第5話 殺されかけた話と、変身魔術
ある日の夕方ごろ、キュラドのX(旧Twitter)が更新された。
キュラド@Curado_vampire
エスの高校時代の友人たちが城に来ていた。顔を合わせるのは本当に久しぶりなので、大人になったと思う一方、まだまだ子供だと思う面もある。なかなか心に来るものだな。
キュラド@Curado_vampire
嘘か本当か分からない話をしてやろう。奴らのうち一人はこの俺を殺しかけたことがある。一生恨んでいるぞ。
・『キュラド様が親戚のおじさんみたいな視点で語ってて草』
・『吸血鬼を命の危機に追い込む元高校生何者なんだよwwwwww』
・『今でも集まるたびにその話蒸し返されていじられてそう』
・『「なかなか心に来るものだな」からの「恨んでいるぞ」の温度差で風邪ひくわ』
・『気になりすぎるからもっと詳しく聞かせてくれ……』
同日夜の配信にて。
キュラドはいつも通り優雅に紅茶の香りを嗜んでいたが、コメント欄の勢いは普段以上の熱を帯びていた。
画面上に、一つの質問スパチャが飛び出した。
・『SPちゃんのお友達がキュラド様を○しかけたって話詳しく聞かせてください!』
コメント欄も一気に「聴きたい!!」「気になりすぎて夜しか眠れない」「あの最強のキュラド様を追い詰めた猛者誰なんww」と盛り上がる。
しかし、そのコメントを目にした瞬間、キュラドの表情からいつもの高慢で不敵な笑みがふっと消えた。
「その話か……。貴様らが想像しているような愉快な話ではないぞ。聞きたいか?」
マイク越しに届いた声は静かで、そしてどこか遠くを見るような、悲しそうな影を帯びていた。リスナーたちが一瞬その雰囲気に呑まれ、コメントの流れる速度がわずかに緩やかになる。しかし、依然として詳細を尋ねるコメントは続いていた。
「……フン、物好きな奴らめ。では話してやる」
キュラドは静かにカップをソーサーへと戻すと、椅子の背もたれに深く身を預けた。
「当時、俺はエスのクラスメイトの一人に命を狙われていた。奴はエスを通じて俺の気配を感じ取っており、そのせいでエスが危険な目に遭うことも何度かあった。そしてある日、奴はエスに純度の高い聖水をかけた」
・『え……?』
・『聖水って……?』
・『SPちゃん大丈夫だったの!?』
「エスは無事だったさ。だが、エスを通じて聖水に触れてしまった俺の指先は一瞬で焼け爛れた。たったそれしきの傷により、俺は飢えと渇きに支配され、理性を失ってしまった」
流れるコメントの一つに目を留め、キュラドは静かに首を振った。
「『そんなことされたのにお友達なの?』……いや、俺の命を狙っていたクラスメイトは、城に来ていた友人たちとは違う。友人たちは当時、エスを必死に守ってくれていたさ。エスに嫌がらせをするクラスメイトや……俺というバケモノからもな」
重々しく告げられた言葉に、視聴者たちは息を呑む。キュラドは画面の向こうの空気を探るように目を細めた。
「この話はまだまだ続きがあるが、まだ聞くか? ……言っておくが全くもって笑いどころはないぞ。それでも良いなら話すが……。少し待て、人物整理をしよう」
キュラドはおもむろに配信画面の横にホワイトボードを表示させた。普段講義などで使っているペンを握り、滑らかに枠線や矢印を描き込みながら、淡々と解説を始める。
「まず友人A。エスの親友の、資産家の令嬢だ。この俺を目上の存在だときちんと理解していた上、礼儀作法も育ちのおかげで何の問題もない。何度も城に泊めてやったことがある。そして友人B。こいつはこの俺の弟子を自称する非常に暑苦しい男だ。資産家の御曹司であり、友人Aの婚約者でもある。今でも電話一本で俺のサポートをしてくれる」
すらすらと描かれていく関係図。友人Aの横には「礼儀正しい」、友人Bの横には「暑苦しい自称弟子」と達筆な文字が書き添えられていく。
「それから友人C。こいつはエスが高校2年になったとき、エスの隣に座っていた男だ。チャラチャラとしていてみっともなく制服を着崩していた。こいつがエスを部活に誘った張本人でもある。だが頭はよく回るしエスのことをよく助けてくれていたな。優秀な手駒だったと言える」
真剣極まりない表情で「優秀な手駒」と書き込むキュラド。
・『すみません、ここは笑いどころで良いですか??』
・『シリアスなトーンで「暑苦しい弟子」とか「手駒」って図解するのずるいww』
・『友人A以外への評価のクセが強いwwww』
・『「全くもって笑いどころはない」って言ってたのに笑いどころしかないんだが!?ww』
リスナーたちの反応にキュラドは眉間にしわを寄せながらも、引き続き説明を続けていく。
「……それからこれが、俺の命を狙っていたクラスメイトのXだ」
図解に「X」と書き込まれる。先ほどまでの独特な評価とは打って変わり、その文字には冷ややかな温度が宿っていた。
「さて話を戻そう。聖水により理性を失った俺はエスを何とか遠ざけようとしたが、エスは怯まなかった。むしろ……この俺が苦しんでいるのを見て、自ら『血が欲しいならあげる』とその身を差し出してきたのだ」
