第34話 魔界の元王妃
「久しぶりだな、この世界にくるのも」
俺は扉をくぐり抜けて、俺が救った世界に立っていた。周りには、どこまでも続くのではないかというぐらいの草原と青空が広がっていた。本当にこっちにララはいるのかと疑いたくなってしまうぐらいのだ。
しばらく歩き、城下町が見えてきた。この城下町はララの生まれ育った街で、ララの父親の国王様と、母親の王妃様が住んでいるこの世界では知らない人なんていないほどの有名な城下町だ。勿論ここの街は魔界でも広く有名だ。
「国王様のところに一応行っておくか。もしかしたらいるかもしれないし」
城下町に入って俺は広場が騒がしいことに気づく。いつもなら俺を歓迎して出迎えるやつもいるのだが、そういう人たちですら今日はいなかった。きっと広場で何かが起きているのだろう。
広場に着き、俺は人ごみを掻き分けて広場の中心に出てみた。すると、そこには魔界のものであろう人が傷だらけで倒れていた。街の人たちは魔界のものであろう人を睨みつけながら、手には石ころを持っている。
俺は仕方なく周りの雰囲気を落ち着かせるために中心に立つ。
俺が誰なのかを気づいた城の兵士は俺をまじまじと見ていた。信じられないみたいな目で。
「皆落ち着け!俺は神門徹夜!この世界を救った勇者である!手に持っている石ころを捨てろ!」
「勇者様…なのですか?」
「え、そんなまさか。勇者様は一年前に帰られたはずでは?」
そりゃあそんな反応にはなるだろうとは予想していたので驚きはしなかった。一呼吸をおき、俺は続けた。
「とある事情があり、今一度こちらの世界に戻ってきた身である。・・・では、気を取り直して、この者は無防備だ!そんな者をみんなで攻撃して情けないとは思わないのか!」
「でも勇者様、そいつ魔界のやつですよ!」
「魔界のやつを許せっていうんですか!」
そういう反応をすることはわかっていた。かつて、魔界の人々は自分達を苦しめてきたのだから。
「この人も何か事情があって来たんだ。でなければわざわざこの街に来るわけないだろう。なので、この一件は俺が預からせてもらう、みんなはいるべきところに、商売に戻ってくれ」
「そうだな。勇者様なら任せて安心だもんな」
そんな様な事を言って広場に集まった街の人たちは自分達の仕事場や家に戻っていった。
しばらくして広場の様子が落ち着いてきた頃、俺は倒れている魔界のものであろう人の抱えて話しかけた。
「あなた、魔界の人ですね?」
「ええ、いかにもそうです。あなたは…?」
「俺は神門徹夜と言います。この世界の勇者をしています」
嘘を言う必要性はこの場合はないだろうから俺は素直に答えた。それを聞いて目を見開いた魔界の人は何かにすがるように俺にいきなり頼みごとをしてきた。
「なら勇者様、お願いがあります。どうか、どうか助けて下さい!」
「落ち着いてください、何がどうしたんですか?」
「すいません、つい…。私の名前を名乗っていませんでしたね。私の名はセレナと申します」
「セレナさんですね。それでどうしたんですか?」
「あ、はい。えっとですね、魔界にまた魔王が誕生してしまったんです」
魔王が誕生した?魔王の実の娘であるミラは今は病院で寝ているし、由紀も今は親父と母さんのところにいる。それなのに何故魔王が誕生した?いや、それよりも気になった点が俺にはいくつかあった。
「魔王が誕生したのはあなた方には嬉しいはずなんじゃないですか?」
そう、新・魔王が誕生したとなれば魔界は安定するはずであり、なによりも嬉しいはずだろう。なのにセレナさんはそれが嫌だと言っているような口ぶりだったからだ。
「まだミラだったら良かったのです。ミラなら・・・」
「ミラを知っているんですか?あなたとミラのご関係は?」
「私はミラの母ですよ、勇者様。いいえ、神門徹夜さん」
「なっ・・・」
これは驚いた。自分の身を投げ出し、傷ついてまでこの国に来て、頼めるような人を探していたのだ、この人は。それよりも、この人がミラの母だったとは思わなかった。
「それなら、国を治めているのは、王妃である貴女ではないのですか?ミラは魔界の王女だ。それなら母である貴女が今はこの国を治めているんじゃないのですか?」
「いいえ、私は夫が貴方に倒されてから、王族を抜け、ひっそりと静かに暮らし始めたんです。あの人が亡くなってしまったために、魔界は不安とかでいっぱいになり、不安定になると思ったんです。誰もがそう思っていました。ですが・・・」
「ですが?」
「・・・意外なことに真逆になったんです。王政がなくなり、むしろ自由が生まれ、逆に安定したんです」
王政がなくなったら人々はむしろ不安になったり、混乱を起こして不安定になるものだと俺は思っていた。だが、実際は、魔王が俺に倒されてから、魔界はむしろ安定し始め、この世界は本当の平和を取り戻したのだ。
だが、この話には続きがあったのだった。




