11
「レティ。僕が贈ったドレスは気に入らなかったかい?」
メイド服姿のあたしを見ると、兄様はかなり不満そうに言った。
「兄様にはドレスなんて贈られていません。贈られる理由も……あ。もしかして、あれのこと……?」
姉様のだと思って渡してしまったドレスを思い出したが、首を振って忘れたことにした。どちらにしろ、あたしはメイド服の方が動きやすいし、ドレスを着る気は今の所ない。
「……まぁ、いいか」
兄様は肩を落としつつ、諦めてくれた。
「本当は僕が屋敷内を案内したいんだけど、
生憎ともう仕事に行かなくてはならなくてね。ドレイクに案内させるから、自由にしておいてくれ。それから、まだ揃い切ってはいないけど、使用人の紹介もしてもらってくれ」
「わかったわ」
姉様が返事をすると、兄様は不服そうにはぁと息を吐いて、それから名残惜しそうに屋敷を出て行った。
「兄様、忙しそうね」
「そうね。あまり家にいないなら、喜ばしいことだわ……。あ、違った。緊張しなくていいわ」
「……?」
「レティは何も気にしなくて良いのよ」
姉様が気にしなくていいと言うので、大きく頷いておいた。
「リリアナ様、レティシア様。またせてすいません」
ドレイクがようやく玄関ホールに姿を現すと、まずこちらへどうぞと客間に通された。ソファに座って待つよう言われ、姉様と2人静かに待った。
やがて現れたドレイクの後ろには、2人の女性と3人の男性がいた。
「右端から、メイドのシェシーとメイリ。料理人のダンと庭師のカスタル、オレの代理としてこの家の使用人を取り仕切ったりする侍従のカルトンだ」
一気に言われたけど、覚えられるかな。
姉様は興味なさそうだった。
「……ねぇ、ドレイク」
姉様が不意に声を出した。どことなく、不機嫌そうな声だった。
「何でしょう?」
「聞き間違えでなければ、この家には既にメイドが2人いるようね?シェシーとメイリの2人」
「まぁ、そうですね」
「知っているかしら?我が家は、メイドのアマンダとレティの2人しか家にいなかったけれど、家は滞りなく回ったわ」
「はぁ……そうですね」
「レティは家に返しても良さそうかしら」
「……え⁉︎姉様⁉︎」
急にあたしが家に帰る話が出て来て、あたしは焦る。すごく焦る。
「お待ちください!リリアナ様!」
声を張り上げたのは、あたしと同じくらいの年頃のメイドの方、シェシー。
「何かしら?」
「その……わたしはまだこの仕事に不慣れで、出来ればレティシア様にいて欲しいのです」
「……リリアナ様。実は、アレク様のご命令でして、今日中にレティシア様を家に返してはならないと」
勢いをつけて言ったシェシーとは対照的に、ドレイクは内緒話でもするような静かさで言われた。
「ドレイク、あたしを返してはいけないってどういうこと?」
「えっと……リリアナ様が安心して暮らせているということをしっかりその目で確認してから!お帰りいただきたいんだと思いますよ!」
力強く言われた。
姉様も後ろで頷いていたから、そういうことになった。
「次は、お部屋に案内させていただきますね。あ、それから、レティシア様は何かありましたらシェシーにお願いします。リリアナ様付きのメイドはメイリの方です」
「私付きがいるならなおさら、レティを返しても……わかったわよ。一週間は何も言わないわ」
姉様は何か文句を言っていたようだけど、ドレイクにすいません、と言われるとため息を吐いて口を閉じた。
姉様は優しい人だから、時々こうやって文句を飲み込む。
「では、部屋へ行きましょう」
ドレイクが促すと、メイド2人を残して後の使用人は解散した。
ドレイクが先頭に、その後ろにあたしと姉様、さらにその後ろにメイド2人が歩くという塊で屋敷内を歩いた。
広い屋敷内を案内され、奥まった部屋にある右側を姉様の部屋、左側をあたしの部屋だと言った。
「今日はもうお疲れでしょうから、自由にしてくださって構いません」
ドレイクもまた忙しいのか、そう言うと慌ただしくどこかへ行った。




