ドレイクの故郷
翌朝——窓から差し込むまぶしい朝日に目を覚ました。昨夜の疲れもすっかり吹き飛び、みんなで手早めの朝食を済ませて宿を出る。朝の光を受けて眩しく輝く青い海を背に、僕たちは新たな目的地『黄金色の草原』を目指して山道へと足を踏み出した。
鳥たちの爽やかなさえずりと、緑豊かな木々を抜ける涼やかな風が心地いい。ドレイクの大きな背中を追いかけるように山道を登りながら、僕は気になっていたことを尋ねてみた。
「ドレイクさんの故郷って、どんなところなんですか……?」
僕が問いかけると、先頭を歩いていたドレイクが足を止め、こちらへ向かってクルリと振り返った。
「おお! 俺の故郷ですか!」
見上げるほど大きな体をしたドレイクは、太陽のような明るい笑顔を浮かべ、豪快に胸を張って僕を見下ろした。
「一言で言えば、どこまでも続く『黄金の波』が見られる素晴らしい場所ですな! 風が吹き抜けるたび、熟した穂や背の高い金色の草が一斉に揺れて、まるで陸の上に黄金の海が広がっているように見えるんですよ!」
「へぇ……! 黄金の海……!」
「うむ! 俺たちの種族は昔からその広い草原で、風とともに自由に生きてきたんです。のどかで、食べ物もうまくて、人情に厚い奴らばかりですよ!」
ドレイクは遠くを見つめるように目を細め、故郷への愛おしさを込めて語ってくれた。
「それにしてもドレイク、お前みたいなマッチョばかりがゴロゴロいる国なのか?」
横からカイトがニヤニヤしながら口を挟むと、ドレイクは「ハッハッハ!」と大きな笑い声を山々に響かせた。
「滅相もない! 俺のように逞しい者もいれば、愛らしい者もたくさんおりますぞ! 勇斗殿もアニー殿も、きっと気に入っていただけるはずです!」
ドレイクの誇らしげで温かい言葉に、僕たちの胸は一気に期待とワクワク感でいっぱいになった。
「楽しみだなあ……! 早くその黄金色の景色、見てみたいね!」
僕が隣を歩くフランやアーシュに顔を向けると、みんなも嬉しそうに頷いてくれたのだった。
僕が楽しみに胸を躍らせていると、隣を歩いていたフランとアーシュが、なぜか示し合わせたようにニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて僕の顔を覗き込んできた。
「……え、なに……?」
「勇斗……いいかい? ドレイクの国にはね、『温泉』があるんだよ」
フランが僕の右肩にそっと手を置き、思わせぶりに囁いた。
「おんせん……? あ! 勇斗が前に行ってた、あの『温かいお風呂』のことね!」
肩の上のアニーが思い出したようにポンと前足を叩いた。以前、僕の世界の文化について話した時、温泉のことを「ブンセン」と間違えて覚えて「へえ、ブンセンっていいわね〜!」と言っていたのを思い出す。
「そう! その温泉! ……なあ、アーシュ!」
フランがニヤッと笑ってアーシュにバトンを渡すと、アーシュはもう片方の肩へ優しく手を置いた。
「フフッ……しかもな、ドレイクの故郷の温泉は『混浴』なんだ」
「本当なんですか、ドレイクさんっ!?」
あまりのパワーパワーワードに思わず大声を上げてドレイクを振り返る。
けれど、当のドレイクはいつもの豪快な笑顔ではなく、どこか気まずそうに目線を泳がせながら、後頭部を掻いていた。
「あー……まあ、はい……ハハ……ハハハ……」
引きつったような愛想笑いを浮かべ、そそくさと歩を進めるドレイク。
(……? なんだか、ドレイクさんの反応がイマイチな気がする……?)
故郷の話ならもっと自慢気に語りそうなのに、どこか歯切れが悪い。僕が首をかしげたその瞬間、肩の上から爆音のような叫び声が鼓膜を刺した。
「こんよく……!? こんよくってなあに、勇斗!?」
「ええっ!? こ、混浴っていうのはね……男の人と女の人が、みんなで一緒のお風呂に入ることだよ……!」
僕が真っ赤になりながら説明すると、一瞬の間を置いてから——アニーの全身の毛がババッと逆立った。
「えええええっ!? こ、混浴ぅぅぅっ!? そんなの絶対にダメよっ!!!!」
耳まで真っ赤にして叫ぶアニー。
「いや、お前はずっと裸みたいなもんなんだから、関係ないだろ」
フランが呆れたようにツッコミを入れると、アニーは前足をブンブン振って猛抗議した。
「あたしはいいのよっ!! 勇斗が他の裸の女の人とお風呂に入るのがダメだって言ってんのよっ!!」
「ハハッ、保護者かよ」
本気で焦るアニーの様子に、フランは可笑しそうに肩を揺らして笑っている。
「保護者じゃないわよ! 勇斗の相棒よっ! とにかく混浴は禁止! 絶対に禁止だからねっ!!」
「はいはい、分かったから耳元で叫ばないでアニー……」
本気で精一杯に怒るアニーをなだめつつ、僕たちは笑い合いながら山道を進んでいく。……けれど、先頭を行くドレイクの背中は、何か秘めているように見えたのだった。




