が刃物を向けたからだ。なんでそんなことになったのかはわからないけど、そうなった。

 つまりあたしは、庇われた。あたしが庇おうとした女性に刺されそうになったから。

 さっきの呻き声は、刃が手を傷つけたからなんだろう。


 男は刃物を握った手をそのまま捻るようにして持ち上げた。女性の手が、そのまま捻りあげられる。


 女性は抵抗したが、力の差は歴然。

 男は女性の腕をねじって、苦もなく拘束した。


「ふぅ。説明は後だ。近くに騎士が巡回しているだろうから、呼んできてくれないか」


 指示されたあたしは、頷いて騎士を探した。幸いにも、すぐに騎士を見つけることができた。


 この国には、王に仕える騎士と国に仕える騎士がいる。あたしが呼んだのは後者で、主に治安維持に務める騎士。前者は、王の護衛を担ったりする。


 男が女性について騎士に説明する。


 はしたないかと思いつつ、盗み聞きしてしまった。


 女性は、とある店で商品を盗んだらしい。そこを見つけた男が、人目を気にする女性を思って路地裏に連れて行き、話を聞こうとしたところ、まるで強姦でもされるかのように悲鳴を上げ始めたそうだ。

 そして、それを見たあたしが飛び込んでしまった。で、女性は既にパニック状態だったから、急に飛び込んできたあたしを敵と判断しては物を振り回した____。

 ざっと、そう言うことだった。


「そうですか。ありがとうございます」


 騎士はそう言って、男に頭を下げると女性を連行して行った。


「怖い思いをさせてすまない」


 男は騎士を見送ると、あたしの方を向いた。


「いえ……あたしこそ、早とちりしてしまってすいません」


 あたしが入っていかなければ、男が怪我をすることも……怪我!


「そうだ!あなた、怪我を!」

「……え?」


 手を見ようとしたのだが、男は怪我をした方の手、右手を後ろに回してとぼけた。


「見せてください!」


「……」



 あたしがじっと睨み付けると、観念したように右手を差し出した。

 やはりそこには血が着いていて、とても痛そうだった。


「手当するので、着いてきてください!」



 残念なことに、今のあたしの手元には治療する道具がない。だから、屋敷に連れて行くことに決めた。

 あたしが助けてもらった人だから、姉様も屋敷に入れてくれるだろうし。


「手当なんていらん」


 気難しそうに眉を寄せ、唸るように言う。


 あたしは一つ息を吐いて、引っ張ってでも連れて行くことにした。



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