キュラドの声に静かな重みが戻ってくる。揺れる赤い瞳には、当時の記憶が鮮明に浮かび上がっているようだった。
「俺はエスに甘えた。エスの血を分けてもらい、渇きも飢えもおさまり、傷も治った。だが……この俺がエスを殺しかけたことには変わりない」
・『えっ……マジで重すぎる……』
・『「俺はエスに甘えた」って絞り出すような言い方が切ないな……』
・『笑いどころなんて本当に1つもなかった……ごめんキュラド様』
・『で、そのあとどうなったの……?』
キュラドは視線を少し落とし、膝の上に置いた自分の手を、その指先をそっと見つめながら、静かに語り続けた。
「俺はすぐに友人Aを呼んだ。……呼んでないのに何故かBも来たが」
キュラドの声のトーンは一定を保っていた。
「Aは甲斐甲斐しくエスの世話をしてくれ、栄養と休養を与えてくれた。そのおかげでエスは翌日も普通に学校に行ったよ」
・『呼んでないのに来たBでちょっとフッとさせてからの親友Aちゃん神すぎる』
・『翌日学校に行けるくらい回復させてくれたAちゃんマジでGJすぎる』
・『キュラド様が自分を責めてパニックになってる時に友人たちが来てくれたの救われるな……』
・『でも「命を狙っていたX」と「キュラド様を○しかけた友人」の話はまだ繋がってない……!?』
「本当の事件は翌日起こった。エスとXは再び敵対することとなり……。詳細は割愛するが、結論だけ言えば……エスは再び聖水をかけられた怒りで我を失い、Xを病院送りにした」
キュラドが一度言葉を切る。思案するように天を仰ぎ、続きを語り始めた。
「エスのプライバシーに関わるので少し説明が難しいのだが……まあ、エスの手により事故が起こったと考えてくれ。それで……血を流し倒れたXを見て、人を傷つけてしまったショックによりエスは深く傷つき、気を失って保健室に運ばれたそうだ」
キュラドの声から軽薄さは消え失せ、画面越しにも伝わるほど重々しく真摯なトーンへと変わる。
「当時のエスの心境を考えると、この胸が押し潰されてしまいそうだ……」
・『Xを返り討ちにして病院送りに……!?』
・『SPちゃんいつもあんなにおっとりして優しいのにどうして……』
・『そりゃ大好きなキュラド様を傷つけた聖水をもう一回かけられたらなあ……』
・『壮絶すぎる出来事だ……』
「優しいエスがどれほど心を痛めたか、貴様らには想像もつくまい」
キュラドは低く静かな声で語り続けながら、ホワイトボード上の「X」の文字をゆっくりとペンで囲む。
「……ちなみに、CがXを介抱したおかげでXは無事だ。数日間入院はしていたがな。Bは血を見た瞬間ぶっ倒れたとCが言っていた」
・『あれこれ笑っていいやつだよね??』
・『笑いどころがない←大嘘』
・『うんうん……って聞いてたのにBくんでダメだったwwwwwwww』
・『シリアスな話なのにキュラド様の話術のおかげで重苦しくなりすぎず聞けてる』
「倒れたBはともかく、Cの手際の良さがなければXの命も危うかったのだぞ……」
リスナーたちが『Bはともかく』でさらに大爆笑する中、キュラドはコホンとひとつ咳払いをし、画面の向こうへ鋭い眼光を向け直した。
「……まあ良い。だがこれで理解しただろう。エスを傷つけ、精神的に追い詰めた原因の一端は、この一連の騒動にある。そして……ここからが、俺が『殺されかけた』本題だ」
図解画面の「友人C」と「B」の文字をトントンとペンで叩きながら、キュラドは再び静かなトーンで語り始めた。
「そのような一件があった後なので、Aは自家用車でエスを家まで送り届けると申し出た。今までも何度かAの家の車に乗せてもらうことはあったので、エスはその言葉に甘えて車に乗った。だが、Aの車はエスの家には向かわず、そのままAの家にエスを連れ去った」
画面の横の図解で、「友人A」から「エス」へ向けて「拉致」「連れ去り」という物々しい矢印が一直線に引き直された。
・『えええええええええ!?!?!』
・『頼れる親友ちゃんだったのにまさかの裏切り!?!?』
・『「自家用車で連れ去る」←スケールが高級なお嬢様すぎる』
・『親友の愛が重い拉致監禁展開きちゃった……??』
「そう、礼儀正しく心優しいはずの友人Aが、ショックで弱り切ったエスをそのまま己の屋敷へと連れ去ったのだ」
画面上の関係図をペン先でトントンと叩きながら、キュラドは深々と脚を組み直し、妖しく目を輝かせた。
「俺はエスの帰りをずっと待っていた。だがいくら待っても帰らなかった。だから探しに行った。外に出て、街を歩き回り、エスの気配を探した。そうしてたどり着いたのはAの屋敷だった」
キュラドは語りながら、ホワイトボードの「Aの屋敷」という文字をゆっくりと丸で囲んだ。画面の向こうのリスナーたちは、吸血鬼が夜の街を焦燥感と共に奔走する姿を思い浮かべ、息をのむ。
「俺自身も何度かあの屋敷に足を踏み入れたことはある。呼び鈴を押し、応対した執事に『エスを迎えに来た』と告げたが、執事は『お引き取りください』と言った」
キュラドは苦々しい表情を浮かべ、自らの手のひらをじっと見つめた。
「知っているか? 吸血鬼は招かれなければ家の中に入ることはできない。俺は屋敷の中に無理やり入り込むこともできなかったのだ」
