第35話 セレナの微笑み
「で、魔界が安定し始めたと思ったとき、新・魔王が誕生してしまったと…そういうことですね?」
「はい、その通りです」
俺が確認を取ると、セレナさんは深く頷いた。
頷いてから、セレナさんは話を続けた。
「新しく魔王が誕生して、魔界の人々は怯え始めました。また絶対王政が始まってしまうのではないか、と」
「なるほど。で、その魔王を俺に倒して欲しいというんですか?」
俺がセレナさんにそう言うと、セレナさんはとても深刻そうと言うか、とても暗い表情になって俯いてしまった。なにか問題でもあるのだろうか。
「そうしてほしいのは私達、共々そうなのですが…徹夜さんにはきっと倒す事はできないでしょう」
「なんでですか?この俺でも倒せないほど強いんですか?そいつは」
「いえ、そうではありません。徹夜さん、あなたがこちらに帰ってきた、ということは何か目的があるのではないですか?」
俺がこっちに帰ってきたことと、魔王を倒して欲しいという頼みは、今は関係ない話だ。だが、セレナさんは俺の目的を聞いてきた。もしかしたら俺の目的と今回の魔王誕生の件は何か繋がっているのかもしれない。
そう思った俺はセレナさんに素直に答えることにした。
「そうですよ。ララを連れ戻すためにここに帰ってきました」
「やはりそうでしたか」
「はい?」
やはり、と言う事はバレバレだったのだろうか。
よくよく考えてみたら分かるのだが、ララがこの街に帰って来ていて、それからどこかに消えてしまったのなら、城の兵士や、街の人が俺を見つけたら真っ先に泣きながら頼んでくるだろう。だが、街の人たちも、城の兵士も、みんなそんなことは頼んでこなかったところを見ると、ララはここには訪れていない。
となると、ララはどこに行ってしまったのだろう。それともやはり、セレナさんの質問がそれに繋がるのだろうか。だとしたら話をよく聞いておくべきかもしれない。
「とても言いにくいのですが、やはり徹夜さんには言っておかないといけませんね」
「どういうことですか?」
「その、新しい魔王というのはララさんなんです・・・」
「・・・え?嘘ですよね?」
「残念ながら事実です。だから徹夜さんには倒すことはできないと言ったのですよ」
嘘だろ・・・。ララが新しい魔王?なんで魔王なんかになったんだ?…いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。俺はララを助けるためにここに来たんだ。感情的になって、ついつい元のへタレに戻ってしまうところだった。いやあ、危ない危ない。それに、何か理由があるのだろうし。話を最後まで聞いてみるか。
「ということはララは今、魔界にいるんですよね?」
「はい、その通りです。まさか行くおつもりですか?」
「当たり前です。俺がこの世界に戻ってきたのはララを連れ戻すためなんですから」
「あなたはとても優しい方ですね。自分の大切な人を守るためなら、世界を救うためならあなたは自分の全てを犠牲にしてまで救うのでしょう。たとえ悪役になって、世界を敵にまわそうとも」
「それが、この世界の勇者の務めですから。それに、こういうことは慣れてますから」
俺はセレナさんに優しく微笑んだ。自然と微笑んでしまったのは、ミラの面影が少しあったからだろう。
「徹夜さんは本当に優しい方ですね。そういう優しさに皆さん惹かれていくのでしょうね。では、お願いしますね」
「任せてください。今度こそ、魔界の人々も、ララも救ってみせます。そして、今度こそ終わりにしますよ」
「はい、お願いします」
会話を終えて、約束をしたところで、俺はセレナさんと街の外まで一緒に歩いた。
「では、俺はこれで」
「はい。世界が救われ、平和に再びなった時、いつかまたどこかでお会いできる日を楽しみにしています」
そして、俺はこの街を後にし、魔界に向かって歩き始めた。
空を見上げると、相変わらず青々といていて、心地よい風が吹いている。
後ろを振り返ると、なびいてるさらさらな髪を耳に掛けながら、セレナさんは俺に向かって優しく微笑んでいた。だけど、その微笑みは嬉しそうだったが、どこか悲しそうだった。




