第4話 吸血鬼、大敗北す
ある日の配信。いつもの雑談配信とは少し趣の異なる、どこかピンと張り詰めた、けれど温かな空気が画面越しに漂っていた。
キュラドは腕を組むと、まっすぐカメラを見つめて口を開いた。
「……今日は少し、真面目な話をしようと思う。貴様らの中に潜む、極めて重要でありながら軽視されがちな『尊厳』と『対等さ』についての話だ」
いつもの尊大な煽りは鳴りを潜め、吸血鬼としての圧倒的な思慮深さと威厳を湛えた声が流れる。リスナーたちも事の真剣さを察し、チャット欄の流れる速度が自然とゆるやかになっていった。
「先日も少し触れたが……誰かの体を求めること、言葉を交わすこと、愛を育むこと。そのすべての前提にあるのは、互いが『対等な存在である』という当たり前の事実だ。性別がどうあれ、どちらかが上でも下でもない。人はみな、自らの身体と尊厳を自分自身で管理する絶対的な権利を持っている」
キュラドは一言一言を噛みしめるように、静かに、けれど力強く紡いでいく。
「ゆえに『性的同意』というものは絶対にうやむやにしてはならない。相手が嫌がっているにもかかわらず、力や立場、あるいは『付き合っているから』などという身勝手な理由で体を求めるなど、論外だ。拒絶の意思を無視する行為は愛でも何でもない。相手の尊厳を踏みにじる行為だと知れ」
・『すごく大切な話をしてくれてる……』
・『「付き合ってるから当たり前」って思っちゃう人、本当に多いよね』
・『対等であるべき、本当にその通りだと思う』
・『キュラド様の声で語られると、すごく胸に刺さる』
「そして、避妊や性感染症の予防についても同じだ。これらは単なる『作業』や『マナー』ではない。自分自身と、大切な相手の身体と人生を守るための最低限の責任だ。避妊を相手任せにしたり、面倒くさがって怠るような男や女に、誰かを愛する資格などない」
キュラドは腕を組み、厳粛な眼差しで画面の向こうの無数のリスナーたちを見据えた。
「自らの快楽のために誰かを傷つけ、誰かの未来を脅かすな。相手を慈しむということは、相手の意志を尊重し、心と身体の安全を全力で守り抜くということだ。自分を安売りして誰かに従属する必要もなければ、力で誰かを支配して良い理由も存在しない。貴様らは一人ひとりが尊い存在であり、対等な愛を受け取る権利があるのだからな」
語り終えたキュラドは、小さく息を吐くと、どこか柔らかい眼差しを浮かべた。
「……フン。説教臭くなってしまったな。だが、貴様らには、理不尽な暴力や搾取に屈することなく、自分と大切な者を守れる気高い存在であってほしい。ただそれだけだ」
吸血鬼が語る、どこまでも誠実で倫理に満ちた生と尊厳の教え。画面の向こうのリスナーたちは、深い感銘と感謝の言葉をチャット欄に溢れさせ、その教えを心に深く刻み込んでいた。
・『身体の関係を持ちたいから付き合うのに、じゃあ何のために付き合えばいいの?』
チャット欄に流れた、男性リスナーと思われるその率直な書き込み。キュラドは呆れたように片眉を上げると、静かに腕を組み、画面の向こうのリスナーを射抜くような鋭い眼差しを向けた。
「ふむ……ずいぶんと底の浅い悩みを抱えている愚か者がいるようだな」
いつもの尊大な口調が戻ってくる。だがその声に含まれているのは見下すような冷たさではなく、愚行を正そうとする父親のような厳格さだった。
「付き合うということはな、互いの人生や価値観を尊重し合い、対等な関係の中で絆を育むということだ。悲しい時には寄り添い、嬉しい時には共に喜び、互いの尊厳を守り合いながら共に歩む……その精神的な積み重ねの先にしか、真の愛など存在しない」
そこまで語ると、キュラドは少し声のトーンを落とし、諭すように言葉を続けた。
「相手をひとりの尊い人間として愛し、尊重できない者に、誰かと『付き合う』資格など万に一つもないのだと、その頭によく叩き込んでおくのだな」