・『あ、吸血鬼の伝承のルール……?』
・『絶望的すぎる……!! 家主に拒否されたら手出しできないの!?』
・『物理的な結界で詰んでるのヤバい』
・『ここからどうやって命の危機に繋がるんだ……!?』
「……そう、吸血鬼の古き掟であり、絶対の制約だ。どれほど俺が焦り、エスを連れ戻したくとも、家主が拒否すれば敷居を跨ぐことは叶わない」
マイク越しに伝わる静かな怒りと焦燥。リスナーたちが固唾をのんで見守る中、キュラドはホワイトボードの「Aの屋敷」の周りに、大きく×印を描き加えた。
「だが俺は簡単に諦めるわけにはいかなかった。執事に『Aを出せ』と言ったが執事は取り合わなかった。しばらく押し問答を続けた。……やがてAが自ら出てきたわけだが」
キュラドは低く重い声で語り続け、ホワイトボードの「友人A」の横に、鋭い直線を書き加えた。配信画面の向こうにいるリスナーたちは、コメントを打つ手も止まり、息を殺してその物語に耳を傾けている。
「奴め、冷たい目をしていた。それまでの友人付き合いを全て忘れてしまったかのような……」
画面の横で、ペンの音が重々しく響く。キュラドの瞳には、かつて門前で自分を見下ろしていた少女の冷徹な眼光が、鮮明に思い出されていた。
「そしてAは俺に言い放った。『お前はエスを地獄へ連れて行くバケモノだ』と」
・『言葉のナイフが鋭すぎる……』
・『聖水事件の直後だし、キュラド様自身が一番自分を「バケモノ」だって責めてた時期なのに……』
・『突き刺さりすぎて聞いてるこっちまで胸が締め付けられる』
「その言葉は……この俺の胸に、深く突き刺さった。そもそも、Xがエスに嫌がらせをしていたのも、この俺を炙り出すための行為だ。Aがそう思うのも、無理はない。いや、むしろ……俺自身もそうだと思っていた矢先の、出来事だったんだ」
キュラドは自嘲気味に吐き捨てると、静かに画面から視線を外した。
「自分が存在すること自体が、エスを危険に晒し、傷つけている。前日の聖水の一件で、俺は己の醜悪さと危険性を思い知らされたばかりだったからな。Aの投げつけた言葉は……何一つとして間違っていなかったのだ」
そして、彼は一つ呼吸を挟み、核心を口にする。
「俺は屋敷を後にし、城へ戻った。城に戻った俺は……心臓に杭を突き立てようと……した……」
・『え……?』
・『嘘……自死しようとしたの……???』
・『そこまで追い詰められてたの……』
・『「この俺を殺しかけた」って……そういう意味だったの……!?』
コメント欄をしばらく眺めた後、キュラドは静かに己の胸元へ視線を落とした。
「己の手で心臓を貫こうとしたその瞬間……俺を殺しかけたのは、他の誰でもない。Aの放ったあの『正論』と……己自身の愚かな自責の念だったというわけだ」
語る声はどこまでも静かで、闇に溶けて消えてしまいそうな響きだった。
「その時、もし俺が一人だったら……俺という存在はそこで終わっていただろうな……」
・『一人じゃなかったってこと……?』
・『誰が一緒にいてくれたの?』
「……本当にたまたまなのだが、その時隣には女神がいた。……俺は女神と呼んでいるが、普段は学園に縛られているアホの地縛霊なのだがな」
キュラドの唇の端が、ほんの少しだけ柔らかくほころんだ。
・『女神、地縛霊って……コイカミちゃんか!!!』
・『アホの地縛霊とか言いながら「女神」って呼ぶの愛おしすぎるだろ……』
「女神は杭をはたき落とし、俺の胸ぐらを掴んで必死に俺の凶行を止めた。なりふり構わず大声で泣き叫びながらな」
・『ごめん語彙力無くててぇてぇしか言えない……』
・『「たまたま隣にいた」のが奇跡すぎるだろ!!!』
・『こんなの泣くしかないじゃん……』
「あの女は普段からバカで、うるさくて、うっとうしい存在だったのだが……あの時ばかりは、俺の命を繋ぎ止めてくれた真の女神だったと言わざるを得んな」
キュラドは愛おしむように目を細め、静かに息を吐き出した。
「そうして目を覚まされた俺は、自らの過ちを悟り……泣きじゃくる女神を宥めた後、正真正銘、エスを取り戻すために再び動き出したというわけだ」
キュラドは流れていくコメントの中から一つのコメントを目に留め、拾い上げる。
「『学園に縛られている地縛霊がなんで隣にいたんだろ』……ふむ、良い疑問だな。実はあの時、女神もまたXの聖水によって消滅の危機にあった。それを俺が救って、一時的に城に保護していたのだよ」
キュラドは流れていくコメントに視線を這わせながら、どこか遠い目をしてゆっくりと頷いた。
「俺と女神はあの時、互いに命を救いあった仲なのさ」
・『キュラド様が地縛霊ちゃんを助けて城に保護して、その地縛霊ちゃんがキュラド様の命を救った……??』
・『普段アホ扱いしてるけど、本気で感謝と敬意を持ってるのが伝わってくるなあ……いい関係性だあ……』
・『オタクは泣いてます』
・『もう二人ともファインプレーだよ』
「あの時俺が奴を助けていなければ、俺の命はそこで終わり、エスは永遠に俺を失い、女神も消滅していた。まさに絶体絶命の連鎖だったわけだ」
