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兄様が迎えに出した馬車の中、あたしは姉様と向かい合わせに座っていた。
今日の姉様は素晴らしく美しい。
一応、馬車での移動なのできらびやかな社交界用ドレスとかでは無いけれど、それでも美しい。ちなみに、兄様に贈られたやつだ。
兄様のセンスは流石ね。
いや、違う。兄様が選んだどんな服も着こなす姉様が流石なのよ。
ということで、あたしは先ほどから姉様を褒め称えていた。言葉の限り褒め称え、ふうと息を吐く。自分の語彙力のなさが恨めしい。
もっと姉様にふさわしい言葉があるというのに、ありきたりな言葉でしか褒められなかった。
姉様は何か考え事をしている様で、急にぷくくくと笑った時は不思議で仕方なかった。多分、これからの夢のような暮らしを思って笑ったんだと思う。
それから、姉様の刺繍入りのハンカチを貰うことを約束して、それっきり馬車の中は静かになってしまった。
あたしは姉様さえ眺めていられれば満足だけど、姉様は暇じゃ無いかしら?
こんなことなら、本の一つや二つ覚えてこればよかった。そして読み聞かせを……じゃなかった。持ってこればよかった。
姉様はやはり考え事をしているようなので、あたしは邪魔にならないように今日この日に至るまでを考える。
姉様と兄様が婚約の約束をして、3日。たったの3日で兄様の屋敷に移り住む日になった。あたしは、お母様達の話により姉様の世話係が決まるまでとなった。
多分、一週間ぐらいらしい。もっと長く姉様の元にいたいのに。でも、姉様に困ったように『いつまでも妹と一緒というのもね……』と言われれば、仕方ない。
そして、ようやく馬車は兄様の屋敷へとついた。
「リリアナ様、レティシア様。着きました」
兄様が迎えに寄越したのは馬車だけでなく、一人の男性も、だ。
ドレイク・ミッドウット。ミッドウット男爵の三男坊で、兄様の従者。小さい頃から兄様に仕えているから、あたしと姉様も顔見知り。
「ありがとう、ドレイク」
「いえ。それより、レティシア様。あなた様までやはり来たんですね」
そう言うドレイクの顔は、どこか不安げだった。
「え?えぇ。姉様の世話係が決まるまでね」
「あぁー……そうですか……早く決まるといいですね」
なんだか、語尾に切実に、が付きそうな言い方だった。あたしってもしかして、ドレイクに避けられているんだろうか。
多分、そんなことはないはず。
「リリアナ様、大変そうですね……」
「本当にね。出来れば、このまま鈍感でいてくれて、そのままシェスタの家に戻る日が来ると良いんだけど」
「オレもそう願ってますよ……」
何故か2人とも遠い目をしていた。
「さ、リリアナ様、レティシア様。我が主が首を長くして待っているはずなので、どうぞ屋敷の中へ」
「えぇ、入らせてもらうわね。行きましょ、レティ」
あたしと姉様は、連れ立って屋敷の方へと歩いた。
兄様の屋敷。それはそれは立派な屋敷だった。シェスタの屋敷よりも広そうだし、綺麗だ。姉様が住むにふさわしい。
「姉様、とっても綺麗な屋敷ね」
「そうねー……」
「姉様?」
「なんでもないわ。さ、早く入りましょう」
姉様は憂鬱そうに顔を顰め、それからまた歩き始めた。
「いらっしゃい、2人とも」
玄関ホールには兄様が立っていて、あたしににっこり……じゃなく、姉様ににっこり微笑んだ。あたしは屋敷に入る時、姉様の後ろにずれたから兄様の視線があたしに向けられたと錯覚しただけで、視線の先はあたしの目の前、姉様だ。
「今日からお世話になりますわ、アレク様」
「お世話になります、兄様」
ドレイクには言って良いそうだが、兄様には一週間ほどで帰ることを伝えてはいけないらしい。なぜ?と聞いたのに、姉様は曖昧に笑うだけで答えてくれなかった。