キュラドの容赦のない回答に、チャット欄は大きな波紋と共感に包まれた。それを皮切りに、画面の向こうからは性別を問わず、悩みや疑問を抱えるリスナーたちからの質問が次々と寄せられ始める。キュラドは流れるコメントを一つひとつ拾い上げ、真摯に、そして優しく諭すように言葉を返していった。
・『男です。付き合ってる彼女を大事にしたいけど、どう接すれば尊重できてることになるのか分かりません』
「良い問いだな。答えはシンプルだ。『聞くこと』と『拒絶を受け入れること』だ」
キュラドはゆっくり瞬きをし、静かに語りかける。
「相手が何を嫌がり、何を心地よいと感じるか、勝手に決めつけずに言葉で確認しろ。そして、もし相手が『ノー』と言ったなら、それを悲しんだり怒ったりせず、相手の意志として100%尊重することだ」
・『女性側から身体の関係を求めたり、積極的になるのって引かれますか……?』
「そのような器の狭い男など、こちらから捨ててしまえ」
一瞬の間もなく放たれた即答に、チャット欄が歓声で沸く。キュラドはフッと口元を緩めた。
「性的欲望や情熱を持つことは、人間としてごく自然な権利だ。そこに性別など関係ない。互いに望み、合意の上であるならば、素直な欲求を伝えることは恥でも何でもないのだよ。それを受け止めきれずに引くような男なら、その程度の器だったということだ」
・『キュラド様の言葉で救われました……涙が出てきた』
・『性別の垣根を超えてこんなに本質を語ってくれるVTuber他にいない』
・『自分を大切にしようって本気で思えた』
・『今日の配信、全人類義務教育で見るべきでは????』
真面目なトーンが続く中、チャット欄に突如として一癖ある書き込みが流れてきた。
・『私トンデモ性癖抱えてるから彼氏に引かれないか心配だよ〜』
それに気づいたキュラドは、一瞬だけ呆れたように目を丸くした。先ほどまでの「道徳家」としての佇まいはどこへやら、口元には意地の悪そうな笑みが浮かぶ。キュラドはわざとらしく大きなため息をひとつ吐くと、画面越しにリスナーを挑発するように身を乗り出した。
「ふむ……トンデモ性癖、ねぇ」
低く伸びやかな声に、わかりやすいまでの「茶化し」のニュアンスが混ざり込む。
「一体全体、どのような破天荒な趣味をお持ちなのかは知らんが……貴様ら人間というものは、口を開けばすぐ『自分は特別変態だ』とアピールをしたがる生き物だな。フン、吸血鬼であるこの俺から言わせてもらえば、人間の考える『トンデモ』など、せいぜいどんぐりの背比べのようなものだ」
・『言い方www』
・『煽り出したwww』
・『つまり吸血鬼って全員変態なんですか!?!?』
「まあ、引かれるかどうか心配なら、いっそ交際前の踏み絵として最初に提示してみたらどうだ? ……もっとも、ドン引きされてそのまま逃げ出されても、俺は一切の責任を負わんぞ」
いじわるな冗談を叩きつけてクスクスと喉を鳴らしていたキュラドだったが、チャット欄の「ひどいww」「たすけてキュラド様ww」というリアクションを一通り楽しむと、ふっと表情を柔らかく緩めた。
「……まあ、冗談はさておきだ」
一転して、静かで落ち着いたトーンへと戻る。
「法や倫理を犯さず、互いの同意の上で楽しむ分には、どんな性癖であろうと他人に恥じる必要などどこにもない。ただし、それを相手に『押し付ける』のだけはご法度だぞ。まずは互いに安全な範囲で、対等に対話しながら開示していくことだな」
最後に少しだけ意地悪く「まあ、健闘を祈っておいてやるよ」と付け加えるキュラド。
・『キュラド様は一体どんな性癖をお持ちなんだ……』
・『そうとう高尚なヘキをお持ちなのだろう』
・『どんな性癖でも愛してるよ……』
・『逆に俺がどんな性癖持ってても愛してくれキュラド様』