キュラドはホワイトボードの図解に、コイカミを示す小さな光のような円を描き加えた。
「だからこそ……俺は今でもあの女には少々頭が上がらんのだよ。……まあ、本人には絶対に言ってやらんがな」
キュラドはそう言って不敵に口角を上げた。
「翌日、エスは帰ってきた。Aの屋敷から学校へ行き、BやC、そして女神の協力あって、無事にAの手を振り解くことができた。そのまま学校をサボって一目散に俺の元に帰ってきたよ」
キュラドの声に、ようやく穏やかな温もりが戻ってくる。リスナーたちも胸を撫で下ろした。
「分かったか? この俺を殺しかけたのは聖水でも杭でもない。友人の放った一言だったのだよ」
・『SPちゃんが真っ先にキュラド様の元に走って帰ってきてくれて本当に良かった……!』
・『Bくん、Cくん、女神様、みんなで協力して救い出したの最高の友情すぎる』
・『「この俺を殺しかけた」の真相が言葉のナイフだったなんて……』
・『最初はギャグかと思ってたのに、まさかこんなに壮絶で深みのある過去編だったとは……』
キュラドはホワイトボードの図解をゆっくりと消去し、画面に映る己の姿へと視線を戻した。
「俺はAに言ってやった。『俺は一生根に持つぞ。だから一生、エスの良き友人であり続けることで償い続けろ』とな」
・『かっこよすぎるだろキュラド様あああああ!!!!』
・『最高に不器用な許し方……』
・『「一生恨んでいるぞ」の投稿の裏にこんな激尊エピソードが隠されてたなんて』
・『最初は「殺されかけた」って聞いてびっくりしたけど、最高の雑談配信だった!!ありがとうキュラド様!』
「フン……だから奴らが城に来るたび、俺はあの時の言葉を蒸し返して嫌味の一つでも言ってやるのだ。奴も気まずそうな顔をしながら、エスのために上質な紅茶葉や菓子を持参してくるからな。……まあ、許してやらんこともない」
画面に次々と表示されていく怒涛のコメントやスパチャを眺めながら、キュラドは満足そうに口角を上げた。
「さて、しんみりとした過去話はここまでだ。貴様らもエスの友人たちを見習い、一生俺とエスに忠誠を誓い続けろよ」
配信の画面上でキュラドが不敵な笑みを浮かべ、配信を締めくくろうとしていたまさにその瞬間。
・『!?!?!?!?!?!?』
・『ちょっと待ってSPちゃんのX更新されたwwwwwwww』
・『えっ、待って内容やばいwwwwwwww』
・『キュラド様大ピンチで草草草』
・『Cくんwwwwwwwwお前wwwwwwww』
「……ん? なんだ貴様ら、急に騒がしくなって」
怪訝そうに眉をひそめたキュラドは、スマホでSPのX投稿を確認する。
SP@SP_support_es
キュラドは死のうとしたことを私にずっと隠し通す気でいたけど、無邪気なC君からのメッセージで一瞬でばれました。これは当時のスクショ(掲載許可済み)
[添付画像:LINE画面のトークスクショ]
C:「キュラドさん、死のうとしたって聞いたけど元気そうでよかった!」
SP@SP_support_es
キュラドに問い詰めた瞬間、見たことないくらい引きつった顔したと思ったら、次の瞬間、黒い霧になって逃げていったなあ……。懐かしい……。
・『一瞬でバレてて草』
・『Cくん爆弾投下しすぎだろwwwwwwww』
・『「元気そうでよかった!」じゃないんだよwwwwww』
・『魔術使って逃亡すな!!』
・『Cくん、優秀な手駒どころか最大の刺客で草』
キュラドの表情はみるみるうちに強張り、そして「見たこともないくらい引きつった顔」へと変貌を遂げていく。
「なっ……き、貴様ら……何を……! エス、何をバラしている!?」
動揺のあまり声が裏返り、つい先ほどまで保っていた威厳は綺麗さっぱり霧散していた。
「ち、違う! あれはだな……! その……」
真っ青な顔で必死に言い訳を試みようと口をパクパクと開閉させるキュラドだったが、画面の向こうで何千人ものリスナーに見守られながら言い逃れなどできるはずもなかった。
「……本日の配信は以上だ!!」
やけくそ気味に叫ぶと同時に、配信がプツンと切れる。
残されたのは、暗転する直前まで怒涛の勢いで草を生やし続けるチャット欄だけであった。
*
静まり返った配信の余韻を破るように、キュラドのXが更新された。
キュラド@Curado_vampire
その事実を知った結果、幼子のように夜泣きするようになり、俺が夜通し手を握っていなければ眠れなくなったのはどこのどいつだ?お前が心を痛めることは目に見えていたから隠し通そうと誓ったというのに……
SP@SP_support_es
キュラドに問い詰めた瞬間、見たことないくらい引きつった顔したと思ったら、次の瞬間、黒い霧になって逃げていったなあ……。懐かしい……。
・『引用で反撃開始して草wwwwww』
・『待って、やっぱりSPちゃん相当ショック受けてたんだ……』
・『Cくんの「元気そうでよかった!」の一言でこの激重愛の攻防が始まってたと思うとじわじわくる』
・『で、今夜も手を握って寝るんですか????』
しかしキュラドの必死の反撃ポストに対し、SPが間髪入れずに引用を返した。
SP@SP_support_es
