12
あたしに与えられた部屋は、ものすごくすごかった。とにかく、ものすごくすごい。
同じような言葉を並べると、すごくバカっぽいこともわかった。でも、そんな言葉しか出てこないほどすごかった。
なんて言うか。あたしのシェスタの家にはないような、豪華で高価できらびやかな調度品ばっかりだった。
そこかしこから、きらんきらん……いや、むしろぎらんぎらん光る家具に取り付けられた宝石。え、何これ趣味悪。
2、3個売り飛ばしてもばれなさそうだった。それぐらいある。
目が痛くなりそうだったから、早々に部屋から逃げた。
姉様に助けを求めて、隣の部屋に入る。
「あ、あれ……?なんか、シンプル……?」
姉様の部屋は、すごくシンプルだった。
「どうしたの?レティ」
急に部屋に入ってきたあたしを、叱ることなく優しい笑顔で迎えてくれる姉様。でも、その顔は心配そうだった。
「姉様……隣の部屋、少し見てもらっていい?」
とりあえず、相談することにした。
姉様の手を煩わせるなんて、と思うけど背に腹は変えられない。あんな部屋にはいられないと思う。
何しろ目が痛い。
「……まぁ」
姉様は可愛らしく口に手を当て、小さく口を開いて驚いた様子。そして、あたしの方を見る。
「レティが良ければ、だけど、私の部屋に一緒に住みましょうか」
なんと!すごく嬉しい!
「はい!姉様!」
姉様はあたしの手を引いて、部屋に連れて行く。
「アレク様には困ったものだわ……愛情表現が歪んでいるというか……めちゃくちゃというか……ちょっと斜め上というか……センスがないのかしら」
姉様は何やらブツブツと呟いていた。
愛情表現から察するに、もしかしたら姉様はもう兄様から色々されているのかもしれない。それこそ、愛を囁かれたり……。
でも、兄様は斜め上な方なのかな?
姉様は困った様子。姉様を困らせるなら、いくら兄様でも釘は刺しておかないと……。
今は様子見だけどね。
「まぁ……でも、そのおかげで夜這いをかけられる心配もなくなったわ……。2人で寝ているのだから、流石に襲ってこないでしょう……」
「……え⁉︎姉様、夜這いをかけられそうになったの⁉︎」
「え?え?いえ、私じゃなく……あ、いや、そう、私よ」
いくら婚約者とはいえ、そんなに早く手を出そうとするなんて。やっぱり、兄様には釘を刺しておかないと。
帰ってきた兄様には、しっかり話す必要があるとあたしは感じた。
「姉様への夜這いは、あたしが阻止するからね!任せて!あ、もちろん、結婚してからはそんなことしないからね」
安心して貰うために、あたしは姉様の手をぎゅっと握る。姉様もあたしの手を握り返してくれた。そして、柔らかく笑む。
姉様の笑顔は本当に癒される。
姉様を見ていると、笑顔には何種類かあるんだと思う。
姉様は……。
おっといけない。心の中で語りはじめたせいで、あたしが無言になったことを心配する姉様が顔を覗き込んできてしまった。
下から覗き込む姉様は軽く上目遣いで、とても可愛い。でも、姉様。あたしより上にいてください。
姉様は上から目線ぐらいが丁度良いのですよ。姉様が下なんてこと、あり得ないのだから。
「ねぇ、レティ」
真剣な声で、姉様が呼びかけてきた。
「なに?姉様」
「レティがしんどいと感じたら、私の世話のことなんて考えずに、家に帰るのよ。それから、使用人が揃わなくても一週間で家に帰りなさい」
念を押すように、お母様達に言われたことを繰り返す。
「……わかってますよ。一週間と言わず、ずっといたいけど……」
「表向きは、作法などを学ぶための奉公ってことになっているけれど、やっぱり血縁関係のある私のところじゃ、少し問題があるでしょう?」
姉様は、幼子を諭すような声で言った。わかっては、いるのだ。
貴族の子女はマナーなどを学ぶために、より高位の貴族の元へ奉公に行ったりする。主にメイドとして。今回のあたしは、そういうことになっていた。
兄様があたしを屋敷に呼んだ理由は姉様の世話をさせるため。
お母様達は、反対したけれどあたしが押しまくったせいで許可せざる負えなかっただけで、本当は快く思っていないこと。
そろそろ、姉様離れしないといけない。
これからは、あたしの姉様じゃなく兄様の奥方様だもの。
「姉様、あたしちょっと散歩して来るわ」
「え?今から?」
「えぇ。夕飯までには戻るから」
急なことだけど、なんだか一人になりたかった。
「……そう。気を付けるのよ」
「はーい」
一度言い出したらやめないあたしの性格を知っている姉様は、仕方なさそうに許可してくれた。