コメント欄に視線を戻すと、キュラドは思わず眉間を押さえ、盛大なため息を吐き出す。
「……ハァ。貴様らは……少し隙を見せればすぐに調子に乗る」
キュラドはカメラを睨みつけるように腕を組んだ。
「俺の性癖だと? フン、期待しているところ悪いが、悠久の時を生きる吸血鬼たる俺が、そのような卑俗で奇妙な嗜好などを持ち合わせているわけないだろう」
・『どんなヘキでも受け止めます!』
・『キュラド様になら何をされてもいい!』
「だいたいだな……『どんな性癖でも愛してくれ』などと甘えたことを言うな」
キュラドは前傾姿勢になり、画面越しに一人ひとりと目を合わせるように静かで力強い低音を響かせた。
「自らの尊厳を保ち、他者の痛みに寄り添い、真摯に生きようとする者は愛してやるよ。分かったか、愚か者め」
・『真摯に生きます!! だから愛して!!!』
・『さらっとイケメン発言するのズルすぎるwwww』
・『結局全部包み込んでくれるキュラド様だいすき……』
・『一生ついていきます!!!』
*
配信が終了し、静まり返った書斎。
キュラドはいつものように深々と椅子に身体を預け、疲れた目を擦った。画面越しのリスナーと向き合い、真摯に尊厳や倫理を語り明かした後の静寂。その余韻に浸りながら、彼はスマホの画面を指先でなぞる。
彼はひそかに、配信終盤のコメントを思い出していた。
『キュラド様は一体どんな性癖をお持ちなんだ……』
『そうとう高尚なヘキをお持ちなのだろう』
配信内では吸血鬼らしく「そのような卑俗で奇妙な嗜好などを持ち合わせているわけないだろう」と一蹴した。
しかし、ふと悪戯心が芽生える。
深夜という時間帯の魔力か、あるいは先ほどまでリスナーたちと繰り広げていた軽妙なやり取りの熱が残っていたからか。キュラドはそっと口元を歪ませると、Xを開き、短く一文を打ち込んで投下した。
キュラド@Curado_vampire
ここ最近は形勢逆転が好きだ。逆転されたい。
・『待って待って待って何言ってるのこの吸血鬼wwwwww』
・『配信終わった直後に特殊性癖投下するのやめてwwwwwwww』
・『【速報】吸血鬼キュラド様、M気質だった』
・『配信での「どんな性癖も恥じる必要はない」を自ら体現していくスタイル草』
・『助かる。寿命が延びた。ありがとう』
・『直前の真面目配信とのギャップで情緒こわれる』
自ら投下した爆弾によってタイムラインが地獄のような盛り上がりを見せているのを眺めながら、キュラドはフッと満足そうに、意地の悪い笑みを浮かべていた。
*
彼の投稿がもたらした破壊力は、翌朝になっても収まるどころか、むしろ加速度を増してタイムラインを侵食していった。
特に目に見えて異変が起きたのは、キュラドの「センシティブファンアート(R-18/NSFW)タグ」だった。
普段であれば、圧倒的な威厳をもって相手をひざまずかせるような攻め気質のイラストや、夜を統べる吸血鬼としてリスナーを妖しく惑わす官能的なアートが整然と並ぶそのハッシュタグ。
それが、一夜明けた今「わからせられるキュラド様」のイラストで埋め尽くされていたのだった。絵師たちの手によって描き出されたのは、ことごとく相手に主導権を奪われ、愛おしく「わからせられて」いる吸血鬼の姿ばかり。
・『絵師様たちの仕事が早すぎるだろwwwwwwww』
・『昨日まであんなに格好よく「性的同意と対等な尊厳」を語ってた人が、一晩で受けに固定されてて草』
・『「逆転されたい」なんて言ったらこうなるって分かってただろキュラド様!!www』
・『うーん、えっちですね!w』
・『どのイラストのキュラド様も最高に色っぽくて助かる……』
・『SPちゃんにわからせられてる概念イラストが多すぎて最高』
数分後、キュラドから短い一言が投下された。
キュラド@Curado_vampire