あの時は夢の中まで会いに来てくれてありがとう
キュラド@Curado_vampire
その事実を知った結果、幼子のように夜泣きするようになり、俺が夜通し手を握っていなければ眠れなくなったのはどこのどいつだ?お前が心を痛めることは目に見えていたから隠し通そうと誓ったというのに……
・『夢の中まで会いに来てくれてありがとう……????』
・『待って待って待って、夜通し手を握るだけじゃなくて夢の中にまで駆けつけてたの!?』
・『全人類が敗北する尊さなんだが????』
・『これは勝ち目なさすぎる』
過去の事実を隠されていた怒りも、自分を置いて死のうとしたことへのショックもすべて包み込み、ただ純粋な愛と感謝を伝えてきた伴侶の言葉。
それを受けたキュラドの、最終的な応答——。
キュラド@Curado_vampire
敗北
SP@SP_support_es
あの時は夢の中まで会いに来てくれてありがとう
・『「敗北」wwwwwwwwwwwwwwww』
・『潔すぎる降伏で草wwwwwwww』
・『敗北宣言助かるwwwwwwww』
・『吸血鬼を完全に白旗あげさせたSPちゃん強すぎる』
・『お前ら末永く爆発してお幸せにな!!!!!!』
「敗北」宣言から数分後、少し落ち着きを取り戻した(あるいは、一生懸命に威厳を再構築しようと試みた)キュラドによって、新たなポストが投下された。
キュラド@Curado_vampire
霧化の変身魔術を試みたのは当時が初めてだった。使う機会がいまいちない。
・『逃走専用スキルになってて草wwwwwwww』
・『大技をパニック逃亡にしか使ってないの愛おしすぎるだろ』
・『もっといろいろなものに変身してもろて……』
・『霧になるにしてもなんか他に使い道あるだろもっと!!』
キュラドの投稿はまだ止まらない。さらに妙な方向へと思考を巡らせたポストが連続で投下された。
キュラド@Curado_vampire
変身魔術、さては伸び代か。しかしLive2Dには反映されないため、いくらカメラの前で変身しようが貴様らに見えないのが非常にもったいない。
・『伸び代そこじゃないんだよwwwwwwww』
・『「見えないのが非常にもったいない」って見せたいんだwwww可愛すぎるwwww』
・『カメラの前で「フンッ!」って変身して、画面見たらただのイケメンが素立ちしてて絶望するキュラド様想像して草』
・『逃走用魔術を配信のネタとして昇華しようとするストイックな配信者の
鑑』
*
翌日の夜。突如として立ち上がった配信枠のタイトルに、リスナーたちは困惑しつつも、吸い寄せられるように集まり始めていた。
【配信タイトル:思い付きをぶっつけで試みる配信】
・『急な配信助かる!! ……けどタイトル不穏で草』
・『「思い付きをぶっつけで試みる」???』
・『今日は何する気だww』
・『変身魔術の実験か??wwww』
・『枠が開いたぞーーー!!』
チャット欄がざわめく中、配信画面が切り替わる。しかし、そこに映し出されたのはいつものLive2Dモデルではなく、一枚の静止画だった。
描かれているのは、どこか神秘的でありながら気品に満ちた、一人の幼い少女の姿。
「……あ、あー、あー、集まったな、貴様ら」
そして、マイクから聞こえてきたのはいつものキュラドの低く重厚な声……ではなく、鈴を転がすような、しかしどこか聞き覚えのあるイントネーションを持った「謎の少女の声」だった。
・『えっ?????』
・『誰????????』
・『声が女の子なんだが????????』
困惑するリスナーたちの反応をよそに、謎の少女の声はふふんと鼻を鳴らし、満足げに語り続けた。
「ふふふ、俺は今、偉大なる我らが始祖キュリアの姿に変身している。画面に出しているのはキュリアの姿だ」
ひと呼吸おいてコメント欄を眺めるキュラド。
「俺がこうしてキュリアに変身することで、彼女が確実に存在していたということが伝われば良いと思ってな」
・『えええええええええついにキュリア様の姿が……!?』
・『「彼女が確実に存在していたということが伝われば良いと思ってな」←言葉が優しすぎる……』
・『でも声が可愛すぎて内容が脳に入ってこないwwwwwwww』
・『見た目も声も美少女(始祖)なのに中身がいつものキュラド様で頭バグるww』
「いいか貴様ら。俺のこの変身魔術は実在のものにしか変身できない。架空の人物や創作上の存在にはどんなに足掻こうと変身はできない」
画面に映る始祖キュリアの瞳は、意思を持ってリスナーたちを見つめ返しているかのようだった。
「つまり、俺がこうして姿や声を変えられているということは……始祖キュリアが確かにここにいたという証になるのだよ。分かったか愚か者どもめ」
・『待って……そういうことかよ…………』
・『ただの思いつきのイタズラ配信かと思ったのに……』
・『キュリア様への愛が深すぎて全リスナー敗北ですわ』
・『見た目は幼女、声も幼女、中身は愛の深い不器用な吸血鬼……最高か?』
・『なんかエモいのは分かるけど……キュリアさんって誰ですか(小声)』
コメント欄に次々と流れていく言葉をキュラドはしばらくの間黙って眺めていたが、彼はふっと呆れたように鼻を鳴らす。
「フン、愚か者が。ここにいるのは新規ファンばかりか? 我らが偉大なる始祖キュリアに関する話は今から紹介する切り抜き動画を見て貴様の矮小な脳みそに叩き込め。次に『キュリアって誰だよ』などと発言した者は半年BANだ」
・『急にいつものリスナープロレス始まって草wwwwww』
・『新規に厳しすぎるキュラド様wwwwww』
・『見た目と声は可愛い女の子なのに言ってることいつものキュラド様で草』
・『概要欄の切り抜き見てきます!!命だけは助けてください!!ww』
・『半年BAN草 今すぐ復習してくるわwww』
「言っておくが脅しではないぞ? 概要欄にリンクを載せておいたからな。配信が終わったら穴が開くほど再生するがいい」
可憐な少女の声を装いながらも、キュラドの声のトーンがすっと低くなり、雰囲気が一変する。
「……ただし、キュリアに関する情報を追うあまり、メン限配信のアーカイブを見るのはお勧めしない。あのアーカイブの内容は非常にセンシティブでショッキングな内容を含む。心身ともに健康で、覚悟ができた者のみ視聴しろ」
・『急にガチトーンになって怖すぎるんだが……』
・『「心身ともに健康で、覚悟ができた者のみ」ってどんな内容なんだよ……』
・『キュリア様関連の過去、やっぱり相当壮絶だったんだな……』
・『新規を脅してるのか本気で心配してくれてるのか分からん(たぶん両方)』
・『メン限に入ってるオタクたちが急に静まり返って察した』
「いいか、これはフリではないぞ。軽い気持ちで覗いてトラウマを負っても、俺は一切の責任を負わんからな」
少女の姿をしたキュラドは、画面越しにリスナーたちを鋭い眼光で見つめるように、重々しく釘を刺していた。
「……ではせっかくなので、キュリアの声で彼女の手記でも読むか。これは彼女がまだ幸せだった頃の記録だ」
張り詰めた空気を和らげるように、キュラドはどこか愛おしそうに言葉を繋いだ。彼が大切に手元へ引き寄せたのは、古びた一冊のノート。
重苦しい過去の闇ではなく、かつて確かに存在した温かな日々の記憶。少女の可愛らしい声が静かな書斎に朗々と響き渡る。
『8月9日 新しい家族が増えた。ようこそ我が城へ!』
『8月13日 イリアがまた難しい顔してたから、とりあえずベッドに入れて温かいお布団で包んであげた。寝た』
・『始祖キュリア可愛すぎだろwwww』
・『「寝た」で腹筋崩壊したwwwwwwww』
・『家族が増えるたびにこうやって無邪気に喜んでたんだなぁ……』
・『イリアさん、絶対お布団の中で困惑しながらすやすや寝てて草』
『11月3日 人間の男からしたらやっぱりワタシって子供に見えるのかな。ところで、ワタシっていま何歳だっけ?』
キュラドは続きを見ると、口元を吊り上げた。
『11月6日 クライドのお家に行ってみたら知らない女の人がいて、ムカムカしてる。誰あのひと!!』
『11月7日 いもうとだって!!』
・『キュリア様可愛すぎて頭抱えるwwwwwwww』
・『完全に恋する乙女じゃんwww』
・『自分の年齢忘れてるの吸血鬼あるあるすぎて草』
・『11月6日から7日までのキュリア様の情緒を想像すると可愛すぎて悶絶する』
・『「子供に見えるのかな」からのこの嫉妬、クライドへの矢印がダダ漏れですキュリア様』
『11月11日 毎日好きって言ってるのに伝わらないよー! たすけてー!』
『11月12日 クライドのバカ』
『11月20日 変身魔術で大人になろうとしたけど、むずかしい。大人の見た目のワタシは実在しないからなあ』
手記を読み上げるキュラドの声には、呆れと愛おしさが滲み出ていた。
・『11日「たすけてー!」→12日「クライドのバカ」の流れで不覚にも笑ったww』
・『毎日「好き」って言ってたの!?クライド難攻不落すぎるだろww』
・『待って、11月20日の手記……「実在しないから大人になれない」って、さっきキュラド様が言ってた変身魔術の仕様そのまんまじゃん!!』
・『クライドに振り向いてほしくて背伸びしようとしてたの愛おしすぎるだろ……』
「……これで貴様らにも分かっただろう。始祖キュリアが偉大な存在でありながら、その実ただの等身大の少女であったか」
パタン、と静かに手記を閉じる音が響く。少女の姿をしたキュラドは、画面越しに誇らしげでありながら、優しく目を細めた。
しかしコメント欄に時折混じるリスナーの声に目を留め、怪訝そうに眉をひそめた。
「ふむ……何やら未だにボイスチェンジャーとやらだと思われているようだな。良いだろう、何をすればボイスチェンジャーではないと証明できるだろうか?」
・『ボイチェンじゃない証明wwwwww』
・『SPちゃんに横から「本物です」って証言してもらうしかww』
・『カメラの前で水飲んでみて!!』
・『ボイチェン特有のラグがないか検証しようぜ!!』
・『吸血鬼の魔術だって言ってるのに文明の利器扱いされてて草wwww』
「……それではキュリアのままASMRでもやるか? 高音質なマイクなら証明できるだろうか」