もっとやれ
・『もっとやれwwwwwwwwwwww』
・『巡回してて草』
・『お気に召しててワロタ』
・『公式からの「もっとやれ」助かるwwwwww絵師様方よろしくお願いします!!!』
・『自分で自分のわからせ絵を催促する配信者、世界探してもキュラド様くらいだよ』
しかし事件は起こった。
SP@SP_support_es
ふーん、なるほどね……
キュラド@Curado_vampire
ここ最近は形勢逆転が好きだ。逆転されたい。
・『(あかん)』
・『キュラド様!!! 逃げて!!! 早く逃げて!!!!wwww』
・『本気のSPちゃんによる「わからせ」確定演出助かる』
・『「もっとやれ」とか言ってる場合じゃなくなってて草』
・『明日のキュラド様、配信休むか腰痛めてそう』
SPによる引用ポストの波紋がタイムラインを駆け巡ってから、およそ1時間後。
キュラドのアカウントから、ぽつりと一文だけの投稿が投下された。
キュラド@Curado_vampire
身から出た錆
・『察しwwwwwwwwwwww』
・『【悲報】キュラド様、無事にわからせられる』
・『たった一時間で「身から出た錆」は草すぎる』
・『「もっとやれ」の代償が大きすぎた吸血鬼』
・『声出して笑ったwwwww今夜はゆっくり休んでくださいねwwwww』
余裕綽々に「もっとやれ」と煽り立てていた吸血鬼は、最愛の伴侶による容赦のない「現実のわからせ」の前に、あえなく撃沈。
しかし、悲痛な一言から少し時間が経った頃、タイムラインに突如として投下されたのは、予想だにしない決着の証拠だった。
SP@SP_support_es
勝ちました! マリオカート10戦8勝!
[添付画像:ゲームの勝利リザルト画面のスクリーンショット]
・『マリオカートかい!!!!!!!!wwwww』
・『そっちの「形勢逆転」かよwwwwwwww』
・『完全に別の意味でわからせられてて草』
・『10戦8勝は普通にボコボコでワロタwwwwww』
・『キュラド様、マリカー弱すぎて愛おしい』
・『「身から出た錆」の重みがゲームの敗北なの可愛すぎるだろ』
・『でも残りの2勝はキュラド様が勝ってるのなんか良いな……』
・『SPちゃん強すぎて草、さすが普段からキュラド様の手綱握ってるだけある』
一方、マリオカートで無残な敗北を喫したキュラドは、タイムラインの盛り上がりを苦々しい表情で見つめていた。最愛の伴侶であるSPに完敗した事実と、それをリスナーたちに高らかに暴露された屈辱。彼のプライドはズタズタである。
キュラドはスマートフォンの画面を強い力でタップし、投稿を矢継ぎ早に投下し始めた。
キュラド@Curado_vampire
何故大してやったこともないゲームでボコボコにされねばならんのだ
キュラド@Curado_vampire
テトリスなら負けることはない
キュラド@Curado_vampire
そもそもゲームで勝ったところで何も得られやしない
・『顔真っ赤で草wwwwwwwwww』
・『言い訳の三段活用助かるwwwwwwww』
・『悔しいのうwwww悔しいのうwwwww』
・『キュラド様、負けたのが相当悔しかったんだね……可愛いね……』
・『早口で捲し立ててる姿が容易に想像できて腹痛いwwww』
・『SPちゃん! 次はテトリスでわからせてあげてください!!』
SP@SP_support_es
テトリス特訓します。おすすめの座学動画ください。
・『【速報】テトリス戦、開催決定wwwwwwww』
・『座学から入るのガチ勢の思考で草』
・『キュラド様!!! 早く逃げて!!! マジでボコボコにされる!!!www』
・『【悲報】キュラド様、テトリスでも勝てない未来が確定』
・『おすすめの解説動画送っときました!』
果たしてキュラドの運命やいかに──!?