吐息や吐露される微細な音が直接耳へ届く高音質マイクであれば、ボイスチェンジャー特有の処理音や違和感が存在しないことを完全に証明できる——そう本気で考えたキュラドの、どこかズレた起死回生の一手だった。
・『は????????????』
・『発想が飛躍しすぎてて草wwwwwwwwww』
・『高音質マイクでキュリア様(CV:キュラド様)の耳かきと耳はみ聴けるんですか!?!?』
・『ボイチェンじゃないって証明するためにASMR始める吸血鬼wwww』
・『イヤホン装着完了しました、いつでもどうぞ!!!!』
キュラドはリスナーの反応を確認し満足げに頷くと、ゴソゴソとバイノーラルマイクをセットし始めた。
「……よし設定完了したぞ。メンバーシップの者たちは普段の俺のASMRを聴いているから分かるだろう。ほら、普段使っているつけペンの音もこの通りだ」
カサッ、カリカリカリ……。
バイノーラルマイクの右耳側から、静寂を切り裂くように生々しく響く繊細な執筆音。紙の繊維を撫でる金属ペン先の引っかかり、わずかな吐息の揺れ、そして衣類が擦れる微かな音。
それらは最新のボイスチェンジャーや機械的なフィルター処理では決して再現しきれない臨場感を伴ってリスナーの耳腔を直撃した。
・『音質が良すぎて頭狂いそうwwwwwwww』
・『右耳でカリカリすなwwwwww』
・『ガチの高音質で草 ボイチェンじゃない証明のクセが強いwwww』
・『耳元でつけペン走らせて「機械ではない」って主張する吸血鬼(少女)シュールすぎて無理』
「どうだ? 機械処理特有のノイズもラグもないだろう。正真正銘の始祖キュリアの声だからな」
左耳へと滑り込むように囁かれる、可憐な少女の甘く透き通った声。しかし、その内容はどこまでもリスナーを屈服させようとするいつものキュラドそのものだった。
彼はバイノーラルマイクの右側へとゆっくり頭を寄せ、吐息が直接鼓膜を揺らすほどの至近距離から静かに囁いた。
「ちなみに、キュリアへのセクハラ発言は問答無用でBANだからそのつもりでな。覚悟しろ愚か者」
・『右耳いいいいいいいいいいいイイイッッッッ!!!!!』
・『音圧と距離感がガチすぎて耳溶けたwwwwwwww』
・『可憐な少女の声で耳元で「愚か者」って罵られる配信、需要の塊すぎる』
・『キュリア様へのリスペクトが強すぎてセクハラ即死なの草ww』
・『命がけのASMR配信始まって草wwww全リスナー挙動不審になってるww』
「フン、良い返事だ。解ればよろしい」
右耳からすっと離れ、満足げに鼻を鳴らす気配がマイクを通じて生々しく響いた。
キュラドはしばらくバイノーラルマイクの左側を指先でカリカリ弄っていたが、流れてきた一つのコメントに動きをぴたりと止めた。
・『キュリア様の状態で歌ってみたとかやってほしい』
「天才か貴様? ホール・ニュー・ワールドの動画がこれで出せるではないか……」
マイクの向こうで、少女の可憐な声が心底感心したように、そして悪巧みを目論むかのように弾けた。
・『は???????????』
・『一人デュエットやる気かこの吸血鬼wwwwwwww』
・『「天才か貴様?」って素で褒めてて草wwww』
・『自分の声(変身魔術)でデュエット曲撮ろうとしてるの狂気すぎる』
「なるほど……変身魔術を使えば、男声パートも女声パートもすべて俺一人の歌唱で完璧に成立するわけだ……」
リスナーの何気ない提案から爆誕してしまったとんでもない神企画の予感に、チャット欄はいつまでも盛り上がり続けていた。
*
配信終了後、キュラドによって1件のポストが投下された。
キュラド@Curado_vampire
変身魔術、伸び代しかない。霧になってる場合でない。
・『【悲報】キュラド様、黒い霧(逃走用)を完全に過去の産物扱いし始める』
・『逃走用魔術からVTuber用配信コンテンツへと進化を遂げた変身魔術』
・『一人ホール・ニュー・ワールドガチで待ってますwwwwww』
・『昨日の逃亡劇からここまでの神展開、誰が予想できたよwwww』
・『キュラド様お疲れ様でした! 最高の配信をありがとう!!』
さらに数分後。
SP@SP_support_es
キュラド、ずっとウキウキしてます。楽しそうでなによりです。キュリアさんが天国で怒ってませんように。
・『SPちゃんの保護者目線たすかるwwwwwwww』
・『確かに勝手に自分の姿と声でASMRやって歌ってみた出そうとしてたら天国で頭抱えるかもww』
・『大丈夫だよSPちゃん!! キュリア様も「ワタシの姿で歌うの!?」って天国で大爆笑しながら応援してるよ!!』
・『ウキウキしてるキュラド様想像してワロタ』
このポストから数日後。有志による「耳元での威嚇&つけペンASMR(キュリアの声)」の切り抜き動画がTikTokやXで爆発的に拡散。
「声が可憐すぎる神ASMR配信者、言ってる内容がガチの脅迫で草」といったワードと共に数十万リポストを記録し、タイムラインを大混乱に陥れる中、満を持してキュラド本人がXを更新した。
キュラド@Curado_vampire
バズってて草。始祖キュリアよ、見てるか?
・『天国の始祖様にバズ報告すなwwwwwwww』
・『キュリア様も天国で「ワタシのバズり方これで合ってる???」って困惑してるよww』
・『新規がこの可愛い女の子の正体知って頭抱えてて草』
・『始祖の存在を世界中に知らしめる(物理)という目的を完璧に達成した男』
・『バズに味を占めたキュラド様、これは「一人ホール・ニュー・ワールド」の投稿も近いな……』
そして切り抜き動画のバズからさらに数日後。
キュラド@Curado_vampire
投稿した。偉大なる始祖の歌声を再現できる変身魔術に感謝。魔術師で良かった。
【始祖キュリア】ホール・ニュー・ワールド歌ってみた【キュラド】
・『有言実行しちゃったよこの吸血鬼wwwwwwww』
・『キュラド様のイケボ低音と、キュリア様の美少女高音の重なり合い、音の暴力すぎる』
・『自給自足デュエットのクオリティがプロのそれなんよwwww』
・『変身魔術の無駄遣い(褒め言葉)すぎるだろwwww』
・『キュリア様とキュラド様の二人が並んで歌ってるMVイラストも神……』
こうして、情けない逃亡劇を晒されたショックから始まった変身魔術の研究は、ついに圧巻のクオリティを誇る「一人歌ってみた動画」へと昇華したのだった。
*
配信タイトル:【報告】貴様らに研究の成果をお披露目する
「集まったな貴様ら」
画面には何も映っておらず、いつものキュラドのLive2Dすら非表示の真っ黒な画面。 しかし、配信から響き渡ったのは、ここ最近すっかりお馴染みとなった少女、始祖キュリアの声だった。
「早速だが、お披露目しよう」
可愛い声をしたキュラドの不敵な宣言とともに、画面の中央にスッと現れたのは、静止画でも手描きイラストでもない。 滑らかに瞬きをし、口を動かし、首をかしげる始祖キュリアの完璧なLive2Dモデルだった。
・『待って待って待って嘘でしょ!!!!!???wwwwwwww』
・『自作イラストからLive2D起こしたの!? キュラド様技術のバグ????』
・『【朗読】→【ASMR】→【歌ってみた】→【Live2D受肉】←イマココ!!』
・『進化のスピードが異次元すぎるんだよ吸血鬼wwwwwwww』
・『ドヤ顔で首かしげるキュリア様可愛すぎて尊死する』
「フン……どうだ? 驚いたか貴様ら」
画面の中で、可憐な少女のLive2Dモデルが誇らしげに胸を張り、ドヤ顔でパチパチと瞬きをする。
「変身魔術でキュリアの声を披露できたならば、彼女の姿の完全再現すら可能になるのではないかと研究を重ねていたのだ。見ろ、この完璧な可動域と表情筋を!」
キュラドの斜め上すぎる情熱と異常な技術力の結集に、チャット欄は大盛り上がり。
「『まさかキュラド様、Live2D自作ですか……?』フン、そのまさかだ。ここ数日、一から勉強して作成した」
・『1から勉強して数日でLive2D自作で横転wwwwwwww』
・『技術の習得スピードがプロのそれなんよwwwwww』
・『【朗報】キュラド様、イラストだけでなくモデラーとしてもデビュー』
・『可動域が素人仕事じゃなくて草 ぬるぬる動きすぎだろww』
・『「始祖キュリアを現代に完全受肉させる」という狂気の執念を見た』
画面の中のキュリアのモデルが得意気な表情で右へ左へと首を振る。それに合わせて、繊細に描かれた衣装の装飾がふわふわと揺れ動いた。
これ以来、極稀に始祖キュリアなりきり配信が行われるようになったらしい。
*
配信終了後の深夜2時を過ぎた静寂の中、キュラドのXが静かに更新された。
キュラド@Curado_vampire
月に一度はキュリアの部屋に花を手向けている。この部屋に来ると不思議と気持ちが落ち着く。
・『キュリア様、きっと今夜も「キュラド、可愛いお花ありがとー!」って天国で笑顔で見てるよ』
・『この吸血鬼は俺たちの情緒を壊すのが上手すぎる』
・『変身魔術でLive2Dまで作ったのも、ただバズりたかったからじゃなくて、ずっとキュリア様を大切に想い続けてるからなんだよね……』
・『いかん、画面が滲んできた』
深夜のしんみりとした空気が残る中、キュラドから間髪入れずにまさかの「現実的な現場写真」付きのポストが連投された。
キュラド@Curado_vampire
一方こちらはイリアの部屋である。初めて部屋の鍵を開けたのは5年前のこと。時折こうして書類整理を試みるが、なかなか整理が追いつかない。だが彼女の遺した術式はどれを見ても美しい。
[添付画像:文字通り紙の海と化した部屋の写真]
・『キュリア様の部屋との温度差で風邪ひくわwwwwwwww』
・『イリアさんの部屋、ガチの研究者のそれで草』
・『5年片付けて追いつかないレベルの書類量ってどうなってんのww』
・『キュラド様が定期的に片付けに入ってるの想像したら微笑ましすぎる』
・『でも「美しい」って言えるキュラド様、やっぱり根っからの魔術師だし家族愛に溢れてて最高だな……』
足の踏み場もない紙の海から数分後。
キュラド@Curado_vampire
この部屋の残留思念を呼び出す魔術を試みる。イリアの残留思念に、任意の書類の在処を尋ねる。そうすると、毎度のことながら「何処だったかな……」というリアクションを取られる。困った女である。
・『超すごそうな魔術なのに役に立ってなくて横転した』
・『生前の記憶をそのまま保持した残留思念wwwwww』
・『「困った女である」って言いながら毎回呼び出してるキュラド様かわいい』
・『片付けは進まないけど、そうやってイリアさんとお喋りできる時間がキュラド様にとって大切な時間なんだろうな……』
イリアの残留思念との不毛なやり取りからさらに数分後。
キュラド@Curado_vampire
この女を反面教師にしているので、俺の部屋はしっかり片付けている。だが膨大になりつつあるので、最近はペーパーレス化している。データはNASで管理している。
・『急にIT用語出てきて耐えられなかったwwwwwwww』
・『魔術書をNASでバックアップとってる吸血鬼想像したらシュールすぎるww』
・『イリアさんの紙の山から学んだ教訓が「ペーパーレス化」なの賢すぎて草』
・『RAID構成とか組んでたらどうしようwwww「RAID1で冗長性を確保している」とか言いそうwwwww』
暗闇の中でPC画面に向かい、手慣れた手つきでスキャンデータをNASへアップロードしていくキュラド。最後の吸血鬼は今日も、過去の教訓と散らかった部屋を糧にして誰よりも現代のテクノロジーを使いこなしていた。
かつて自らを終わらせようとした吸血鬼はもうどこにもいない。今の彼には守るべき大切な伴侶と愛すべき愚かなリスナーたち、そして膨大なデータを預けているNASがあるから。
平日21時は「エスパー少女と吸血鬼」
土日21時は「VAMPIRE ON AIR !!」を更新していきます!
「このキャラのここが好き!」「ここが可愛い!」などありましたらぜひ教えてください!
「エスパー少女と吸血鬼」はこちらから↓
https://ncode.syosetu.com/n3638mx/