*
翌日夜。
待機画面が開けた瞬間に画面中央に映し出されたのは、いつになく真剣……というよりは、あからさまに意地を張った表情のキュラドだった。
「……というわけで、本日は予定を変更し、急遽『視聴者参加型マリオカート配信』を行う」
一拍置き、不敵に口元を歪めようとするものの、どこか青筋が浮かんでいるような面持ちで彼は言葉を続ける。
「貴様らと対戦し、この俺自らが手ほどきをしてやりつつ、実戦の中でさらなる技術を磨くこととした。……勘違いするなよ? 別に誰かさんに負けたことが悔しくて特訓したいわけではない。ただの気まぐれだ」
・『相当悔しがってて草』
・『分かりやすすぎるwwwwwwww』
・『特訓って言っちゃってるじゃんwwww』
・『負けず嫌いな吸血鬼たすかる』
・『SPちゃんご満悦だろこれ』
「悔しがってなどいないと言っているだろう……」
視線を逸らしながら眉間にシワを寄せるキュラド。
「いいから黙って部屋の参加コードを入力しろ。今夜は貴様らを全員路肩に叩き落として、俺の真の力というものを思い知らせてやるからな」
早口で捲し立てるキュラドだったが、その背後に透けて見えるあまりにも素直な負けず嫌いぶりに、リスナーたちの温かな笑いと「かわいい」のコメントは止まる気配を見せなかった。
*
「おい、ちょっと待て! 貴様ら、アイテムの投げ方に一切容赦がないな!?」
画面の中で、キュラドの乗るカートが鮮やかにドリフトを決め、後方から迫るリスナーからの赤い甲殻をアイテムで相殺する。
そう、実際のところ、キュラドのプレイスキルは決して低くはなかった。
参加してきた猛者リスナーたちと互角以上に渡り合い、見事なカート捌きで上位に食い込んでいく。持ち前の集中力と器用さで、普通にプレイすればかなり強い部類に入る腕前だったのだ。
・『え、キュラド様普通に上手くない!?』
・『ドリフトのライン取り綺麗で草』
・『これリスナー相手なら上位無双できるレベルだろww』
・『じゃあなんでSPちゃんに8敗もしたんだ……?』
「フ……気づいたか愚か者ども。そうだ、俺の実力が低いわけではないのだよ。俺は至極平均的に、いや、むしろ格調高くこのゲームを嗜んでいる側だ」
キュラドは溜息をひとつ吐き出し、画面に向かって朗々と真相を暴露した。
「ちなみに……エスのマリオカートのプレイ時間は、500時間を超えている」
一瞬の間。そしてキュラドは、半目で画面を睨みつけながらバシッと机を叩いた。
「やりすぎだ!! あいつのプレイ時間が異常なのだよ! 一体いつの間にそんな時間をゲームに費やしていたのだ!? そんなに努力されれば勝てるわけがない!」
・『500時間はガチ勢で草wwwwwwww』
・『SPちゃんガチゲーマーだったwwwwww』
・『キュラド様が弱いんじゃなくて相手が化け物だった件』
・『そりゃ10戦8勝するわwwwwwww』
・『「やりすぎだ」の言い方かわいすぎるwwww』
・『伴侶のプレイ時間しっかり把握してるキュラド様助かる』
「俺は悪くない」と必死にアピールしながらも、500時間も走り込んでいる伴侶の姿を思い浮かべて歯を食いしばるキュラド。この後も1位を取り逃がす度に「もう一回だ! 次は上手くやるからな!」と、珍しくムキになる姿が見られたらしい。
*
マリオカートの特訓でリスナーたちと熱戦を繰り広げ、大いに盛り上がった後。キュラドは配信画面のキャプチャを手際よく切り替えた。
「さて……先ほども言った通り、マリオカートに関しては単に相手のプレイ時間が異常だっただけだ。俺の本領はここからだぞ」
キュラドはコントローラーを握り直し、挑発するように口元を釣り上げた。
「というわけで、続けて『テトリス』の視聴者参加型を行う。言っておくが、俺はこのゲームに関しては貴様らに手加減など一切しない。この俺の真の力、その目に焼き付けるがいい」
・『フラグ立てたww』
・『またボコボコにされる未来が見える』
・『得意分野で負かして心折ってやろうぜwwww』
しかし対戦部屋が開かれ、試合が始まった瞬間、配信の空気は一変した。
「——甘いな」
キュラドの低い声とともに、画面上のブロックが恐ろしいスピードで積み上がり、そして完璧な配置で消え去っていく。
カチカチカチ、と激しく鳴り響くコントローラーの操作音。キュラドは迷いのない手つきで次々とミノを配置し、無駄のない地形を構築していく。相手からの攻撃ラインが送り込まれても、瞬時に最適な場所へと落とし込み、一切の隙を与えない。
『T-Spin Double』 『T-Spin Triple』 『TETRIS』
画面上に躍り出るエフェクトの嵐。参加した猛者リスナーたちを次々とノックアウトし、キュラドの画面には「1st」の文字が連続で刻まれていった。
「言ったはずだ……テトリスなら負けることはないと」
キュラドは、勝ち誇った笑みを浮かべて画面を見つめる。その手さばきと判断力は、まさにガチ勢のそれだった。
・『ファッ!?!?!?!?!?』
・『待って、キュラド様テトリスエグいほど上手いんだがwwwww』
・『Tスピンを息をするように繰り出してる……』
・『積み方がプロのそれなのよ』
・『口だけじゃなかったwwwwかっこよすぎるwwwww』
・『SPちゃんこれ勝てるんか……???』
・『【朗報】キュラド様、テトリス界の魔王だった』
「ククク……どうだ貴様ら。これが積み重ねてきた『思考の美学』というものだ。マリオカートのような運やアイテムに左右されるような代物とは訳が違うのだよ」
リスナーたちを完膚なきまでに叩きのめし、自尊心を取り戻したキュラドは、実に気持ちよさそうに胸を張る。
マリオカートでの無惨な敗北から一転、本気のドヤ顔で勝利の味を噛み締めるキュラドなのであった。
*
配信が終わり、画面の向こうのリスナーたちが余韻に浸る中、深夜のタイムラインにSPのアカウントからポストが投稿された。
SP@SP_support_es
実際のところ、将棋やチェスから始まって、キュラドといろんなゲームをしてきたけど、ちゃんと勝てたのはマリオカートぐらいです……
スマブラもエアライダーもぷよぷよも、何やらせても最初からうまい……
・『待って、キュラド様何やらせても上手いタイプの人だったの!!??』
・『将棋やチェスから始まってるの最高にエモい……』
・『つまりマリカーの8勝は、SPちゃんが血の滲むような努力で掴み取った勝利だったことだ』
・『何やらせてもうまいキュラド様に、マリカーで勝ててめちゃくちゃ嬉しかったんだろうなSPちゃん……』
・『てか二人で色んなゲームしまくってて仲良しかよ(知ってた)』
すると、その投稿から数分も経たないうちに、キュラドのアカウントが動きを見せた。
キュラド@Curado_vampire
だからこそ逆転が刺さる。俺に勝った時のエスのあの嬉しそうな顔よ。
SP@SP_support_es
実際のところ、将棋やチェスから始まって、キュラドといろんなゲームをしてきたけど、ちゃんと勝てたのはマリオカートぐらいです……
スマブラもエアライダーもぷよぷよも、何やらせても最初からうまい……
・『は??????????????(尊死)』
・『待って待って待って、オチがエグいほど尊いんだが?????』
・『性癖の話かと思ったらただの激甘ノロケでした本当にありがとうございました』
・『キュラド様の愛が深すぎて限界オタク化してる』
・『完璧な伏線回収で情緒が破壊された』
・『もう二人で一生仲良くゲームしててください……』
「キュラド、たまには手加減してね?」
コントローラーを置き、少しだけ唇を尖らせたSPが、隣に座る吸血鬼へと上目遣いを向けた。
しかしキュラドはすっぱりと首を振る。
「しない。真剣勝負で手加減することは相手に対してリスペクトを欠く行為だ」
SPはくすりと笑いを漏らしながら、小さく肩をすくめてみせた。
「意地悪……」
「意地悪で結構」
すげなく言い放つキュラドだったが、その口元には隠しきれない愛おしさと、勝利の誇らしさがかすかに滲み出ている。
そんな彼の頑固な横顔を見つめた後、SPはポンと手を叩き、瞳を輝かせた。
「……じゃあ次は人生ゲームにしよ。これなら運が良ければ勝てるかも!」
プレイスキルや反射神経、培われた思考の深さでは敵わなくとも、純粋なルーレットの出目という「運」の領域であれば勝機はある。少しでもキュラドに勝ちたいというSPの健気で愛らしい提案に、キュラドはフッと鼻で笑い、どこか楽しげに片眉を上げた。
「望むところだ」
ボードゲームの箱を取り出しにかかるSPの背中を眺めながら、キュラドは静かに喉を鳴らす。
真剣勝負を挑み、互いに譲らぬ盤上で火花を散らす。そしてもし、幸運の女神がSPに微笑み、彼女が自分を打ち負かして無邪気に歓喜する瞬間が訪れるのなら、それこそが、キュラドにとってもう一つの極上の時間となるのだから……。
SP@SP_support_es
キュラドが借金まみれになっちゃった。流石に面白かった。
[添付画像:大量の約束手形の写真]
・『約束手形の量wwwwwwwwwwww』
・『人生ゲームで破産する吸血鬼助かる』
・『SPちゃんめちゃくちゃ楽しそうで草』
・『あんなに威厳ある吸血鬼が借金まみれになってんの面白すぎるだろ』
・『【悲報】キュラド様、運だけは壊滅的だった』
キュラド@Curado_vampire
家が火災で焼失したのち、既に借金がある中、急にトチ狂って月の土地を買ったらしい。この世のどこにそんなアホがいるのだ。
・『「火災で焼失」からの「借金」からの「月の土地購入」の満貫で草wwwww』
・『どこにそんなアホがいるのだ←ここにいましたwwwwww』
・『無駄にスケールが大きい破産の仕方なの吸血鬼っぽくて好き』
・『SPちゃん大勝利おめでとうございますwwwww』
・『これは文句なしの「形勢逆転」ですね……!』
リビングには、手形の山を見つめながら頭を抱えるキュラドと、それを見てお腹を抱えて笑っているSPの姿。
真剣勝負を重んじ、手加減を嫌う吸血鬼は、こうして盤上のルーレットにまで盛大に「わからせられる」のだった。
*
センシティブファンアートタグに続き、ついに「一般ファンアートタグ」にまでその波紋は波及した。
・マリオカートでSPに周回遅れにされ、画面の前で「な、なぜだ……っ!」と頭を抱えるキュラド
・人生ゲームで火災に遭い、借金まみれのままで「月の土地」の権利書をぼんやりと眺めているキュラド
・テトリスで全消しを決められ、コントローラーを握りしめたままフリーズしているキュラド
元々は不遜な吸血鬼として、麗しい立ち絵や威厳あふれるファンアートが流れてくるはずのタグ。それが今や「様々な手段でわからされるキュラド様」というテーマの、健全かつ愛にあふれたファンアートで埋め尽くされていたのだった。
・『健全タグまで「キュラド様わからせ」で埋まってて腹痛いwwwwww』
・『みんなキュラド様のこと大好きすぎだろwwwwwwww』
・『月の土地買ってるキュラド様のイラスト可愛すぎて壁に飾りたい』
・『自ら「形勢逆転されたい」とか言うからこうなるwwwww』
・『SPちゃんに勝てなくて意地張ってるキュラド様、全員の癖に刺さりすぎてる』
画面越しに一般タグを覗き込み、怒涛の勢いで流れてくる「悔しがる自分のデフォルメ絵」の数々を目にしたキュラド。眉間にシワを寄せながらスマートフォンを握りしめるキュラドの横で、そのタグを見たSPが「ふふっ、みんな上手だねえ……」と笑っていた。
「……愚か者どもめ、俺をおもちゃにしおって」
「どの絵のキュラドもかわいいよ」
「やかましい……」
普段の威厳や風格はどこへやら。「わからせ」ファンアートを眺めるキュラドの表情は皮肉にも、投稿されたイラストの数々と瓜二つであった。
平日21時は「エスパー少女と吸血鬼」
土日21時は「VAMPIRE ON AIR !!」を更新していきます!
「このキャラのここが好き!」「ここが可愛い!」などありましたらぜひ教えてください!
「エスパー少女と吸血鬼」はこちらから↓
https://ncode.syosetu.com/n3638mx/




